【映画VS原作】『るろうに剣心 最終章』2作について|映画でカットされた事、色濃く出た事…

映画コラム

遂に完結を迎えた佐藤健主演、大友啓史監督による映画『るろうに剣心』。10年の間に5本の映画が作られ、どれもが大ヒットを記録してきました。

シリーズ4作目の『るろうに剣心 最終章 The Final』は緊急事態宣言による東京、京阪神の映画館の休業を乗り越えて2021年実写映画ナンバーワンヒット作品になっています。

週間ランキングでは公開4週目にしてランキング1位になるなどロングランを記録。このシリーズへの岩盤支持層の強さを改めて感じさせる動きとなっています。

そして、シリーズ完結編にして“全ての始まり”の物語『るろうに剣心 最終章 The Beginning』が2021年6月4日より劇場公開。6月1日から東阪の映画館も動き出しているので、完結編に相応しい大ヒットで幕を開けることになるかと思われます。

そこで今回は『るろうに剣心 最終章 The Final』の原作にあたる「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」の「“人誅編”」と『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の原作にあたる「“追憶編”」との比較をまとめてみたいと思います。

※これより先は一部ネタバレにあたる部分がありますのでご注意ください
 

『るろうに剣心 最終章 The Final』×「るろうに剣心“人誅編”」

削られたあの仕掛け

『るろうに剣心 最終章 The Final』は原作のいわゆる「“人誅編”」を基にしていますが、映画オリジナルの要素も多分に含まれています。

原作の「“人誅編”」は「“志々雄真実編(京都編)”」の直後から話が始まり、雪代縁と同志たちによる最初の東京襲撃、その後「“追憶編”」のパートを挟んでの神谷道場での対決、その意外な結末が剣心と仲間たちの離散を招き、その後、様々なものを乗り越えてからの再集結を経て、縁のアジトでの最終決戦となります。

中盤の山場、神谷道場での対決の幕切れはかなりショッキングなもので、原作連載当時は読者の間で大きな話題となりました。

しかし、このエピソードを実写映画でやってしまうと映画のバランスを崩すほどのホラー映画になってしまいます。

また、この展開、実は映画シリーズ第2作の『京都大火編』から第3作の『伝説の最期編』ブリッジとして一度使ってしまっていると言うこともあります。

また、原作で剣心をどん底に突き落とすこの仕掛けをした外印(げいん=元ネタは映画『サイコ』のモデルになったエド・ゲイン)というキャラクターは実は映画のシリーズ第1作の『るろうに剣心』に綾野剛が演じる形ですでに登場してしまっています。

それもあって、映画ではこの仕掛けはなくなり、シンプルに神谷薫がさらわれた縁のアジトに、剣心が乗り込んでいくという形になりました。
 

原作よりバトルシーンの多い雪代縁

『るろうに剣心 最終章 The Final』と原作の「“人誅編”」と比べて圧倒的に多いのが新田真剣佑演じる雪代縁のバトルシーンでしょう。

この一本で雪代縁が圧倒的に強い敵であることを観客に印象付けなくてはいけないこともあって、映画が始まるやいなや雪代縁はスクリーンを所狭しと暴れまわります。

けん玉で警官隊を圧倒する列車内のシーンから始まり、神谷道場を襲撃し門下生はもちろん相楽左之助をフルボッコにし、裏で繋がっていた元十本刀の“刀狩りの張”を本当に殺してしまうという圧倒的な強さを見せます。これには佐藤健演じる緋村剣心も押され続けます。

その決着は原作に近い形になるのですが、最終盤までどっちに勝利が転ぶのか?と思わせるほど新田真剣佑の雪代縁はすさまじい強さを見せつけてくれます。

あのサプライズにも実はネタ元が!?

『るろうに剣心 最終章 The Final』の最期のサプライズが公開まで関係者内にも箝口令が敷かれ、徹底した秘密主義を押し通された神木隆之介演じる“天剣の宗次郎”の登場でしょう。

瀬田宗次郎は原作・映画共に「“志々雄真実編(京都編)”」で登場した飛天御剣流より速い“縮地”の使い手であり、剣の腕も剣心の逆刃刀を折る程の実力者です。

原作では「“志々雄真実編(京都編)”」が終わった後も生き残り、流浪人とし生きようとする姿が描かれています。

「“人誅編”」には登場しませんが、現在連載中の「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚・北海道編-」では剣心たちに合流しています。今回の『The Final』はこの要素を取り込んだと思われます。

現在も「“北海道編”」を読んでいる人には瀬田宗次郎が助っ人参戦するという展開にはニヤリとさせるサプライズと言えるでしょう。

映画シリーズ全体でカットしたもの

『るろうに剣心 最終章 The Final』は「人誅編」を一本の映画にまとめ上げるために大きくカットしているパートがあります。

原作では先制攻撃のあと2ラウンドあった剣心たちと縁派の闘いは基本的には一つにまとまっているといえるでしょう。代わりに中盤の東京大襲撃シーンは映画オリジナルの見せ場ですが…。

さらに、これは映画シリーズ全てに言えることでもありますが、大きく役割が変わっているのが明治に生まれた少年剣士・明神弥彦のウェイトでしょう。

幕末から生きてきた剣心や斎藤一、志々雄真実、雪代縁など“過去”を常に抱える人物たちに対して物語の“未来”の担い手として明神弥彦のウェイトは原作の中では非常に大きな存在でした。

しかし映画化に際して、大友啓史監督はある種の決断としてこの部分を大きくカット。

「“人誅編”」での弥彦のかなり強い剣士となっていくので活躍の場もあるのですが、これはやはり長期連載の漫画と2時間前後でまとめ切らなくてはいけない映画とのフォーマットの違いを感じますね。

–{『るろうに剣心 最終章 The Beginning』×「るろうに剣心“追憶編”」}– 

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』×「るろうに剣心“追憶編”」

思っている以上にストレートな映画化となった『るろうに剣心 最終章 The Beginning』

大きな改編や、シリーズ1作目にすでに「“人誅編”」のキャラクターを登場させたために新規キャラクターを出すなど大きな改編があった『るろうに剣心 最終章 The Final』に対して『るろうに剣心 最終章 The Beginning』は原作の「“追憶編”」にかなり忠実です。

オープニングなどには実は映画オリジナルの描写もあったりするのですが、『The Beginning』の主人公が緋村剣心ではなく緋村抜刀斎であることを強烈に突き付けるという部分では原作とは変わりありません。

映画を観進めていっても原作では「割愛されたけど、詳しく語るとこうなるのだろうな」と感じさせるパートになっています。

もともと、「“追憶編”」の映像化に強い思いを抱いていた主演の佐藤健と大友啓史監督は、原作に対して非常に忠実に映像化しています。それはクライマックスの“闇乃武”の一団との雪山での大激闘でも変わりません。

オリジナル要素 VS新選組・沖田総司

原作に忠実な『るろうに剣心 最終章 The Beginning』ですが、オリジナル要素として大きく膨らませているのが、幕府方最強の剣客集団・新撰組と対峙することでしょう。

斎藤一との因縁は原作でもに大きく時間を割いて描かれていて、それは映画5部作でも変わっていませんね。
結果としてその斎藤一を演じた江口洋介は映画『るろうに剣心』5部作全てに出演している唯一のレギュラーメンバーとなりました。

また、原作では回想シーンの数コマしか登場しなかった新撰組の天才剣士・沖田総司が映画ではしっかりと登場し、村上虹郎が演じています。

村上虹郎は映画『武曲MUKOKU』『燃えよ剣』でも見事な殺陣を披露しています、
『燃えよ剣』での村上虹郎はなんと、人斬り以蔵役こと岡田以蔵役です。佐藤健もNHK大河ドラマ『龍馬伝』(メインディレクターは大友啓史監督)で岡田以蔵を演じているので、今回の対決は“岡田以蔵俳優”対決でもありますね。

この人斬り抜刀斎 VS 沖田総司の闘いは、天才剣士同士『The Beginning』の屈指の名勝負となっています。

その一方で、実は登場回数の多さのわりに、剣心と斎藤一が本格的に刃を交わらすことがないのが面白いところです。原作では一大バトルを繰り広げるエピソードがあります。

『るろうに剣心 最終章 The Final』は長大な「“人誅編”」を約2時間という映画のフォーマットに合わせるために取捨選択が多く行われました。

対照的に『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の方はもともとの原作の「“追憶編”」のボリュームが映画化に合わせてちょうどよかったことや、主演&監督コンビの「“追憶編”」へのリスペクトの気持ちもあるせいか原作に対して意外なほどのストレートな映画化になっていいます。

ちなみに原作の「“追憶編”」のラストでは抜刀斎から裏の人斬りを引き継ぐ形で若き日の志々雄真実が登場するので、映画でも藤原竜也サプライズを期待したのですが、残念ながらそれはなかったです。

リピーターになったなら・・・。

『るろうに剣心 最終章 The Final』と『るろうに剣心 最終章 The Beginning』は一回目は素直に映画を浴びるように体験していただきたいです。もしリピーターになられるようであれば、映画『るろうに剣心 最終章』2部作の原作からの“アレンジのされ具合い”と“されなさ具合い”を気にしながら観るというのも楽しみ方の一つになるのではないでしょうか?

(文:村松健太郎)