映画音楽家<佐藤直紀>の2021年が凄すぎる! 「青天を衝け」「るろ剣」「五輪表彰式」など!

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突然ですが、みなさんは日本の映画音楽作曲家と聞いて誰を思い浮かべるでしょうか。たとえば『ゴジラ』のテーマ曲を生み出した伊福部昭さんや『七人の侍』の早坂文雄さん、山田洋次監督とのタッグで知られる冨田勲さん、宮崎駿作品には欠かせない久石譲さんなど、名前を挙げはじめればキリがありません。

そんな映画音楽作曲家群の中で、今回注目していただきたいのが『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズや『るろうに剣心』シリーズなどを手がけている佐藤直紀さんです。

佐藤さんのサウンドは耳に残るダイナミックなオーケストレーションや、すっと胸の中に溶け込む繊細なメロディーが持ち味。今回は数々の大ヒット作・話題作の音楽を担ってきた佐藤さんのディスコグラフィーとその魅力について迫りたいと思います。

2021年の活躍ぶりがすごい!

(C)和月伸宏/ 集英社 (C)2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

2000年代に入って以降、作曲界の第一線で活躍を続けている佐藤さん。

その仕事ぶりがどれほどのものか把握するには、実は今年が絶好の機会でもあります。映画では『名も無き世界のエンドロール』を皮切りに、『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』、これから公開を迎える『マスカレード・ナイト』、『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』を担当。

映画以外でも大河ドラマ『青天を衝け』やスペシャルドラマ『教場Ⅱ』、経済ニュース番組『ワールドビジネスサテライト』のテーマ曲、さらには東京五輪(TOKYO 2020)の表彰式楽曲も手がけたほどです。

これだけの作品を手がける時間が一体どこから生まれてくるのだろうと思わず首を傾げたくなりますが、もちろんどの作品・楽曲も一切手を抜いていないのが佐藤さんのプロフェッショナルたる所以。

(C)和月伸宏/ 集英社 (C)2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

たとえば『るろうに剣心』2部作と『青天を衝け』を比較してみると、実はどちらも明治維新期のストーリーという共通点があります。『るろうに剣心』シリーズ全作の作曲を担当している佐藤さんは和テイストを重要視するだけでなく、明治という時代性を反映させてバイオリンなど西洋楽器の音色も積極的に取り込んできました。

となると同じ時代背景を持つ作品は必然的に似たアプローチになりがちという危険性をはらんでいますが、今回の『るろうに剣心』2部作と『青天を衝け』の音楽を聴き比べれば違いは歴然。

もちろんアクション大作と歴史ドラマという差はありますが、『青天を衝け』は西洋楽器を取り入れつつもそれらが主張しすぎる状況を避け、あくまで映像の一部であるかのように流麗に、時には不穏にメロディーを重ねていくという実に丁寧な作曲テーマが窺えます。

『るろうに剣心』シリーズが荒ぶる“動的”なサウンドに対し、『青天を衝け』では桜田門外の変でもOPテーマ曲のアレンジを粛々と流す“静的”なサウンドに徹していることからも、やはり2タイトルの差ははっきりしているのではないでしょうか。

またTOKYO 2020表彰式楽曲でも、わずか4分ほどの時間の中に“佐藤直紀らしさ”がたっぷり。東京五輪という日本を舞台にしながら和楽器のフィーチャーを避け、「表彰台は世界中のアスリートのもの」という観点から壮大なオーケストラサウンドに仕上げているのが特徴です。

勇壮でありながら抑揚を効かせたことで、“応援歌”ではなく“賛歌”に昇華させたバランス感はまさに絶妙。大編成のオーケストラやコーラスの背後にスネアドラムのリズムも光り、しっかりと佐藤さんの持ち味が生かされた1曲となりました。

–{映画音楽参入直後から話題作にひっぱりだこ!}–

映画音楽参入直後から話題作にひっぱりだこ!

(C)2009「おっぱいバレー」製作委員会

いまや日本を代表する作曲家の1人となった佐藤さんですが、公式サイトを見るとドラマでは2003年1月期・木村拓哉さん主演の『GOOD LUCK!!』、映画では2004年6月公開の羽住英一郎監督『海猿』が最初のクレジット。

そのネームバリューからもわかるとおりディスコグラフィー初期からいきなり話題作に起用されていて、いかに佐藤さんの才能に注目が集まっていたのか窺い知れます。

初期作で特に話題を呼んだのが、2004年7月期のドラマ『ウォーターボーイズ2』。2003年放送の前作から続いて登板した佐藤さんの楽曲群は、シンクロナイズドスイミングに情熱を注いだ男子高校生たちの躍動感を表すように、いずれも青春の輝きに満ちたものばかり。演奏隊と手拍子の組み合わせが効果的な「モウイチドBom-Ba-Ye!!」は、ドラマの枠を超えてTVCMのBGMに起用されるなどその爽快なサウンドはいまなお色褪せません。

(C)2015 フジテレビジョン 集英社 ジェイ・ストーム 東宝 ROBOT (C)松井優征/集英社

また映画音楽の面では、『海猿』でタッグを組んだ羽住監督とその後もコラボレーションを連発。『海猿』シリーズ(04・06・10・12)はもちろん『逆境ナイン』(05)、『銀色のシーズン』(08)、『おっぱいバレー』(09)、『暗殺教室』(15)、『暗殺教室 -卒業編-』(16)、『OVER DRIVE』(18)を担当するに至りました。

(C)2018映画「億男」製作委員会

佐藤さんとのコラボレーションといえば大友啓史監督と山崎貴監督の存在も欠かせず、大友監督とは2007年2月期のドラマ『ハゲタカ』と2010年公開の劇場版、2010年の大河ドラマ『龍馬伝』、『るろうに剣心』シリーズ(12・14・21)、『秘密 THE TOP SECRET』(16)、『億男』(18)を担当。

山崎監督とのタッグでは日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞した『ALWAYS 三丁目の夕日』(05)から『STAND BY ME ドラえもん 2』(20)に至るまで、『ルパン三世 THE FIRST』と挿入曲提供のみとなった『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』を除く全ての作品に参加しています。

(C)2008「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」製作委員会

他にもヒット作・話題作への登板は数多く、樋口真嗣監督の『ローレライ』(05)や『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』(08)、金城武さん&松たか子さん共演の『K-20 怪人二十面相・伝』、劇団ひとりさんが自身の小説を原作に自らメガホンを握った『青天の霹靂』(14)などに参加。

アクションやヒューマンドラマ作品への登板が目立つ中、少女コミックを映画化した『ういらぶ。』(18)の音楽を担当しているのがちょっと意外な気も……。

–{多彩なメロディーを生み出す“佐藤直紀節”がエモすぎる}–

多彩なメロディーを生み出す“佐藤直紀節”がエモすぎる

(C)2012 Production I.G, CLAMP / Project BLOOD-C Movie

前述のように佐藤さんの音楽の持ち味は、なんといってもハリウッド的なダイナミズムと物語をより情緒豊かにする繊細さにあります。“佐藤直紀節”とも言える特徴的なサウンドメーキングは初期作から顕著で、たとえば『海猿』や『ローレライ』で鳴り響くヒロイックなメロディーは勇壮かつ明解で、1度聴けばサビのフレーズが記憶に残るはず。

特に『ローレライ』は悲壮感を漂わせるトランペットやキャラクターを鼓舞するようなオーケストラ&コーラスの畳みかけは、同じく潜水艦を扱ったトニー・スコット監督の『クリムゾン・タイド』の音楽を彷彿とさせるほどです。

ちなみに佐藤さんは「オールタイム・ベスト 映画遺産 映画音楽篇」の“好きな映画音楽作曲家”の1人にハンス・ジマーを挙げているので、もしかすると『クリムゾン・タイド』を意識して曲作りに挑んだのかもしれません。

ジマーの他にジョン・パウエルやアラン・シルヴェストリを好きな作曲家に挙げていることからも想像できるとおり、佐藤さんの楽曲もスピード感あふれるアグレッシブなものが目立ちます。

佐藤節の1つに太鼓などの打楽器でドラムリズムを前面に押し出した曲があり、ソードアクションが冴えわたるアニメ映画『ストレンヂア 無皇刃譚』(07)の「羅刹の宴」や『劇場版 BLOOD-C The Last Dark』(12)の「ミッションスタート」、『るろうに剣心』の「暁闇の戦い」、「喧嘩上等!」などはまさに好例です。

佐藤さんの荒々しいパーカッションやドラムリズムは、『るろうに剣心』シリーズで発揮されているように歴史モノとの相性が抜群。わかりやすいのが山崎貴監督の『BALLAD 名もなき恋のうた』(09)で、戦国時代が舞台だけに「火縄銃撃戦」全編で鳴り響くのは力強い太鼓サウンド。そして「助太刀」のドラマチックな“泣きメロ”から一転して響き渡る後半の勇ましい太鼓の音色は、邦画だからこその魅力と邦画の域を超えた迫力を同時に兼ね備えた楽曲として輝きを放っていました。

(C)映画「寄生獣」製作委員会

また「助太刀」前半パートの泣きメロのように、佐藤さんが紡ぎ出す繊細なメロディーはとにかく涙腺を刺激したり胸に深く突き刺さるものばかり。

たとえば生者と死者の再会を題材とした松坂桃李主演作『ツナグ』(12)の「約束」という曲で王道的に泣きメロをクリエイトしたかと思えば、『寄生獣』『寄生獣 完結編』(14・15)では女性コーラスとストリングスに主旋律を託した「母愛」がウェットな悲壮感を生み出すことに……。

(C)2006「シムソンズ」製作委員会

他にも『ウォーターボーイズ』シリーズと同じく青春の躍動感に触れられる作品として、カーリング女子を描いた『シムソンズ』(06)の「Last Stone」や『暗殺教室』の「やっぱり殺せんせー」もぜひ聴いてほしい佐藤節の楽曲。民族音楽的な様相を呈する『ホットスポット 最後の楽園』シリーズ(11・14)を筆頭とした、NHKドキュメンタリー番組のサントラ群もおススメです。

進化を続ける音楽がたどりついた現在の着地点


※『新時代へ』(作曲/佐藤直紀 演奏/読売日本交響楽団)日テレ×読響×人気作曲家佐藤直紀

オーケストラやシンセサイザー、ロックテイストなど変幻自在のサウンドで映像を支える佐藤さん。その音楽は初期から現在にかけて着実に進化を続けているだけでなく、近年は敢えてスタイルの固定を避けるかのような変化も見られます。初期作品の多くが明朗なメロディーをテーマ曲に据えているのに対し、最近は楽曲の独り歩きを防ぐ意味合いがあるのか映像に寄り添うサウンドが目立ってきたような印象。

といっても『罪の声』(20)や『名も無き世界のエンドロール』のように、決して印象に残らないというわけでもない。あくまで“作曲家・佐藤直紀の音楽”という性質は一貫しているのです。

そういった意味では、音楽そのものが美しい『青天を衝け』は佐藤さんにとって1つの到達点であり現在地点と呼べるかもしれません。同じ大河ドラマのテーマでもハリウッドで活躍するリサ・ジェラルドをボーカルゲストに招いた『龍馬伝』の華やかさとは対照的に、『青天を衝け』では主人公・渋沢栄一という1人の男の人生と、明治維新を迎える日本の運命そのものを楽曲に昇華した威厳のある音楽に仕上がっていることからもその差は明らか。映像に被さって“主張”するのではなく、映像に合わせて“表現”する作曲スタイルに舵を切っているのではないでしょうか。

今後佐藤さんがどのような作品にクレジットされるのか、タイトルとともにぜひ音楽にも耳を傾けてみてください。

(文:葦見川和哉 )