2021年10月に、鈴木拡樹、荒牧慶彦のW主演で舞台化されることが発表され、改めて注目を集めている「バクマン。」
映画化、舞台化、アニメ化、ハリウッドリメイクなど展開を見せ、一大大ヒットタイトルとなった「デスノート」の原作・大場つぐみ、漫画・小畑健のコンビが、その次に選んだのは週刊少年ジャンプで売れっ子漫画家を目指す二人の高校生コンビの話「バクマン。」でした。
原作バクマンの凄さ!!
「デスノート」でも特徴となっていたロジカルでテクニカルな論法を展開しながら、ジャンプを代表する人気漫画家となっていく漫画界の内幕を描いた「バクマン。」は大ヒット作となり、3シーズンに渡ってアニメ化もされました。
この“ジャンプ内ジャンプモノ” “超メタフィクションモノ”な作品を週刊少年ジャンプ誌上で連載、しかもコミックス20巻の長期連載作品として成り立たせるというのだから、「バクマン。」という作品はものすごく実験的で、挑戦的な作品だったと言えます。
映画も大ヒット!!
そんな「バクマン。」が実写映画化されたのは2015年。その前年の『るろうに剣心 京都大火編』『伝説の最期編』で火花を散らした佐藤健と神木隆之介が、主人公である高校生漫画家コンビの真城最高(サイコー)と高木秋人(シュージン)を演じました。
監督は2011年に初監督作品『モテキ』を大ヒットさせ、コミックの映像化に成功した大根仁監督。『バクマン。』では脚本も担当しています。
劇中の音楽と主題歌「新宝島」をサカナクションが担当したことも話題になりました。
最終的に、映画『バクマン。』は17.6億円の興行収入というスマッシュヒットを記録しています。
主演の佐藤健、神木隆之介の二人に加えて、ライバルの天才漫画家・新妻エイジを染谷将太が演じたほか、ヒロインに小松菜奈、ライバルとして切磋琢磨していく漫画家たちに桐谷健太、新井浩文、皆川猿時。さらに、サイコーの叔父に宮藤官九郎、編集者役に山田孝之、リリー・フランキーと言った一癖も二癖もある豪華キャストが揃っています。
『バクマン。』漫画家コンビが主役の物語ですが、要所を抑える編集者役の山田孝之、リリー・フランキーの好演もあって、ハイテンションな映画であるとともに、実に堅実な“お仕事映画” “職業映画”としても観ることができます。
–{重要なエッセンスだけを見事に抽出した大胆な脚色}–
重要なエッセンスだけを見事に抽出した大胆な脚色
原作の「バクマン。」は中学3年生から始まり20代前半までの数年間に渡る物語になっていますが、映画の『バクマン。』は高校生活の中の一年間の物語にギュッと凝縮しました。
また、大根監督は物語をぎゅっと絞るために女性キャラクターを小松菜奈が演じる亜豆美保一人に絞り、その他の原作に登場する女性キャラクターをバッサリとカットする大胆な脚色です。
亜豆には、真城最高が漫画を描き始めることを決心させる重要な役どころだけを担わせて、その後の出番は非常に短いものにまとめています。
原作では恋愛相手になるもう一人のヒロインや、ライバル、競争相手となる女性キャラクターも多数登場し、その周辺のエピソードが厚く語られることもあるのですが、映画ではバッサリとカットされています。
物語の時間を一年間に限定したことと、ヒロインパート=恋愛要素を最小限にしたことで、映画『バクマン。』は“漫画の凄さ”を“漫画が好きだ”という初期騒動的な部分が純化され濃厚に描くことに成功した一作と言えます。
また、男性キャラクターを中心にしたことで、一種のバディムービー、ブロマンス映画に仕上がっているのも面白い点です。
この辺りは藤子不二雄の「まんが道」にも通じる、互いないものを埋め合いながらも一つのものを創り上げていく展開は熱いものがあります。
–{あっと驚く執筆アクションシーン}–
あっと驚く執筆アクションシーン
映画『バクマン。』の中でも、映画らしい、映像らしい部分を堪能できるのが主人公とライバルたちが原稿を執筆するシーンです。
ここではプロジェクションマッピングとワイヤーワークをふんだんに取り込んだものになっていて、下手なアクション映画よりもアクティブなアクションシーンが続きます。
基本的な執筆シーンもあるのですが、アンケートの人気投票が大きな作用をもたらす、漫画により人気争い、ライバルとの競合するシーンではこのアクション演出がふんだんに用いられており、見ている側のテンションが上がります。
また、執筆アクションシーンを盛り上げるサカナクションの映画音楽も、大いに盛り上げてくれています。
アシスタントが不在であったり、執筆シーンのカリカチュアさが極端であり、そこにリアリティがないという批判もありましたが、漫画家の情熱・初期衝動をファンタジー的な(映画的な)手法を大胆に取り入れて描いていると言えます。
–{コミックスの実写映画化の一つの成功点!!}–
コミックスの実写映画化の一つの成功点!!
人気&ベストセラーコミックスの実写映画化は長年続く邦画のジャンルの一つと言えますが、ビジュアルを原作に寄せることに執心して、ストーリーや原作のスピリットの部分を映画に焼き付けることがおろそかになっている作品が少なくありません。
そんな中で映画『バクマン。』は見事な取捨選択と削ぎ落としによって、原作が一番語りたかった核となる部分だけを見事に抽出した、非常に稀な例と言えます。
原作が20巻もあるうえに、この作者コンビと言うこともあって一つの描写、一つのエピソードにものすごい量の情報量が込められていて、簡単に読破できないのが難点ですが、是非とも原作を読破したうえで映画を見直して、「見事なまでの映画化」を実感していただければと思います。
–{秀逸なオープニングとエンドロール}–
秀逸なオープニングとエンドロール
物語のスタートに週刊少年ジャンプの説明が簡潔にリズムよく・テンポよく描かるのですが、この簡潔な描写は週刊少年ジャンプを知らない人たちに向けても、見事なリード文となっています。
そして、映画の最後を飾る『バクマン。』エンドロール。ジャンプ愛に溢れた見事なものになっていて、非常に遊び心の溢れる作りになっています。
物語が終わったところでスキップしたり、早送りしたりする人もいらっしゃるでしょうが、はっきり言ってこのエンドロールの芸の細かさは必見です。
最後の最後まで実の詰まった映画となっています。
(文:村松健太郎)
–{『バクマン。』作品情報}–
『バクマン。』作品情報
ストーリー
“俺たち2人で漫画家になって、ジャンプで一番目指そうぜ!”2人の高校生が抱いた壮大な夢。優れた絵の才能を持つ“サイコー”こと真城最高(佐藤健)と、巧みな物語を書く“シュージン”こと高木秋人(神木隆之介)。クラスメイトの亜豆美保(小松菜奈)への恋心をきっかけにコンビを組んだ2人は、人気漫画雑誌、週刊少年ジャンプの頂点を目指す。編集者・服部(山田孝之)に見出され、次々に漫画を生み出してゆくた最高と秋人。そうして2人は、ジャンプ編集部や新進気鋭のライバルたちとしのぎを削ることになる。しかし2人の前に立ちはだかるのは、同じ高校生漫画家として遥か先を走り始めた若き天才漫画家・新妻エイジ(染谷将太)。果たして2人は、ジャンプの頂点に立つことができるのか?!
基本情報
出演:佐藤健/神木隆之介/染谷将太/小松菜奈/桐谷健太/新井浩文/皆川猿時/宮藤官九郎/山田孝之/リリー・フランキー ほか
監督:大根仁
原作:大場つぐみ/小畑健
公開日:2015年10月3日(土)
製作国:日本