『ドライブ・マイ・カー』レビュー:西島秀俊×村上春樹×濱口竜介が織り成す人間の孤独を描出した魂のロードムービー!

ニューシネマ・アナリティクス

■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

本年度(第74回)カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、脚本賞および国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメカニカル審査員賞の4冠を制覇!

現在、国の内外で注目を集め続ける濱口竜介監督が、村上春樹の同名短編小説を原作に男と女の心の彷徨を描いていきます。

上映時間が179分という長尺ゆえ、鑑賞する前は正直少々身構えてはいたのですが、いざ見始めるとあれよあれよとムーディながらも心地よさと緊迫感が調和したテンポで進んでいくことで、いつしかこの映画のために過不足のない3時間弱がもたらされていることを容易に理解することができます。

(そもそも濱口監督は『親密さ』255分、『ハッピーアワー』317分といった長尺ものを定期的に発表していますが、それは映画作家としての本人の生理に見合った時間感覚なのかなとも思われます)

ドラマそのものは、浮気した妻(霧島れいか)の突然死に立ち会えなかった舞台演出家(西島秀俊)と、2年後の広島の演劇祭参加に伴って彼の専属ドライバーとなる寡黙な女みさき(三浦透子)を主軸に展開。

高槻(岡田将生)、イ・ユナ(パク・ユリム)、ジャニス・チャン(ソニア・ユアン)など国籍の壁を取っ払って集められたキャストによってそれぞれの国の言語で台詞が交わされていく演劇スタイルのユニークさや(広島で上演されるのはチェーホフの『ワーニャ伯父さん』)、その中で微妙に絡み合っていく人間関係なども繊細に綴られていきます。

そして気がつくと、いつの間にか本作が見事なロード・ムービーとしても屹立していくあたりも実にスムーズでお見事な展開なのですが、こういった構成の妙なども脚本賞受賞の所以かもしれません。

精悍な風貌の中から寂寥感を巧みに漂わせていく西島秀俊と、無口で無表情の中から確実に“何か”を感じさせてくれる三浦透子、それぞれの孤独の体現が素晴らしく、両者が広島の“ある場所”を観光するシーンは一つの大きな象徴ともなっています。

原作で登場する車は黄色のサーブ900コンバーチブルですが、映画は赤いサーブ900ターボ。この変更も、映画を見ていただけると大正解であることが納得できることでしょう。

世界に冠することを抜きにしても、本年度の日本映画を大いに代表するに足る傑作です。
 
(文:増當竜也)

–{『ドライブ・マイ・カー』作品情報}–

『ドライブ・マイ・カー』作品情報

【あらすじ】
舞台俳優・演出家の家福悠介は、脚本家の妻・音と満ち足りた日々を送っていた。しかし、妻がある秘密を残したまま突然この世を去ってしまう。2年後、演劇祭で演出を任されることになった家福は愛車のサーブで広島へと向かう。そこで出会ったのは、寡黙な専属ドライバーみさきだった。喪失感を抱えたまま生きる家福は、みさきと過ごすうちに、それまで目を背けていたあることに気づかされていく。 

【予告編】

【基本情報】
出演:西島秀俊/三浦透子/霧島れいか/パク・ユリム/ジン・デヨン/ソニア・ユアン/ペリー・ディゾン/アン・フィテ/安部聡子/岡田将生

原作:村上春樹

監督:濱口竜介

脚本:濱口竜介/大江崇允

製作国:日本