どうも、橋本淳です。
87回目の更新、今回もよろしくお願いいたします。
この監督の作品は必ず観る。
そう心に誓う監督は数人います。
どこにも行くことが叶わないこのご時世では、映画館だけが心の救い。
“家⇄仕事 (空き時間に)映画館”
最近の生活方程式は、このような感じ。
唯一の心の支えに、上記のような監督作品ということがプラスされると、癒し効果チャージは倍増します。公開日が待ち遠しくなり、遠足前夜の小学生精神が湧き上がる。
そのうえ、そういった作品が、好きな映画館で上映されるということは、それはもう、テーマパークに入る前に駐車場スピーカーから、「enjoy!!音楽は鳴り続ける!〜♪」などのココロオドルBGMが聞こえてきて、入園前からテンションが上がりきってしまう状態になります。(そうです。よく分からない状態)
だらだら書いてないで、早速ご紹介の段へ。
今回はこちらの作品をご紹介!!!
『子供はわかってあげない』
本作で監督を務めるのは沖田修一。
この方の作品なら見逃す訳にはいきません。
『南極料理人』『キツツキと雨』『横道世之介』『滝を見にいく』『モヒカン故郷に帰る』『モリのいる場所』『おらおらでひとりいぐも』など、もはや説明や紹介もいらずな日本映画を代表する監督の1人です。
独特なスローテンポの中に繊細な陰影、濃淡、緩急があり、毎度、人の暖かさを感じさせてくれます。人と人との距離感、関係性、それらが家族であろうがなかろうが、優しさに満ち溢れているので、どこか癒しのような効果もあるのではないのかと、監督の作品を観るたびに感じてしまいます。
本作では、過去作に比べると少しテンポアップを感じます。しかしながら持ち前の柔らかな雰囲気はそのままで、監督はまた新たなフェーズへ。
ときどき入る独特なカット、一見まったく必要ないのではないかというものを見せられていると思ってしまうけれど、気づくと監督の雰囲気作りの毒牙(いい意味)にやられてしまっています。
なんでしょう、クスッと笑わせテクニックで、監督の右に出るものはいないでしょうね。鑑賞中、幾度とマスクに収まっている鼻から、秒速2メートルの鼻息が漏れていました。
主演を務めるのは、上白石萌歌。そして相手役に、細田佳央太。
大人と子供の境界線をひた走る、美波ちゃんともじくんを、瑞々しくかわいく体現していました。二人の持つ、穏やかでいて朗らかにしてくれる雰囲気を、沖田監督がさらに引き出し、自然と背中を見守っていきたいと感じさせてくれる。
それだけではないのが、素晴らしいところで、シュールで柔らかなで子供のようなフワッとした印象が、ラストの屋上のシーンでガラッと変わる。子供から、大人の雰囲気にスッと変わる。
どこか色っぽく艶っぽく変化する。その急な色彩の変化に、とてもドキッとしながらも、暖かな涙が流れました。子供から大人へ、片足ずつ双方へ踏み入れている彼らの、その時にしか出せない香りや質感がそのシーンに溢れています。
–{美波が緊張すると笑い出してしまう理由を考察}–
美波ちゃんは、緊張すると笑い出してしまう女の子。水泳部の大会中や、監督の真面目な会議中、そして大事な告白をしたりする時など、勝手に笑顔になり堪えられず笑ってしまう。
その姿から、この子はどこか自己防衛をしているのではないのだろうかと、推測する。
幼い頃に両親は離婚し、今のお父さんは実は本当のお父さんではない。しかし、美波が暮らす朔田家からは悲壮感や暗さは微塵も感じられない。それはきっと母や父のお陰かもしれないが、きっと美波自身が、知らず知らずのうちに犠牲にしている部分があるのかもしれない。
作中では、そんなことには決して触れないが、一夏で経験したことを母と語るシーンで、ダムの一部が決壊したかのような感情が漏れ出す姿を見て、そう感じてしまう。
「もういいんだよ」隣に座って、そう言いたくなってしまう。こんなにも人の温もりを感じ、人と関わりたくなるのは、きっと沖田マジックなのでしょう。
人との距離感が分からず、どこか温度の低い世の中に優しさをぶち込んでくださる監督の作品は、本当に多くの方に観ていただきたい。
豊川悦司演じる、友充と美波が別れ、それぞれの暮らしに戻る背中。あの背中は、今後ずっと脳裏に残っていくでしょう。
色んなことを想像させてくれるとてもお気に入りのカット。
思い返すと、まるで自身の思い出の夏ではないかと錯覚するほど、色んなシーンが蘇ってくる。こういった残り方が、いい映画というものなのでしょうね。
皆様もどうか、この優しさに包まれてみてはいかがでしょうか?
それでは今回も、
おこがましくも紹介させていただきました。
(文:橋本淳)
–{『子供はわかってあげない』作品情報}–
ストーリー
高校2年、水泳部女子の美波はある日、書道部男子のもじくんとの運命の出会いをきっかけに幼い頃に別れた父親の居所を探しあてる。
何やら怪しげな父にとまどいながらも、海辺の町で夏休みをいっしょに過ごすが。。。
心地よい海風、爽やかに鳴る風鈴。…超能力!?そして、初めての恋に発狂しそう!
お気楽だけど、けっこう怒濤の展開。
誰にとっても、宝箱のような夏休み。はじまりはじまり~。
基本情報
映画『子供はわかってあげない』
上白石萌歌 細田佳央太 千葉雄大 古舘寛治/斉藤由貴/豊川悦司
監督:沖田修一 脚本:ふじきみつ彦 沖田修一
音楽:牛尾憲輔 原作:田島列島『子供はわかってあげない』(講談社モーニングKC刊)
企画・製作幹事:アミューズ 配給:日活 制作プロダクション:オフィス・シロウズ
公式サイト: agenai-movie.jp Twitter:@agenai_movie