大河ドラマ「青天を衝け」は、第22話よりパリ編へと突入。途中、東京五輪による5週の休止が発表されているため、第23話の放送後からの休止となる見込み。
パリ編は第22話から第24話に渡って描かれていく。また25話もパリから帰国という「パリ編」の延長線にあるため本記事に記載をしていく。
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<もくじ>
第22話「篤太夫、パリへ」感想・解説集
第22話のあらすじ
パリに到着した篤太夫(吉沢 亮)たちは、さっそく万国博覧会の会場を視察。蒸気機関やエレベーター…最先端の西洋技術を目の前にして度肝(どぎも)を抜かれる。しかし、日本の展示ブースに行くと、そこには薩摩の紋が高々と掲げられていた。幕府使節団は薩摩に抗議するが、モンブランと五代(ディーン・フジオカ)が裏で手を引き、幕府と薩摩は同格の政府であると風聞が流れる…そんな中、昭武(板垣李光人)はナポレオン三世の謁見式に出席し、堂々と慶喜(草彅 剛)の名代としての役目を果たす。そのころ日本では、慶喜が次々と幕政改革を打ち出していた。
第22話の感想
今回からパリ編へ突入!
船に乗りパリへ向かう栄一たち。初めて海外へ行く栄一は、早速船酔いの洗礼を浴びる。私自身も船の揺れには弱いので、気持ちがよくわかる……。初めてのことだらけの生活に少しずつ身体を慣らしながら、果敢に前へ進む栄一たちはすごい。彼らのような人が今の日本を作ってくれたのだ。
初めて食べるベーコンやスクランブルエッグ、バターを塗ったパン、そしてコーヒー。食文化もこれまで馴染みのないものばかりだ。「美味だ!」と言いながら次々と食らっていく栄一たちを見ていると、どんな文化も等しく受け入れて日本文化を作り上げてきた、日本人のルーツに思いを馳せられる。日本が経済復興できた理由のひとつとも言えるかもしれない。
パリに到着するや否や、現地で行われる万国博覧会の様子をさっそく見に行く栄一。見るもの、聞くもの、食べるもの、日本に取り入れたい文化で溢れた夢のような場所だった。2021年現在でこそ、日本国内で海外の文化に触れることはなんら難しいことではない。フランス料理もイタリア料理も中華料理も、海外の食事を摂ることもお安い御用だ。
それでも、当時の栄一にとっては初めて見るものばかりだった。全部見てまわるには、とても時間が足りないーー幼い頃から「知らないもの」「初めてのこと」に貪欲で、学ぶことを厭わない栄一だったからこそ、異文化を嫌うことなく楽しみながら受け入れられたのかもしれない。
そんな中、薩摩動きが何やら不穏だ。薩摩側もパリに入っており、日本国とは別の国と勘違いさせるような見せ方で万国博覧会へ参加していたのだ。当時から政治の力は圧倒的だったんだな……と胸を苦くしてしまう。
薩摩の動きも気になるところだが、いち視聴者としては、いきなりパリへ渡ってしまった栄一のことを思う血洗島の面々がより気にかかる。何があってもいいようにと、栄一はお上の命令通り自分の後継を指名してから海に出た。指名を受けたのは、平九郎ーー栄一の嫁・お千代の弟である。
この時代は、自分の弟が息子(養子)となることも可能だったのか。娘しかいない栄一・お千代にとっては、確かに後継のことを考えると男子を養子にとるしか方法はない。それにしても……。いくら時代が違うとはいえ、同じ日本で起こっていることとは思えない。大河ドラマや朝ドラを見ていると、たびたび「過去と今の日本の違い」を思い知らされる。
栄一たちのパリ滞在が長引くにつれ、浮上した問題が「金策」だ。海外で過ごせば過ごすほど費用がかかる。栄一の腕の見せ所と言わんばかりに、少しでも安い家賃のアパートを探すなど試行錯誤するがーー予定されていた、国からの借款が消滅したとの知らせが届いた。栄一たちのパリ滞在は、いったいどうなってしまうのか?
第22話で描かれたことダイジェスト
※本項目はシナリオブックを元にまとめております。
・55日かけてパリへ到着
・水戸藩士が多々もめ事
・蒸気機関に栄一感嘆
・琉球王国(薩摩)の展示に困惑
・ナポレオン三世との謁見式
・栄一、予算管理を頑張る(送金がない)
・負傷した兵の無償療養に驚く
・フランスからの借款が消滅
・日本では、慶喜が改革に取り組もうとする
–{第23話:「篤太夫と最後の将軍」について}–
第23話のあらすじ
フランスからの借款は消滅したが、篤太夫(吉沢 亮)が当面の資金繰りに奔走し、昭武(板垣李光人)は留学を続けていた。家庭教師のヴィレットの教えに従い、篤太夫たちは髷(まげ)を落とし、刀も外し、洋服を着ることに。同じころ、日本では西郷(博多華丸)が軍備を整え、岩倉(山内圭哉)と大久保(石丸幹二)が王政復古への動きを進めるが、慶喜(草彅 剛)は先手を打って政権を帝に返上してしまう。一方、血洗島では篤太夫の養子になった平九郎(岡田健史)が、江戸に向かおうとしていた。
第23話の感想
藤野涼子演じる渋沢てい(栄一の妹)と、岡田健史演じる平九郎。ふたりの恋がやっと実ってよかったよかった……と胸を撫で下ろした冒頭。渋沢家の養子となり、同じ屋根の下で暮らすことになるかと思いきや、万事が済むまで平九郎は江戸に移ってしまうらしい。ていの恋心はどうなるのか……と焦っていたところだったので、ホッと安心した。
そんな矢先、徳川慶喜が政権奉還した。政治の中心を担うのを幕府から朝廷へと移す決意をしたのだ。この決定に、幕府は混乱に陥った。「慶喜が徳川を殺したのだ」と呪いながら自死に走ろうとする者も出るなかで、しかし、慶喜はもちろん乱心したわけではない。
「すべてが敵のように思えたこともございました」
「しかし、今こそ心を広く開き、越前殿や多くの人々の力を借りたい。心より願っておりまする」
慶喜はどこまでも日本を案じていた。自身が政治の中心にいられなくなっても、たとえ命が潰えることがあっても、その後の日本を想像し思いを馳せていたのだろう。本来、政治とは目先の利益を追い求めたり責任のなすりつけ合いをする場ではない。地位や権利を自ら手放して見せることで、それが決して重要なことではないと教えてくれているかのようだ。
新しい政治の形が、日本に対しどのような効果をもたらすのか?
遠く離れたパリにいる栄一たちには、日本の様子がわからない。栄一たちは栄一たちで、日本のためになるようパリで次々と新しいことを学んでいた。人々の階級に対する考え方もそのひとつだ。
日本では武士・商人・百姓など身分が明確に分かれている。その身分でしかできない仕事を淡々とやり続けるしか、できることはない。下の階級の者が上の階級の者へ物申すのもご法度だ。日本に当たり前のようにはびこっている身分の差が、パリにはないーー海外の地で感じる風通しの良さに、栄一はその身をもって気づく。
郷に入っては郷に従え、という諺があるが、まさに日本人は郷に従うプロだろう。たとえ異国の地の文化であっても、自国にとって有意義だと思えば遠慮なく取り入れる。見方にはよっては節操がないと言われてきたこの姿勢だが、そのおかげで今の日本が出来上がったと言ってもおかしくはないのだ。
そんななか、日本では戦争が勃発しようとしていた。遠く離れたパリで日本を思う栄一たち。オリンピックの関係で次回の放送が少々先になってしまうのが、惜しいところだ。
第23話で描かれたことダイジェスト
※本項目はシナリオブックを元にまとめております。
・当面必要な資金が小栗から何とか届く
・栄一、昭武の諸国訪問の予算減を提言
・昭武、諸国訪問へ出発
・外国奉行、栗本鋤雲が日本から到着
・栗本=借款へ注力、栄一=旅を継続、杉浦=帰国
・その頃日本では、原市之進が暗殺される
・薩摩が倒幕への準備を加速させる
・慶喜、大政奉還を行う
・天皇による王政復古の大号令
・一方パリ、一同洋装へ
–{第24話:「パリの御一新」について}–
第24話のあらすじ
篤太夫(吉沢 亮)や昭武(板垣李光人)らがパリで新年を祝う中、幕府から書状が届く。“慶喜(草彅 剛)が政を朝廷に返上した”との文面に一同大混乱するが、篤太夫は昭武の留学費用を捻出すべく更なる節約策を講じる。そんな中、篤太夫はエラールに連れられて証券取引所を案内され、債券の仕組みを教わる。一人一人の小さな力が合わさってこの世を変えられることを知り、新たな決意を抱く。その時、日本では、成一郎(高良健吾)、惇忠(田辺誠一)、平九郎(岡田健史)が、新政府軍と戦っていた。
第24話の感想
まず、何から書いたら良いだろう。数週間ぶりの青天を衝け放送。久々に栄一たちに会えた感慨が思った以上に強い。パリ編は粛々と進んでおり、栄一たちが日本を離れている間に目まぐるしい展開に見舞われている。
大政奉還、大阪と江戸の間で起こる戦い、それにより日本帰国を迫られる栄一と昭武たち……。文書によってしか知れない日本の動乱に心痛める栄一たちを見ていると、こちらも穏やかではいられなくなる。勉学に励むためパリの地を訪れたにも関わらず、国に帰ることを望まれる昭武の心境はいかばかりだろう。「水戸に帰るのが怖い。日本でも私のそばにいてくれないか」と栄一に告げた彼は、当時まだ14〜5歳だった。
何ともやるせないシーンはまだある。
髷を切り落とし、西洋風の髪型に服装となった栄一の写真を見て、歯痒く思うお千代。遠く離れて暮らすようになってから、確かに栄一は変わった。その間どんなことが彼の身に起こったか、視聴者には知り得てもお千代は想像するしかない。かつての猛々しい栄一の姿が記憶に残っているお千代にとっては、ざんばら髪にスーツ姿の我が夫はさぞかし”西洋かぶれ”しているように見えても仕方がないだろう。
「かつての姿を取り戻してくださいますよう」と書かれたお千代からの手紙を読むや否や、「会いてえなあ」と目を潤ませる栄一。果たして、ふたりが再会し、家族ともに暮らせる日はいつになるのか。
日本からの留学生を一時的に受け入れたシーンも、心動くものがあった。
少ない懐を何とかやりくりし寝床を提供しているにも関わらず、「ベッドじゃないのか」と不満を漏らす留学生たちに一喝入れる栄一、痺れた……。
「ただ多く知識を入れれば偉いとでも思ってるのか?」
「国が戦というこの一大事に、よしんば、どんな柔らかい所で寝たとあっても、臥薪嘗胆の心があって然るべきじゃねえか!」
お千代に伝えてあげたい。姿は変わっても、栄一の心は一切変わっていないと。
次回、栄一が日本へと帰国する。
第24話で描かれたことダイジェスト
※本項目はシナリオブックを元にまとめております。
・パリの一行、大政奉還を知る
・栄一、パリへ残るための資金管理に全力
・パリの一行、慶喜が朝敵と見なされ劣勢の状況を知る
・その後の状況も鑑みて、昭武、栄一ら、帰国を決意
・栄一、証券取引所を訪れる
→国債や社債の仕組みなどを知る
→取っておいた備えを使い、多額の利息を取得
・昭武・栄一ら帰国へ
–{第25話:「篤太夫、帰国する」について}–
第25話のあらすじ
帰国した篤太夫(吉沢 亮)は、横浜で杉浦(志尊 淳)や福地(犬飼貴丈)らと再会。幕府が薩長に敗れた経緯や、慶喜(草彅 剛)や幕臣の動向を聞かされる。さらに、恵十郎(波岡一喜)と虎之助(萩原 護)から、成一郎(高良健吾)、惇忠(田辺誠一)、平九郎(岡田健史)のその後を知らされる。成一郎らは彰義隊を結成するもすぐに分裂し、振武軍(しんぶぐん)として新政府軍と戦うが敗戦。激闘の中、平九郎の行方は分からなくなり、成一郎は箱館へ向かったという。頭の中が整理できない中、篤太夫は故郷・血洗島へ戻る。
第25話の感想
「なあ、兄い。俺たちは、何のために生まれてきたんだんべな」
長七郎の言葉が、虚しく宙に放り出される。その暗い声音に、私たち視聴者も力なく考えることになるかもしれない。自分たちは何のために生まれたのか。何を成し遂げるためにこの世に生を受けたのか。そもそも意味なんて探そうとすること自体、間違えているのか。
栄一がパリから帰国した。これまで、日本とは海を挟んだ遠い地で、仲間から届く文により我が国の情勢を知ることしかできなかった栄一たち。ようやく故郷の地を踏み、残った仲間たちから直接に聞くことになる。この国に何が起こってしまったのかを。
栄一の心を最も強く揺さぶったのは、平九郎の死だった。戦により奪われた大切な命。いや、「奪われた」のではない。彼は敵の銃弾に撃たれながらも、最後は自力で切腹した。背を向けて逃げる方が人としての尊厳が死ぬとでも言わんばかりに、自死して見せたのだ。栄一とともに、やるせない気持ちに陥った視聴者の方も多いだろう。
ともに戦った喜作と惇忠は息も絶え絶えに生き残った。喜作は現在の函館・五稜郭に身を移し未だ戦いの手を緩めていない。「こうなった以上、もうお互いに生きて会うことはないだろう」と文を出した栄一。もう二人が以前のように肩を並べ、志をともにすることはないのだろうか……。
栄一も喜作も惇忠も長七郎も、それぞれがそれぞれの正義を胸に、すべきことをやっている。それがたとえ時にはぶつかり合うことになろうとも、再び重なり合う瞬間を願い動いているのだ。生き残った者には、生き残った者にしかできないことがある。
「新しい世のために、できることはきっとある」
次回26話は9月12日の放送。またしばらく、栄一たちとはお別れだ。
(文:北村有)
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