女優・白石麻衣の強み:ナチュラルに役と向き合い魅了する表現者

俳優・映画人コラム

「漂着者」(C)テレビ朝日

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2021年7月23日から放送されているドラマ「漂着者」(テレビ朝日系)で新聞記者の新谷詠美役を演じている元乃木坂46の白石麻衣。

本作は乃木坂46卒業後、初の連続ドラマ出演となっており、当然周囲の期待値も高くなっている。これまで教師役からOL役などコメディやシリアスを問わず様々な役柄を演じ、女優としても着実に力をつけてきた白石。西野七瀬や深川麻衣、若月佑美など乃木坂46の卒業生が女優として活躍しているが、白石もまた活躍が期待されるひとりであることは間違いない。

今回はこれまでのキャリアを振り返りながら、白石の女優としての魅力に迫っていきたい。

“グループの顔”として活躍した乃木坂46時代

グループ活動のみならず、モデル・女優・CM・バラエティなど広範に渡って活躍してきた白石は、6thシングル「ガールズルール」(2013)、17thシングル「インフルエンサー」(2017)、20thシングル「シンクロニシティ」(2018)などWセンターを含めた全5作においてセンターを務め、グループの顔として乃木坂46のイメージを形成してきたひとりとしてある。

グループの顔としての活躍にふさわしく白石は常にグループの先陣を切ってきた。初のレギュラーMC「うまズキッ!」(フジテレビ系)を初め、「Ray」の専属モデルに抜擢、初のソロ写真集など、白石のマルチな活躍はアイドルファン以外にも乃木坂46の名前を認知させるきっかけとなった。

また、白石は乃木坂46の写真集のムーブメントを作り上げた第一人者であり、グループ初のランジェリー姿ということでも話題となった2nd写真集「パスポート」は累計発行部数50万部を突破する大ヒット。長きに渡って売れ続ける息の長い作品になっており、もはや説明不要の人気となっている。乃木坂46というグループの名前を多方面に広げてきたのは、間違いなく白石の功績によるものだ。

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「やれたかも委員会」「俺のスカート、どこ行った?」『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』…これまでの出演作を振り返る

白石の女優としての活動でまず思い出されるのが2015年に放送された「初森ベマーズ」(テレビ東京系)でのキレイ役。西野七瀬演じるななまるが所属する初森ベマーズのライバルチーム・セント田園調布ポラリス学園のエースとして描かれ、西野とのライバル関係がファンの胸を熱くさせた。白石が演じたキレイはセレブなお嬢様で、ソフトボールに対する熱量に対して冷静沈着なキャラクター。少々クセのあるキレイの他人を見下ろす態度や言葉遣いが絶妙にハマっており、白石はライバルとしての関係を見事に描き出していた。

(C)2017 映画「あさひなぐ」製作委員会 (C)2011 こざき亜衣/小学館

2017年公開の映画『あさひなぐ』では、西野の先輩である薙刀部のエース・宮路真春役を演じ、西野の柔和なイメージとは対照的にクールで誰もが憧れる羨望の対象として描かれた。乃木坂46主演のドラマにおいて、白石の演じた役柄はグループの立ち位置が明確に反映されたもので、同じくエースである西野とは対になる“クール”さを纏ったキャラクターが多かった。

「やれたかも委員会」(C)MBS・TBS

映画『闇金ウシジマくん Part3』(16)でのキスシーンなど役者としての演技の幅を広げていった白石は、「やれたかも委員会」(MBS・TBS系)に月綾子役として初の連ドラレギュラー出演。「やれたかも委員会」は相談者(主に男性)が「やれたかもしれない」思い出を「やれたかも委員会」メンバーに独白し、「やれた」か「やれたとは言えない」のかを判定するという1話完結型のドラマだ。白石はその委員会のなかで唯一の女性キャラを演じているのだが、これまたひとりだけ中々「やれた」の札を上げず、客観的な視点から判定を下すという作中でも重要なポジションを任されている。原作とどこまで距離を近づけるのかというところが注目されたが、笑顔を一切見せない鉄仮面ぶりと醸し出される色気の部分が絶妙に表現されており、白石意外に適任はいなかったのではないかと思わせられる演技ぶりだった。

「俺のスカート、どこ行った?」(C)日本テレビ

続いてレギュラー出演となった「俺のスカート、どこ行った?」(日本テレビ系)では、白石は常に後ろ向きで教師であることに自信を失っていた世界史教師の里見萌を熱演。これまでの白石はクールなキャラクターをコメディ的に演じることが多かったが、本作では喜怒哀楽を含んだ表情豊かな姿を見ることができる。白石演じる里見がフィーチャーされた第6話で、親から強いられたお見合い結婚を半ば諦めかけていた里見が、原田のぶお(古田新太)に対して涙ながらに諦めきれない感情をぶつけるシーンでは、自身が抱える葛藤を豊かに表現していた。これまではやはり感情を積極的に表に出す役柄はほとんどなかったこともあり、白石のパブリックイメージを大きく壊した作品と言えるだろう。

白石の女優として大きなターニングポイントとなったのが、大ヒットとなったシリーズ第1作『スマホを落としただけなのに』の続編『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(20)であることは間違いない。完成披露舞台挨拶では「去年の夏頃に撮影していたときは、卒業でも悩んでいて。でもこの作品で全力を出しきったときに、卒業ともつながるものがあったので、今かなと思い発表させていただきました。たくさん勉強にもなりましたし、この作品に出会えてすごくうれしく思っています」と卒業との関係を明かしており、アイドルから女優・白石としての転機となった作品でもあったようだ。

本作で白石は加賀谷学(千葉雄大)の恋人でヒロインの松田美乃里を演じた。作中で物語のキーとなるヒロインに抜擢されたのは今回が初めて。これまでバイプレイヤーとして棘のあるキャラやインパクトのあるキャラを比較的演じてきただけに、一般企業に務めるOLというごく普通の役柄は新鮮にも映った。

(C)2020 映画「スマホを落としただけなのに2」製作委員会

これまで演技という形では見せてこなかった様々な表情が本作では見ることができるが、中でも車内で男に襲われるシーンにおいては、表情を歪ませながら絶叫するまさに体当たり演技を見せ、ヒロインとして映画を支えるだけの力のある女優であることを証明してみせた。これまで主役級の配役がなぜなかったのか不思議なくらいに作中に自然に溶け込んでおり、女優としての真価を強く感じさせる作品だった。

–{ 白石麻衣の女優としての強み}–

白石麻衣の女優としての強み

白石の女優としてのキャリアを振り返ったときに、西野や深川、若月といった現在女優として活躍しているメンバーと比べると、意外にも出演数が少ないことに気づかされる。このことは白石の経歴からすると少々意外だったかもしれない。

しかし、バイプレイヤーという形であれ白石は女優としての個性を遺憾なく発揮してきた。むしろ、バイプレーヤーであれだけの役者としての強みを示すことができたのは白石の凄さだろう。ヒロインに抜擢され、期待以上の活躍をしてみせたのも当然といえば当然だったのかもしれない。


(C)2017 映画「あさひなぐ」製作委員会 (C)2011 こざき亜衣/小学館

限られた出演作のなかで白石が女優として評価された理由はどこにあるのだろうか。まず、“クールビューティー”という強烈なパブリックイメージを抱えている白石にとって、役者として演じる際にそのイメージがどうしても付きまとってくるものだ。むしろ、それが女優としての強みとして表れてくるということが多いだろう。例えば、西野や深川であればある程度のパブリックイメージを役に(意識的であれ無意識であれ)投影しながら演じていることがほとんどだ。

しかし、白石に関して言えば、そのパブリックイメージのような強い個性というものが演技の中に現れることはほとんどない。たとえどんな役柄であっても白石は役のイメージにすんなりと溶け込んで自然に表現することができるのだ。パブリックイメージを無視して、ナチュラルに役に向き合うことができる役者としての特性は、白石の強みであり個性だろう。

(C)2020 映画「スマホを落としただけなのに2」製作委員会

また、白石がこれまで演じてきた役柄は極端でバラエティに富んだものが多かったが、どの作品でも及第点以上の演技を披露しているのだから女優としても相当なポテンシャルの持ち主なのだと実感させられた。

何者にも違和感なく溶け込める安定感は今後の女優としてのキャリアにとっても大きな強みになるはずだし、息の長い女優としても活躍していけるはずだ。

–{「漂着者」でヒロイン役に抜擢 女優として本格始動の狼煙}–

「漂着者」でヒロイン役に抜擢 女優として本格始動の狼煙

「漂着者」(C)テレビ朝日

2020年に乃木坂46を卒業し、晴れてひとりの女優として歩みを始めた白石。卒業後初の連ドラ出演となった「漂着者」では初の新聞記者役にも関わらず、それが最適解であるかのように絶妙な演技ですでに作中に馴染んでいる。現時点で第4話まで放送されているのだが、メインキャストとして白石は重要なポジションにあり、本作が女優として飛躍のきっかけになっていくことも期待できるだろう。

すでに活躍している西野や深川、若月と同様に当然白石も役者としての実力は申し分ない。これから女優としてどんな表情を届けてくれるのか楽しみだ。

(文:川崎龍也)

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