8/20公開の映画『ドライブ・マイ・カー』で三浦透子が演じたのは、寡黙な専属ドライバー・みさき。西島秀俊演じる舞台俳優・家福のもとで、要望通りに車を走らせる彼女。
女優・三浦透子はどんな思いで、みさきという役を演じたのだろうか。
コロナによる撮影延期、ハプニングが良い方向へと働いた
ーー西島さんが演じていらっしゃる舞台俳優の家福と、三浦さんが演じてらっしゃる専属ドライバーのみさき。車の中で言葉を交わされるシーンがどれも印象的で、心に残る美しいシーンが詰まった映画だなと感じました。
三浦さんは、この撮影のために運転免許を取られたと聞いたんですが、免許の取得も含めてのオファーだったんでしょうか?
三浦さん(以下、三浦):
そうですね。でも、濱口さん(監督)はご自分で運転されないそうなんですよ。
ーーあ、そうなんですか!?
三浦:
免許は持ってらっしゃるけど、運転はしないって伺った気がします。とにかく「運転のことはわからない」とおっしゃっていて。このみさきという役を、免許のない私にオファーするって……結構、勇気のいることだと思うんです。
おそらく、濱口さん自身が車に乗られないから、出来たことなんじゃないかと思います(笑)。
ーー三浦さん自身、免許を取られたばかりで、運転が上手い女性の役を演じなきゃならない。プレッシャーはなかったんでしょうか?
三浦:
運転が上手に見えることは、みさきという人物像を描く上でもすごく大切なことで。「しっかり練習しなきゃ」っていう意識が強くありました。
でも、現場の方々もかなり練習する機会を作ってくださったんですよ。とても助かりましたね。たくさん運転する時間をもらえたので。
ーー実際にどれくらいの間、運転の特訓をされたんでしょう?
三浦:
車の運転シーンは2020年4月に撮影する予定だったんですが、コロナの影響もあって11月に延期になったんです。そのおかげもあって、かなり練習する時間が取れました。
もちろん予定通り4月に撮れたら、その時期にしか撮れない何かがあったのかもしれない。そういった意味では、一概に延期されて良かったとは言い切れないんですけど。
でも、そういうちょっとしたハプニングが、この映画にとってはすごく良い方向に動いたんじゃないかって私には思えるんです。不思議なんですけどね。実際に映画の中でも、東京から広島へ移る間には、ある程度の時間経過がある描写なので。
ーー舞台俳優である家福が、広島で演劇を演出するために移動する場面ですね。
三浦:
必然的にそこに時間が生まれたというのは、決して悪いことばかりじゃなかったのかもしれないなと、今になっては思うんです。少なくとも、この映画にとっては。
–{黄色いサーブではなく、赤いサーブを登場させた理由}–
黄色いサーブではなく、赤いサーブを登場させた理由
ーー北海道・赤平で撮影されたという冬道での運転シーンは、見ていて「スリップが怖いんだよね……」と変なところで共感してしまいました。私も三浦さんと同じく、北海道出身なので。
三浦:
北海道の撮影では、両親や祖父母にいろいろとアドバイスをもらいました。冬の雪道を運転するときのアドバイス。もうとにかく「そんなにスピードを出さないこと!」って(笑)。私が考えていたよりは、そこまで危険な道を走らずに済んだのでホッとしたんですけどね。格好良く撮ってもらえて嬉しかったです。
ーー赤色のサーブ、格好良いですよね。村上春樹さんの原作では黄色のサーブでしたが、色を変えられたのには理由があるんでしょうか?
三浦:
もともとは原作どおり黄色いサーブを使う予定だったんですが、劇用車を扱う会社の方に黄色いサーブを見せてもらったら、その隣に赤いサーブがあったらしいんです。濱口さんが「こっちのほうが素敵だ」って思ったらしくて。使用許可はもらえたんですけど、その赤いサーブ、会社の方の私物だったんですよ。
ーーえ、そうなんですか? それはすごい。
三浦:
ええ。やっぱり、ちゃんと愛情を注がれている車の匂いみたいなものを、きっと濱口さんは感じ取ったんだろうなって。色だけじゃない特別なものを、この車に感じたんだろうなと思います。
ーーそのお話を聞いた上でもう一度この作品を観たら、また何か感じるものがありそうですね。
「ただそこに存在する」という演技
ーー家福とみさきが、通訳であるユンスさんの自宅に招かれて食事をするシーンがありますよね。その時にみさきが、ソファに座っていたワンちゃんの動きを目で追っていて。その様子がすごくリアルで、生っぽさを感じたんです。「ああ、自分に直接は関係のない会話がされていると、その場にいるペットを目で追っちゃう時があるよなあ」って。
そういう、ただそこにいる生っぽさみたいなものを出していくのに、日ごろから工夫されていることはあるんでしょうか?
三浦:
そうですね……私の普段の立ち振る舞いが映ってしまう職業なんだってことを、自覚するっていうことでしょうか。映ってしまうものに抗わないというか、そもそも、隠せないものというか。
ーーつい出ちゃった仕草を、そのまま出した?
三浦:
そうですね。「自然に振る舞わなきゃ!」という意識よりは、本当に居心地が悪い感じだったり、ただ単純に「犬がかわいいな〜」と思ったりした、そのままの気持ちに従うようにしましたね。
三浦:
この作品では、動物とみさきが触れ合うシーンって結構あるんですよ。最後のシーンもそうですし、工場のそばでフリスビーを投げて、キャッチしてもらうシーンなんかも。
ーーありましたね。
三浦:
”みさき”という人間を知る上では、動物と触れ合うシーンひとつひとつがヒントになってくれました。言葉じゃない何かから、生き物の感情を感じ取れる人。人だとか動物だとか、そういう区別とは別のところにあるというか。
人間だとか動物だとか関係なく、心がある対象と、目や空気で会話ができる子なんだっていうことを、動物と触れ合う描写を通して感じられました。”みさき”はこういう子なんだって理解する上で、すごく役に立ったなと思ってます。
ーーこの作品に限らず、これまでの三浦さんの出演作を観ていても、三浦さん自身にそう感じることがすごくあります。
言葉を直接介さなくても、心で感情やその場の空気感をキャッチする方なんだって思っていて。三浦さん自身も”みさき”というキャラクターに対して、自分との共通性を意識する瞬間はありましたか?
三浦:
そうですね、まず純粋に”みさき”という役をやってほしいと声をかけてもらった時に、もう本当に嬉しくて。台本を読んだときから、ものすごくこの女性が魅力的で、うーん……、私自身は、彼女ほどできた人間ではないけれども、「こう在りたい」と思う姿がみさきの中にはたくさんあるんですよね。
彼女の持ってる哲学とか、仕事に対する姿勢、人との関わり方、振る舞い方、言葉の選び方。
そういうものは、なんだろう……私も同じであるとは決して言えないけれど、そういう風に振る舞いたいと思う、ある種の理想の姿でもあるなと。かっこいい女性だと思います。
ーー私もずっと、なんてかっこいい人なんだろうと思いながら観ていました。三浦さんだからこそ演じられた役じゃないかなと。
三浦:
自分自身ではわからないですけど、少なくとも「こういう役をやらせたい」と思ってもらえる人間だったんだっていうことが、純粋に嬉しかったですね。
–{「ちゃんと自分の意思で前を向こう」そう思える映画になった}–
「ちゃんと自分の意思で前を向こう」そう思える映画になった
ーーこれからこの作品『ドライブ・マイ・カー』をご覧になる皆さんに向けて、メッセージをいただければと思います。
三浦:
自分と向き合う時間をくれる映画になったと思います。傷ついたり悩んだりする気持ち、自分が見たくない自分自身の感情と向き合って、何かをポジティブに諦めて、ちゃんと仕事をしながら生きていく。そういう”人”の姿が描かれているのかな、と。
今、コロナ禍を含めた難しい状況がたくさんある中で、それでも私はこの撮影をしながら仕事をして生きていかなきゃいけない、撮影を通して、この作品を通して、みさきという役を通して、前を向いていかなきゃならないと感じました。
決して明るい話ではないですけど、静かに前を向けるような作品なので、今この時期にこそみなさんに観てもらえるっていうのは、きっと意味のあることなんじゃないかなって思います。
この作品に出てくる登場人物たちのように、傷つきながらも生きていくしかないって、決めて生きていく人の姿。その生き様を観てもらえるだけでも、意味のあることなんじゃないかな、と。
ものすごく背中を押されたりはしないけど、ちゃんと自分の意志で、自分で前を向こうって、静かに思える映画だと思います。
–{映画『ドライブ・マイ・カー』作品情報}–
作品情報
出演:西島秀俊
三浦透子 霧島れいか 岡田将生
原作:村上春樹「ドライブ・マイ・カー」(短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫刊)
監督:濱口竜介
脚本:濱口竜介 大江崇允
音楽:石橋英子
製作:『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
製作幹事:カルチュア・エンタテインメント ビターズ・エンド
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
配給:ビターズ・エンド
©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
公式サイト dmc.bitters.co.jp