『映画大好きポンポさん』、『サマーフィルムにのって』、『キネマの神様』……。2021年は猛烈な勢いで映画作りを描いた映画が公開されている。
なぜ、ここまで映画作りを題材にした物語が作られ、多くの人に愛されているのだろうか。
今回は近作から過去の名作まで幅広い作品に触れつつ、映画作りの魅力を描いた様々な作品を3点のポイントに絞って、紹介していきたい。
1:若手俳優陣の名演
映画作りを題材にした作品では青春時代が舞台となり、若手俳優陣の魅力が存分に発揮されていることが多い。
その一つの例として『サマーフィルムにのって』が挙げられる。
本作は映画部に所属する高校生たちが時代劇映画の制作に挑む、ひと夏の青春物語だ。
湧き出る映画愛で周囲を巻き込む”ハダシ”を躍動感あふれる演技で体現した伊藤万理華。
彼女を筆頭に、冷静沈着な”ビート板”役の河合優実、友人思いな”ブルーハワイ”役・祷キララ、主演を務めることになった”凛太郎”役・金子大地、など、今後の活躍が期待される若手俳優陣が集結。
本編を観ると分かる通り、今の彼らにしか表現出来ないフレッシュな魅力が作品を支えているのだ。
とりわけ、劇中における、主演・伊藤万理華の求心力はすさまじい。
これまでも共に作品を手掛けてきた松本壮史監督が彼女自身を当て書きした脚本というだけあり、劇中の”ハダシ”には唯一無二の表現力が感じられる。
本人も「素の自分をさらけ出した」と語った本作は、今の彼女の記録もなっており、今後の活躍に大きな影響を与えていくことだろう。
同様に若手俳優陣の名演が光る名作といえば『桐島、部活やめるってよ』も挙げられる。
バレーボール部キャプテン・桐島が部活をやめたことで巻き起こる高校生の変化を描いた群像劇では、映画研究部の前田役として神木隆之介が登場。
他にも橋本愛、東出昌大、山本美月のほか、ブレイク寸前の松岡茉優や太賀が出演しており、今、改めてみると、驚くようなキャスト陣の演技が見どころだ。
神木隆之介にとっては高校生活最後の冬に撮影され、社会人への分岐点にもなったという本作。
『サマーフィルムにのって』と同様、『桐島、部活やめるってよ』も当時の役者陣にしか表現できない演技が残された貴重な一作といえるだろう。
–{2つ目のポイントは「時代ごとに変わる映画製作の形」}–
2:時代ごとに変わる映画製作の形
映画作りを題材にした作品では舞台となる時代の違いで、映画製作の形式が大きく異なっている部分にも注目だ。
例えば『キネマの神様』と『サマーフィルムにのって』を対比してみると面白い。
1950年代頃を舞台に映画製作の様子が描かれる『キネマの神様』では、実在した松竹大船撮影所を彷彿とさせる映画スタジオが登場。
昔ながらの撮影現場では重量感のあるフィルムカメラでの撮影が行われ、撮り直しをすることさえ、ひと苦労である。
一方、現在の高校生たちによる映画作りを描いた『サマーフィルムにのって』では、主人公たちが様々なロケ地を巡りながら、スマートフォンを使って映画を撮影。
軽量の機材で撮りたい気持ちさえあれば、誰でも簡単に撮影が出来るというのは数十年前と比べれば、とてつもなく大きな変化といえるだろう。
また、近年の作品で言えば、橋本環奈主演の少女漫画を実写化した映画『午前0時、キスしに来てよ』なども、現在の撮影現場を知ることが出来る貴重な作品といえる。
こちらでは、映画の撮影現場である学校にやって来たエキストラの女子高生が、人気俳優と恋に落ちるファンタジックな物語が展開される。
この設定そのものが、近年の映画製作現場を反映しているのだ。
少女漫画の実写化や青春映画など、若者をターゲットにした作品が多く作られる昨今では、実際の学校を撮影に使用する場合が多い。
エキストラとして学校に通う生徒や地元の学生を募集することで、参加者を中心に作品のプロモーションにも繋がり、若い観客との距離が近い撮影現場も増えているのだ。
その他にも映画製作を題材にした作品として、サイレント映画からトーキー映画への変遷を描いた名作『雨に唄えば』や、ビデオカメラ全盛期の低予算モキュメンタリー映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』などがある。
これらの作品からも分かる通り、時代によって映画製作の形は様々。
多くの作品の中で、その変化が反映されているのだ。
–{3つ目のポイントは「映画の見え方が変わる」}–
3:映画の見え方が変わる
映画製作を描いた作品の中には、映画そのものの見え方が大きく変わるものも多い。
その代表例が、近年、日本映画界に大きなブームを巻き起こした『カメラを止めるな!』である。
本作では前半パートの後に後半パートをみることで作品の見え方が大きく変わる。
作品作りにおけるトラブルや大勢が協力して何かを作ることの素晴らしさ。
そんなテーマを描いた本作を観ると、今後、鑑賞する映画そのものの受け取り方が大きく変わっていくだろう。
自主製作映画の出演オファーを受けた冴えない古着屋店員の恋愛劇『街の上で』も、これらの作品を語る上で触れておきたい一作だ。
「誰も見ることはないけど 確かにここに存在してる」というキャッチコピーが象徴するように、本作では映画製作の過程で取りこぼされてしまった”存在”が重要なテーマとなっていく。
本作を観終えた後、私たちはスクリーンで観る映画、そこには映らない様々な出来事や存在を愛おしく思えるのではないだろうか。
また、『映画大好きポンポさん』は、映画製作における”編集”という見逃してしまいがちな作業をクローズアップした作品。
上映時間が限られた映画を製作する際に重要となるのは、いかに大切な場面を削ることが出来るか、そして、作品のテンポを上手く調整することが出来るかである。
本作では、本編そのものがテンポの良い展開を実現しながら、そのテーマを説いていく。
劇中のキャラクター・映画プロデューサーのポンポさんが「映画は90分が理想」と語るように本編も約90分の尺が実現され、作品が持つメッセージと作品構造そのものが見事に一致。その秀逸な作りに観客は圧倒されるのだ。
終わりに
2019年に、2000年以降最高の年間興行収入2611億円を突破したのも束の間、2020年には、コロナ禍の影響で前年の50%となる1432億円に落ち込んでしまった映画産業。
観客一人一人の金銭的な余裕が圧迫されている中で、生活の優先順位として映画を上位に選ぶことは決して容易なことではないだろう。
しかし、映画の存在意義が揺らぐ昨今だからこそ、映画とは何か、そして、映画制作の意味を考えることには大きな意味があるはずだ。
映画作りを描いた映画を観ていく中で、あなたにとっての”映画とは何か”の答えが見つかることもあるのかも。
そんな鑑賞体験を、ぜひ、あなたにも味わっていただきたい。
(文:大矢哲紀)