在宅医療をモチーフにした映画は高橋伴明監督の傑作『痛くない死に方』および、そこで奥田暎二が演じた人物のモデルとなった医者の日常を追ったドキュメンタリー『けったいな町医者』が今年公開されたばかりですが、在宅医療そのものの実情にリアルに迫ったその2作に比べて、こちらの成島出監督作品『いのちの停車場』は今や「日本映画界最後のスター女優」でもある主演・吉永小百合の個性とオーラに即しながらドラマ性を強調したオーソドックスな作品に仕上がっています。
ユニークなのは外科医としては大ベテランだったヒロインが、大学病院を去って在宅医療の任に就いてしばらくの間、意外と新米先生としてあたふたしているところで、いくつになってもこうした初々しい風情が似合っているのが吉永小百合ならではの映画スターとしての美徳であることを改めて納得させられます。
また今回は若者たち(松坂桃李&広瀬すず)のエピソードにも割と時間が設けられており、本来は重い題材であるにもかかわらず、総じてフレッシュな印象をもたらしてくれています。
もっともこの作品、後半はあえて挑戦的な姿勢で攻めているような姿勢も感じ取れ、もしかしたら鑑賞後に賛否の議論が巻き起こるかもしれません。
おそらく作り手側も「大いに議論してほしい」といった想いで取り組んでいたのでしょうし、その意味では社会の理不尽に対して常に毅然と(それでいて、いつも上品で優しい物言いで)発言し続けている吉永小百合ならではの「映画を通してほんの少しでも、社会に対する意識を向上させていただけたら」とでもいった想いまで勝手に感じ取れてなりませんでした。
個人的にはヒロインの回想シーンに登場する母親役の中山忍をもっと見たかったなあ、などとオタク心まで騒がせつつ、インディペンデント勢がどんどん台頭していく昨今の日本映画界の中で、メジャーの意地を示すべく大いに腐心している気概も認めるのにやぶさかではない作品ではありました。
(文:増當竜也)
–{『いのちの停車場』作品情報}–
『いのちの停車場』作品情報
ストーリー
東京の救命救急センターで働いていた白咲和子(吉永小百合)は、ある事件をきっかけに故郷の金沢に戻り、まほろば診療所の在宅医師として再出発をする。様々な事情から在宅医療を選んだ患者と出会い、戸惑いながらも、まほろばのメンバーとともに寄り添っていく。そんなとき、最愛の父が倒れ……。
予告編
基本情報
出演:吉永小百合/松坂桃李/広瀬すず/田中泯/西田敏行/石田ゆり子/伊勢谷友介/小池栄子/泉谷しげる/南野陽子/みなみらんぼう/柳葉敏郎
監督:成島出
公開日:2021年5月21日(金)
製作国:日本