『ワイルド・スピード』。
“ワイスピ”という略語もすっかり定着した感のあるカーアクション映画シリーズ。
そのシリーズの最新作にして、シリーズの第9作目の長編作品となる『ワイルド・スピードジェットブレイク』が新型コロナウィルス感染拡大によって繰り返された延期を乗り越えてついに公開されます。
2019年のスピンオフ長編『スーパーコンボ』を含めると長編映画は10本目となり、1作目の公開が2001年ですので20年の歴史の中で10本の長編映画が公開されることになります。
ワイルド・スピード タイトルトリビア
実は、新作ごとに付けられる景気のいいサブタイトルだけでなく、“ワイルド・スピード”というタイトル自体が邦題だというのは、最近ではすっかり知られたトリビアですね。
原題は表記がバラバラなのですが、基本的には『FAST&FURIOUS』です。
“速さ”と“どう猛さ”というような意味ですが、このままでは流石に日本人には通じるわけもなく、配給会社がかなり頭を捻った結果、訳語をさらに英語っぽいモノ置き換えた結果『ワイルド・スピード』となりました。
ちなみに、6作目以降の『EURO MISSION』『SKY MISSION』『ICE BREAK』『スーパーコンボ』『ジェットブレイク』というサブタイトルは本国アメリカでも“言い得て妙”だと言うことで大変好評とのことです。
–{メディアフランチャイズの最新成功例}–
メディアフランチャイズの最新成功例
『ワイルド・スピード』はメディアフランチャイズの近年の成功例の1つと言われています。
日本ではあまり知られていませんが、実は『ワイルド・スピード』は“ファスト・サーガ”とした複数のメディアで物語が描かれています。
ヴィン・ディーゼルが監督した短編映画やテレビシリーズ、ゲーム、ユニバーサルスタジオのアトラクションや、玩具などへと幅広く展開されています。
『ワイルド・スピード』はユニバーサルピクチャーズにとっては最大のフランチャイズとなり、シリーズ全体の興行収入は史上10番目に高い映画シリーズとなっています。シリーズはまだ続くので、この順位はさらに上がってくることでしょう。
21世紀以降で見てみると同じような規模で成功した言えるシリーズモノで10作品以上の長編映画があるのは、いわゆる『アベンジャーズ』系列のMCU=マーベル・シネマティック・ユニバース、同じくマーベルの『X-MEN』シリーズ、『ハリー・ポッター』&『ファンタスティック・ビースト』の魔法ワールド(=ウィザーディング)シリーズくらいしかないので、『ワイルド・スピード』(=ファスト・サーガ)がいかにハイレベルな成功をおさめたかが分かるかと思います。
しかし、20年の歴史の中でシリーズには紆余曲折があり、山あり谷ありなどという表現では足りないほどの出来事が数多く起きていました。
そこで今回は『ワイルド・スピード』の20年史を辿って行きたいと思います。
–{シリーズ開幕も、一人また一人と去っていく}–
シリーズ開幕も、一人また一人と去っていく
2000年に当時売り出し中だった俳優のポール・ウォーカーは『ザ・スカルズ/髑髏の誓い』で組んだロブ・コーエン監督との新作企画を進めます。
ウォーカーのイメージとしては、トム・クルーズのレース映画『デイズ・オブ・サンダー』とジョニー・デップ&アル・パチーノの潜入捜査モノ『フェイク』を掛け合わせたような映画がありました。
これに、アンダーグラウンドで流行してきた(違法の)ストリートレースの話を見つけてきて、企画に取り込むことになりました。その後、形としてはキアヌ・リーヴス&パトリック・スウェッジ主演の銀行強盗をするサーファーグループにFBI捜査官が潜入する『ハートブルー』の地上版的な映画へと方向性が固まりました。
潜入する捜査官ブライアンをポール・ウォーカーが演じる一方で、ストリートレースのキャラクター・ドミニクを演じるカリスマ性のある俳優を探していく中で、SFサスペンス『ピッチブック』のリディック役で輝きを見せていたヴィン・ディーゼルに声がかかります。
ヴィン・ディーゼルは自身のアイデアを「映画に反映させる」を条件に出演を決めます。
これにミシェル・ロドリゲス、ジョーダナ・ブリュースターというその後“ファミリー”と劇中で評される面々が揃います。
そして、2001年に『The Fast and The Furious』として公開されます。
日本では『ワイルド・スピード』というタイトルで公開されましたが、キャストの知名度が低かったり、ストリートレースという文化が日本ではレアなものであったりというということもあって、実はあまりヒットしませんでした。
しかし、本国のアメリカではハッタリの利いた演出と迫力のあるカーレースシーンもあって、1億ドルを超える大ヒットを記録しました。
すぐさま、製作のユニバーサル・ピクチャーズ、続編企画に動き出します。
ところが、ヴィン・ディーゼルと監督のロブ・コーエンはエクストリームスポーツとスパイモノを合わせた新作映画『トリプルX』に移籍してしまい、2003年の『ワイルド・スピードX2』はポール・ウォーカー単独主演作となりました。
2作目にして早くもW主演の一角が欠けるという最初の問題が起きてしまいます。
ちなみに『トリプルX』は興行的には失敗作となり、その後、ラッパー兼俳優のアイス・キューブに主演を変えた『トリプルXネクスト・レベル』が規模を縮小して作られました。『ワイルド・スピード』がV字回復したころに思い出したように、3作目の『トリプルX:再起動』がヴィン・ディーゼル主演で作られています。
そんなわけで、主演を1人欠いた『ワイルド・スピードX2』ですが、アメリカでは前作より若干数字を落したものの1億ドルを超える興行収入を記録してみせました。
ユニバーサルは何とかシリーズを保つために、ヴィン・ディーゼルを再招聘しようとしますが、これが上手くいかず。さらにオリジナルキャストが揃わないことを理由に、ポール・ウォーカーも降板してしまいます。
そこでリブートに近い形で子役出身のルーカス・ブラックを主演に、日本を舞台にした『ワイルド・スピードX3TOKYO DRIFT』が2006年に製作されます。
ラストにヴィン・ディーゼルがカメオ出演するだけでシリーズとしての体裁を保てなくなったこの3作目は、アメリカでも不発に終わり『X2』の半分の興行収入に終わりました。
ちなみに日本人側のヒロインとして北川景子が抜擢されたほか妻夫木聡や千葉真一などが出演。このこともあってか、皮肉にも日本ではシリーズ初の興行収入10億円を突破するスマッシュヒットを記録しました。
時系列的にも、作品の立ち位置的にもちょっと特殊なものになってしまった『X3』ですが、ヴィン・ディーゼルのカメオ出演やその後シリーズを支えるジャスティン・リン監督が初登板したり、人気キャラクターのサン・カン演じるハンが登場するなど、後から見返すとこの特異点的な『X3』には実は“布石”が沢山あったことが分かります。
ちなみに時系列的に作品を並べなおすと、『ワイルド・スピード』『X2』『MAX』『MEGA MAX』『EURO MISSION』『X3TOKYO DRIFT』『SKY MISSION』以下順番どおりという形になり、2作目と3作目の間に4~6作目が入る形になります。サブスク系で一気見をするときには、この順番で見れば、原作のストーリーどおり視聴できます。
まさかのレギュラー復活と豪華キャスト参戦でシリーズV字回復
『ワイルド・スピード』の1作目で、ライジングスターとなったヴィン・ディーゼルとポール・ウォーカーですが、その後ヒット作に恵まれず若干行き詰まってしまいます。
それというわけではないのでしょうが、キャリア復活の起爆剤にするために『ワイルド・スピード』シリーズ復帰を決めます。
ミシェル・ロドリゲスやジョーダナ・ブリュースターも登場した2009年のシリーズ4作目『ワイルド・スピードMAX』は、メインキャストの復活効果もあったのか、全米興行収入は当時のシリーズ最高の数字を叩き出しました。
シリーズモノはよほどのテコ入れがない限り、大抵右肩下がりになっていくものです。しかし、『ワイルド・スピード』は4作目にして立ち上げメンバー復活という、物凄いテコ入れがあり、驚異的なV字回復を見せ、その後のモンスターヒットシリーズへの道を歩み始めました。
2011年のシリーズ5作目『ワイルド・スピードMEGA MAX』からはカーレースの要素を少なめにして、カーチェイスシーンもあるド派手なアクション映画路線に舵を切ります。
ヴィン・ディーゼル演じるドムやポール・ウォーカー演じるブライアンを追う者として、ドゥエイン・ジョンソン演じるホブスが初参加、その後、人気レギュラーキャラクターとなってスピンオフに主演するまでになります。
ただ、ヴィン・ディーゼルとドゥエイン・ジョンソンの間に確執があるようで、ドゥエイン・ジョンソンは“本筋のシリーズにはもう出ない”とも発言しています。
『MEGA MAX』は日米ともにヒット記録を更新、アメリカでは2億ドルを超える大ヒット作となりました。
2013年に公開されたシリーズ6作目『ワイルド・スピードEURO MISSION』は、さらにヒットの数字を伸ばし、日本でも興行収入20億円を突破しました。
敵役のオーウェン・ショウにルーク・エヴァンスがキャスティングされたほか、後に『ワンダーウーマン』で大ブレイクするガル・ガドットも出演しています。
さらにエンドロールでオーウェンの兄のデッカード・ショウとしてジェイソン・ステイサムが登場、ファンを驚かせました。
–{豪華キャスト続々参加でパワーアップも、一転最大の危機}–
豪華キャスト続々参加でパワーアップも、一転最大の危機
ドゥエイン・ジョンソン、そしてジェイソン・ステイサムなど、単独でもヒット作を持つアクションスターが参戦してきた『ワイルド・スピード』シリーズは、いよいよ大ヒットシリーズとしての道を歩み始めまるところでした。
しかし、そこで思いもせぬ悲劇がシリーズを襲います。
シリーズ7作目となる『ワイルド・スピードSKY MISSION』の撮影中に、ポール・ウォーカーが単独事故で急逝してしまいます。
まだ『SKY MISSION』の撮影は半分も残っていました。
この悲劇はキャスト・スタッフ、何より“ワイスピ”ファンの心に暗い影を落とす事態に。
そして、シリーズ存続の最大の危機を迎えることになりました。
前作『EURO MISSION』のラストに登場したジェイソン・ステイサム演じるデッカード・ショウとドミニク、ブライアンらファミリーとの対決を描く骨子こそ残されましたが、ポール・ウォーカーを失ったため、脚本は大幅に書き直しされます。
W主演の一角の喪失で最大の危機を迎えた『SKY MISSION』当初の公開予定日より大幅に遅れて、最終的に2015年に公開されます。
ポール・ウォーカーのこれまでにシリーズでの映像を利用したり、さらにはポールの二人の兄弟(メイクもあるのでしょうがそっくりです)にも出演してもらうなど、あらゆる手段をとって作られた『SKY MISSION』はアメリカで3.5億ドル、日本でも35億円の興行収入を上げるメガヒット作となりました。
ヴィン・ディーゼル、ポール・ウォーカー、ドゥエイン・ジョンソンらレギュラーメンバーに加えて、本格参戦となるジェイソン・ステイサム、『マッハ!!!!!!!』のトニ・ジャー、ベテランのカート・ラッセル、ジャイモン・フンスーなどが登場した『SKY MISSION』は現在のところシリーズ最大のヒット作となっています。
本作のラストシーンでは、ヴィン・ディーゼル演じるドミニクとポール・ウォーカーが演じるブライアンが車を併走。その後、完全に“堅気”に戻ることを決めたブライアンが別の道を走り、それをドミニクが静かに見送るというシーンは、劇中の別れと、実際のポール・ウォーカーとのキャストやスタッフ、ファンとの別れとを重ねることができ、この手のジャンルでは、あまりいい評価を挙げない批評家から絶賛を受けるなど最高の結果を生み出しました。
シリーズの続投と、完結宣言
映画として高い完成度を誇り、さらに急逝したポール・ウォーカーへの別れのメッセージを盛り込んだ『SKY MISSION』は世界的な大成功をもたらしました。
そこで、多くのファンが思ったことが“次があるのか?”という疑問。
多くのファンの言葉を受けて、『MEGA MAX』からプロデューサーとして参加しているヴィン・ディーゼルが8作目を作ることに関心があるとコメントを出しました。さらに“兄弟(ポール・ウォーカー)も生前に8作目はあると言葉を残していて、『SKY MISSION』はポールに捧げる映画になることに対して、8作目はポールの想いを受け継いだ作品になるだろう”と続けて語っています。
そして、2017年『ワイルド・スピードICE BREAK』の公開が発表されます。この『ICE BREAK』からシャーリーズ・セロン演じるサイファーというシリーズを通しての悪役が登場します。
ドゥエイン・ジョンソン演じるホブスに続いて、ジェイソン・ステイサム演じるデッカード・ショウもファミリー側につき、ブライアン=ポール・ウォーカーの穴を埋めました。
『ICE BREAK』の興行収入は全米では『SKY MISSION』を下回ったものの、日本では40億円を突破する大ヒット作となり、日本での“ワイスピ”ファンかなり増え、すっかり大ヒットシリーズとして定着しました。
そして、2019年に初の長編スピンオフ『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』が公開されます。『ICE BREAK』の後を受ける形で、ドゥエイン・ジョンソン演じるホブスとジェイソン・ステイサム演じるデッカード・ショウが主役となり、敵役にイドルス・エルバが登場する娯楽アクションとなりました。
ドゥエイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムはプロデューサーとしても作品に参加するほどの入れ込みようで、日米ともに興行収入も充分合格点を叩き出し、“シリーズの神通力”、“シリーズのブランド力”を感じさせる結果となりました。
スピンオフ企画はこの後もいくつか企画があるとアナウンスされているので、この流れも期待したいところです。特にヴィン・ディーゼルとドゥエイン・ジョンソンの間で、作品を巡って確執がある事実が表面化してしまい、ドゥエイン・ジョンソンが本シリーズへの参加はないとコメントするなど悪い方向に話が進んでしまっているので“ワイスピ”のドゥエイン・ジョンソンを見たい方はこのスピンオフの続編企画に期待するしかないところです。
–{2021年夏、最新作『ジェットブレイク』がついに公開}–
2021年夏、最新作『ジェットブレイク』がついに公開
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『スーパーコンボ』を挟んで、本シリーズ9作目『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』が新型コロナウィルス感染拡大による公開延期を乗り越えて2021年に公開されました。
全米ではコロナ禍以降最大のヒットを記録し、大画面映えするアクション大作への映画ファンの飢えを見事に埋めて見せました。
この『ジェットブレイク』の公開に合わせて、2部作に近い形で2023年の10作目と2024年の11作目が製作され、シリーズが完結することが発表されました。
監督は『X3』『MAX』『MEGA MAX』『EURO MISSION』『ジェットブレイク』とすでにシリーズ5作品を手掛けているジャスティン・リンが務めると併せて発表され、完全な形で完結を迎えることになりそうです。
ドゥエイン・ジョンソンの参加は微妙ですが、同じくレスラー出身でこの夏『ジェットブレイク』、『スーサイド・スクワッド“極”悪党、集結』と大作で大きな役どころ演じることになったジョン・シナ演じるドミニクの弟・ジェイコブの再登場はありそうなので、陣容の面では厚みは変わらないかと思います。
20年という節目を迎え、シリーズの完結も見えてきましたが、まずはこの夏の『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』です。
夏映画のラインナップを見ても洋画の大本命になりそうなので、熱い夏を大いに盛り上げてくれそうです。
(文:村松健太郎)