2021年7月30日より全国順次公開がスタートした阪元裕吾監督の『ベイビーわるきゅーれ』。“日常系ほのぼの殺し屋映画”という新ジャンルを開拓した本作は絶賛評に染まり、かつて『カメラを止めるな!』が巻き起こした“カメ止めブーム”にも似た熱狂を生み出しています。主演を務めるのは舞台「鬼滅の刃」竈門禰豆子役で話題の女優・髙石あかりさんと、スタントパフォーマーとして注目を集めている伊澤彩織さん。『ベイビーわるきゅーれ』がなぜ観客から絶賛されているのか、今回はその魅力についてご紹介しましょう。
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アクションの次元が違う!
本作のアクション監督・園村健介さんはジョン・ウー監督の『マンハント』でアクションコレオグラファーを務め、監督デビュー作『HYDRA』で超高速アクションを生み出した人物(『HYDRA』インタビュー記事はこちら)。本作でも驚くほど切れ味の鋭いガンアクションや肉弾戦を堪能できますが、アクションの完成度を最大限まで引き上げたのが社会不適合者な殺し屋・まひろを演じた伊澤彩織さんです。
伊澤さんは『キングダム』や『るろうに剣心 最終章 The Final / The Beginning』など名立たるアクション映画でスタントダブルを担当しているほか、YouTubeにアップされたアクションリール動画が大きな注目を集めたことも。
そんな伊澤さんが今回は主演という立場で、冒頭から複数人を相手に目の覚めるような怒涛のアクションを披露。クライマックスに用意された三元雅芸さんとの壮絶すぎる“タイマン”は、三元さんが主演した『HYDRA』を彷彿とさせる驚異のハイスピードバトルが繰り広げられています。
プロフェッショナル同士が手を抜かずにぶつかり合う様子はまさにアクションという名の芸術そのものであり、美しさと興奮のあまり目頭が熱くなるほど。間違いなく邦画史に残る名バウトであり、今後のアクション映画製作における指標の1つとなるのではないでしょうか。
–{壮絶アクションに引けを取らない髙石あかりさんの演技力!}–
壮絶アクションに引けを取らない髙石あかりさんの演技力!
伊澤さんのアクションもさることながら、もう1人の主演・ちさとを演じる髙石さんの存在感も圧倒的。コミュ障のまひろに比べて臨機応変に社会へ馴染める性格のちさとだからこそ、コロコロと表情を変えるタイミングや殺し屋としてのスイッチが入る瞬間に思わずゾクリとしてしまいます。髙石さんがちさとに息吹を与えれば与えるほど観客は目が釘づけになっているはずで、ちさとの存在が物語だけでなく映画そのものを牽引しているといっても過言ではありません。
中でも特筆すべき点は、クライマックスに向かうためのフックとなる某キャラ瞬殺シーン。直前までの軽妙な(それこそ劇場が笑い声に包まれるほどの)流れを一気に引き締めるだけでなく、ちさとというキャラクターの人間性を最も感じさせる場面でもあります。
詳細は伏せますが、ちさとが攻撃に転じる動作は一切のムダがなく筆者は初見時に「何が起きたのか」と茫然。また流麗なアクションに続く直後のセリフは、ちさとの秘めたる感情を観客に察知させる重要な役割を果たしています。その展開に至るまでのちさとの言動や振る舞いを思い起こしつつ、ぜひちさと=髙石さんの声のトーンや表情に注目してみてください。
思わず笑ってしまう日常会話が心地いい!
本作はアクションだけにとどまらず、殺し屋映画なのに思わずほっこりしてしまうオフビートな日常会話も高く評価されているポイントの1つ。本来なら “殺し屋”と“日常会話”の組み合わせはギャップが大きく、ユーモアを狙いすぎれば日常シーンがシラけてしまう可能性もあります。そんな綱渡り的なバランスを、ちさと&まひろのキャラクターが全編見事にキープ。ところどころ差し込まれる小ネタすらも、シーンから浮くことなく成立させているほどです。
そもそも髙石さんと伊澤さんは、阪元監督の前作『ある用務員』に登場した殺し屋・リカ&シホを演じた2人。本作とのつながりはなくキャラも別設定ですが、多くの観客をとりこにしたリカ&シホコンビの空気感を継承しているのも嬉しいところ。また2人の会話劇に限らず、本宮泰風さん・うえきやサトシさん・秋谷百音さん演じる浜岡ファミリーのネジの外れたぶっ飛び具合や、掃除屋(?)・“田坂さん”役の水石亜飛夢さんがちさとに見せる強気な態度も必見ですよ。
まとめ
公開直後から圧倒的な支持を受け、Filmarks初日満足度1位を獲得した『ベイビーわるきゅーれ』。アクションや日常会話を繰り広げる中でちさと&まひろが成長していく青春ストーリーでもあり、スクリーン越しにきっと2人を応援したくなるはず。上映劇場も増えつつあるので、この機会に見逃さないようぜひチェックを!
(文: 葦見川和哉)
–{『ベイビーわるきゅーれ』作品情報}–
『ベイビーわるきゅーれ』作品情報
【あらすじ】
女子高生殺し屋2人組のちさととまひろは、高校卒業を目前に控え、途方に暮れていた。これまで組織から委託された人殺し以外何もしてこなかった彼女たちだったが、明日からはオモテの顔として社会人として振る舞わなければならない。社会に適合しなければならず、公共料金の支払い、年金、税金、バイトなど、社会の公的業務や人間関係、そして理不尽さに揉まれる二人。組織からはルームシェアを命じられ、他者とコミュニケーションを取るのが苦手なまひろは、そつなくバイトをこなすちさとに嫉妬。二人の仲は次第に険悪になってしまう。それでも殺し屋の仕事は忙しく、さらにはヤクザから恨みを買って面倒なことに巻き込まれ……。
【基本情報】
出演:髙石あかり/伊澤彩織/三元雅芸/秋谷百音/うえきやサトシ/福島雪菜/本宮泰風/水石亜飛夢/辻凪子/飛永翼(ラバーガール)/大水洋介(ラバーガール)/仁科貴
監督:阪元裕吾
上映時間:95分
製作国:日本