ファン待望の『ブラック・ウィドウ』が2021年7月8日(Disney+での配信は翌日、7月9日)よりいよいよ公開。延期を繰り返しながら、満を持して映画館にマーベル・シネマティック・ユニバースが還ってきます。
2008年の『アイアンマン』からスタートしたMCU=マーベル・シネマティック・ユニバースは、いわゆる『アベンジャーズ』を冠した4タイトルを頂点にこれまで23作品の映画が公開されてきました。
映画の中ではあらゆる困難を乗り切るスーパーヒーローですが、新型コロナウィルス感染拡大には勝てず、『アベンジャーズ/エンドゲーム』からは2年2ヵ月以上、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』から数えても2年以上、映画館にマーベル・シネマティック・ユニバースが登場しないという、大きい空白が生まれてしまいました。
サブスクリプションサービス・Disney+(ディズニープラス)で、映画の本筋と深く関わる内容の「ワンダヴィジョン」「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」「ロキ」が配信されていましたが、やはり映画館のスクリーンで“MARVEL STUDIOS”のロゴが見たいもの。
今回はひと足お先に鑑賞できたので、レビュー解禁に合わせて最速で本作を紐解きます。
※『ブラック・ウィドウ』本編についてはネタバレはしておりませんが、2019年の映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』につきましては一部ネタバレ要素に触れています。
ブラック・ウィドウのこれまで
2010年公開の『アイアンマン2』でスカーレット・ヨハンソンが演じる形でMCUに初登場したブラック・ウィドウ=ナターシャ・ロマノフ。
以降『アベンジャーズ』『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』と計7作品にメインキャラクターとして登場、『エンドゲーム』で彼女が下した決断には涙した人も少なくないでしょう。
映画『ブラック・ウィドウ』は『シビル・ウォー』と『インフィニティ・ウォー』の間の時期をメインにしつつ、ナターシャ・ロマノフの少女時代から、特務機関“S.H.I.E.L.D”のエージェントになりたてのころのエピソードを絡めつつ、彼女が“家族”というものにどれだけ強い思いを抱いていたか?『エンドゲーム』での彼女の決断の裏側に何があったのか?が描かれています。
主演はもちろんスカーレット・ヨハンソン。10年に渡ってブラック・ウィドウを演じてきた彼女のMCU卒業作品でもあります。
共演には『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』でアカデミー賞にノミネートされたフローレンス・ピュー。さらに、アカデミー賞女優のレイチェル・ワイズ、デヴィッド・ハーバー、O.T.ファグベンル、MCUに“サンダーボルト”ロス将軍役で複数回登場しているウィリアム・ハートなどが顔を揃えています。
監督のケイト・ショートランドは『キャプテン・マーベル』のアンナ・ボーデンに続き二人目のMCU女性監督となります。今年公開予定のMCU大作『エターナルズ』も『ノマドランド』クロエ・ジャオ監督がメガホンをとっていて、アメコミ大作映画にも女性クリエイターの進出が目立っています。(DCコミックの『ワンダーウーマン』シリーズも女性監督のパティ・ジェンキンス監督作品ですね)
あらすじ
物語は『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の直後から始まり、ヒーローの活動について制約を定めたソコヴィア協定を巡ってキャプテン・アメリカとアイアンマンが対立し、アベンジャーズは内部分裂(シビル・ウォーは内戦を意味します)した状態にあります。
最終的にキャプテン・アメリカの側につき、追われる身となったブラック・ウィドウ=ナターシャ・ロマノフは世界各地を転々とする中で“家族”と再会します。
アベンジャーズを“家族”と呼び、クールな表情を崩すことのなかったブラック・ウィドウですが、実は彼女にはかつてアベンジャーズとは違った“家族”を持っていたのでした。
そして、ブラック・ウィドウは自身の過去にも深く関わる事柄を知るに至り、妹のエレーナ、母親のメリーナ、父親でロシア(旧ソ連)のキャプテン・アメリカことレッド・ガーディアンでもあるアレクセイと再会を果たします。
–{映画ブラック・ウィドウを紐解く5つのポイント}–
映画ブラック・ウィドウを紐解く5つのポイント
1. アクション
ブラック・ウィドウ=ナターシャ・ロマノフはもちろん妹エレーナ、母のメリーナもブラック・ウィドウ同様訓練を受けたスペシャルエージェントです。
父のアレクセイはロシアのキャプテン・アメリカとも言うべきレッド・ガーディアンの別名を持つ特殊な兵士。
さらに、敵役としてあらゆる戦士の戦闘パターンをコピーする(その中にはキャプテン・アメリカの盾の使い方やホークアイの百発百中の弓矢の技術まであります)“タスクマスター”などが登場します。
そういう点で、映画『ブラック・ウィドウ』のアクションが“常人の闘い”というには、やはり無理があるのですが、アベンジャーズには神様であるソーやハイテク装備に身を包んだアイアンマン、魔法使いのドクター・ストレンジなどがいるわけで、そのことを考えると『ブラック・ウィドウ』のアクションは肉体と一般的な銃器・ナイフなどを武器にしたシンプルでフィジカルに重心を置いたアクションになっています。
『LUCY/ルーシー』や『ゴースト・イン・ザ・シェル』などアクションの経験も豊富なスカーレット・ヨハンソンですが、本作でのアクションはかなりタフなものだったようです。
それでも、長年スタントダブルを務めているハイディ・マニーメイカーらのスタントチームとの強い信頼関係を持って、『ブラック・ウィドウ』のアクションを仕上げました。
このスカーレット・ヨハンソンの姿勢に大きな影響を受けたのが妹のエレーナを演じたフローレンス・ピュー。
2か月以上を空けてトレーニングに打ち込んだという彼女に対して、スカーレット・ヨハンソンは積極的にリラックスするように語り掛けたと言います。
宇宙の破壊者“サノス”との闘いが描かれた『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』での超能力バトルから一転、『ブラック・ウィドウ』ではリアルなアクションを堪能することができます。
2. 家族
映画『ブラック・ウィドウ』の大きなテーマが“家族”です。
最強の女スパイのブラック・ウィドウ=ナターシャ・ロマノフは常に孤独を抱えている女性でした。
しかし、そんな彼女にも大事な人々、やがて“家族”と呼ぶ存在が生まれます。それがアベンジャーズです。
アイアンマン=トニー・スターク、キャプテン・アメリカ=スティーブ・ロジャースの間がギクシャクしたり、ハルクやソー、ドクター・ストレンジと言った一癖も二癖もある面々が揃っていますが、それでもブラック・ウィドウにとってはかけがえのない存在になっていきます。
S.H.I.E.L.Dに入る大きなきっかけを与えたホークアイ=クリント・バートンとは師弟関係に近い繋がりを持っていますし、S.H.I.E.L.Dの長官であるニック・フューリーとも強い信頼関係があります。
ワンダ・マキシモフなどの若く、後々になってからアベンジャーズのメンバーとなった者たちに対してはブラック・ウィドウはコーチ役としての顔を見せたりもしています。
その一方で、ロシアのKGBで行われていた特殊スパイ養成プログラム“レッド・ルーム”の被験者でもある彼女は、その任務の中で“もう一つの家族の一員”であったことが映画『ブラック・ウィドウ』では描かれます。
妹のエレーナと、母親のメリーナもまた“レッド・ルーム”で特殊な訓練を受けた女性であり、一級のエージェントであります。
父親のアレクセイはアメリカの超人兵士計画(=キャプテン・アメリカ)に対抗して、生み出されたロシアのスーパーソルジャー・レッド・ガーディアンであります。
この“もう一つの家族”の抱えることについては映画を見てのお楽しみとしておきますが、この“もう一つの家族”がブラック・ウィドウ=ナターシャ・ロマノフに与えた“家族”という繋がりへの強い想いを育んだ存在であることは確かです。
なぜ『アベンジャーズ/エンドゲーム』でブラック・ウィドウが命を賭してアベンジャーズ(=家族)の復活を願ったのか?そこにある強い想いの源泉を知ることができます。
–{3つ目のポイントは…}–
3. 過去
この“家族”の存在も含めて、『ブラック・ウィドウ』の中ではブラック・ウィドウ=ナターシャ・ロマノフの、これまで断片的にしか語られなかった“過去”が明らかになっていきます。
“レッド・ルーム”で受けた訓練とは何なのか?が明らかになるとともに、かつて、僅かに語られた“女性にとってはあまりにも壮絶な”処置の経験も改めて語られます。
映画『ブラック・ウィドウ』の物語は90年代、まだ少女だったころのナターシャ・ロマノフの姿から始まります。まだまだ子供と言っていいこの頃のナターシャですが、すでに自分が過酷な環境に身を置いていることを知っています。
そして、“レッド・ルーム”の訓練を何年も生き抜き、一級のエージェントなり、その後ホークアイとの出会いからS.H.I.E.L.Dにスカウトされていくまでの彼女の人生の裏表を我々は改めて知ることになります。
“過去”を抱えているのは“家族”も同じで、妹のエレーナ、母親のメリーナも“レッド・ルーム”で過酷な訓練を受けていて、父親のアレクセイもレッド・ガーディアンとして生きてきた時代がありました。
ナターシャ・ロマノフがブラック・ウィドウとしてアベンジャーズの一員となり、雑誌の表紙を飾るまでのスーパーヒーローとなったことで、離れ離れになった“家族”がナターシャの存在を知ることになり、複雑な思いを抱えながら“家族”が一堂に会することになります。
ナターシャ・ロマノフにとってこの“家族”との再会は否応なしに自分の“過去”と向かい合うことに繋がっていきます。
そして、その“過去がまだただの過去”で終わっていないことを知ったことが、ブラック・ウィドウが今回の闘いに赴く大きな理由となっていきます。
4. 罪
スパイであり暗殺者でもあったブラック・ウィドウ=ナターシャ・ロマノフはこれまでの間、任務という名のもとに多くの破壊工作に関わり、多くの人を傷つけてきました。
任務であり、やらなければ自分に危険が降りかかってくるかもしれないという、特殊な環境でのこととは言え、決して誇れることばかりではなく、アベンジャーズの一員となったブラック・ウィドウは過去の自分の行いを決して拭い去ることのできない“罪”として抱えて生きています。
映画『ブラック・ウィドウ』のクライマックスでブラック・ウィドウは改めて自分が犯してきたこの“罪”と対峙することになります。
過去の罪と向き合うのはナターシャ・ロマノフだけではなく“家族”たちもまた自分のこれまでの行いと向き合わざるを得なくなります。
ブラック・ウィドウが自分の“罪”と向かい合い、闘うことを選んだ時、“家族”たちもまた、自分たちの過去と“罪”と対峙することを選び、ラストの一大決戦へとなだれ込んでいきます。
映画『ブラック・ウィドウ』の構成として、このクライマックスまでかなり“溜め”があるので、ラストの一家が“過去”と“罪”と向き合い、挑むバトルシーンはそのスケール感、大迫力さがより際立つものとなっています。
このクライマックスの一大決戦を見ると映画『ブラック・ウィドウ』はやはりMCU=マーベル・シネマティック・ユニバースの作品だと言うことを思い出させてくれます。
“過去”や“秘密”、“罪”や“家族”と言った非常にパーソナルなものテーマになっている『ブラック・ウィドウ』は全生命体の生死をかけた闘いを描いた『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』に比べると一見すると、とても小さな物語のように見えます。
しかしこのクライマックスを見た時やはり『ブラック・ウィドウ』もまたMCUの娯楽大作アクションであることを再認識させてくれます。
MCUの映画作品としては実に2年の空白を経ての映画がこの『ブラック・ウィドウ』ですが、しっかりとMCUファンを満足させてくれる画作りがされています。
–{最後、5つ目のポイントは…}–
5. ユーモア
“罪”や“過去”、“家族“と言ったパーソナルで、重めのテーマがメインに据えられている映画『ブラック・ウィドウ』ですが、想像以上に笑える映画になっています。
ギャグというよりはユーモアという言葉が相応しいと思いますが、ナターシャとエレーナの姉妹のやり取りは、時に“メタ的”な言葉遊びやチョイスもあって、物語の緩急の“緩”の部分を担っています。
これはスカーレット・ヨハンソンとフローレンス・ピューの二人のもともとの演技力の高さ、コメディエンヌとしての才能があってのことだと思いますが、とにかく笑えます。
着地ポーズネタなどは絶妙なタイミングで差し込まれてきて、このタイミングで笑いを取りに来るのか!?と驚いてしまうほどです。
両親を演じるレイチェル・ワイズとデヴィッド・ハーバーもキャリア充分なベテランとして緩急自在な演技を披露します。特にキャプテン・アメリカに対して独自のこだわりと対抗心を見せるアレクセイのキャラクターと言動は実に愉快な存在です。
メインの4人がシリアスな演技がしっかりできる面々なので、それを崩してきた時には本当に、なんとも言えないユーモアを感じることができます。
時節柄静かに映画を見なくてはいけないのですが、思わず声が出てしまうような笑いの場面も多数あります。
この辺り、シリアスな作品群で知られるケイト・ショートランドを監督に据える一方で、ノンクレジットながらも『アントマン』や『スパイダーマン:ホームカミング』、『マイティ・ソー/バトルロイヤル』などMCU作品の中でも独特の笑いの要素が多い作品に脚本として関わってきたエリック・ピアソンの存在も大きいのではないかと思います。
いよいよ再始動!! MCUフェーズ4
映画『ブラック・ウィドウ』の公開延期が続く中でDisney+でのドラマ作品が先行してしまった形になったMCUフェーズ4ですが、これからは映画の方も賑やかになりそうです。
アジア系俳優を集めた『シャン・チー/テン・リングスの伝説』、オールスタームービー『エターナルズ』、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が2021年内の公開が予定されています。
また映画『ブラック・ウィドウ』と濃密に絡み合いそうなのが、2021年秋にDisney+で配信予定のドラマシリーズ「ホークアイ」があります。
タイトル通りジェレミ・レナー演じる弓矢の達人ホークアイ=クリント・バートンが主人公のドラマですが、ここにナターシャの妹エレーナ=フローレンス・ピューが出演することが明らかになっています。すでに撮影自体は終わっているとジェレミ・レナーが発信しています。詳しくは言えませんが映画『ブラック・ウィドウ』の中にはホークアイについてブラック・ウィドウが言及するシーンも多数あり、ドラマ「ホークアイ」へのブリッジと思われる部分もありました。ご期待ください。
『ゴジラvsコング』『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』などなどブロックバスター作品がアメリカでも大ヒットを記録し始め、超大作がスクリーンに還ってきました。
日程的には日本では『ブラック・ウィドウ』がまさにその先陣を切る形になるので、どのように盛り上がってくれるのか、楽しみですね。
(文:村松健太郎)
–{『ブラック・ウィドウ』作品情報}–
『ブラック・ウィドウ』作品情報
【あらすじ】
S.H.I.E.L.D.のエージェントやアベンジャーズの一員として戦うブラック・ウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)は、かつてはロシアのスパイであり暗殺者であった。アベンジャーズに加わってなお、暗い過去からは逃げ切れず葛藤していたブラック・ウィドウ。 “妹”エレーナ(フローレンス・ピュー)との話から、かつて彼女達自身も厳しい訓練を受けたスパイ養成施設“レッドルーム”がいまだ多くの女性達を鍛え、洗脳状態に置いていることを知る。ブラック・ウィドウは妹をそこに残したままヒーローになった自分を後悔していたが、“母”メリーナ(レイチェル・ワイズ)、 “父”アレクセイ(デヴィッド・ハーバー)ら“家族”との再会によってついにその過去と正面から向き合う。そして“レッドルーム”が生み出した女性暗殺者集団“ウィドウズ”と、その支配者でありどんな能力でも一瞬にしてコピーする最強の敵タスクマスターが、“家族”を執拗に襲撃。黒いマスクとスーツを身にまとい性別も正体も謎に包まれたタスクマスターは、キャプテン・アメリカの盾を操る能力、ホークアイの百発百中の弓の技、ブラックパンサーの爪を使った戦闘スキルをコピーし、ブラック・ウィドウに容赦なく襲いかかる。
【予告編】
【基本情報】
出演:スカーレット・ヨハンソン/レイチェル・ワイズ/フローレンス・ピュー/デヴィッド・ハーバー/O・T・ファグベンル
監督:ケイト・ショートランド
脚本:エリック・ピアソン