現在のコロナ禍における映画撮影がいかに大変であるかを、最近いろんな映画人たちから聞く機会がありました。
本番以外はマスク必須のリハーサルやら、エキストラや現場に入ってくる人たちへの配慮など、とにかく誰ひとりとして感染させないように苦慮するスタッフ&キャストの努力は並大抵のものではありません。
ただし、そもそも映画撮影も含めた映画制作とは実に大変なものではあり、しかしそれでもみんな映画を作りたがるのはなぜなのか?
そんな疑問にエンタメの形を通して楽しく伝えてくれる映画が偶然にも2本、6月4日から公開されています!
1974年の映画制作と保険金殺人!?『カムバック・トゥ・ハリウッド‼』
まずは『カムバック・トゥ・ハリウッド‼』。
舞台は1974年のハリウッド、多額の借金に苦慮するB級映画プロデューサーのマックス(ロバート・デ・ニーロ)は、往年の映画スター、デューク(トミー・リー・ジョーンズ)を映画撮影中に事故死とみせかけて殺害し、その保険金でギャングのレジー(モーガン・フリーマン)に借金返済しようと企みます。
ところがこのデューク、なかなか悪運が強いのか、なかなかしぶとくて撮影は順調に進んでしまう!?
この映画、ハリウッドが誇る3大レジェンド・スターの共演で、往年のハリウッドの映画制作の実情などを抱腹絶倒のドタバタコメディ・スタイルで面白可笑しく見せながら、限りない映画愛を観客にそこはかとなく提示していく絶品です。
劇中にはさまざまな映画ウンチクも登場しますので、映画クイズ的感覚を楽しむことも十分可能でしょう。
ところで1974年のハリウッドといえば、アメリカン・ニューシネマの余波が色濃く残る中、いわゆる正統派西部劇はどんどん廃れていった時代です。
(トミー・リー・ジョーンズ扮するデュークですが、その役名は西部劇の王者ジョン・ウェインのあだ名でもありました。それもあって、本作の撮影風景はかなり王道を意識した大らかなものになっています)
またきらびやかな映画スターというよりも、演技力のあるアクター&アクトレスたちがどんどん台頭していった時代でもありました。
(それこそロバート・デニーロは、その筆頭ともいえるでしょう。なお、彼は1974年の『ゴッドファーザーPARTⅡ』でアカデミー賞助演男優賞を受賞しました)
ブラックムービー・ブームによって、その後の黒人俳優たちに希望の光を与えたのも1970年代初頭のことでした。
(モーガン・フリーマンは1971年に映画デビューし、80年代に入ってから徐々に映画スターとして頭角を現していきます)
そして本作の監督ジョージ・ギャロは1973年のロバート・デ・ニーロ&ハーヴェイ・カイテル主演映画『ミーン・ストリート』を見て以降、大学で映画を専攻するようになったとのこと。
そして彼は1974年に1本の自主映画“The Comeball Trail”を見て、そのアイデアに感銘を受けつつ、やがてデ・ニーロ&チャールズ・グローディン主演映画『ミッドナイト・ラン』(88)の脚本を書いて注目されるようになりますが、その上映会でかつての自主映画の監督未亡人と偶然知り合ったことから映画化権を獲得して商業映画化に乗り出します。
それが本作『カムバック・トゥ・ハリウッド‼』(原題は“The Comeball Trail”)なのでした!
もうこういったエピソード自体が映画的奇跡のようであり、そういった熱い想いがここでは陽性のコメディとして見事に開花しつつ、観客を更なる映画ファンへと意識を啓蒙してくれます。
即ち映画ファンやマニアは無論のこと、さほど映画に詳しくない方でも、映画業界の裏表や制作現場のドタバタなどを通して“映画”そのものへの興味を募らせてくれるのでした!
–{ 良い作品を作るための確執を描く『映画大好きポンポさん』}–
良い作品を作るための確執を描く『映画大好きポンポさん』
続いて『映画大好きポンポさん』は杉谷庄吾【人間プラモ】の同名コミックをアニメーション映画化したものですが、これがもうシビアなまでに映画制作の裏表を描出していく優れものです。
可愛い絵柄に慣れない映画ファンも、いざ見始めて数分経つとその魅力に取りつかれること必至!
本作の舞台はハリウッドならぬ“ニャリウッド”で、主人公は映画プロデューサーのポンポさん(声/小原好美)。
見た目はお子ちゃまながら、これがもうなかなかどうして敏腕プロデューサーで、嗜好としてはB級映画が大好きで、上映時間は90分がベストといった確固たる信念の持ち主でもあります。
(余談ですが『ストリート・オブ・ファイヤー』(84)のウォルター・ヒル監督は、上映時間が90分から100分の間で収まるよう常に腐心しているとのこと)
そんなポンポさんの下で制作アシスタントをしているのが映画オタクのジーン(声/清水尋也)ですが、彼が作った15秒CMの出来をポンポさんに見込まれて、何と映画監督デビュー!
(日本でも、かつて映画撮影所では助監督に予告編を作らせながら、監督昇進の有無やらタイミングやらを決める風潮があったようです)
ここから俄然面白いことが始まります。
ポンポさんの人を見る目は確かでした。
ジーンは卓抜たる才能の持ち主だったのです。
撮影そのものもいろいろありつつ、新人からベテラン・スターまで気概のある助力を得ながら何とかクランクアップ。
しかし編集の際、場面を上手く繋いでいくために必要なショットを撮っていなかったことなど、まだまだジーンは不慣れな新人監督でもありました。
もっとも普通はそこで諦めてしまうところですが、見た目こそオドオドしていながらも実は映画に対して熱く頑固だったジーンは、ポンポさんら制作サイドに対して追加撮影などをどんどん要求していくのです。
日本でも古くは黒澤明や溝口健二など完全主義者の巨匠は多くいますし、最近では庵野秀明監督の作品にかける執念が映画ファンの間で話題になったばかりですが、このジーンもそういった系列に加えられる監督だったのでした。
かくして始まるプロデューサーVS監督のクリエイトをめぐる熱い闘いの日々!
現在上映中の『HOKUSAI』でも江戸期の絵師・葛飾北斎とそのクライアント蔦屋重三郎の熱い駆け引きが魅力的に描かれていましたが、本作も作品作りの上でのクリエイターの想いにプロデューサー(=クライアントでも可)はどう応えていくべきかといったギクシャクが、可愛い絵柄をよそにスリリングに繰り広げられていきます。
良いものを作りたいという気持ちはみな同じ。
あくまでもそのために妥協したくない映画監督。
一方で映画には時間とお金、そして多くの人が動いて初めて制作できる事を身をもって知るプロデューサーは、そんな映画監督とどう対峙していくのか?
これはもう映画が好きで、映画作りに興味のある方ならますます見逃せない作品であるともいえるでしょう。
こちらもちょっとした映画ウンチクやコネタもいろいろ込められていますが、やはり後半のいわゆる生産者同士のエゴとエゴのぶつかり合いこそが大きな見どころと言えるでしょう。
監督は現在のアニメ映画ブームの火付け役となった『劇場版「空の境界」』シリーズ(07~)の中でも屈指の問題作として話題を集めた『第5章 矛盾螺旋』(08)や海外で大きく採り上げられた『魔女っ子姉妹のヨヨとネネ』(13)などで知られる若き俊英・平尾隆之。
彼自身は本作のジーンの映画監督としてのありようをどう思いながら演出していったのか、ちょっと訊いてみたい気もしています。
(個人的には編集の後の音楽録音やダビングに関するこだわりなども描いてもらいたかったけど、そこまでやると本作の上映時間が90分を越えてしまう!?)
いかがでしょうか、今回の2作品、一度でも「映画が好き」と思ったことのある方はもちろんのこと、まだ伊賀の魅力に気づいてない方にもぜひ見ていただきた逸品です。
そして一刻も早く困難な映画制作の現状が改善されていきますように!
(文:増當竜也)
–{『カムバック・トゥ・ハリウッド‼』『映画大好きポンポさん』作品情報}–
『カムバック・トゥ・ハリウッド‼』作品情報
ストーリー
1970年代のハリウッド。ギャングのレジー(モーガン・フリーマン)からの借金が返せずピンチに陥っていたB級映画プロデューサーのマックス(ロバート・デ・ニーロ)は、起死回生の大トリックを思いつく。それは、危険なスタント撮影で死亡事故を起こし、保険金をガッポリ手に入れるというもの。早速ボツにしていたサイテーの脚本を引っ張り出すと、老人ホームに入っていた往年のスター、デューク(トミー・リー・ジョーンズ)を担ぎ出して西部劇の撮影を始める。本当の目的は映画を絶対に完成させないこと、そして撮影中にデュークに死んでもらうことだったが、デュークは思いの外しぶとく、撮影は順調に進んでしまう……。
予告編
基本情報
出演:ロバート・デ・ニーロ/トミー・リー・ジョーンズ/モーガン・フリーマン/ザック・ブラフ/エミール・ハーシュ
監督:ジョージ・ギャロ
公開日:2021年6月4日(金)
製作国:アメリカ
『映画大好きポンポさん』作品情報
ストーリー
敏腕映画プロデューサー・ポンポさん(声:小原好美)のもとで、アシスタントとして働くジーン(声:清水尋也)は、観た映画をすべて記憶している映画通。映画を撮ることにも憧れていたが、自分には無理だと毎日を過ごしていた。そんな折、ポンポさんに15秒CMを任されたジーンは、映画制作に没頭する楽しさを知るのだった。ある日、ジーンはポンポさんから、次に制作する映画『MEISTER』の脚本を渡される。それは、伝説の俳優の復帰作にして、頭がしびれるほど興奮する内容であった。ジーンは大ヒットを確信するが、監督に指名されたのはCMが評価されたジーンだった。ポンポさんの目利きにかなった新人女優をヒロインに迎え、ジーンは監督として撮影に臨むのだが……。
予告編
基本情報
声の出演:清水尋也/小原好美/大谷凜香/加隈亜衣/大塚明夫/木島隆一
監督:平尾隆之
公開日:2021年6月4日(金)
製作国:日本