『竜とそばかすの姫』細田守監督最新作が公開3日で興行収入8.9憶円を突破!

映画コラム

『竜とそばかすの姫』の画像ギャラリーへ

【関連記事】『竜とそばかすの姫』レビュー:仮想空間の細田守版『美女と野獣』から導かれる現代少女のリアル

2021年夏の映画興行の大本命ともいえる細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』がついに公開されました。

『サマーウォーズ』以来のインターネットを題材にした本作が話題になっています。

ボイスキャストにミュージシャンの中村佳穂を主人公に抜擢するなど、映画の大きなテーマとなっている歌と音楽を重視した映画です。

シークレットになっていた、カギを握る竜の声を佐藤健が演じていたことも明らかになり話題になりました。

そこで、今回は様々な角度から注目を浴びている『竜とそばかすの姫』を興行面から分析します。

真価が問われる東宝・夏の長編アニメーション戦略

東宝は2010年代に突入してからそれまで夏の定番だった『ポケットモンスター』とは別に、夏休みが始まる頃に、新規に長編アニメーションを公開するようになりました。当初夏の長編アニメーション枠を担っていたのがスタジオジブリ。

2010年の『借りぐらしのアリエッティ』、2011年の『コクリコ坂から』そして、2013年の『風立ちぬ』、2014年の『思い出のマーニー』と続いています。

その隙間の2012年には細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』がありましたが、夏の定番枠は基本的にスタジオジブリの作品でした。

しかし、スタジオジブリの宮崎駿監督が『風立ちぬ』をもって引退宣言(のちに撤回)。それに合わせてスタジオジブリの制作態勢の規模縮小・停止が発表され、東宝は夏の定番枠に公開する新たな長編アニメーションの制作態勢を模索するようになります。

そこで白羽の矢が立ったのが『おおかみこどもの雨と雪』を制作した実績があるスタジオ地図の細田守監督や、『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』をスタジオジブリで監督したのちに、ジブリの停止に伴いスタジオポノックを立ち上げた米林宏昌監督、小さな興行ではあったものの観客の厚い支持を受け続けてきた新海誠監督でした。

3年間で細田➡新海➡米林(スタジオポノック)というローテーションを想定していたと思われます。

2015年には細田守監督『バケモノの子』が公開され、『おおかみこどもの雨と雪』の記録を上回る大ヒットになりました。

そして2016年には新海誠監督にとって初の拡大公開作となる『君の名は。』が公開されます。

もともとは新海誠監督や東宝にとっても、この作品は軽い“あいさつ代わり”の作品であったと思います。「今後全国公開の長編アニメーションを手掛けていきます」と名刺がわりの役割を果たせばそれで十分だった。しかし、名刺がわりの『君の名は。』は当初の予想を大きく上回る大ヒットを記録。

最終的に興行収入が250億円を突破し、2016年時点で国内歴代4位(現在5位)のメガヒット作となりました。2015年時点で興行収入が100億円以上のアニメーションを手掛けたのは、宮崎駿監督だけという状況でしたので、『君の名は。』のヒットがどれだけ突然変異的なものであったかがわかるかと思います。(『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の外崎春雄監督が3人目に、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の庵野秀明監督が4人目になりました。)

ともあれ、大ヒット作となった『君の名は。』の成功によって、新海誠監督は少し次元の違う立ち位置の監督になってしまいます。

その後、2017年に米林宏昌監督のスタジオポノック第一弾『メアリと魔女の花』が公開。『君の名は。』の数字を視界に入れなければ十分合格点のヒット作となりました。

2018年には細田守監督の『未来のミライ』が公開されます。アメリカ・アカデミー賞の長編アニメーション部門にノミネートされるなど高い評価を受けた本作ですが、興行面では前作まで右肩上がりだった細田監督作品としては初めて前作比でダウンしました。

そして、2019年には新海誠監督の『天気の子』が公開。しかし『君の名は。』のメガヒットで別次元の存在になった新海監督作品ということで、東宝の夏の長編アニメーションの枠の作品ではあるものの少し別の次元の作品として見られていました。

実際に『天気の子』は141.9億円の興行収入を記録。新海監督は複数の作品で興行収入100億円以上を稼いだ日本を代表するアニメーション監督となりました。

そして、2020年は新型コロナウィルス感染拡大による影響をもろに受け、東宝の夏映画はお休み。

2019年の『天気の子』、2020年の新型コロナウィルス感染拡大による休止という、ここまでの流れを考えると東宝の夏の長編アニメーションの実質的な前作は、細田守監督の2018年『未来のミライ』です。何とも皮肉な巡り合わせですが、細田守監督は“自分の映画の後”を自分が直に担当することになりました。

–{『竜とそばかすの姫』のライバルは自分の映画!}–

『竜とそばかすの姫』のライバルは自分の映画!

もちろん、『竜とそばかすの姫』を監督するにあたって、東宝の夏の長編アニメーションの枠組みの中でのことなどは頭にないでしょうが、同じ時期の同じ監督の映画ですので、『未来のミライ』とどうしても比較してしまいます。

前作『未来のミライ』、そして最大のヒット作となったさらに一つ前の『バケモノの子』と比べて、『竜とそばかすの姫』はどこまで数字を積み重ねるのか?

すべてを数字に置き換えて考えるわけではありませんが、ヒットメイカーの宿命としてやはり細田守監督にはヒットの度合いというものが付いて回ります。

数字上のライバルが自身の前作『未来のミライ』になると書きましたが、映画の内容としては細田守監督のブレイクポイントとなった『サマーウォーズ』以来のインターネット&青春&田舎映画となっており、そういう意味では『未来のミライ』以上に『サマーウォーズ』と見比べる人が多くいるのではないかと思われます。

日本テレビの金曜ロードショーで、『竜とそばかすの姫』公開直前の番宣も兼ねて『サマーウォーズ』が放映されたのもテーマ的に近いものがあるからでしょう。

映画業界的には『未来のミライ』からどれだけV字回復を見せるか、映画館客の視点から見れば『サマーウォーズ』をどう越えてくるか。細田監督は色々な意味で“自分の映画”が最大のライバルになりました。

『竜とそばかすの姫』がついに公開スタート!

2021年7月16日に『竜とそばかすの姫』がとうとう公開されました。近年の大ヒット作品の中心地になりつつあるTOHOシネマズ新宿は、IMAXシアターを含む14回の上映枠を確保しました。とはいえ、緊急事態宣言下という厳しい現実もあり、劇場は1席空けての販売、さらにレイトショー枠がなしという大きなハンデがあります。

しかし、『鬼滅の刃』も『シンエヴァ』も逆境を乗り越えて大台に到達し、『名探偵コナン緋色の弾丸』も73億円を越えているため、ハンデハンデと言って回っている場合でもありません。

 『竜とそばかすの姫』は土日2日間で興行収入6.8憶円、観客動員45.9万人を記録、金土日の3日間では興行収入8.9憶円、観客動員60万人という数字を上げました。

この数字は前作『未来のミライ』だけでなく、細田監督の最大のヒット作『バケモノの子』(2日間の興行収入が6.6億円、観客動員が49万人)を超えるロケットスタートを切っています。

動員面では『バケモノの子』の方が多いのですが、興行収入では『竜とそばかすの姫』が上回っているのが面白く、興行収入が上回った理由はいわゆる客単価が高くなっているためでしょう。客単価上昇の理由は、やはりIMAXなどのラージフォーマットシアターの高稼働が効いているためだと思われます。

8月6日公開の『ワイルド・スピードジェットブレイク』まではラージフォーマットは『竜とそばかすの姫』に優先的に展開されると思われますので、この状況はまだまだ続くのではないかと予想。結果として細田監督の興行的な復活、さらには自己ベストを更新する公算が大きくなりました。7月の公開作を見ても競合する作品は現時点では少ないので、勢いが落ちることなく8月に入れるかと思います。どこまで数字を伸ばすか引き続き注目し続けましょう。

 
 (文:村松健太郎)

–{『竜とそばかすの姫』作品情報}–

『竜とそばかすの姫』作品情報

【あらすじ】
17歳の女子高生・すずは、高知の豊かな自然に囲まれた村で父と二人で暮らしている。母はすずが幼い頃に事故で亡くなり、母と一緒に歌うことが何よりも好きだったすずはそれ以来歌うことができなくなってしまった。父との間にはいつの間にか溝が生まれ、現実の世界に心を閉ざし、曲を作ることだけが生きる糧となっていた。ある日、全世界で50億人以上が集う超巨大インターネット空間の仮想世界<U>に「ベル」というアバターで参加することになる。<U>では自然と歌うことができ、自ら作った歌を披露していくうちにベルは瞬く間に世界中から注目される存在になっていった。そんなベルの前に、<U>の世界で恐れられている竜の姿をした謎の存在が現れ……。 

【予告編】

【基本情報】
出演:中村佳穂/成田凌/染谷将太/玉城ティナ/幾田りら/森山良子/清水ミチコ/坂本冬美/岩崎良美/中尾幸世/森川智之/宮野真守/島本須美/役所広司/石黒賢/ermhoi/HANA/佐藤健

監督:細田守

製作国:日本