『ベル・エポックでもう一度』レビュー:頑固オヤジがタイムトラベルサービスで疑似BTTFしてみたら?

ニューシネマ・アナリティクス

■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

「新しいものなんか大嫌いだ!」と豪語する、日本で例えたら戦後昭和の頑固オヤジみたいな存在は、当然ながらフランスにもいるようです。

で、そんな頑なな貴方に〈タイムトラベルサービス〉はいかが?

このサービス、映画制作のノウハウを活かしながら、お客さんが戻りたいと望む過去を広大なセットで再現するというもの。

どちらといえば「映画」というよりも「演劇」的な感もなくはなく、言わば劇団を丸ごとレンタルして「バック・トゥ・ザ・フューチャー(BTTF)」気分を味わうといったものです。

現実的に考えると無理のある設定というか、費用もさぞ膨大な、所詮はお金持ちの遊びでしかないのでは? などとひねくれたことを最初は思いつつ、それでも見ていくうちに映画ならではのマジックでどんどん世界観に引き込まれていくのが、この作品の妙味と言えるかもしれません。

初老の主人公ヴィクトル(ダニエル・オートゥィユ)が望むのは、今ではすっかり冷めきった仲の妻マリアンヌ(ファニー・アルダン)と初めて出会った1974年のカフェ。

しかし、そこで若き日の妻の役を演じる女優マルゴ(ドリア・ティリエ)にどんどん入れ込んでしまい、お金もどんどん消えていくあたり、風俗にドはまりして抜けられなくなっていく男の顛末を見せられているようでもあります。

一方では舞台裏でのマルゴとデイレクター(ギョーム・カネ)とのギクシャク・ラブも並行して描かれていきますが、やはりメインは頑固オヤジの疑似BTTFが最終的に何をもたらすか?

結末そのものは大方予想のつくものではありますが、そこに至るまでの仕掛けにユニークな工夫がなされていて、特にクライマックスからラストにかけての30分ほどは「なるほどそう来たか!」とでもいった、軽く粋なカタルシスを味わことが出来ました。

それにしてもフランスって浮気もオープンなのか、母が息子に平気でそういう話をしたり、下ネタ台詞も平気で口にして、ゴーグルつけながら浮気相手にクンニさせてしまう、そんなファニー・アルダンの貫禄には圧倒されっぱなしです。

セザール賞ではオリジナル脚本賞と美術賞(1974年の風俗を見事に再現!)、そして彼女が助演女優賞を受賞していますが、それも当然! と納得の好演なのでした。

(文:増當竜也)

–{『ベル・エポックでもう一度』作品情報}–

『ベル・エポックでもう一度』作品情報

ストーリー
何もかもがデジタル化された世の中についていけない元売れっ子イラストレーターのヴィクトル。仕事を失い、妻のマリアンヌにも見放された彼を元気づけようと、息子のマクシムは友人のアントワーヌが始めた<タイムトラベルサービス>をプレゼントする。それは、映画製作の技術で、客が戻りたいと思う過去を広大なセットに再現する体験型のエンターテイメントだった。ヴィクトルは「1974年5月16日のリヨン」をリクエストする。指定されたセットに行くと、まさに1974年のリヨンの街並みと彼が泊まったホテルが存在していた。部屋に用意された70年代ファッションに着替え、今はなき想い出のカフェで女優のマルゴが演じる<運命の女性>と出会うヴィクトル。記憶どおりの輝かしき日々の再体験にすっかり夢中になり、見違えるほどイキイキしたヴィクトルは、サービス延長のために、唯一にして全財産の別荘まで売り払ってしまう……。

予告編

基本情報
出演:ダニエル・オートゥイユ/ギョーム・カネ/ドリア・ティリエ/ファニー・アルダン/ピエール・アルディティ/ドゥニ・ポダリデス

監督:ニコラ・ブドス

公開日:2021年6月12日(土)

製作国:フランス