夏休みにも入り、アニメ作品、特撮作品などが2021年7月22日から続々と映画が公開されます。
本記事では、公開される作品を順番に紹介しながら、その中でもライターオススメの厳選5作品をコラムにてお届けしていきます。
『犬部!』
動物保護問題の実態に苦悩しつつ対峙し続ける若者たちを描いた青春群像劇
捨て犬や捨て猫を救うために現役の獣医科大学生たちが立ち上げた実在の学生ボランティア団体「犬部」(現在の名称は「北里しっぽの会」)をモチーフにした作品ということで、いわゆる“感動”映画を思い起こしてしまう方は多いかもしれません。
しかし、本作はそれらとは一線を画しており、真に描かれているのは可愛い動物たちとの麗しい交流などではなく、殺処分など人間の都合によって動物がいかに虐待され続けているかという実態であり、動物好きだからこそそれらを目の当たりにして心痛める人々の葛藤を描いた青春集団劇としても屹立しているのです。
犬好きにもほどがある花井(林遣都)と、不幸な動物を少しでも減らそうといばらの道を歩む柴崎(中川大志)、性格が全く異なる二人を主軸に、現在と過去を交錯させながら映画的な膨らみを与える真摯な演出を施す篠原哲雄監督の手腕も堅実。
林、中川、さらにその仲間となる大原櫻子と浅香航大も含めて若手キャストが皆好演。助演では花井の病院の看護師を演じる安藤玉惠の安定した存在感も印象的です。
主舞台となる青森県十和田市の美しい自然の「緑」をさりげなくも際立たせていく映像センスも見る側の心を浄化させてくれるものがありました。
動物好きはもちろんのこと、むしろ動物が苦手な人たちにこそ見ていただきたい映画です。
●2021年7月22日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
配給:KADOKAWA
監督:篠原哲雄
出演:林遣都、中川大志、大原櫻子、浅香航大
–{2作品目は…}–
『復讐者たち』
ホロコーストを生きのびたユダヤ人たちによるドイツ人虐殺計画の恐るべき全貌!
1945年、ホロコーストを生きのびたユダヤ人によるドイツへの壮絶な復讐計画“プランA”の全貌を描いた衝撃作。
妻子をナチスに殺された主人公・マックス(アウグスト・ディール)は、ナチス残党を密かに処刑していく「ユダヤ人旅団」と行動を共にし、さらには旅団の命を受けて過激な報復活動を行うユダヤ人別組織「ナカム」に潜入し、そこで彼らが準備を進める恐るべき計画を知ることになります。
「ナカム」はナチスのみならずドイツ人全体を敵とみなし、まさに「目には目を」とでもいった形でおぞましき復讐を敢行しようとしているのですが、少しでもホロコーストの実態などを映画や本でかじった事のある方ならば、事の是非はともかくとしてそういった復讐心をユダヤ人が抱いてしまう瞬間があることは理解できるのではないでしょうか。
こちらも改めて目を見張らされたのは、戦後のドイツ人にユダヤ人への蔑視の目線を向ける輩が一定数いたという事実を隠してないところで、実は同じ敗戦国である日本と似たようなことが当然のように行われていた事実に痛感させられます。
やはりホロコーストはナチスだけではなくドイツ人全体の問題として見据えていくべきであり、そうしないと憎しみの連鎖を断ち切ることはできないという本作の隠れたメッセージは、日本人もまた重く受け止めなければならないでしょう。
ナチスの非道をモチーフにした作品には進んで出演し続けるアウグスト・ディールですが、『名もなき生涯』(19)ではナチスへの兵役を拒否し続ける聖人的キャラを好演していたのと一転して今回は復讐の鬼という、凄みのある豹変ぶりにも圧倒されました。
クライマックスからラストにかけての処理に関してだけ、個人的にはちょっといかがなものかと思わせるものが無きにしも非ずでしたが、ドロン・パズ&ヨアヴ・パズの監督コンビがイスラエル出身と知るに至り、そうしないと気がすまないところもあったのだろうと、そしてこの問題はあまりにも根深すぎるものであると、改めて忸怩たる想いに捉われてしまいました。
●2021年7月23日よりヒューマントラスト有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
配給:アルバトロス・フィルム
監督:ドロン・パズ、ヨアヴ・パズ
出演:アウグスト・ディール、シルヴィア・フークス
–{3作品目は…}–
『親愛なる君へ』
性も世代も越えてパートナーの家族を護ろうとする青年の悲劇と、血の繋がりを越えた絆
台湾アカデミー賞(金馬奨)で最優秀主演男優賞(モー・ズーイー)、最優秀助演女優賞(ヤオ・チェンヤオ)、最優秀音楽賞を受賞した話題作。
ここでも扱われているモチーフはLGBTQ+に対する周囲の偏見や差別がもたらす悲劇です。
主人公の青年ジエンイー(モー・ズーイー)は今は亡き同性パートナー、ワン・リーウェ(ジャック・ヤオ)の母シウユー(ヤオ・チェンヤオ)と、パートナーの子どもヨウユー(バイ・ルンイン)の面倒を見ながら同居していますが、シウユーの急死に伴う家の権利を巡って、ジエンイーが彼女の死に何らかの関与があったのではないかと警察に疑われていきます。
作劇的に上手く作られていると唸らされるのは(それはドラマそのものの展開として、とてもつらいことでもあるのですが)、主人公がどんどん追い詰められていくサスペンスの素材の多くが、皮肉にも彼および周囲の人々の善意によってもたらされてしまうところで、その意味ではチェン・ヨウジエ監督自身による脚本の良さも特筆しておきたいところ。
自分が愛した人の家族までも愛そうとすることで、愛した人そのものへの想いを繋ぎ止めていこうとする主人公をモー・ズーイーが真摯に演じており、特にワンとの回想シーンや、ヨウユーに「もうひとりのパパ」としてふれあっていく繊細な交流シーンの数々は胸を締め付けられること必至。
同時にやはり台湾では“国民のおばあちゃん”の異名をとるチェン・シューファンの存在感にも圧倒されることでしょう。
性も世代も血縁の有無も、ひいては民族の違いまでも超越したところでの差別も偏見もなき「家族」の成立を願ってやまない、作り手の想いがひしひしと伝わってくる秀作です。
●2021年7月23日よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開
配給:エスピーオー、フィルモット
監督:チャン・ヨウジエ
出演:モー・ズーイー、ヤオ・チェンヤオ、チェン・シューファン
–{4作品目は…}–
『かば』
1985年の大阪西成・中学教師「かば先生」と生徒たちのガチンコ交流記!
何とも珍妙なタイトルではありますが、これは本作の主人公である蒲益男先生(山中アラタ)のあだ名であり、舞台となる1985年の大阪・西成区に実在した中学教師(2010年に58歳で死去)として、生き方を模索する多くの生徒たちの成長にガチンコで尽力した「かば先生」の熱くさわやか、時に切ない奮闘を描いたものです。
西成区は被差別部落が隣接する区域で、一方ではバブル景気真っ盛りの1980年代半ばとのギャップの中、出自や偏見に伴う校内暴力やすさんだ家庭環境などさざまな問題が噴出していた状況下で、かば先生は荒くれた連中も含めてひとりひとりの生徒と向き合っていきます。
見る前はいわゆるノスタルジックな金八先生的な作品かと思っていましたが、21世紀に入ってなお混迷し続ける現代において、当時の教師たちと生徒の関係性から今の時代を今一度見つめ直してみたいという川本貴弘監督の意欲が、熱さこそあれ暑苦しくなく伝わってきます。
個人的に関西地域に住んだことはありませんが、1980年代の学校なり社会なりをそれなりに肌で体感していた世代としましては、郷愁こそあれ「昔は良かった」的な粋に陥ることのない演出姿勢に大いに共感できるものがありました。
主演の山中アラタに全く大人側からの押しつけがましさがないのは、この映画の大きな美徳のひとつで、新米教師役の折目真穂がどんどんガラッパチになっていくあたりも定番とはいえ痛快でした。
1980年代の再現という点でも、比較するのは失礼かなと思いつつ、予算が潤沢だったと伝えられる「全裸監督」よりもずっと当時の(華やかな光が濃いと、その分影も濃い)空気感が醸し出されているように思えました。
もっとも、当時のこうした教師と生徒との立場を越えた人間同士のつきあいというものが、それこそコロナ禍も相まってなおさら人と人との直接的繋がりが希薄になっている今の若い世代にどう映えて受け止められるのか、正直なところロートルのこちらには想像できないところもあります。
ただし、現実にリアルな今を生きる彼ら彼女らが、こういった作品を見て賛でも否でも何らかの心の触発を受けることが出来るのであれば、本作の存在意義は大いにあるのではないかとも思えてなりません。
その意味でも、現役中高生の感想をぜひ聞いてみたい作品です。
●2021年7月24日より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
製作:映画「かば」制作委員会
監督:川本貴弘
出演:山中アラタ、折目真穂、木村知貴、さくら若菜、近藤里奈
–{最後の作品は…}–
『夕霧花園』
阿部寛出演!マレーシアを舞台に戦争と愛の歴史が妖艶に交錯する国際ミステリ大作
台湾映画界の名手トム・リン監督と台湾・香港スターのリー・シンジエ&シルヴィア・チャン、日本を代表する阿部寛、さらにはジュリアン・サンズまで出演という国際的布陣でお届けする、マレーシア産のミステリアスな歴史ラブストーリー。
日本軍がマレーシアを占領していた第二次世界大戦時と、戦後間もない1950年代の争乱、そして1980年代という三つの時代を交錯させながら、戦争と時代に翻弄された人々の愛憎が大河ドラマのごとく奏でられていきます。
阿部寛は戦中戦後とマレーシアのキャメロンハイランドに住み続ける日本皇室庭師・中村の役で、日本庭園を愛した亡き妹の夢を受け継ぎ、憎むべき日本人の彼に造園技術を教わろうとするユンリン役がリー・シンジエ。
そして1980年代のユンリンに名優シルヴィア・チャンが扮していますが、彼女は中村が実は戦時中日本軍のスパイだったのではないかという疑惑の解明に乗り出しながら、ふたつの時代の過去が描かれていきます。
本作では日本軍がマレーシアの人々に対して行った非道と日本文化へのリスペクトという相反する要素に、あの「山下財宝」伝説までドラマに組み込んでいくことで、戦争と歴史の悲劇をベースにしたミステリーとジャパネスクな妖艶美の融合を幻想的に描いていきます。
劇中、良くも悪くも日本文化の究極といえる事象がエキゾチックに展開されていくあたりは日本人側としてちょっとこそばゆいところもありますが、総じてバランスは取れているほうではあるでしょう。
1950年代、再びイギリスの植民地統治下に置かれたマレーシアでの熾烈なゲリラ紛争も巧みにドラマに盛り込まれています。
『ライアンの娘』『インドへの道』の巨匠デヴィッド・リーン監督が嫉妬してしまいそうな国際スケール豊かなラブ・ストーリー大作が、アジア人の連帯によってなし得ていることにも感銘を受けてしまいました。
そしてもちろん阿部寛も謎の庭師を好演しています!
●2021年7月24日よりユーロスペースほか全国順次公開
配給:太秦
監督:トム・リン
出演:リー・シンジエ、阿部寛、シルヴィア・チャン、ジュリアン・サンズ
(文:増當竜也)
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