ようやく待望の『ゴジラVSコング』が7月2日より日本でも公開されますが、こういったSFやファンタジーなどのジャンル映画はとかくお金がかかるもの。
ハリウッドではCGやミニチュアなどの特撮技術に費用と時間を惜しみなく投入することで、実に貫録ある超大作が次々とお目見えしていくわけですが、日本映画の場合そこの部分がなかなか……。
(日本でもまたゴジラ映画を撮ってもらいたいものですけどね。8月13日公開の『妖怪大戦争』にも期待したいところです)
ただし、映画にはジュヴナイルなどストーリー的な知恵と工夫を駆使して、特撮をさほど必要とせずにSF&ファンタジー映画を作り出すノウハウが昔からあるようにも思われます。
そしてこの6月から8月にかけて、立て続けにそういった知恵と工夫のジャンル日本映画が公開されます。
今回はそれらを追ってみることにしましょう!
『Arc アーク』『夏への扉ーキミのいる未来へー』名作SF文学の巧みな映像化
まず6月25日に公開される石川慶監督の『Arc アーク』はケン・リュウの短編小説「円弧(アーク)」を原作に、人類初の永遠の命を得た女性の軌跡を通して、生きることの意味を問う近未来SFです。
ヒロインのリナ(芳根京子)は遺体にプラスティネーション施術を施して故人の在りし日の姿のまま保存する“ボディワークス”の制作者でしたが、やがて科学の発展によるストップエイジングが可能となり、彼女はその第1号として施術を受け、永遠に30歳の身体のままの人生を生きていくことになります。
まさにアイデアの勝利ともいうべき秀逸な原作小説の映画化ですが、同時にヒロインらが披露するボディワークスのパフォーマンス・シーンなど映像的な見せ場にも怠りはなく、そして後半、多くの人々が永遠の命を得ていく中、それを拒む人らとの交流などを通して「人生」と「命」の意味について深く考えさせられていくのです。
(C)2021 映画『Arc』製作委員会
青春ものからコメディ、ミステリ、時代劇など常にチャレンジングに挑み続ける好感度大の若手女優筆頭株・芳根京子ではありますが、今回初のSFへの挑戦も大成功といっていいでしょう。
同じく『愚行録』(17)『蜜蜂と遠雷』(19)と、どれ一つ似た題材がないチャレンジャー石川監督ですが、いずれも「人間を描く」という点では共通しており、その姿勢もまた頼もしく感じられる次第です。
三木孝浩監督の『夏への扉―キミのいる未来へ―』(6月25日公開)は、タイムトラベルSFの古典として日本にもファンが数多いロバート・A・ハインライン「夏への扉」の翻案映画化。
時代設定はまず1995年、将来を期待されていた若き科学者・高倉(山﨑賢人)が研究の完成を目前にして罠にはまり、冷凍睡眠させられてしまいます。
そして目覚めた30年後の2025年、何もかも失い、自分を慕っていた璃子(清原伽耶)までも死んでしまった事実を知らされた彼は、人間型ロボット(藤木直人)の力を借りて未来を変えるべく動き出すのでした。
(C)2021「夏への扉」製作委員会
ここではSF設定を背景にしながら青春映画としての情緒を大いに強調させており、またそのための同ジャンルの鬼才・三木監督の起用でもあったのでしょう。
『アーク』よりは若干CG技術も用いられていますが、それでも隠し味的な印象で、メインとなるのはやはり生身の人間たちの時を超越しての演技と存在感!
(C)2021「夏への扉」製作委員会
藤木直人のロボット演技も、もはや特撮を不要とするほどの存在感で、見事に主演カップルの瑞々しさを引き立ててくれているのでした。
–{『夢幻紳士 人形地獄』『星空のむこうの国』1980年代の21世紀的復権}–
『夢幻紳士 人形地獄』『星空のむこうの国』1980年代の21世紀的復権
海上ミサコ監督の『夢幻紳士 人形地獄』(6月26日公開)は、1982年より連載開始された高橋葉介の伝説的カルト漫画、初の実写映画化となります。
回によってコミカルだったりグロテスクだったりシュールだったり、実にバラエティ豊かな原作エピソードの中、選ばれた「人形地獄」は特撮技術をほぼ必要としない内容ながらも「人形」というアイテムによって妖艶なダーク・ファンタジーとしての雰囲気が濃厚に醸し出されている優れもので、海上監督が数十年も前から映画化を切望していたものでもあります。
(C)高橋葉介・早川書房・ビーチウォーカーズコレクション
また原作では少年の設定だった主人公探偵・夢幻魔実也を、映画化に際しては青年探偵(皆木正純)に変更していますが、これは「人形地獄」が現在収められている単行本「夢幻紳士 怪奇編」の他のエピソードの魔実也が青年であることともさながら、海上監督の長年イメージしてきた魔実也がこうであったという解釈のほうが正しいのかもしれません。
インディペンデント制作の作品ではありますが、美術や小道具の用い方などで絢爛豪華ながらも幽玄な雰囲気はしっかり保たれており、また市川崑監督の金田一耕助シリーズなど70年代後半から80年代初頭にかけての猟奇ミステリ映画の味わいも感じられる作品です。
(C)2021「星空のむこうの国」製作委員会
さて、1980年代といえば、日本で特撮をさほど必要としないジャンル・ジュヴナイル映画が勃興した時期でもあります。
その始まりは大林宣彦監督の『転校生』(82)あたりかと思われますが、自主映画界の先達でもある大林監督の後輩にあたる小中和哉監督ら当時の自主映画界で活躍していた若手たちの多くは、1970年代の「NHK少年ドラマシリーズ」の洗礼を受けた世代でもありました。
そんな小中監督が、自分たちの「NHK少年ドラマシリーズ」を、即ち自分たちが見たい映画を作ろうではないかという意気に燃えて製作したのが1986年に公開された『星空のむこうの国』で、これが当時の映画ファンから多大な支持を受けたことをきっかけに、本作関係者の多くはプロの世界へ躍り出ていきます。
そして35年の月日が経ち、小中監督ら当時のスタッフで2021年版『星空のむこうの国』が完成し、7月16日に公開されることになりました。
(C)2021「星空のむこうの国」製作委員会
自分が死んだことになっているパラレルワールドに迷い込んだ主人公の高校生・昭雄(鈴鹿央士)が、その世界の病弱な恋人・理沙(秋田汐梨)のためにシリウス座流星群を見せてあげるべく病院を抜け出すという基本ストーリーはどちらも同じですが、この後の展開が……(それは見てのお楽しみ!)。
1986年版と違って今回は流星群のシーンなどCGがふんだんに使われてはいますが、やはり基本は素朴なジュヴナイルSFファンタジー。
双方をリアルタイムで見ることのできた私のような世代としては瑞々しい印象が何ら変わることなく、その一方では今の時代を疾走する若手キャスト陣の存在感によって、また新しい『星空のむこうの国』が生まれたという嬉しき実感もあります。
(C)2021「星空のむこうの国」製作委員会
さらには1986年版でヒロイン理沙を務めた有森成実が今回は理沙の母親役で出演し、どこかしら娘を応援している風情から、双方の作品が彼女を通じてリンクしているかのような想いでもあるのでした。
–{『サマーフィルムにのって』『ロボット修理人のAi(愛)』ジュヴナイルはこれからも……}–
『サマーフィルムにのって』『ロボット修理人のAi(愛)』ジュヴナイルはこれからも……
概して日本のジュヴナイルSFはタイムトラベルやタイムリープ、パラレルワールドといった日常と非日常の狭間にあるかのようなトワイライトな要素をアクティヴに盛り込むことに長けているようで、松本壮史監督の『サマーフィルムにのって』(8月6日公開)も、やはり同傾向の作品といえます。
所属する高校の映画部がキラキラ映画ばかり作っていることに不満たらたらな時代劇オタク少女ハダシ(伊藤万理華)3年生は、あるとき出会った少年・凛太郎(金子大地)に理想のサムライ像を見出し、彼を主演にした時代劇映画の制作に踏み切り、文化祭でのゲリラ上映を目論みます。
ところが実はこの凛太郎、何と未来からやってきたタイムトラベラーだった!?
(C) 2021「サマーフィルムにのって」製作委員会
ヒロインがカツシン(勝新太郎)大好きというところからして、もう映画ファンはノックアウトではありますが、それ以上に本作は10代の時期だけに共有できるような友情や恋愛といった日常的青春要素の中にSFや時代劇(見事な殺陣も披露!)といった非日常が入り込んでいきます。
ハダシの親友ビート板(河合優実)が読んでいる小説が「時をかける少女」だったり、それこそ「夏への扉」であったり、同じく親友の剣道少女ブルーハワイ(祷キララ)が実はキラキラ系の大ファンだったり、なぜ凛太郎がこの世界にやってきたかという理由に至っては、もう映画ファンなら大いに納得!
かくして高校最後の夏とは、まるで「映画」そのもののために存在しているのではないかと思わされるほどに胸キュンすぎる情感を以って、彼女ら彼らを祝福してくれるのでした。
これぞ日本映画ならではのジュヴナイル!
そしてもう1本、田中じゅうこう監督『ロボット修理人のAi(愛)』(7月10日公開)は、修理できない機械はないほどの天才少年・倫太郎(土師野隆之介)16歳の青春を描いたもの。
ここに登場するのはAIBOなど現実に存在するロボットたちであり(そもそも本作はロボット修理人として知られる乗松伸幸さんをモデルに企画されたものとのこと)、科学的雰囲気こそ漂わせつつ、決してジャンル映画ではない……はずなのですが、はてさて最後まで鑑賞していくと一体どうなるのか、これまた見てのお楽しみ!
(C)2021 GENYA PRODUCTION ROBOT REPAIRBOY
いずれにしましても、今はAIBOにしてもここまで技術が進化しているのかと驚かされますし、とどのつまりSFとは本来“SCIENCE FICTION”の略ではありますが、いずれは“SCIENCE FACT”の略になる日もそう遠くはないのかもしれません。
そして本作はそんな“SCIENCE FACT”の中にボーイ・ミーツ・ガール的な思春期要素を好ましく入れ込みつつ、さらにはこの世とあの世の狭間を謳う伝承であったり、現在と過去の因果などから生きることの尊さみたいなものを誠実に描出していきます。
(C)2021 GENYA PRODUCTION ROBOT REPAIRBOY
これもまたジュヴナイルだからこそもたらすことのできるファンタジックな要素の発露であり、こういった題材に対する斬新なアイデアと真摯な姿勢がある限り、特撮の有無の別などとっぱらってSFもファンタジーも一層盛り上がっていくことでしょう。
超大作『ゴジラVSコング』『妖怪大戦争』ともども、今年の夏はこういった珠玉のジャパニーズ・ジュヴナイル・ジャンル映画にも是非注目してみてください。
(文:増當竜也)
–{作品情報}–
『Arc アーク』作品情報
ストーリー
そう遠くない未来。生まれたばかりの息子と17歳で別れたリナ(芳根京子)はその後、放浪生活を送っていた。だが、19歳の時、彼女は師となるエマ(寺島しのぶ)と出会い、大手化粧品会社エターニティ社で“ボディワークス”という職を得る。それは、最愛の存在を亡くした人々のため、生前の姿のまま遺体を保存できるように、施術“プラスティネーション”を行う仕事だった。悲しみを乗り越えたい人々からの依頼は絶えることがなく、その一方でエマの弟の天才科学者・天音(岡田将生)は、その技術を発展させ、姉と対立しながら“不老不死”の研究を進めていた。そして30歳を迎えたリナは、天音と共に“不老不死”の処置を受ける人類史上初の女性となり、永遠の命を得る。やがて、世界では不老不死が当たり前のことになるが、それは人類を二分化し、同時に混乱と変化を生み出していった。果たして、不老不死が生み出した未来の先にリナが見たものとは……?
予告編
基本情報
出演:芳根京子/寺島しのぶ/岡田将生/清水くるみ/井之脇海/中川翼/中村ゆり/倍賞千恵子/風吹ジュン/小林薫
監督:石川慶
公開日:2021年6月25日(金)
製作国:日本
『夏への扉ーキミのいる未来へー』作品情報
ストーリー
1995年、東京。育ての親・松下の遺志を継いだ高倉宗一郎(山﨑賢人)は、将来を嘱望される科学者として研究に没頭し、愛猫のピートや松下の娘・璃子(清原果耶)との穏やかな日常を送っていた。しかし、罠にはめられ、研究も会社も奪われ、強制的に冷凍睡眠させられる。そして30年後の2025年、目が覚めた宗一郎は、璃子の死をはじめとした数々の悲しい現実を目の当たりにする。すべてを失ったことを知ると、ヒューマノイドロボット(藤木直人)の力を借り、未来を変えようと決意する……。
予告編
基本情報
出演:山﨑賢人/清原果耶/藤木直人/夏菜/眞島秀和/原田泰造/高梨臨/浜野謙太/田口トモロヲ
監督:三木孝浩
公開日:2021年6月25日(金)
製作国:日本
『夢幻紳士 人形地獄』作品情報
ストーリー
昭和初期の日本。探偵の夢幻魔実也(皆木正純)は、他人の心を視たり、他人に自由に夢を見せたりする力を持っていた。ある夏の終わり、魔実也は道端で聞こえてきた不思議な声に誘われ、木箱から発見された少女・三島那由子(横尾かな)に会いに行く。山奥の診療所で会った那由子は、反応が全くなく、まるで人形のようであった。那由子の母・ミツ(井上貴子)によると、奉公に出たまま数ヶ月の間行方がわからなかったという。ミツから那由子を助けてほしいと懇願されるが、かつて暗示に失敗し一人の女性を廃人にしてしまったことがある魔実也は二の足を踏む。しかし彼を追いかけてきた元依頼人・小堀(龍坐)や、村人を脅かす謎の犬男が現れたことにより、魔実也は那由子の心を視ざるを得なくなる。すると那由子は、奉公先の女主人・雛子により自分のことを人形だと思い込むよう暗示をかけられていた……。
予告編
基本情報
出演:皆木正純/横尾かな/岡優美子/龍坐/紀那きりこ/杉山文雄/SARU/井上貴子/義いち/山口美砂/森川陽月/山田歩 ほか
監督:海上ミサコ
公開日:2021年6月26日(土)
製作国:日本
『ロボット修理人のAi(愛)』作品情報
ストーリー
16歳の倫太郎(土師野隆之介)は天才的な技能を駆使し、古い家電からロボットまで修理を請け負う工房で働いている。孤児だった倫太郎は高校を中退し、バイトをしながら深夜独学でロボットの勉強をしている。そんななか、東京でひとり暮らしをしている老婦人から、AIBOの修理を依頼される。亡くなった息子が遺したというAIBOは、音声装置とメモリーが壊れていた。同じころ、倫太郎は発声障害のある14歳の少女すずめ(緒川佳波)と知り合う。ふたりはすぐに仲良くなり、依頼品のAIBOとともに、20年ぶりに復活した榛名湖のダイダラ祭りに出かける。湖には、願いが叶うと亡くなった人が甦るという『甦りの伝説』があった。帰り道、AIBOがある録画映像を映し出し、倫太郎も知らなかった過去が明らかになる……。
予告編
基本情報
出演:土師野隆之介/緒川佳波/金谷ヒデユキ/亮王/岡村洋一/堀口聡/野口大輔/水沢有美/丸山ひでみ/亜湖/ぴろき/大村崑/大空眞弓
監督:田中じゅうこう
公開日:2021年7月10日(土)
製作国:日本
『星空のむこうの国』作品情報
ストーリー
高校生の昭雄(鈴鹿央士)は2カ月間毎晩、同じ少女が現れる夢を見続けていた。そんなある日、昭雄の目の前に突然その少女が現れる。彼女の名は理沙。理沙はある約束を果たすため、もうひとつの世界線に生きる昭雄を呼び続け、その純粋な想いが運命の人を呼び寄せたのだ。今宵は33年に一度シリウス流星群が地球に最接近する日。まっすぐに惹かれ合う2人は、同じ星空の下、約束を果たすことができるのか……?
予告編
基本情報
出演:鈴鹿央士
監督:小中和哉
公開日:2021年7月16日(金)
製作国:日本
『サマーフィルムにのって』作品情報
ストーリー
伊藤万理華が主演を務める青春映画。ハダシは時代劇映画オタクの⾼校三年⽣。所属する映画部では青春恋愛映画ばかりで、自分の撮りたい時代劇が中々作れずにくすぶっていた。そんなある日、ハダシの前に現れたのは武士役として理想的な男子、凛太郎。すぐさま幼馴染のビート板、ブルーハワイを巻き込み映画制作に乗り出したハダシは、個性豊かなスタッフを集め文化祭での上映を目指すことに。順調に制作を進めていく彼らだったが、実は凛太郎はタイムトラベルしてきた未来人だった……。
予告編
基本情報
出演:伊藤万理華/金子大地/河合優実/祷キララ/板橋駿谷/甲田まひる/ゆうたろう/小日向星一/池田永吉/篠田諒
監督:松本壮史
公開日:2021年8月6日(金)
製作国:日本