『るろうに剣心 最終章 The Beginning』必見の5つのポイント|完結編にして始まりの物語

映画コラム

遂に完結を迎える『るろうに剣心』シリーズ5部作。

そのラストを飾るのは全ての始まりの物語、“頬の十字傷の総て”が語られる『るろうに剣心 最終章 The Beginning』です。
舞台をそれまでの明治の時代の東京から、幕末の京都に移し、流浪人の緋村剣心は、長州藩の志士にして暗殺者の緋村抜刀斎として登場します。

全ての始まりの物語であり5部作を大きな円環にまとめ上げる『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の大きな見どころ5つを挙げてみましょう。

あらすじ

幕末、尊王派と佐幕派、攘夷派と開国派に国が二つに分裂していた時代。

出身、身分を一切気にせず、その剣の腕だけで登用されるかが決まる長州藩士・高杉晋作率いる奇兵隊の入隊志願者の中に若くして凄まじい剣を振るう青年がいた。
緋村剣心と名乗ったこの青年に、高杉と共に試験の場に同席していた長州藩急進派の筆頭・桂小五郎は流派を問うと“飛天御剣流”という伝説的な流派の名前が返ってくる。桂は剣心を自分の側に置き裏の暗殺者として利用することを決める。

その後、剣心は“人斬り抜刀斎”として恐れられる長州派の暗殺者として京都の闇の中に身を置いていた。

ある夜、京都の要職に就く者の暗殺に動いた剣心は思わぬ相手と対峙する。清里明良という青年は生きるという強い意志を持った男で、剣術では剣心に全くかなわないものの幾度も斬られながらも生き抜こうとしていく、そして最後に剣心の頬に刀傷を負わせる。

それからしばらくして、異形の刺客に襲われた剣心は相手を難なく斬り殺すもののその場を独りの女性に見られてしまう。「(今の京の都では血の雨が降ると言われていたが)あなたは本当に血の雨を降らせるのですね」と語り掛けるその女性は雪代巴と名乗り、その後、行く当てはないと言い、そのまま剣心のそばで暮らし始める。

暗殺剣を振るい続ける剣心をかたわらで見続ける巴は「いつまで剣を振るうのか?人を殺め続けるのか?」と問いかける。剣心は「自分には構うな」と突き放すことしかできない。

時はまだ幕府側に有利な時勢であり、長州派維新志士が集まる池田屋を幕府側最強の剣客集団・新撰組が急襲、長州派維新志士は大打撃を受ける。
池田屋に駆けつける剣心の前に立ちはだかったのは新選組の若き天才剣士・沖田総司。剣術について天賦の才の持ち主と言える2人の闘いは互角のまま。そこに新撰組の斎藤一たちが駆けつけ、長州派からも加勢が駆けつけ一触即発の空気になるものの、池田屋での捕り物はほぼ終わったことを受けて双方が、剣を収めてその場から立ち去る。
池田屋事件を受け長州派は蜂起、禁門の変を起こすものの戦いに敗れる。桂小五郎は身を隠し、剣心には郊外の農家で身を潜めるように言い、それと同時巴に剣心の妻として共に暮らすことを頼む。剣心は郊外で野良仕事に精を出し、穏やかで静かな暮らしに身を置く。

そのそばにいつもいる巴は「(最近)あなたはよく笑うようになりましたね」と嬉しそうに語りかける。剣心は「君(巴)のことは何があっても斬らない」「人を斬り、新たな時代が開けたときには、人を守るために(巴と共に)生きていきたい」と素直な気持ちを吐露する。

一瞬の穏やかな日々、しかしそこに、巴の弟・雪代縁が現れたことで、剣心と巴は再び大きな時代のうねりの中に飲み込まれていく…。

–{今までにない剣心を創り上げた佐藤健}–

今までにない剣心を創り上げた佐藤健

この『るろうに剣心 最終章 The Beginning』で登場する緋村剣心は明治の時代に“おろ!?”ととぼけた言動や、どこか飄々とした姿を見せる流浪人ではありません。
“人斬り抜刀斎”として京都の闇の中で恐れられる、凄まじい剣技を持った暗殺者です。その手にあるのは“不殺(ころさず)の誓い”の象徴である逆刃刀ではなく、敵対する・長州派の邪魔となる者を容赦なく切り殺していく真剣です。

原作コミックのいわゆる「追憶編」を基にした『The Beginning』ですが、オリジナルの要素やシーンも多く、冒頭の刀を口に咥えた状態で次々と相手を切り殺していくシーンで、『The Beginning』は“これまでの『るろうに剣心』とは違う”こと強烈に突き付けていきます。

佐藤健=緋村剣心はこれまで、明治の時代に人を斬れない逆刃刀で戦う姿を見せてきましたが、幕末の抜刀斎は容赦なく、躊躇なく相手を斬り殺していき“血も涙もない”と表されます。
中盤の新撰組・沖田総司との一騎打ち、クライマックスの闇乃武との対決まで、血しぶきが飛び交います。

佐藤健は明治の時代に生きる剣心に対して幕末の抜刀斎は“現役の人斬り”だととらえ、よりシャープに、よりキレのあるアクションを展開するように心がけました。その結果、“殺人剣”としての飛天御剣流が初めてスクリーンに焼き付けられました。

この佐藤健の選択は『The Beginning』全編に張りつめるような緊張感をもたらしました。大友啓史監督の闇夜を重視し、色彩を敢えて廃した場面設計もあって、『The Beginning』は文字通り日本の夜明け前を感じさせるものになり、剣心も抜刀斎として儚さや殺伐とした雰囲気を纏って登場します。

運命の人=巴を演じきった有村架純

京の都で“人斬り抜刀斎”と恐れられ、闇に生きる剣心の前に現れた運命の人・雪代巴。やがて剣心の“狂気の鞘”となることになる女性です。

彼女は原作・映画でもその名前や姿形が描かれる以前から剣心の頬の十字傷という形で常に物語の裏側に存在していました。佐藤健に1作目の映画の時からその存在を意識し続けていたと語っています。

緋村剣心=人斬り抜刀斎の人生を大きく変えるこの“運命の人”を演じるのは有村架純。

シリーズ第4作の『るろうに剣心 最終章 The Final』の回想シーンで初めて登場し、今回の『The Beginning』で本格的に物語に交わってきます。

『るろうに剣心 最終章』の制作が発表されてからというもの雪代縁と雪代巴のキャスティングには注目が集まっていました。

雪代縁の新田真剣佑もそうですが、雪代巴役は誰が演じることになっても疑問符が出るという難役でした。

しかしながら、『3月のライオン』で有村架純を起用していた大友監督は「彼女ならば、真っ白い心で、この難しい役を、孤独な二つの魂の燃えるような邂逅の物語を一緒に走ってくれるのではないか」と有村架純に期待。

その演技によって生み出された雪代巴の姿を見て「悲劇的な憂いの中に、強い意志と限りない優しさを帯びた、これだけドラマチックなヒロインにはめったにお目にかかれません」と語りました。

ある秘密を抱えて剣心の前に現れ、しかし剣心との出逢いによって新たな人生の光を得る女性・巴を有村架純は繊細に、それでいてい強い芯を持って演じきりました。

剣心と巴の間で戸惑いの気持ちが左右に揺らいでいく不思議な空気を有村架純と佐藤健は見事に醸し出しました。

彼女の存在によって『るろうに剣心 最終章 The Beginning』は剣客アクションエンターテイメントであると同時に、時代の大きな流れに翻弄される若い“男女のラブストーリー”と言える映画に仕上がっています。

–{『The Beginning』のために集まった新キャスト}–

『The Beginning』のために集まった新キャスト

これまでの『るろうに剣心』から10年以上時代が遡った時代が舞台の『Beginning』。当然明治の時代に剣心と共に生き、闘う者たちはまだ登場しません。

唯一、5部作通じて登場するのは江口洋介が演じる新撰組の斎藤一だけです。

10年以上前の斎藤一は、荒々しさを持った男として登場します。ここで変に江口洋介を若作りさせるより、未完成な部分、未成熟な部分を強調するという今回の方法はなかなか巧くやったなという感じがします。自然と『The Beginning』の新撰組はヒロイックな存在ではなく、荒々しい猛者の集まりといった形で登場します。

今回の『The Beginning』に合わせて桂小五郎に高橋一生が、高杉晋作に安藤政信が、沖田総司に村上虹郎がキャスティングされました。

実は、桂小五郎は『るろうに剣心』の1作目で別の俳優が演じる形で一度登場しているのですが、そこに囚われず、改めて高橋一生が登板となりました。

ドラマ「天国と地獄~サイコな2人~」で見せた爬虫類的な妖しさを讃えた高橋一生の桂小五郎は艶と殺気を併せ持った長州派のリーダーになっています。

大友監督の『億男』では友人関係だった佐藤健と高橋一生ですが、今回は単純な主従関係とは違った独特の立ち位置の関係を創り上げました。

奇兵隊の隊長・高杉晋作を演じたのは安藤政信。作品ごとにその顔を変えるカメレオン系の俳優の安藤政信ですが、今回は豪放磊落なキャラクターで登場。ちょっと見れない安藤政信を見ることができます。

映画としての『The Beginning』のオリジナルの要素が新撰組との関りの深さです。その中でも天才剣士・沖田総司は原作では数コマしか登場しないのですが、映画になって大きく取り上げられました。演じたのは村上虹郎で、大友監督は「虹郎くんの中に感じた鋭いイメージが沖田総司のイメージが自然と重なった」と語っています。

そして多くを知る幕府側の刺客“闇乃武”の頭領・辰巳を演じたのは北村一輝。抜群の存在感・貫録を見せ、若く荒さを持った幕末の緋村剣心と対照的なキャラクター象を創り上げました。

初めて人を斬るアクション

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』のアクション監督を務めたのはこれまでのシリーズ4作でもアクション監督を務めた谷垣健治。

ジャッキー・チェンやドニー・イェンといった香港のアクションスターのアクション・スタントチームの一員として活躍し、ドニー・イェン主演の『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』では本編監督も務めた世界的なアクション映画界のキーパーソンの一人です。

香港で得た経験を『るろうに剣心』の現場に持ち込んだ谷垣健治は、今までの日本映画、時代劇になかったスピード感と飛翔感覚を与えました。

大友監督からの「エモーションを感じられる殺陣・アクション」というリクエストに応えながら、『The Final』と『The Beginning』で全く違ったアクションシーンを創り上げました。

谷垣は「『少林寺』と『少林サッカー』を同時に撮るようなもの」と今回の2部作の性質の違いを表現しています。

たしかに1~4作目までの『るろうに剣心』は“不殺の誓い”と逆刃刀のアクションになるので、自然と手数が増えます。それに対して『The Beginning』は真剣の斬り合いとなるため一撃で決着つくアクションです。自然と手数が減り、単調になりがちですが、そこは流石の谷垣健治と『るろうに剣心』のアクションチーム。一撃必殺でありながらもバリエーション豊かな殺陣を構築しました。

映画『るろうに剣心』シリーズに求められているエンターテイメントとしてアクションの部分と、リアルなアクションの部分を高いバランスで両立させた『The Beginning』のアクションはシリーズ5作目にして“新鮮さ”を感じさせるアクションになっています。

『The Final』と『The Beginning』ののそれぞれのアクションの質の違いを見比べるのも楽しみ方の一つでしょう。
 
–{そしてクライマックス、雪原での最終決戦へ}–

そしてクライマックス、雪原での最終決戦へ

剣心、巴が各々の想いを抱え向かうのは雪深い山奥。そこでは幕府方の暗殺者集団“闇乃武”が結界を作り待ち構えていました。
五感を徐々に奪われながら難敵と戦い傷つく剣心。それでもその行く先に居るであろう巴を求めて剣心は歩みを進めます。

そして、最後に立ちはだかる頭領の辰巳。全身に傷を負い、五感を失った剣心は、絶望的な戦いに身を投じていきます。
一方の巴は、剣心への想いから、ある覚悟のもとに小刀を携えて“闇乃武”のもとへとむかいます。

“闇乃武”の異形の刺客たち、張り巡らされた罠が容赦なく剣心にむかって襲い掛かってきます。この最終決戦は剣心と巴の、そして十字傷の物語の始まりの場面でもあります。

なんと7.5トンもの人工雪を投じた最終決戦シーンは色彩を廃した『The Beginning』の構造とも相まって美しいモノクロ映像を見ているような印象を与え、孤独と緊張感が隅々まで行き渡っている『The Beginning』の世界観をさらに際立たせています。

その後、物語は戊辰戦争の初戦である鳥羽・伏見の戦いに転じるのですが、これが『るろうに剣心』1作目の冒頭に繋がるようになっています。もちろん1作目の時に全て計算されていたとは思えないのですが、見事に完成した『るろう剣心』という円環の完成は大げさでなくトリ肌モノです。
 

まとめ

映画『るろうに剣心』シリーズはアクション映画としては認められてきましたが、時代劇であるかどうかという点は意見が分かれていました。しかし、完結編にして始まりの物語の『るろうに剣心 最終章 The Beginning』を見ると、これはやはり時代劇だと言うことを改めて強く認識させてくれます。

『The Beginning』は一本の独立した映画としても楽しめると同時に、これまでのシリーズ4作品の全く違った見方を教えてくれる映画でもあります。予習のために全4作を見るのもいいですが、『The Beginning』を見終わった後でまた、1作目から見直すというのもおススメの楽しみ方の一つです。

『The Final』とは違った方向性の作品なのでIMAXなどのラージフォーマットでなくてもという思いもありますが、その一方で陰影の美しさを堪能するためにはIMAXの解像度はあった方がいいかもしれません。

(文:村松健太郎)