『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』浜辺美波と藤井流星の「狂演合戦」を見逃すな!シリーズ最高傑作が降臨した理由を解説!

映画コラム

『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』が2021年6月1日より公開されています。

本作は元々4月29日に公開予定でしたが、緊急事態宣言を受けて5月12日に新たな公開日が設定されるも再延期を余儀なくされ、東京都と大阪の映画館の営業再開と同時に、やっと上映がスタートとなりました。

結論から申し上げれば、本作は待った甲斐がある、『賭ケグルイ』ファンはもちろん、予備知識ゼロでも楽しめるエンターテインメントとして優秀、シリーズ最高傑作と言ってもいい珠玉の出来栄えでした。

ここでは、シリーズ初心者に向けての『賭ケグルイ』シリーズの特徴を記すと共に、今回の映画のさらなる魅力を、ネタバレのない範囲で解説していきましょう。

1:『賭ケグルイ』の魅力は「狂気のエスカレーション」にあり!

『賭ケグルイ』は同名マンガを原作とし、テレビアニメ版、実写ドラマ版も好評を博したメディアミックス作品です。ジャンルとしては「ギャンブルもの」であり、同じく実写映画化もされている例で言えば『カイジ』や『ライアーゲーム』を連想する方も多いでしょう。勝てば天国、負ければ地獄という局面において、一触即発の心理戦が展開するため、エンターテインメント性が高く、その時点で一定の面白さは保証済みとも言えます。

ギャンブルものがたくさんある中、『賭ケグルイ』が一線を画しているのは、ギャンブルだけが全ての価値と化している高校の中だけで展開する「学園もの」であることと、主人公である女子高生の「蛇喰夢子」がタイトル通りに「賭け狂い」であることでしょう。

蛇喰夢子はギャンブルそのものに快楽を見出しており、時には(というより大体で)常識はずれの大博打を打つというスタイルで勝負に挑み続けます。借金まみれのダメ青年がなけなしの勇気や知恵を振り絞る『カイジ 人生逆転ゲーム』(09)や、積み上げたロジックに勝利方法を模索している『ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ』(10)の主人公たちとは、全く性質が異なるのです。

そんな主人公のこともあって、『賭ケグルイ』のギャンブルの面白さは、「ロジックにより勝負に打ち勝つというカタルシス」よりも、「どれだけ理屈に合わない狂気的な勝負に挑むかのエスカレーション」のほうが魅力となっているのです。アクの強い作風であるため多少の好みが分かれるところもありますが、その極端さを良い意味で苦笑いしつつ楽しめるという方ではあれば、ハマりにハマれるのが『賭ケグルイ』なのです。

そして、最新作『賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』がシリーズ最高傑作となった理由も、まさに「賭ケグルイ」シリーズらしい「狂気のエスカレーション」にあります。タイトルになっている「絶体絶命ロシアンルーレット」というギャンブルが、間違いなく「これまでで一番狂っている」のですから。ファンであれば「これこれ!こういうのが見たかったんだよ!」と「賭ケグルイらしさ」が極に達する、何も知らない人でも「頭おかしい(褒め言葉)」と思えるギャンブルが見られるのですから、たまりませんよ。

–{2:浜辺美波演じる主人公が、極端さも込みで愛されている理由とは?}–

2:浜辺美波演じる主人公が、極端さも込みで愛されている理由とは?

実写ドラマ&映画の『賭ケグルイ』シリーズを語るにおいて絶対に外せないのは、前述した主人公・蛇喰夢子を演じた浜辺美波の魅力でしょう。

めちゃくちゃな役柄ですが、だからこその振り切りぶりは、演じて楽しそうなのが伝わってきますし、これまでの浜辺美波の清楚や可愛らしいといった「殻」を打ち破った印象がスガスガしく思えます。浜辺美波本人もこの役について「声を出して賭け狂って、それまでのイメージにない役もできるようになった転換の作品だった」とも語っていました。

思い返すと浜辺美波の出世作『君の膵臓をたべたい』(19)の主人公である不治の病にかかった女子高生も、同級生の男の子を振り回すエキセントリックなところもある役柄でした。『センセイ君主』(18)でも、先生への恋心が募るあまり天真爛漫を通り越して常軌を逸するレベルのギャグを繰り出すキャラクターを嬉々としてこなしており、むしろ良い意味で「やりすぎ」なくらいの、マンガ的キャラクターも説得力を持って演じきれる女優なのだと、改めて思えたのです。

そんな狂気を備えた役でありながらも、元来の浜辺美波の愛らしさのためか憎めない、劇中で彼女に(たまにドン引きしつつも)そのギャンブルの才能を慕ってついていくサブキャラクターにしっかり感情移入できるというのも絶妙です。彼女の代表作としての1つとして、その極端さも込みで愛されていることはもう大納得でした。

そして、最新作『賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』においては、ギャンブル中の彼女が生き生きとしていることはもちろん、凄まじい泣き顔で「体育祭がなくならないんでちゅ〜」と口にするというヤバいシーンもありました。台本では体育祭がイヤだという設定だけがあり赤ちゃん言葉ではなかったのに、浜辺美波はアドリブでこれをブッこんだのだとか。良い意味でのやりたい放題、自由にできる現場だったからこそ、振り切った蛇喰夢子というキャラの活躍は楽しく見られるのでしょうね。

–{3:藤井流星の「ジョーカー」を思わせる振り切った怪演も必見!}–

3:藤井流星の「ジョーカー」を思わせる振り切った怪演も必見!

本作の大ボスである視鬼神真玄を演じるのは、ジャニーズWESTの藤井流星。彼は奇声混じりの笑い声をあげ、主人公の蛇喰夢子を上回るほどの狂気を持ってギャンブルに挑みます。その姿にアメコミのヴィラン(悪役)の「ジョーカー」を思い出す方は多いでしょう。

今回、プロデューサーが藤井流星に出演依頼をしたのは、端正な顔立ち、目力や圧の強さ、腹に響く低い声、美しい立ち姿、といった見た目の格好良さに加えて、バラエティやドラマ作品に見せる気さくな佇まいのギャップを高評価したためだそうです。実は藤井流星はリアルタイムで『賭ケグルイ』の実写ドラマ版を観ていたファンだったのだとか。

その「全身全霊で狂っている」と言わせるほどの、身体をくねらせ、精神を逆撫でする鬼畜な言動の数々は、これまでの『賭ケグルイ』の敵キャラクターの中でもクセの強さが限界突破しています。「バラエティやドラマ作品に見せる気さくな佇まい」などどこへやら、浜辺美波以上にメーターが振り切ったような怪演ぶりは、藤井流星のファンにとっはそのギャップに驚けるでしょうし、知らない人にも「この人マジでヤバい(褒め言葉)」と思わせてくれるでしょう。

–{4:サブキャラも魅力的、特に池田エライザの戦いぶりに注目!}–

4:サブキャラも魅力的、特に池田エライザの戦いぶりに注目!

『賭ケグルイ』シリーズは、サブキャラクターたちも魅力的です。特に、高杉真宙演じる鈴井涼太は極めて普通の高校生だからこその、数々の狂気的な展開に対するツッコミ役として、シリーズに絶対に欠かせない存在です。今回はいつも以上に情けない姿を見せるも、大きな決断に対して「男気」を見せる大見せ場もありました。

森川葵演じる早乙女芽亜里は高飛車なところもあるも、比較的常識的な倫理観と正義感を持つ、感情移入がしやすい役柄。何しろ主人公の蛇喰夢子がザ・狂気なのですから、こうした「まとも」な役が良い中和剤となっているのです。今回はまさかの「ミュージカル」を披露することや、見事なダイス・スタッキング(森川葵は本番で簡単に4段積みを次々成功させていた)の腕前にも注目です。



また、Amazonプライムビデオで配信中のスピンオフドラマ「賭ケグルイ 双(ツイン)」では早乙女芽亜里が主人公となっており、本編とはまた違う魅力を打ち出しています。

そんなサブキャラたちが今回の『賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』で大活躍することはもちろん、注目は敵側であるはずの池田エライザ演じる桃喰綺羅莉でしょう。これまでのシリーズでは生徒会長というすでに王座にいるキャラであるため、正直に言ってほぼほぼ「椅子に座ってしゃべっているだけ」という不遇とも言える扱いだったのですが、今回はシリーズ最強の狂気に満ちたギャンブル「絶体絶命ロシアンルーレット」に思いっきり挑むのですから。

他にも、「左目の眼帯と無数のピアス」というヤバい見た目をした柳美稀演じる生志摩妄も、これまで以上に狂っています。そんな奇人変人たちのアンサンブルを観ているだけでも楽しい実写ドラマ&映画版『賭ケグルイ』の醍醐味を、この最新作で全力ストレートにぶつけているということが、何よりも嬉しいのです。

–{5:作品に最大限にマッチした「過剰」な監督の作家性!}–

5:作品に最大限にマッチした「過剰」な監督の作家性!

『賭ケグルイ』の実写ドラマ&映画を手がけたのが英勉(はなぶさつとむ)監督というのも、ベストな采配だったのではないでしょうか。

英勉監督はコメディ主体の映像作品を数多く手がけてきていおり、ケレン味のある「大げさ」な演出が持ち味の作家です。その「過剰」ぶりは作品によってはマイナスの効果も生みかねないのですが、この『賭ケグルイ』は前述した通り「狂気のエスカレーション」が魅力なのですから、過剰であることはむしろ作品の性質にバッチリと合っているのです。

その英勉監督の演出のおかげで、前述した奇人変人を演じる俳優たちはもれなくオーバーアクト&ハイテンション。目をひん剥いたり、ドヤ顔と見下す態度をハイブリッドしたり、全身で驚きを表現したりもします。それも普通の映像作品であれば敬遠される要素なのですが、こと『賭ケグルイ』に限ってはそれこそシリーズの定番であり見所。「これはこのくらいのやりすぎでいい」と思えることがすごいのです。監督も「この俳優たちで10年シリーズを続けたい」と豪語しており、作品への思い入れも存分に伺えます。

ちなみに、今回の『賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』の撮影はドラマ「賭ケグルイ 双」と同時進行で、2020年9月中ばから11月下旬までの2ヶ月以上、徹底した新型コロナウイルスの感染対策を施した上で行われたそうです。待合場所には常にアクリル板とアルコール消毒液、フェイスガードを常備し、前作および前々作よりもロケ撮影を減らすなどの現場の努力があってこそ完成した労作でもあるのですが、それを感じさせない「いつもの賭ケグルイ」であり、同時にレベルアップした面白さがある、ということも美点でしょう。

–{6:シンプル&エンタメに特化したオリジナルストーリー&ギャンブル!}–

6:シンプル&エンタメに特化したオリジナルストーリー&ギャンブル!

今回の『賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』は、原作マンガにはないオリジナルストーリー&ギャンブルが展開するというのも目玉となっています。脚本は1作目を観た観客の意見を生かし、「蛇喰夢子(浜辺美波)と桃喰綺羅莉(池田エライザ)の直接対決」と「より単純明快で心躍る新ゲーム」という2つの柱を落とし込んだのだそうです。

おかげで、本作は「とてつもない強敵が登場する」「新たな3つのゲームが展開する」「最後のギャンブルの大盛り上がり」という、何も知らない人でも単純明快に楽しめ、かつシリーズのファンが燃える要素が揃っていました。よくよく考えると「その理屈は変じゃない?」「○○をどうやって調達したの?」というツッコミどころもあるのですが、それを考えさせない「勢い」で持っていくので、エンタメ特化作品として存分に正解と言える塩梅でした。

特に3つ目の最終決戦「絶体絶命ロシアンルーレット」が駆け引きのあるギャンブルとして存分に面白く、かつ「あるルール」によりシリーズ中最も狂っているというのが素晴らしいです。「論理的に狂っている」という矛盾した要素が同居したかのような戦いは、『賭ケグルイ』というコンテンツが持つ魅力を限界ギリギリまで押し上げたかのような感動もありました

何より、奇人変人たち演じてきた俳優陣のメーター吹っ切れの怪演ぶり、特に浜辺美波と藤井流星という大スターの「狂演合戦」が嬉しくって仕方がありません。このシリーズ最狂の大勝負は、ぜひスクリーンで堪能して欲しいです。

–{7:最高の主題歌、miletの「checkmate」はリピート必至だ!}–

7:最高の主題歌、miletの「checkmate」はリピート必至だ!

本作の主題歌を手掛けたのはmilet(ミレイ)。アニメ映画『バースデー・ワンダーランド』(19)の主題歌、テレビアニメ「ヴィンランド・サガ」(19)のエンディングテーマなど、いつも作品にマッチした楽曲を提供してきたアーティストでしたが、今回の「checkmate」は、作品のスピリッツを見事に汲み上げた、史上最高クラスの名曲なのではないでしょうか。

そのmiletは『賭ケグルイ』のファンであり、シリーズの魅力について「魅力は、狂っていれば狂っているほどおもしろいという、常識から逸脱した世界観にあると思います」「イカサマや心理戦によって勝負の行方が最後までわからない、恐怖も入り混じった独特の緊張感も、惹かれてしまう理由の一つだと思います」と、的確に作品を評していました。

その「理解」の甲斐もあって、これまでのmiletの楽曲のイメージと異なるダークさ、いや狂気が『賭ケグルイ』の勝負の世界を見これ以上なく表現しています。この主題歌に乗せて展開するスタリッシュなエンドロールは「ずっとこの曲に浸っていたい」と思わせるほどでした。すでに各サブスクリプションサービスで配信中なので、ぜひリピートして聴いてください!

参考記事:
生徒会長役の池田エライザにサンシャイン池崎も!?「賭ケグルイ」中毒者たちが“狂いまくった”魅力を語る|MOVIE WALKER PRESS 
浜辺美波が主演の『賭ケグルイ』新作が公開 「迷いがなくなって自由に演じられるようになりました」(斉藤貴志)  – Yahoo!ニュース

(文:ヒナタカ)

–{『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』作品情報}–

『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』作品情報

ストーリー
全校生徒を巻き込んで行われたギャンブルバトル・生徒代表指名選挙が終わり、私立百花王学園は平穏を取り戻したように思われたが、圧倒的存在感を放つ蛇喰夢子(浜辺美波)と、彼女の度重なる逆転劇に危機感を募らせる生徒会との間の危ういバランスで揺れ動いていた。そして学園内では生徒会への上納金を支払えない家畜の人数が爆発的に増加。家畜の呪いと呼ばれる謎の現象により学園内は異様なムードに包まれ、家畜たちによる生徒会役員への公式戦ギャンブルが横行していた。そこへ、2年前のある事件をきっかけに生徒会長・桃喰綺羅莉(池田エライザ)により学園を追われた、共感覚という特殊能力を有する最凶最悪のギャンブラー、視鬼神真玄(藤井流星)が突如現れる。視鬼神は学園を混沌に陥れ、やがてその毒牙は夢子の背後に忍び寄り……。

予告編

基本情報
出演:浜辺美波/高杉真宙/藤井流星(ジャニーズWEST)/松田るか/岡本夏美/柳美稀/松村沙友理(乃木坂46)/小野寺晃良/池田エライザ/中村ゆりか/三戸なつめ/矢本悠馬/森川葵

監督:英勉

公開日:2021年6月1日(木)

製作国:日本