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映画 『孤狼の血 LEVEL2』での主演が話題を呼んでいる松坂桃李。個人的に5~6年前まで彼のイメージは「さわやかな好青年」「真面目で誠実」で、そういう役が似合う印象だった。だが、ここ数年のさまざまな役への挑戦を観ていると、もはやこの人にはまり役などないと思う。むしろ、すべてをはまり役にしてしまう俳優だと思う。新作のニュースにどんな役柄が書いてあっても「松坂桃李なら演じこなすに違いない」という信頼感がある。
本記事では、松坂桃李のここ5年ほどのさまざまな役を振り返りつつ、その魅力にせまる。
- 映画『彼女がその名を知らない鳥たち』中身のない不倫男
- 映画『娼年』 体をきっかけに女性の心を開いていく「娼夫」
- 映画『孤狼の血』 優等生刑事が激変するさまを見事に演じた
- 映画『不能犯』 ビジュアルが妙に生きた悪役
- ドラマ「微笑む人」 笑顔が怖いという感覚を感じる静かな狂演
- 映画『あの頃。』 アイドルに人生を救われたハロヲタ
- ドラマ「今ここにある危機とぼくの好感度について」 薄っぺらい青年役がうますぎる
- ドラマ「あのときキスしておけば」 愛すべき巻き込まれ系ポンコツ、純愛に涙
- 映画『孤狼の血 LEVEL2』 前作からさらなる変化、予想を上回る不良刑事っぷりとアクション
- これからもいい意味で期待を裏切ってほしいし、裏切ってくれると確信している
映画『彼女がその名を知らない鳥たち』中身のない不倫男
松坂桃李に対する印象が個人的に大きく変わったのは、2017~18年公開の複数の映画に立て続けに出演したときだ。『彼女がその名を知らない鳥たち』は、「松坂桃李、こんな役もやるんだ!」と驚いたはじめの作品だ。
口先だけの甘い言葉で蒼井優とダブル不倫するサラリーマンを演じている。ピロートークでかつて訪れたタクラマカン砂漠の話をするが、実は古本屋で立ち読みしただけだったと後にわかったり、行為中に相手に「あー」と声を出させる性癖があったり。よく見せかけて中身空っぽの役で驚いた。
映画『娼年』 体をきっかけに女性の心を開いていく「娼夫」
驚きの主演だった。女性に身体を売る「娼夫」となる大学生の役で、多くの濡れ場がある。発表されたとき、衝撃を受けた人も多かったのではないだろうか。
だが実際に作品を観ると、「セックスなんて手順の決まった面倒な運動」と思っていた主人公が、セックスを通じてさまざまな女性の心を開き、癒していく物語だった。それに気づくにつれ本人の内面も変化していく様子が、セリフ以外の部分でも感じられた。
–{映画『孤狼の血』 優等生刑事が激変するさまを見事に演じた}–
映画『孤狼の血』 優等生刑事が激変するさまを見事に演じた
違法捜査やワイロにも平気で手を出す不良刑事・大上(役所広司)に、困惑しつつ翻弄される優等生刑事・日岡を演じている。序盤は大上のスタイルにドン引きしたり巻き込まれて殴られたりしつつ、徐々に大上に惹かれていく。終盤ある出来事をきっかけに豹変し、激昂するさまには息を呑んだ。
観るまで松坂桃李と暴力的な作品とが結びつかなかった。先入観を軽々と超えて新たな幅を見せてくれた作品だった。続編の『孤狼の血 LEVEL2』と合わせ、彼の代表作になるだろう。近年の出演作品はどれもすばらしいが、この『孤狼の血』で暴力、『娼年』でエロという新たなジャンルに挑戦し、さらに確かな演技力でジャンルうんぬん以上の感動を与えてくれた2018年の松坂桃李は非常に印象深い。
映画『不能犯』 ビジュアルが妙に生きた悪役
依頼に従い、マインドコントロールを使って相手を殺害する(実際に手を下すわけではなく、思い込みで相手が死ぬ)不能犯、宇相吹正を演じた。
ニヤァ……という悪い笑顔と、たびたび吐く「愚かだね、人間は……」というセリフ。不気味で恐ろしいんだけど、黒スーツ松坂桃李は普通にかっこいいのもあり、後半ちょっとクセになってしまう。
映画自体は正直あんまりおすすめではないが、松坂桃李の悪い笑顔を見るためだけに観てもいいと思う。松坂桃李以外の見どころとして、沢尻エリカの顔面の良さと、ネタバレになるので何とは言えないけど間宮祥太朗も挙げておく。
ドラマ「微笑む人」 笑顔が怖いという感覚を感じる静かな狂演
単発のドラマなので、まだ観ていない人も多いかもしれない。妻子を川で殺害したエリート銀行員・仁藤俊美(にとうとしみ)を演じる。仁藤は優秀で物腰もやわらかく、「とても人殺しをするようには見えない」「誰かをかばっているのでは」と周囲の人たちが口々に言うような人物。だが本人は犯行を認め、「本の置き場所が欲しかった」という信じられない理由を告白している。
偶然彼とママ友(パパ友?)でもあり、ひそかに好意すら抱いていた女性記者・鴨井(尾野真千子)が真実を明らかにしようと奮闘する物語だ。松坂桃李の穏やかな笑顔が印象的なのだが、ストーリーが進むにつれその笑顔を「怖い」と感じるようになる衝撃的な作品だ。最終的に鴨井が取る行動も注目すべきポイントだ。
–{映画『あの頃。』 アイドルに人生を救われたハロヲタ}–
映画『あの頃。』 アイドルに人生を救われたハロヲタ
発表時、こんなイケメンがアイドルオタクの役をやるなんていいのか? と思った。筆者、結成時から20年以上のハロヲタなのだが、あんなかっこいいヲタクいないのでは? と混乱した。
だがメインビジュアルが出てくるころにはその不安がなくなった。うまく言えないが、イケメンなはずなのに主人公を演じる松坂桃李は絶妙にダサくて、変な帽子をかぶってブリーフを履いていた。「こういうヲタクいるいる」感が強かった。
また見た目ではなく、石川梨華卒コンでの年上の女性ファン(西田尚美)と連番(隣の席で一緒にライブを見ること)するシーンが印象的だった。うまく言えないが、卒コンでの空気感や、推しが卒業する人を見守る思いが出ていて、ライブ中なのでセリフがあまりないのに共感してしまった。松浦亜弥に”落ちる”瞬間含め、言外の共感や説得力がある作品だった。
彼自身「遊戯王」の大ファンでデュエリストとして有名、菅田将暉のラジオに出るたび自身の宣伝そっちのけで熱く遊戯王の話をするのは周知の事実だが、そういった一面も生きたのかもしれない。
ドラマ「今ここにある危機とぼくの好感度について」 薄っぺらい青年役がうますぎる
トラブルを避けたいあまり当たり障りのない発言をし続け、人気低迷したイケメンアナウンサー・真が、恩師に誘われ大学の広報マンに転身する様子を描いた主演ドラマ。
『彼女がその名を知らない鳥たち』でも感じたが、薄っぺらい中身空っぽな感じが実に秀逸だった。「私は何も言ってきませんでしたから」「僕は自分がいちばんかわいいけど」と平然と言う。見た目の良さとアナウンサーというステイタスから女性をとっかえひっかえし、顔が思い出せない人も多いというすがすがしいクズっぷり。
彼だけではなく周りも保身に走る人が大多数の中、そうではない人も現れる。真は変わるのか変わらないのか? 非常に考えさせられ、よくできた物語だった。機会があればぜひ観てほしい。
ドラマ「あのときキスしておけば」 愛すべき巻き込まれ系ポンコツ、純愛に涙
「今ここ~」と同じクールに放送された主演ドラマ。どこまでもポンコツなスーパー勤務の青年・桃地のぞむはある日、粘着質なクレーマーに絡まれていたところを女性客(麻生久美子)に助けられる、なんとその人は、桃地が大ファンの漫画「SEIKAの空」の作者・唯月巴だった。
ひょんなことから彼女の身の回りの世話をすることになり、恋愛関係に発展。しかし恋愛経験がないためキスを迫られて動揺し、拒否してしまう。旅行に向かうが道中事故に巻き込まれ、彼女は帰らぬ人になってしまう。さらに死んだはずの彼女の魂は、おじさん(井浦新)の身体に入っておりーー? というとんでもなストーリーだ。
シリアスからギャグまで、どんな役でもこなせる俳優だなとあらためて思わせてくれた作品だ。巻き込まれ系主人公、常にダダもれの心の声が何とも面白い。キャパがせまい故、パニックになると声に出して「あ~~~」と叫ぶところもいい感じにポンコツ感を演出していた。巴や巴の元夫で副編集長の高見沢(三浦翔平)というアクの強い面々に翻弄されつつ、おじさんとなった巴を純粋に愛する姿に感動する。面白いのに切なくて感情をどこに持っていけばいいのかわからない。
ちなみにTELASAで観られるスピンオフ・実写版SEIKAの空も気が狂っていて最高だ。
–{映画『孤狼の血 LEVEL2』 前作からさらなる変化、予想を上回る不良刑事っぷりとアクション}–
映画『孤狼の血 LEVEL2』 前作からさらなる変化、予想を上回る不良刑事っぷりとアクション
前作終盤の豹変っぷりで観客を驚かせた日岡だったが、数年後の本作では想像以上に変化していて、前作冒頭と同じ人物とは思えなかった。亡き大上(役所広司)のようにヤクザとつながり、すごまれても動じず脅し返すレベルだ。そうなるきっかけは前作で観ているものの、いい意味で予想を超えてきてくれた。
とはいえ、細身な印象のある日岡。最凶最悪な敵・上林(鈴木亮平)と渡り合えるのだろうか? という心配が少しあった。詳しくは劇場で確認してほしいが、こちらの心配をよそに、非常に見どころのある対決シーンを楽しませてもらった。よく考えたら松坂桃李も183センチあるんだよな~とあらためて実感した。演技力もさることながら、フィジカル面でも発見のあった作品だった。
松坂桃李はもちろん、鈴木亮平・村上虹郎の演技も合わせて注目だ。
これからもいい意味で期待を裏切ってほしいし、裏切ってくれると確信している
松坂桃李のさまざまな作品についてお伝えしてきたが、本当に毎回毎回新たな発見と感動をくれる素晴らしい俳優だと思う。事前の発表では「この役どうなんだろう?」と思う役柄も、必ず予想をいい意味で超えた演技を見せてくれる。もはや最近はどんな役でも「松坂桃李ならやってくれる」という謎の信頼感と安心感がある。
これから彼がどんな作品に出演し、どんな役を演じるのか。いつもいつでも楽しみだ。ずっと松坂桃李のターン!ドロー!
(文:ぐみ)