「スーパーヒーロー戦記」白倉プロデューサーに篠宮暁が直撃!「一人ひとりに1年間主役を務められてきた重みがある」

INTERVIEW

■オジンオズボーン・篠宮暁の“特撮”向上委員会

7月22日より公開中の映画『セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記』。仮面ライダー50周年、スーパー戦隊45作品記念のWアニバーサリー記念作品を銘打った今作の立役者である白倉伸一郎プロデューサーに、オジンオズボーン・篠宮暁さんが特撮ファンの視点でインタビュー!

本作の制作の裏側やこだわっていることなど、映画を観てから読むことで、制作陣の思いをさらに感じることができる内容になっています。

 
篠宮 せっかくの機会なので、『機界戦隊ゼンカイジャー』のお話から聞かせていただきたいです。白倉さんは、放映前のインタビューで「巨大戦を流れでやるんじゃなくて、ちゃんと意味をもって勝たせたい」といったことを言われていましたが、巨大戦もそうですし、オープニングとか名乗りとかも毎回違う演出されていますよね。毎回目が離せないんですが、その辺は最初から想定内だったんですか?
 
白倉 いえ。うまくいったところもあるし、いってないところもあります。ただ、スーパー戦隊って、お決まりのフォーマットが強いイメージがあって。従来のオープニングやエンディングもそうだし、さらに変身や名乗りのバンク(流用シーン)のような、お決まりのブロックがあるじゃないですか。

お決まりだからこそ非常に丁寧に作るんだけど、見慣れてくると、ありものを並べてるように視聴者は感じてしまう。今はああいうものをなるべく使わないやり方もあるのかもしれないですけど、とにかく、どういう形であれ制作側が全力全開で視聴者を楽しませようとしている、という気持ちが伝わればいいわけですよね。

その表現が、変則名乗りだったり、オープニングを少し変えることだったり。「はい、コピーして終わり」じゃなくて、今回はこうしたらいいんじゃないか、と毎回考えていますね。
 

篠宮 ジュランとガオーンが合体するときも、両声優さんが毎回違うことを言っていて、あれもなんか見逃せない感じで。
 
白倉 雑談とかですよね。あれは、声優さんが勝手にやっていて(笑)。
 
篠宮 そうなんだ! 浅沼晋太郎さんと梶裕貴さんが。あれ、2回、3回聞き直さないと駄目なんです。ちゃんと聞いちゃうんですよね、繰り返し。

白倉 ボソッと言うんです、わざとね。なんであんな小声なのか、というのは、距離が近いからなんです(笑)。
 
篠宮 はははは! なるほど(笑)! 『機界戦隊ゼンカイジャー』を見ていると脳の奥がくすぐられるというか、昔の記憶がわーっとよみがえる感じがかなりあるんですよ。例えば、戦艦のクロコダイオーが暗雲の中から出てくるところだったり、バトルシーザーロボが直立不動で飛んでくるとこだったり、昔の特撮のいいシーンを取り入れようとされてるんですか?
 
白倉 それはちょっと意識してます。でも、昔風にしたいっていうよりかは、例えば暗雲でいえば、母艦っていうと暗雲から出てくるものだったんですよ。今はああいうことはやらないですけど。なんでかっていうと、どうして毎回暗雲なわけ?っていう理屈の方が先に立っちゃう。今は、それはおかしいっていう理屈の方を優先させるんだけど、昔の人たちは、勢いがあって、理屈もへったくれもなく、縮尺は……とか細かいこと言わず、かっこいい方を選んでた気がするんですよね。その感覚をもう一回取り戻したい。理屈に合わなくても、あれはあれでよかったよねっていうのを、せっかくこういう作品なのであえてやってみる、ということかな。
 

篠宮 あと、五色田ヤツデを演じる榊(正しくは木へんに神)原郁恵さんの画面から伝わる魅力がすごいなと毎回思うんですが、白倉さんから見て、ヤッちゃんはいかがですか。
 
白倉 本当にやっぱりすごい方ですよね。現場でも現場でなくても、ずっと榊原郁恵なんです。郁恵さんの現場っていうのは、郁恵さん色に染まっていて。よく、楽しい現場だっておっしゃってくれるんですけど、違うんですよ。郁恵さんが楽しくしてるんです!

篠宮 へー、すごい。会見で榊原さんが出演されるって発表されたとき、「なんかスーパー戦隊とめっちゃ合う!」と感じた方もかなり多かったと思います。
 
白倉 駄菓子屋なのはまぁいいとして、キカイノイドが4人も居候するし、孫の介人は全力全開天然な人だし。すごく特殊なよくわからないシチュエーションなのに、なにがあっても動じない強さっていうのを持っている。その強さは、もちろんヤツデっていう架空のキャラクターの中にあるんでしょうけど、でも実際には榊原郁恵という方から滲み出てくるんです。あんな人なかなかいないですよ。ピーター・パンですからね(笑)。
 
篠宮 初代ピーター・パンですもんね。作品が盛り上がっている要因の一つに、ヤッちゃんの力もあるんですかね。
 
白倉 そうですね。はっちゃかめっちゃか、やりたいことをやっているように見えて、一応色々なことを計算したり、バランスをとりながら……それは主に脚本の香村純子さんがやってるんですけど。とにかく、介人を始めとするゼンカイジャー連中がはっちゃけていられるのが、家にヤツデっていう重しがいてくれるからなんですよ。バカなことをして帰ってきたらヤツデさんがいて怒られる、っていうサイクルがあるから、ゼンカイジャーはゼンカイジャーでいられるんですよね。

榊原さんご自身ははっちゃけタイプで、変身もしたいって毎っ回、おっしゃってるいるんですが……。でも、榊原さんまで訳の分からない勢に入ってしまうと、ちょっと全体が崩壊してしまうので。

篠宮 作品を締めてくれてるんですね。では、『セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記』のお話もうかがわせていただきたいと思います。

試写で拝見しましたが、かなり白倉さん節が効いていて、むちゃくちゃ面白かったです! 例年、夏映画はスーパー戦隊・仮面ライダーそれぞれの単体作品でしたが、今回合作となったのはどういった経緯でしょうか?

白倉 最初は、昨年やるはずだった『仮面ライダーゼロワン』の夏の劇場版がコロナ禍でできなかったことからの玉突き事故ですね。ただ、もう一つ、“仮面ライダー50周年”が4月からスタートして、2023年に公開される『シン・仮面ライダー』まで50周年と言い続けるっていう、この長い長いストロークのトップバッターが必要だということがありました。

コロナ禍の影響で恒例映画が変則的になったタイミングで『仮面ライダーセイバー』単独というのはどうなのかということと、50周年イヤーのこけら落としということを合わせると、この形が1番ではないのか、と。決めたのが土壇場だったので、現場ではとても苦労をかけてしまいましたが。

篠宮 『機界戦隊ゼンカイジャー』より『仮面ライダーセイバー』の方が少し比重重めでしたよね。

白倉 基本は『仮面ライダーセイバー』のお話の中に、ゼンカイジャーが入ってくる作りにしてますね。特に筋を通さなきゃいけないって思ったのは、小説家である『仮面ライダーセイバー』の主人公・神山飛羽真は、作家の視点でとして物事を見ているはず、というところ。それに、「物語の結末は俺が決める」と毎回言っているでしょう。この『仮面ライダーセイバー』という世界は我々からみればフィクションだけど、その登場人物の神山飛羽真にとっては現実である敵との戦いを、小説家としてどんな思いで物語としてとらえているのか。また、現実と物語の関係性を、飛羽真自身がどう思っているのか、っていうことを考えたわけです。

特に『仮面ライダー』には、シリーズの大元を作られた石ノ森章太郎先生という原作者がいらっしゃる。にもかかわらず、飛羽真は小説家として、下手すると『仮面ライダーセイバー』という物語を俺が牛耳っている、というつもりでいるかもしれない。「小説家気取りの君は、原作者に対してどう向き合うのか」を、この50周年のタイミングで答えていただきたい、というのが大きなテーマです。そして、『仮面ライダーセイバー』もやっぱり物語の一つだっていうところに、飛羽真自身がどう関わるのか、という映画ですね。

–{白倉プロデューサーが語る、アニバーサリー作品のあり方}–

篠宮 『劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer』や『仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』のように、現実世界も絡めていくところに白倉さんらしさを感じるのですが。
 
白倉 いや、そうでもないんですよ。アニバーサリーを銘打ったときは、どうしたって劇中の外の出来事を扱わないわけにはいかないんです。仮面ライダーたちがレジェンドなのは、現実世界の話じゃないですか。現実世界から見たらシリーズを立て続けにやってるように見えるけれど、仮面ライダーが放送されていない世界にいる登場人物たちにとってはそうじゃないわけだから。

篠宮 この作り方は、どの辺からですか? 『オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー』のときも、「もしも仮面ライダーがいなかったら…」みたいなお話でしたよね。

白倉 そうですね。あれは40周年ということで。40周年とはなんなのか、40周年ってどういう表現をしたらいいのかというのを考えたんですが、それは毎回同じですね。平成20作とは、いったい何を意味するのか、という話で。

映画の内容が白紙な状態で、宣伝担当が特報だとかを作るんですよ。『仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』のときは、「時代が終わる。すべてがはじまる。」というコピーがついて。それを壁に貼って、これは一体どういう意味なんだろうって考えるところからでしたね。

篠宮 はははは! そこから作るんですか?
 
白倉 何が終わって、何が始まるんだろう? 時代っていうのは、すべてっていうのは、一体なんだ?っていう。そこに嘘をついてないような作品にしなきゃいけない、と。今回もそこですかね。仮面ライダー50周年、スーパー戦隊45作品記念というのを壁に貼って。これはどういう意味なんだって。

篠宮 なるほど。現実世界を取り入れないことには、やっぱり嘘になっちゃう、みたいな。

白倉 アニバーサリーもお祝いだというけれど、誰にとってのお祝いなのって。映画やテレビで独りよがりに祝うんじゃなくて、お客さんにとっての周年っていうのは一体何なんだろう、というのを意識して、ちゃんとお客さんにとってのお祝いになっていないといけないと思ってるんですよね。

なので、すごくわかりやすくお客さんそのものの視点を取り入れてるわけですけど、現実を描きたいわけじゃなくて、お客さんが現実にいるっていうことのほうを大事にしたいんですね。

篠宮 鈴木福さんの役に、白倉さんはじめ、いろんなスタッフさんの愛情とかリスペクトとかが、ぐっと込められていると思うんですが、そのあたりはどのように作り上げましたか?
 
白倉 やっぱり周年という話になるんですけど、50周年記念も、1号からもう50年経ちましたっていうこと。つまり、全部過去形にしちゃうっていうことでもあるんですよ。そうじゃなく、未来形で向き合うってことができないのか、というところですね。『仮面ライダー』や『秘密戦隊ゴレンジャー』が始まる前に立会うことができたら一番いいかな、っていうところからの若き石ノ森章太郎という発想だったんですよ。

普通、『石ノ森章太郎伝』みたいなものの中に結果的に生まれてきた仮面ライダーの作品が入ってくるわけですけど。逆に『仮面ライダー』という作品の方に原作者が出てくるっていうのはちょっと、本末転倒な気もするけれど、そうすることで鈴木福くんが演じた役の視点からすると、未来形のものとして『仮面ライダー』や『スーパー戦隊』が描けるし、それが我々から見ると周年、始まりというものを振り返ることができる。石ノ森章太郎先生を始めとする当時の制作者にとっては、それは現在形であり、未来系だったんだっていう、そういう視点を観客側にできないかなと。

評論家じみた感じで、過去の作品として考えちゃったり取り扱っちゃったりしちゃうジレンマはあるんですけど。 それは仕方がないものの、当時、『仮面ライダー』を作った人たちは、50年続くシリーズの1作目だって思ってやっていない。ところが、シリーズ化されていくといつのまにか、長い歴史の中の新しい1ページを作る、っていう感覚にどんどんなってくるじゃないですか。これは我々自身に対する反省でもあるけど、そういうことも踏まえられないかなぁ、と。いろんな思惑が入り乱れつつ、無理やりまとめると多少破綻もあるけれど、詰め込めるだけ詰め込んだっていう感じですよね。

篠宮 今作もですが、アニバーサリー作品になると田﨑竜太監督がきっちり締めてくれるという印象があるんですが、信頼されてる部分が大いにあったりするんですか?
 
白倉 田﨑監督はものすごくクレバーというか、理知的な人でもあり、ノリもあり、チャレンジ精神もあり。何でもできるんですよね。変な人ですけど、彼と組めばどこまででもいけるっていう感覚がありますね。それは、他の監督では行かないって意味ではないですけど。

篠宮 たくさんのシリーズを撮ってきて、ヒーローを知っているってことも大きいんですかね。

白倉 それは大きいですよね。アニバーサリーの意味合いを田﨑監督は自分の肉体を持って知っている。大集合って、どうしてもかつての主役だった人たちを十把一絡げに集めたっていう感じになってしまう。でも、その一人ひとりに1年間主役を務められてきた重みがあるんだっていうことが、身に沁みていらっしゃいますよね。何十人いても、全員が主役なんだっていう意識で描かれてますから。これは非常に大切なことです。

–{イマジンたちは「自己中の割には、環境適応能力高い」}–

篠宮 今回も『仮面ライダー電王』のイマジンが出たり、あとデンライナーのオーナー役の石丸謙二郎さんも出ていますけど、白倉さん的に『仮面ライダー電王』のキャラクターへの思い入れがかなりあったりするんでしょうか?

白倉 思い入れがあるというか……なんでしょうね。割とずっとそこにいるような気がしてるので。都合よく使っちゃいけないんですけどね。特殊ですよね、イマジンたちのあの感じは。
 
篠宮 そうですね。シリーズからまた14年ぐらい経ちますけど、全然色褪せないというか。登場したら、こっちも普通にテンション上がるし。

白倉 イマジン連中って何がいいんだろうなって考えると、多分、みんなろくでもないんですよ。地球の平和とか人類の自由とか、そういう高尚なことを考えていない、基本何も考えてないってところがいいんでしょうね。
 
篠宮 それが、どの作品にもマッチするというか。
 
白倉 自己中の割には、環境適応能力高いんですよね(笑)。どこでも生きていけるっていう感じですかね。
 
篠宮 ちょっと聞いた話で、『機界戦隊ゼンカイジャー』の打ち合わせのときに、突飛な発想をすることを、ゼンカイ脳で考えるみたいに言うとか。今回もやっぱりゼンカイ脳だったんですか?
 

白倉 いや、そんなことないですよ。田﨑監督も『機界戦隊ゼンカイジャー』経験者なので、というか、ゼンカイ脳って言い出したのが田﨑監督で(笑)。まぁ、悪い意味で使っているんですけどね。普通にやったらこうだけど、普通にやらないっていうのがゼンカイ脳っていう話で。

篠宮 はははは!

白倉 今作はなるべくゼンカイ脳を封印して。あくまでも『仮面ライダーセイバー』を軸とした、Wアニバーサリー映画なんだ、と意識を頑張って切り替えてやってます。
 
篠宮 物語をきっちり昇華させていく、みたいな感じだったんですね。ありがとうございました!

(撮影:井嶋輝文、取材:篠宮暁、文:大谷和美)

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