【厳選】今週公開オススメ映画!『ブラック・ウィドウ』『東京リベンジャーズ』だけじゃない…!

ニューシネマ・アナリティクス

(c)Marvel Studios 2021

■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」

2021年7月8日から待望の『ブラック・ウィドウ』が公開。他にも、『東京リベンジャーズ』など話題作の公開が続く2021年7月8日・9日・10日の映画館。

本記事では、公開される作品を順番に紹介しながら、その中でもライターオススメの厳選5作品をコラムにてお届けしていきます。

『ライトハウス』

モノクロ・スタンダード画面の中、孤島に閉ざされたふたりの男の不安と狂気が炸裂!

(C) 2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

いかにして魔女とその伝説が誕生していくのかを幽玄的に描いたホラー映画の秀作『ウィッチ』(15)で注目されたロバート・エガース監督の最新作。

1801年にイギリスで実際に起きた事件を基に構築された幻惑的スリラーですが、孤島の灯台守としてふたりきりで仕事に従事し、しかもお互い気が合わずにいがみあってばかりいるという、これなら独りのほうがまだマシとでもいった精神的にもきつい閉塞的極限状況を、モノクロのスタンダード映像が濃密に醸し出しています。

この映像、カラーからのデジタル変換などではなく、本来のモノクロ用35ミリ・フィルムで撮影されているだけに、その奥深さはハンパではなく、クラシックな趣きすら体感させてくれる意味でもオールド・ファンはもとより、映画を見始めて日が浅い若いファンにこそ見ていただきたいという想いもあります。

実際この作品、主人公が次第に妄想に囚われていくわけですが、幻惑シーンそのものは決して多くはなく、むしろ現実の日々の緊張を奏した映像でじんわりと抽出していくことで、そこから生まれる狂気がじわじわと見る側にまで浸透していく仕掛けになっています。

よくよく見ていくとヒッチコックやキューブリックのタッチなども上手く応用されていることにも気づかされ、画面の内は緊迫しまくっているのに、見ているこちらはニンマリさせられっぱなし!

撮影監督はジェアリン・ブラシュケ。本作はアカデミー賞撮影賞候補になりましたが、これは受賞しないとおかしいだろうという、まさにハイ・レヴェルの極致!

また音楽かノイズかといった音響効果が秀逸で、こうした画と音の秀逸な融合に加えて、ロバート・パティンソンとウィレム・デフォーのふたり以外ほとんど登場しないというストイックな構成(後は人魚。これが怖い!)と名優同士の演技合戦も大いに見もの。

本年度の映画シーンを語る時に絶対外せない作品として強くお勧めします。

なおロバート・エガース監督には、現在サイレント映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)のリメイク企画が進行中とか。ぜひ実現してほしいものです。
 
–{『劇場編集版かくしごと―ひめごとはなんですか―』}–

『劇場編集版かくしごと―ひめごとはなんですか―』

TVアニメの再編集映画のひとつのお手本。大瀧詠一〈君は天然色〉に乗せて感動の涙!

(C) 久米田康治・講談社/劇場編集版かくしごと製作委員会

久米田康治の同名漫画を原作とするTVアニメーション・シリーズ(2020年4月~6月放送/全12話)の総集編映画。

下ネタやり放題の漫画家であることを絶対愛娘(声/花江夏樹)に知られたくないお父さん(声/神谷浩史)の奮戦記。

つまり「隠し事」は「描く仕事」という意味を込めたタイトルでもあるわけですが、主人公の自意識過剰がもたらす言動およびそれの振り回される周囲の個性的面々が織り成すギャグの連打の果てに、ちょっと信じられないくらいに奇跡的な感動が見る者の涙腺を緩ませてしまうという秀作です。

TV版最終回の段階で原作がまだ進行中だったこともあって、本作では原作最終回の要素を意識した新規カットが追加されているのも、ファンにはお楽しみではあるでしょう。

また、それ以上に本作は「映画」そのものとしても、非常に良く出来ています。

見る前は上映時間が80分もないと聞かされて、せっかく1クールしかないTVアニメの総集編なのだから2時間くらい尺を取ればよかったのにと思いましたが、実は細かいエピソード満載のこの作品、ハンパにそれらを並べていくのではなく、作品の基軸となるストーリー部分のみを抽出していく潔い構成が功を奏していることに唸らされるとともに、それゆえの78分という、実に内容に適した長さであったことにまで気づかされます。

(オールド・ファンとしては、かつてTVシリーズ全105話という長尺の中から、基礎の基礎のみを抜き出して110分の映画に構成された1978年の岡本喜八総指揮、鳥海永行監督『劇場版科学忍者隊ガッチャマン』とも似た感慨を味わいました)

TV版のエンディング・テーマ曲でもあった大瀧詠一《君は天然色》が、今回エンドタイトルでフルに銀幕狭しと大音量で鳴り響くに至っては、まさに感無量!

監督は映画版『ぼくらの7日間戦争』(19)でも知られる村野佑太。TV版に続いて今回の映画版でも、非常に良い仕事をしてくれました。

–{ 『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』}–

 『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』

差別&偏見と真摯に対峙しつつ日々を愉しむゲイ水球チームの面々の「人」としての誇り

(C) LES IMPRODUCTIBLES, KALY PRODUCTIONS et CHARADES PRODUCTIONS

フランスに実在する芸の水球チーム「シャイニー・シュリンプス」をモデルにした作品。実際にチームに所属していたマキシム・ゴヴァールがセドリック・ル・ギャロとともに共同監督しています。

LGBTQ+による世界最大のスポーツと文化の祭典「ゲイ・ゲーム」なるものがあるとは恥ずかしながら知りませんでしたが、本作はゲイ・ゲーム出場を目指すチームの奮闘ならぬ日常を描いたもの。

何せこのチームの面々、競技そのものよりも歌って踊ってのパーティのほうが好きといった平和主義者すぎて、闘争心らしきものは皆無に等しい?

そこにゲイ差別発言をとがめられ、いやいやチームのコーチをすることになった元オリンピックの銀メダリストのマチアス(ニコラ・ゴブ)を主体に映画は進行していきますが、なかなか彼らに心を開くことが出来ずにいるのを隠さないあたり、本作の覚悟の証しとも取れます。

一見派手派手しくイチャイチャと日々を愉しんでいるチームの面々ではありますが、時折向けられる周囲からの冷たい視線や差別の言動などを本作はきちっと描いており、それは時に見ている側が辛くなるほど。

しかしながら、そんな実情を受け止めながら、その上で前向きに明るく振るまい続ける彼らの姿にこそ、本作のメッセージが込められているように思えてなりません。

劇中、ナチスがユダヤ人やロマだけでなくゲイも虐殺し、さらにはゲイに関する追悼の碑が建てられたのは戦後50年近く経ってからだったという事実もさりげなく明かされますが、彼らはそこへ赴くよりは試合のほうがマシだと言わんばかりの態度をとるあたりも、過去の辛さよりも未来の楽しみを選びたいという意思が見受けられるのです。

ラストの見せ方も「こう来たか!」という鮮やかさで、シビアな現実も未来の希望も同時に描出し得ているあたり、さすがは『Mr.レディMrマダム』(78)を生んだ国だなとも唸らされました。

–{『サムジンカンパニー1995』}–

『サムジンカンパニー1995』

1995年韓国ソウルの女子社員たちによる男性上位社会に対するカタルシスみなぎる反逆

(C)2020 LOTTE ENTERTAINMENT & THE LAMP All Rights Reserved.

 
1995年の韓国ソウルを舞台に、実際に起きた大企業の有害物質汚水流出事件をモチーフに女性社員たちの真実追求を軽やかに描いた痛快エンタテインメント映画。

実際はかなり深刻な題材ではありますが、映画はそのこと自体を糾弾する社会派的姿勢を強調するよりも、男性上位社会の中に甘んじてきた女性たちの反逆とも革命ともいえる行動を魅力的に描いているのが大きな特徴で、その意味でも見やすく、共感も得られやすい仕上がりになっているように思われます。

仕事の実力はあるものの、現実は男どもからお茶組みや雑用ばかり命令される日々の女性たちの姿は、今から四半世紀前が舞台とはいえ、今はどれだけ進歩しているのだろうかと疑念に思わされるところも多々あり、それは日本も決して他人事ではないでしょう。

もっとも本作は『グエムル―漢江の怪物―』(06)の少女役から大きく成長したコ・アソン、本作で青龍映画賞助演女優賞を受賞したイ・ソム、『スウィング・キッズ』(18)でのKPOPアイドル役も印象深かったパク・ヘス

と、それぞれのキャラクターの個性が前向きに遺憾なく発揮されており、コミカルなタッチも随所にうかがえはするものの、しっとりとした情感みたいなものが根底の土台として据えられているあたり、『花、香る歌』(15)のイ・ジョンピル監督ならではの賜物かもしれません。

1995年の風俗や流行などの再現にしても、日本の当時と共通するものも多く見受けられ、懐かしさとともにどこか新鮮な趣きまで感じられます。

『9時から5時まで』(80)『ドリーム』(16)など男性社会に一矢報いる女性たちの魅力を引き出すハリウッド映画は数多くありますが、その韓国映画代表としても讃えたい1本。

日本映画もたまにはこういったものを作っていただきたいものです。

(まあ、今年はOLたちのヤンキー抗争劇『地獄の花園』なるベクトルの全く異なる痛快アクション映画の怪、いや快作がありましたけどね……)

–{『ねばぎば新世界』}–

『ねばぎば新世界』

令和の今だからこそ新鮮に映えわたる『悪名』さながらの義理と人情の浪花活劇!

(C)映画「ねばぎば 新世界」製作委員会 (C)YUDAI UENISHI

“NEVER GIVE UP”かつて映画『野性の証明』(78)のキャッチコピーにも用いられていたこの名文句も、赤井英和&上西雄大が使うと「ねばぎば」と聞こえてくる?

一体これはいつの時代の設定? と一瞬戸惑ってしまうほどの昭和テイストに浪花ド根性モードが組み合わさっての『ねばぎば新世界』、上記の主演ふたりに続いて堀田眞三やら田中要次やら菅田俊やら西岡徳馬やら、ついには小沢仁志の兄ィまで加わっての古き良き義理と人情のアクション、いや活劇といったほうがふさわしい娯楽作ではあります。

とかく規制だのコンプライアンスだのといった現代社会にはびこる窮屈な縛りなどどこ吹く風で、拳による正義の制裁も「たまには月に代わってお仕置きしたってかまへんやろ!」の潔いノリなのでした!?

前作『ひとくず』で文字通り人間の屑のごとき男の闇の中の光を真摯に自作自演で描いた上西監督は、ここでは勝新太郎&田宮二郎主演による昭和を代表する任侠映画『悪名』シリーズの再来を目指しているかのようで、それはなかなかの成果を収めているといってもよいでしょう。

特に赤井英和は『どついたるねん』(89)『119』(94)などデビュー当初の荒々しさと素朴な好ましさが久々に蘇ったかのようで、リアルタイムで彼を見続けてきた側としては実に嬉しい限り。

それにしても2020年ニース国際映画祭(フランス)で何と外国映画部門最優秀作品賞(グランプリ)&最優秀脚本賞(上西雄大)、2021年WICA(ワールド・インディペンデント・シネマ・ワールド)外国映画部門最優秀男優賞(赤井英和&上西雄大)という海外での評価は正直驚きですが、要は本音丸出しの下町人情&アクションといった題材が、21世紀の今、世界的にも斬新に映えているということなのかもしれません。

昭和世代が見たら懐かしく、平成&令和世代が見たら新鮮な、義理人情の浪花バディ映画、こういった映画が今の国内でどのように受け入れられるかも楽しみではあります。

(文:増當竜也)

–{他にもこんな作品が公開}–

他にもこんな作品が公開

2021年7月8日公開

『ブラック・ウィドウ』

2021年7月9日公開

『ライトハウス』

『劇場編集版かくしごと―ひめごとはなんですか―』

『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』

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『サムジンカンパニー1995』

『東京リベンジャーズ』

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『ハニーレモンソーダ』

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『唐人街探偵 東京MISSION』

『100日間生きたワニ』

『83歳のやさしいスパイ』

『プロミシング・ヤング・ウーマン』

『映画:フィッシュマンズ』

『インベイド』

『スティーラーズ』

『ベルヴィル・ランデブー』

『ドアマン』

『ヒルコ 妖怪ハンター』

『走れロム』

『ナショナル・シアター・ライブ/メディア』

2021年7月10日公開

『ねばぎば 新世界』

『アサルト・ベレー 緋色の奪還作戦』

『ウィリーズ・ワンダーランド』

『片袖の魚』

『東京クルド』

『東京自転車節』

『トラック』

『ドブ川番外地』

『発酵する民』

『夜叉ヶ池』

『ロボット修理人のAi(愛)』

2021年7月11日公開

『ハートビート ネクストステージ』

『ファイアー・ブレイク 炎の大救出』