映画と原作それぞれの魅力をひもとく連載「映画VS原作」。
今回の作品は『バトル・ロワイアル』。「中学生がある日突然、クラスメイト同士で最後の一人になるまで殺し合いをしろと言われる」というショッキングなストーリーが賛否両論を巻き起こし、話題となった。
1999年にベストセラーとなった高見高春の小説を、2000年に深作欣二監督が映画化。31.1億円を売り上げるヒットとなった。
本記事では、『バトル・ロワイアル』の原作小説と実写映画について取り上げる。
※この先、ネタバレを含みます。
特異な設定と心理描写に惹きつけられた原作小説
原作小説「バトル・ロワイアル」は、出版にいたる経緯からしてちょっと異例である。もともとは「第5回日本ホラー小説大賞」の最終選考に残った作品だったが、その「中学生が強制的に殺し合いをさせられる」という内容が問題視され、受賞を逃したという。その後、この話を知った太田出版が著者である高見に声をかけ出版された。
筆者は発売から間もなく、クラスメイトに「これ読まない?」と渡され読んだ。殺人をテーマにした内容や怖い作品は好きではなかったし、さらに「クラスメイト同士で殺し合う」という内容に気が進まなかった。だが、面白かったという感想、あまりに強く勧めてくる様子に断り切れなかった。
666ページと分厚い新書版。見た目も珍しかったその本は、気乗りしなかったのに読み始めると面白かった。非日常的な設定と、一人クラスメイトが死ぬごとに【残り●名】と表示される臨場感、何より極限状態で揺れ動く生徒たちの心理描写に惹かれ、2日ほどであっという間に読み終わってしまった。
現実にはありえない、非日常な設定。だが巻き込まれる生徒たちは自分と同じ普通の人間だった。親しかった友達と殺し合う者、状況を憂いて恋人同士で心中する者、下に見ていた相手を襲おうとして返り討ちに遭う者、協力していたのに一人の行動が悲劇につながり殺し合いになってしまったグループ。誰がどの立場になってもおかしくない気がした。ありえないことだが、自分がこの状況になったらどうするだろう、と読みながら考えてしまった。
–{小説と映画では、伝えたいことが離れていた}–
小説と映画では、伝えたいことが離れていた
小説が刊行されると、翌年には深作欣二監督によって映画化された。原作の設定に加え「ねえ、友達殺したことある?」というコピーが作られ、今はなきブランドBA-TSU(こちらもすでにないがファッション雑誌「KERA」に掲載されていたブランドだ)が制服デザインを担当。
映画が公開された2000年当時、未成年による殺人事件がいくつか起こり「キレる17歳」という言葉が生まれた。映画の公開を危惧する事態となり、主人公たちと同じ中学生世代がほぼ観られないR-15指定となった。だが関連した報道がかえって話題を呼び、ヒットにつながったと言われている。
映画は、中学生たちの凄惨な殺し合いを実写化するという意味では成功していたと思う。だがいくつか残念が点があった。小説の中の比較的大事なエピソードが省略されてしまっているところが多かったのだ。
例えば、相馬光子と滝口優一郎のエピソードがそのひとつだ。相馬光子は、プログラムに積極的に参加し、数多くのクラスメイトを殺害した美しく恐ろしい人物だ。だが、彼女がそういう行動に至る過程には、凄惨な過去があった。幼い頃母に売られて複数人の男に強姦され、その後母を殺害。信頼していた小学校の担任にもレイプされるなど、悲惨なものだ。自らの経験から「奪う側に回ろうと思った」のだ。
小説では、初めて接することになった滝口の言葉に光子が心動かされるシーンがある。オタクで目立たない存在だった滝口だが、評判の悪かった光子を悪者と決めつけた友人・旗上を制し、一時は行動を共にすることになる(実際に数人殺した後なので、旗上の意見は当たっていたのだが)。
「もし悪い事をしてるんだとしてもさ、そうでもしなきゃいられないような、理由があるんだって。それは、相馬さんが悪いわけじゃないって。」という滝口の言葉に、一時的とはいえ光子は心を動かされたのだ。最終的に滝口は死亡するが「あなたちょっと、すてきだった。あたしちょっと、うれしかった。忘れないわ、あなたのこと」と、ほぼ殺人鬼だった光子が他人の言葉に心動かされたシーンは印象的で、小説でいちばん心に残ったシーンだった。
映画では滝口と光子のエピソードがどうなるか気になっていたのだが、血まみれで裸で横たわる男子生徒2人(おそらく旗上と滝口)の横で光子が服を着ているワンカットのみ……えええええ。滝口、セリフゼロなうえに光子の色仕掛けに乗って殺されたことになってるやんけ……
非常にがっかりした。もちろん映画の時間ですべてのエピソードを入れることは無理だと思うが、こんな大事なシーンをこれで済ませる? 小説版を読んでから映画を観た人、似た理由でがっかりした人は多かったのではないだろうか。
おそらく、作者が小説で書きたかったものと、監督が映画で撮りたかったものが違うのではと感じた。小説では極限状態の中での人の心の動き、映画は衝撃的な中学生の殺し合いに主軸が置かれていたのではないだろうか。
–{実写版のメインキャストは最高だった}–
実写版のメインキャストは最高だった
個人的にがっかりした部分はあるが、映画版のメインキャストはじつに素晴らしかった。現在も俳優として活躍している人も多く、豪華な顔ぶれだ。ビジュアルやキャラクターもぴったりな人が多かった。
主人公の七原秋也は藤原竜也、ヒロインの中川典子に前田亜季。転校生にして過去の同イベントの優勝者、川田章吾に山本太郎。秋也たちより3個上の設定の山本太郎がずっと上にしか見えないが(当時25歳だったのだから無理もない)、3人とも役柄はハマっていた。
今回観返す前は、当時の藤原竜也はまだアクが強くなかった……と思っていたのだが、叫ぶシーンはすでに今の藤原竜也に通ずるものがあった。また久しぶりに観たが、山本太郎の演技が良くて、俳優をやめてしまったことが残念だと思った。
個人的に非常に良かったのは千草貴子役を栗山千明、相馬光子役を柴咲コウが演じたことだ。
千草貴子はきつめの顔立ちの美人で、「誰にも媚びず美しくある」がモットーという設定。個人的に見た目的にも人格的にも、栗山千明にすごくハマっていたと思う。以前から貴子を好きだった新井田に「どうせ死ぬんだから」と身体の関係を迫られ、顔に傷をつけられて怒り「私の全存在をかけて、あんたを否定してあげる!」と全力で戦うさまが素晴らしかった。
映画の「カッチーン」というセリフとか、やたら神様に話しかけてる感じはちょっと気になったものの、極限状態にあっても最後まで自分らしさを貫いた、かっこいい女の子だった。
ちなみにこの作品での栗山千明の姿を見たクエンティン・タランティーノ監督が映画『キル・ビル』で彼女を起用。GOGO夕張という制服を着て鉄球を武器にした敵として登場しているので興味がある方はぜひ(流血多めなので苦手な方はご注意を)。
柴咲コウの相馬光子も最高だった。鎌を武器に(途中で殺した相手の武器も持つが)次々と同級生を殺していく美しい殺人鬼。光子が獲物を見つけたとき、目が合ったときのニヤッという恐ろしくて美しい笑顔が忘れられない。ショートパンツから長い脚が出ていて、プログラム中でも化粧を欠かさないところに美意識を感じる。
柴咲コウの目が良かった。最後は同じくノリノリで殺人に参加した桐山に殺されちゃうのだが、撃たれて倒れたり回転しながらも最期まで桐山のほうを見、やり返そうとしていて生への執着・執念がすさまじかった。このシーンはぜひ映像で観てほしい。
貴子は光子に殺されてしまうんだけど、ここもまた二人が一瞬対峙するシーンが美しかった……。ただ光子の不意打ちで、持ってる武器的にも圧倒的に貴子が不利だったので、互角の条件の場合の戦いも観てみたかったくらいだ。
ちなみに当初は二人の役柄は逆だったが、監督の意向でチェンジされたという。個人的には監督グッジョブすぎると思う。ただ原作の設定では貴子が茶髪にハイライト、クールな美人(切れ長という点は合っている)、光子が黒髪でアイドルのような愛らしい容姿だったため、「逆では?」という意見の人もいるようだ。
他にも、ファンクラブがあるほどの美形でコンピューターに詳しい三村信史を塚本高史が、幼馴染の千草貴子と想い人の琴弾加代子を探して行動する杉村弘樹を高岡蒼佑が、自分の意志でこのゲームに参加した桐山和雄を安藤政信が演じた。
桐山はプログラムに積極的に参加し、同級生を殺しまくる点以外、見た目を含めさまざまな設定が原作と映画で異なった登場人物だった。演じた安藤政信は当初、山本太郎が演じた川田役でオファーをもらったが、台本を読み桐山役を希望した。彼のアイデアによりセリフのない役となり、桐山の不気味な感じをさらに強めていた。
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–{2000年前後の空気感が伝わる作品}–
2000年前後の空気感が伝わる作品
小説が発売された1999年は、ノストラダムスの大予言により世界が滅亡すると言われていたり、冒頭で触れたような若い世代の殺人がたびたび話題に上がったりする時代だった。少年少女と危機的状況をテーマにした作品が多く流行したように思う。当時の空気感を知るひとつとして観てみるのも面白いのではないだろうか。当時青春時代を過ごした人は、ちょっとした懐かしさも感じられるかもしれない。
また個人的な感想だが、映画はテレビアニメのエヴァやエヴァ旧劇の影響を受けているように思った。BR法説明ビデオのお姉さんはアスカの声優をしている宮村優子だったし、明朝体、赤と黒、戦闘シーンに流れるクラシックなど、重なる部分が多かった。
ここまでいろいろとお伝えしたが、今回あらためて観返したら劇場版バトロワは何だかんだ面白かった。本記事で気になるポイントがあればぜひ観てみてほしい。
また手に入りづらいのが残念だが、個人的には小説版バトロワを読んでみてほしい。
(文:ぐみ)
–{『バトル・ロワイアル』作品情報}–
『バトル・ロワイアル』作品情報
ストーリー
新世紀の初め、ひとつの国が崩壊した。自信を失くし子供たちを恐れた大人たちは、やがてある法案を可決、施行する。それが、新世紀教育改革法、通称“BR法”だ。年に一度、全国の中学校の中から1クラスが選ばれ、コンピュータ管理された脱出不可能な無人島で、制限時間の3日の間に最後のひとりになるまで殺し合いをする法律である。そして、今回それに選ばれたのは岩城学園中学3年B組の生徒たちだった……
基本情報
出演:藤原竜也/前田亜季/山本太郎/栗山千明/塚本高史/高岡蒼佑/石川絵里/神谷涼/柴咲コウ/安藤政信 ほか
監督:深作欣二
公開日:2000年12月16日(土)
製作国:日本