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2021年7月9日より公開の中国映画『唐人街探偵 東京MISSION』は、中国の探偵コンビが日本に赴いてのドタバタ大騒動を描いたコミカルながらもサスペンスも満載のミステリ作品。
実質的にはシリーズ3作目にあたるものですが、これ単品でも十分にも面白さは伝わります。
そして何よりお楽しみなのが大々的な日本ロケに伴って、三浦友和や長澤まさみ、染谷将太ら多くの日本人俳優の出演!
中でも主人公らと行動を共にする日本人探偵を演じる妻夫木聡はアジア圏でも大人気なだけに、ここでも大活躍!
今回はそんな彼のキャリアをざっと振り返りつつ、この機会にぜひ見直しておきたい(未見の方はぜひ見ていただきたい)映画などをご紹介していきましょう。
『ウォーターボーイズ』に始まる妻夫木聡の大飛躍
妻夫木聡は1980年12月13日、福岡県の生まれで小学校2年のときに父の転勤に伴い神奈川県に引っ越し、高校時代は“スーパー高校生”と呼ばれるカリスマモデルとして活躍しました。
1997年、ナムコなどのアーケードゲームのオーディションイベント「アホポン・プロジェクト」で参加者300万人の中から選ばれ、第1回グランプリを獲得し、これを機に翌98年にドラマ「すばらしい日々」で俳優デビューし、小中和哉監督『なぞの転校生』で映画初出演を果たします。
2000年のドラマ「池袋ウエストゲートパーク」で注目され、そして2001年、男のシンクロナイズドスイミングを題材にした矢口史靖監督の出世作『ウォーターボーイズ』に主演して大ブレイクし、日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。
さらに2003年の犬童一心監督『ジョゼと虎と魚たち』で足の不自由な女性(池脇千鶴)を愛し傷つく大学生を好演し、キネマ旬報ベスト・テンや報知映画賞などの主演男優賞を多数受賞し、これによって若手実力派スターの筆頭として一気に躍り出ていくのでした。
命の問題に向き合う教師を好演した『ブタのいる教室』
妻夫木聡のキャリアを振り返ると、やはりその好ましき若者像をベースに、映画作家たちが彼の魅力をいかに引き出していくのかが大きなポイントになっていくような感があります。
好青年としての奥深きナイーヴさを引き出していくのか? そこを逆手にとるのか?
今回は前者の代表作として前田哲監督の『ブタがいた教室』(08)を選んでみたいと思います。
ここで彼が演じるのは、小学校6年生のクラスで豚を飼い、食べるというプロジェクトを提案する担任の先生。
生徒たちは豚を愛情込めて育てていきますが、そうすればするほどに葛藤が生まれ、やがては食するかどうかの熱い議論に発展していきます。
実話を基にしたこの映画、生き物は動物であれ植物であれ他の命を奪って食することでしか生きていくことが出来ない残酷な事実と、その上で命の尊さを子どもたちに伝えようとする真摯な教師像は妻夫木ならではの味わいともいえるでしょう。
彼のヒューマニスティックな一面を善悪双方巧みに切り取っていったものとして『闇の子供たち』(08)『悪人』(10)『マイ・バック・ページ』(11)『怒り』(16)『愚行録』(16)など多数あり、いずれも問題作として屹立しています。
–{現在のコロナ禍を予見していた?}–
現在のコロナ禍を予見していた?パンデミック大作『感染列島』
俳優である以上、娯楽色を重視した作品への出演も当リ前の事象ではありますが、妻夫木聡もこれまでSF戦争映画『ローレライ』(05)や手塚治虫原作のダーク時代劇ファンタジー『どろろ』(07)、何とあの名作漫画をヤンキー純愛ミュージカルへ変換させた『愛と誠』(12)、ぶっとび恋愛コメディ『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせガール』(17)など多数出演しています。
しかし今、もっとも時流に即した作品として採り上げたいのは、ウイルス・パンデミックを題材にした瀬々敬久監督の『感染列島』(08)でしょう。
突如猛威をふるう新型ウイルスにより、日本中が大パニックに見舞われていくさまをシミュレーションしていくこの作品、公開時は政府の対策やら方針などに「設定が甘いんじゃないか?」などとかなり突っ込みも入れられたりしたものですが、いざ本当に昨年のコロナ禍が始まって以降、この映画の政策のほうが現実よりもまだマシだったという、すさまじい事実が発覚してしまったほどに先見の明があった作品なのでした。
妻夫木は主人公の医師役として治療に献身しますが、大自然の脅威に対する人間の限界を痛感させられては悲嘆に暮れ、それでも未来諦めない主人公医師を好演。
またこの作品では「ウイルスと人は共存できないのか?」と主人公に問いかける科学者役の藤竜也がさりげなくも深い存在感を発揮しています。
山田洋次監督との邂逅『家族はつらいよ』シリーズ
妻夫木聡が基本的に醸し出すヒューマニスムの発露は、家族を題材にした作品でも大いに発揮され続けています。
特に家族をモチーフにした日本映画界の巨匠・山田洋次監督に見初められたことは、彼のキャリアとしてもかなり大きなものがあったことでしょう。
始まりは小津安二郎監督の名作『東京物語』(53)にオマージュを捧げた『東京家族』(13)で、続いて戦時下の悲恋を描いた『小さいおうち』(14)を経て、いよいよ山田監督の十八番ともいえる家族群像喜劇映画『家族はつらいよ』シリーズにお目見えとなります。
熟年夫婦(橋爪功&吉行和子)に突如持ち上がった離婚騒動の顛末を描いた第1作(16)、老人の免許返納問題からやがて無縁社会がモチーフになっていく『家族はつらいよ2』(17)、そして第3作『妻よ薔薇のように家族はつらいよⅢ』(18)では長男(西村まさ彦)の妻(夏川結衣)のささやかな反乱を通して日本中の主婦への讃歌(及び長男の嫁の現実的苦労)が奏でられていきます。
この中で妻夫木聡が演じるのはピアノ調律師として働く次男・庄太で、恋人の憲子(蒼井優)と結婚し、なかなかの理想的な夫婦ぶりを発揮しつつ、3作目では憲子の妊娠も発覚。
いよいよ次は彼ら夫婦を主軸にしたドラマが展開されるのでは? と期待したいところではありますが……(続き、やるかな?)。
ところでこのシリーズのキャスティング、実は『東京家族』の家族設定を基に組まれており、その意味でも双方を見比べながら様々な家族のありように想いを馳せていただくのも一興でしょう。
なお、妻夫木聡はこれら以外にも『ぼくたちの家族』(13)『浅田家!』(20)といった秀作家族映画にも多く出演し、印象的な名演を示しています。
–{世界に進出する妻夫木聡}–
『ノーボーイズ、ノークライ』など世界に進出する妻夫木聡
『唐人街探偵 東京MISSION』での扱いからも容易に想像がつくように、妻夫木聡のアジアでの人気はかなりのもので、たとえば『どろろ』が香港で公開された折のイベントにはおよそ1000人のファンが会場に押し寄せたとのこと。
そんな彼の初めての国際的作品は『ワイルド・スピードX3』(06)でのカメオ出演で、その後フランス・日本・ドイツ・韓国合作のオムニバス映画『TOKYO!』(08/彼はミシェル・ゴンドリー監督によるエピソード「インテリア・デザイン」に出演)を経て、キム・ヨンナム監督の日韓合作映画『ノーボーイズ、ノークライ』(09)で韓国スターのハ・ジョンウとW主演。
ここで彼は韓国から日本に人質として誘拐されてきた韓国人少女の父親を金目当で探そうとするしがない若者を演じています。
日本側の若者が家族を背負っているのに対し、韓国側は家族を失った男という対比もユニークでした。
その他にも台湾・中国・香港合作のホウ・シャオシェン監督『黒衣の刺客』(15)、オール台湾ロケで豊川悦司とW主演した『パラダイス・ネクスト』(19)、また戦前のカナダを舞台にした日系人野球チームを題材にした石井裕也監督の大作『バンクーバーの朝日』(14)にも主演しています。
今後も海外作品での彼の活躍を、大いに期待したいところですね。
(文:増當竜也)