田中圭、2つの顔を比較する/ブラック VS ホワイト

俳優・映画人コラム


「ナイト・ドクター」(C)フジテレビ

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2021年出演作だけでも映画『哀愁しんでれら』『ヒノマルソウル』『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』、ドラマ「ナイト・ドクター」と引っ張りだこの多忙俳優・田中圭。

2021年末にかけても映画『総理の夫』『そして、バトンは渡された』『劇場版あなたの番です』など待機作が多い。

時折やんちゃなプライベートが垣間見える彼だが、なんだかんだ愛されている。田中圭の演じる役には大別して「ホワイト圭」と「ブラック圭」があると(筆者が勝手に)思っており、本記事ではそれを軸にそれぞれの田中圭の魅力について触れたい。

ブラック圭が見られる『哀愁しんでれら』「ナイト・ドクター」

ドラマ放送後、大人気ゆえに劇場版にもなった名作「おっさんずラブ」での田中圭の名演を覚えている方も多いだろう。ヘタレで、情けなくて、だけど時には熱い気持ちを熱いままにぶつける不器用さに打たれた。

あの演技のテイストをあえて「ホワイト圭」と呼ぶとしたら、2021年公開映画『哀愁しんでれら』ならびに月9ドラマ「ナイト・ドクター」でみられる田中圭の演技は「ブラック圭」と呼びたい。

(C)2021「哀愁しんでれら」製作委員会

『哀愁しんでれら』で田中圭が演じた夫役は、ある意味あっぱれだった。こうもいけ好かない夫、平気な顔で極度のモラハラをやってのける夫は見たことがないと思うほど。

本作は、田中圭と土屋太鳳が夫婦役を演じるサスペンスミステリー。狂気的な夫に少しずつ追い詰められていく妻の様子が鮮やかすぎるほどに表現されている。最初こそ、公私ともに上手くいかず壁にぶつかった土屋太鳳を爽やかに助ける役回りだった田中圭。少しずつグラデーションが濃くなっていくように、様子が変貌していくのだ。

(C)2021「哀愁しんでれら」製作委員会

あの人懐っこい笑顔が記憶に残っているからこそ、「あの笑顔に戻ってほしい」とさらに病的に献身する妻……。世の中のモラハラやDVの構造がわかりやすく描かれているとも取れるかもしれない。

「子どもの将来は、母親の努力によって決まる」といったトンデモ理論を掲げられ、心のどこかで「おかしい」と思いつつも家族を守ろうとしてしまう妻。それを自分が牛耳っている自覚さえもない夫……。本作でのブラック圭がどんな結末を迎えるか、ぜひ直接確かめてほしい。

「ナイト・ドクター」(C)フジテレビ

『哀愁しんでれら』とはまた違うブラック圭が見られるのが、月9ドラマ「ナイト・ドクター」だ。

本作で田中圭が演じるのは、寡黙でストイックな救急医・成瀬。9割以上が仏頂面で、常に声も低い。つっけんどんな田中圭のほうが好みという方にはぜひ見てほしい。2020年に石原さとみ主演で放送されていたドラマ「アンサング・シンデレラ」の瀬野章吾が忘れられない方にも、ぜひおすすめしたい。

個人的には、「おっさんずラブ」のような天真爛漫なキャラクターも好きだけれど、一見冷たいくせに根は人情味溢れる成瀬のようなキャラクターのほうが好きかもしれない。「ナイト・ドクター」では、日中ではなく夜間救急で働くことを選び、患者の命を救うことに全神経をそそぐ医師・成瀬を演じる田中圭(ブラックというよりは、インディゴブルーくらいか……)。

「ナイト・ドクター」(C)フジテレビ

同じく夜間救急医として働くほかの仲間を「自分とは違う存在」として線を引いているところがある彼。あからさまにバカにしたり見下したりはしないものの「俺の仕事の邪魔だけはしてくれるな」と周囲を寄せ付けないオーラを醸している。

田中圭の演技の魅力はここにある。明るいキャラもダークなキャラもどちらも演じられます! と言ってしまえば簡単だが、そこにちゃんと濃淡があるのだ。明暗それぞれの色味の中にも、違った味わいが感じられる。

「この作品のこの田中圭が好き!」と言えるほど、作品ごとに別の田中圭がいる。役者として当たり前なのかもしれないけれど、はっきり形にできている彼のような存在は少ないように思える。

–{ホワイト圭が見られる『総理の夫』『そして、バトンは渡された』}–

ホワイト圭が見られる『総理の夫』『そして、バトンは渡された』

「おっさんずラブ」を彷彿とするホワイト圭が見られるのは、2021年下半期に続々公開される映画『総理の夫』『そして、バトンは渡された』だ。

ここで一度、「ホワイト圭」のなかにも2種類あると定義しておきたい。

「おっさんずラブ」を代表とする、恋愛を主軸に置いた作品では演技に若干のスイートさが混じるため、名付けるなら「スイート圭」。そして『総理の夫』『そして、バトンは渡された』各作品で演じるのは、どちらかといえば甘さよりは“おっちょこちょい“や“天然“な面が強調されたキャラクターだ。あえて名付けるなら「ナチュラル圭」だろうか(天然で不思議ちゃん要素があることを示したい)。

ホワイト圭の中でもナチュラル圭が楽しめるのが、『総理の夫』『そして、バトンは渡された』なのである。

(C)2021「総理の夫」製作委員会

『総理の夫』で演じるのは、女性初の総理大臣となった相馬凛子(演・中谷美紀)の夫・相馬日和。未だかつて誰も経験したことのないファーストジェントルマンになった日和は、ただ「妻が総理大臣になった」だけでガラリと変わる人生に翻弄される。

その大きな波にこれでもかと翻弄される様が面白い。もし自分だったら……と考えると恐ろしいのだが、そこはさすがの田中圭、絶妙にコミカルな味わいにしてくれるので必要以上に悲壮感はない。

次々と総理大臣としての役目をまっとうする凛子に眩しさを感じつつ、日和は彼女を支えながら大きな愛で包み込む。そう、田中圭は愛を表現するのもお家芸だ。あの笑顔で、包容力たっぷりのハグをされたら……多少のことは許して水に流してしまうだろう。

(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

一方『そして、バトンは渡された』で演じるキャラクターは、夫というよりは父親の色が強くなる。高校生の娘・優子(演・永野芽郁)とは血の繋がらない父親である森宮さんを演じる田中圭。彼はこの作品で、一風変わった父親の在り方を示してくれた。血縁関係がないなんて不思議に思えるほど自然な二人のやりとりを見ていると「あ、こういう父親アリなんだ?」と父親像に対するパラダイムシフトが起こるだろう。

「女子高生の娘」と聞くと、やれ反抗期だスマホだSNSだバイトだ部活だ……と日々多忙ながら青春に明け暮れているイメージがわく。父親とは共通の話題が見つからなくなっていき、だんだんと一定の距離が空いていくのが一般的な家庭像かもしれない。

しかし、田中圭演じる森宮さんは違う。

「父親は受験前の娘に夜食を作ってやるものだろう」と持ち前の料理上手を発揮し、深夜にどでかいオムライスを作る。「娘が困ってたら力になってやるものだろう」と優子のピアノ伴奏練習に付き合う。

父親とはこうあるべき、といった持論を展開し、たびたび娘の優子を戸惑わせるも、二人で語り合っている姿に何の違和感もないのだ。血縁関係の有無を意識してしまうと、ちょっとしたすれ違いが大問題に発展しそうなものだが、森宮さんのナチュラルさがそれを上手くかわしている。

森宮さん自身、持論は自分にだけ適用するもので他人に押し付けるものではないと認識しているからこそ、優子を一人の人間として尊重できるのだろう。田中圭が元来持つナチュラルさ、物事に深く頓着しなさそうな様が生きている。

『総理の夫』と『そして、バトンは渡された』の二作、どんな田中圭が待っているか、ぜひ劇場に足を運んでほしい。

–{活躍の場はバラエティ・音楽番組にも!「MUSIC BLOOD」MCに抜擢}–

活躍の場はバラエティ・音楽番組にも!「MUSIC BLOOD」MCに抜擢

「MUSIC BLOOD」(C)日本テレビ

田中圭の活躍の場はドラマや映画のみにあらず、バラエティや音楽番組にも広がっている。

2018年〜2020年まで、ぐるぐるナインティナインの人気コーナー「グルメチキンレース・ゴチになります!」のレギュラーを務めていた。毎週木曜を心待ちにしていた方も多いのではないか。他メンバーと楽しそうにわちゃわちゃしている田中圭は、まさに日頃の素の彼を見せてもらっているようだった。

それゆえ、クビになってしまいレギュラーから外された事実は悲しく胸に迫ったけれど、2021年4月から音楽番組「MUSIC BLOOD」のMCを務めるという朗報が舞い降りる。

この「MUSIC BLOOD」は、俳優の田中圭と千葉雄大がMCを務める音楽番組。毎回ゲストを招き、活動の原点となった経験や尊敬するアーティストについて深掘りしていく内容だ。例えるなら「A-Studio」の音楽版とも言えるだろうか。若者を中心に話題を呼んでいるアーティストがゲストに選ばれることが多い。リラックスしたトークが展開されつつも、合間に楽曲の披露があり視聴者を飽きさせない工夫がされている。

2021年7月31日放送回のゲストは、人気急上昇中の音楽グループ「Da-iCE」。この回では、Da-iCEの面々が尊敬するアーティストとして、三浦大知やAAAの名前が挙げられている。

「三浦大知さんの先見の明はすごい、世界的に有名なダンサーたちとすでに対等に踊れている」

熱弁するDa-iCEのメンバーを前に「アベンジャーズみたいな感じ、全員超強いみたいな!」とコメントする田中圭。背伸びせず、視聴者と同じ目線で、思ったことを素直に伝える人柄が絶妙にこの番組にマッチしている。金曜夜の新たな楽しみとして確立しそうだ。

今後どこまで活躍の幅を広げ続けるのか。田中圭はさまざまな意味で目が離せない存在だ。

(文:北村有)

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