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DCコミックスのヴィラン=悪役だけを集めた、ならず者集団“スーサイド・スクワッド”の活躍を描く映画第2作『ザ・スーサイド・スクワッド“極”悪党、集結』。
2016年の『スーサイド・スクワッド』以来、2度目の映画作品となりましたが、いざ、本作を見てみると、前作の知識はもちろんアメコミ知識も全くなしで、シンプルに楽しめる娯楽アクション大作となっていました。
これは偏にジェームズ・ガンという異端児を監督に迎えられたことによる部分が大きく、またマーベルに戻っていってしまいましたが、今一つ弾けきれないDCコミックス映画にはこんな劇薬が必要なのだと気づかせてくれたジェームズ・ガンの功績は、とても大きく、これからもDCコミックスの方に来てくれないかなと期待するばかりです。
全てはジェームズ・ガン降板騒動から始まった
ジェームズ・ガン。Z級映画の製作で知られるトロマ・エンターテインメントで、そのキャリアをスタートさせ、『スクビー・ドゥー』や『ドーン・オブ・ザ・デッド』のシナリオを担当してメジャーの仕事もこなすように。
そして当時、大抜擢と騒がれたマーベルコミックの大作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を監督。
それまでのアイアンマンやキャプテン・アメリカに比べるとマイナーな原作であることに加えて、当時はまだ無名に近かったキャストが並び、MCU=マーベル・シネマティック・ユニバース作品で最も苦戦するだろうとされていた『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』。
しかし、蓋を開ければ、北米で3億ドルを超える大ヒットを記録。世界的にもヒットは拡がり、ロバート・ダウニー・ジュニアが「マーベル史上最高の映画」と評価するほどの大成功作品となりました。
この成功で圧倒的な発言権を持ったジェームズ・ガンは、茶目っ気たっぷりな続編『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』を監督したほか、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』の2作品の製作総指揮も務めました。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の第3弾の監督もジェームズ・ガンが当然務めるものと思われていました。
ところが、2018年に、過去にTwitterで不謹慎なジョークを繰り返していたことが取り上げられ、ジェームズ・ガンは謝罪したものの、そのままディズニー&マーベルはジェームズ・ガンを解雇します。
解雇に反発した『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のメインキャストのクリス・プラット、ブラッドリー・クーパー、ゾーイ・サルダナ、ヴィン・ディーゼル、マイケル・ルーカ―、カレン・ギラン、デイヴ・バウティスタが解雇を非難するコメントを発表、ジェームズ・ガンの復帰を求める運動がはじまりました。
復帰を求める運動の結果、2019年にはジェームズ・ガンの監督への復帰が決定されました。
しかし、この一連の騒動で『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』第3弾のプロジェクトは停滞、新型コロナウィルス感染拡大も重なり、現場は止まり続けることに。
そんな中で“身体の空いていた”ジェームズ・ガンに新作の監督を依頼してきたのが、なんとマーベルコミックのライバルであるDCコミックスでした。
しかもDCコミックスが持ち込んだ作品案は『スーサイド・スクワッド』の続編という話。
もともとは2016年版の監督を務めたデヴィッド・エアーが続投する予定でしたが、方向性の違いから降板。その後監督候補が浮かんでは消えを繰り返し、一説にはなんとメル・ギブソンに託すというアイデアもあったとか…。
そんな中で、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』というサブカルチャー要素とブラックな笑いをファミリー映画にうまく落とし込んでみせたジェームズ・ガンの解雇騒動の話が漏れ伝わってきます。
そこで、思い切って“かなりに好きにやっていい”ことを条件に『スーサイド・スクワッド』の新作映画をジェームズ・ガンに託すことになりました。
–{ヒーロー映画を口実にやりたい放題の本作}–
ヒーロー映画を口実にやりたい放題の本作
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』から解雇され、失意の中にあったジェームズ・ガンはその一方で新作の企画を練っていて、その中に60年代にあった“ならず者が活躍する戦争映画”を現代に作り直すというものがありました。
しかし、現代において、そんな企画にお金をポンっと出してくれるメジャースタジオはなく、そこで、エクスキューズとしてジェームズ・ガンが用意したものが“主役はコミックヒーロー”というものでした。
かねてより戦争映画というジャンルの映画を作りたかったジェームズ・ガンは、口実としてDCコミックスのヒーローを主役にするというものをひねり出したのでした。
運よく巡り合わせた『スーサイド・スクワッド』の監督の話も宙に浮いていたこともあって、結果的に欠けていたピースがピタリとはまるようにジェームズ・ガンが『スーサイド・スクワッド』のメガホンを取ることになりました。
前作のハーレイ・クイン役で大ブレイクしたマーゴット・ロビーやイドルス・エルバといった名前で売れるキャストを招くことで、スタジオも納得させる一方で、ジェームズ・ガンはまさにやりたい放題、自由に『スーサイド・スクワッド』というおもちゃで遊びつくしています。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に出演していたマイケル・ルーカ―やシルベスター・スタローン(キングシャークというサメ人間のボイスキャストという無駄使い)、さらには同じくマーベル映画の『マイティ・ソー バトルロイヤル』の監督だったタイカ・ワイティティまで俳優として引っ張ってくるなどという冒険も難なくこなします。
そして最後には、巨大怪獣を登場させるというコミック原作でもそこまでやるかというほどのジャンル映画への傾倒ぶりを見せつけます。
苦戦するDCコミックス映画のカンフル剤に!?
DCコミックスの映画は、『ダークナイト』3部作のクリストファー・ノーラン監督と『300』『ウォッチメン』のザック・スナイダー監督が初期の立ち上げに関わったこともあってか、コミックブック特有の軽快さや娯楽性がどうしても後ろに下がりがちでした。
DCEU=DCエクステンデッド・ユニバースという形でMCUに対抗しましたが、重苦しさだけが残るシリーズとなり、結果、シリーズとしての共通性を持たせることを半ば放棄するという失敗とは言っても過言ではない結果になってしまいました。
現在はそれぞれの独自路線をいくマルチバース方針に切り替わっていて、そんな中でホアキン・フェニックスの『ジョーカー』などが生まれたわけですが、それはまた別の話ですね…。
ジェームズ・ガンの『ザ・スーサイド・スクワッド“極”悪党、集結』はそんなDCコミックス映画に欠けていた、“いい意味での軽薄さ”を取り込むことに成功させ、これまでのDCEUコミックス映画で感じることができなかった“痛快さ”を感じることができました。
ジョン・シナのアクションだけは絶対に見逃せない
マーゴット・ロビー、イドルス・エルバといったスター俳優に混じる形で実は『ザ・スーサイド・スクワッド“極”悪党、集結』の中で一番美味しところを持っていったのが平和のためにはいかなる暴力も辞さないという極端な平和の使者“ピースメイカー”を演じたジョン・シナでしょう。
アメリカ最大のプロレス団体WWEのトップレスラーである彼は、ザ・ロックことドゥエイン・ジョンソンやデイヴ・バウティスタ(リングネームはバティスタ)に続くプロレスラー出身のトップアクションスターになりそうな気配がむんむんします。
プロレスラーにとって映画進出は鬼門だと言える
もともとプロレスラーの映画進出は鬼門で、20世紀で最も成功をおさめたプロレスラーのハルク・ホーガンですら、映画では失敗が続きました。
そんな中、21世紀に入りザ・ロック(=ドゥエイン・ジョンソン)が『ハムナプトラ2』とそのスピンオフ『スコーピオン・キング』で立て続けに全米1位を記録したことで潮目が変わり、ザ・ロックの所属していたWWEは本格的に映画製作に乗り出し、自団体の人気レスラーを映画に起用するようになりました。
大半はいわゆるB級映画アクションですが、とにかくザ・ロックがWWEとの契約からリングネームのザ・ロックから本名のドゥエイン・ジョンソンに変わっても大ヒット作を連発し続けるので、これに続けとばかりに映画への進出を加速、そんな中でバティスタというリングネームで活躍してた現デイヴ・バウティスタが徐々にトップ映画俳優として頭角を現してきます。
偶然ですが、大きなブレイクポイントになったのがジェームズ・ガンの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』。この中でデイヴ・バウティスタは愛すべき荒くれ者ドラックスを演じて、プロレスファン以外にも一気に認知度を高めました。
その後『007スペクター』『ブレードランナー2049』といった超大作出演、今年もザック・スナイダー監督のNetflix映画『ア―ミ・オブ・ザ・デッド』に主演したほか、SF大作『DUNE/砂の惑星』が公開瀧中です。
そして、ドゥエイン・ジョンソン、デイヴ・バウティスタに続きそうなのが今作のジョン・シナです。WWEが製作に関わったB級アクションに何本か出演していましたが、2018年にトランスフォーマーシリーズの『バンブルビー』に大きな役どころで出演して、ステップアップ。
今年は『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』と『ザ・スーサイド・クワッド”極”悪党、集結』と二つの超大作に大きな役どころで出演して、一気にアクションスターとしての地位を挙げてきました。
すでに”ピースメイカー”を主役にしたテレビシリーズ製作も決まっていて、こちらでは主演兼共同製作総指揮を務めています。
しばらくはWWEでのレスラーとしての活動も並行して行うようですが、いずれ俳優業一本に絞ってくるのではと思います。
44歳とまだまだ動けますし、これから『ワイルド・スピード』のファミリーに無事入れたようですので、このタイミングでジョン・シナの名前と顔を覚えておきましょう!
R15指定映画のためバイオレンス描写もあります
『ザ・スーサイド・スクワッド“極”悪党、集結』はジェームズ・ガンのサブジャンル映画への愛情をオールスターキャストによるコミックヒーローを主人公にしたことで、広く一般的に受けやすい要素を持った稀有なバランスの映画に仕上がっています。
やっと映画館に大きなハリウッド映画が戻ってきたなかでもひときわ目立つ痛快娯楽映画に仕上がっているといっていいでしょう。
アメリカンコミックを原作にしていますが、その点についてはほとんど予習の必要がなく、過去の映画も追いかけなくても楽しめるのもお薦めポイントの一つです。
ただし、『ザ・スーサイド・スクワッド“極”悪党、集結』はR15指定のバイオレンス描写たっぷりなので、そこだけは注意してくださいね。
(文:村松健太郎)
–{『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』作品情報}–
『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』作品情報
【解説】
ハーレイ・クインほか、DCコミックスに登場する悪役たちがチームを組んで、決死のミッションに挑むアクション。デビッド・エアー監督による「スーサイド・スクワッド」の世界を、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の「ジャームズ・ガン監督が新たに再構築。
【予告編】
【基本情報】
出演:マーゴット・ロビー/イドリス・エルバ/ジョン・シナ/ジョエル・キナマン/ピーター・カパルディ/シルベスター・スタローン/ヴィオラ・デイヴィス
監督:ジェームズ・ガン
映倫:R15+
製作国:アメリカ