バカリズムの世界観:“もしもの世界“で醒めて踊る!『地獄の花園』へと続く道

映画コラム

映画『地獄の花園』 より ©2021『地獄の花園』製作委員会

OLたちが働く華やかなオフィスの裏では、拳と拳を交わす壮絶な派閥争いが繰り広げられていた。

ごく普通のOLの生活の隣で展開されるヤンキー漫画顔負けのガチンコバトルという奇想天外な世界を創り上げたのはお笑い芸人であり、役者、そして脚本家として活躍の場を拡げ続けるバカリズム。

最新映画『地獄の花園』の公開に合わせて、バカリズム脚本の世界を改めて振り返っていきましょう。

お笑い芸人兼脚本家

高校卒業後、日本映画学校(日本映画大学)に進むという異色の経歴の持ち主のバカリズムはコンビ時代から、現在のピン芸人に至るまで作りこんだ一人コント、映像ネタを披露してきました。これがさらに一歩進む形でテレビ東京系で放映されているワンシチエーションコメディ「ウレロ」シリーズの脚本を手がけるようになります。

その後、フジテレビ系の改編期の人気特番ドラマ「世にも奇妙な物語」のワンエピソード「来世不動産」の脚本2021年に手掛けます。

ドラマ「素敵な選TAXI」より ©フジテレビ 

そして、初めての連続ドラマの脚本全話を手掛けた「素敵な選TAXI」が2014年に放映されます。竹野内豊主演の“IF(もしも)の出来事”を扱ったこのSFコメディは大きな話題を呼び、2016年にはスペシャルドラマも作られました。

もしもの世界、メタな世界

この“もしもの世界”というのはバカリズム作品の中でも重要な要素の一つです。

例えば「素敵な選TAXI」の後に手掛けた「かもしれない女優たち」は実在の女優のブレイクポイントがなかったらどうであったか?を描くドラマです。

「桜坂近辺物語」にしても「住住」にして“もし〇〇してなかったらどうなっていたか?”を描いています。

映画『架空OL日記』より ©2020「架空OL日記」製作委員会

代表作の一つで映画化もされた「架空OL日記」はそんな“もしもの世界”の究極系の一本と言っていいでしょう。バカリズムがOLだったらという設定の下、周りの同僚たちとごくごく普通のOLの日々を送るこのコメディは、当初はバカリズムが書いていることが伏せられていたブログが基になっています。OLになり切ったバカリズムが日々感じることを書き連ねたブログの内容は多くの共感を呼びました。

このもしもの世界が転じて、バカリズム作品の特色となっているのが“メタフィクション”の要素。

もともと「ウレロ」の頃からあったことですが、バカリズム作品には本人が本人(名義)役で出演するというパターンが多く「かもしれない女優たち」の主人公たち、「住住」の住人、「桜坂近辺物語」の福山雅治などなど、本人が(少しだけ脚色された)本人役を演じるパターンが多く見られます。

誰もが一度は必ず考える“もし〇〇が〇〇だったら?”という想いつきの部分をうまく拡げてオリジナルの世界が展開するというのがバカリズム脚本の旨味と言えるでしょう。

–{醒めて踊るバカリズム脚本の世界}–

醒めて踊るバカリズム脚本の世界

コメディの極意に“醒めて踊る”というものがあります。テンションの高いパフォーマンスを見せる一方で、その姿をどこか俯瞰して見る視点を併せ持つ。その事で、良質なコメディが出来上がっていきます。

バカリズム脚本の世界にはこの“醒めて踊る”の部分がしっかりと効いています。

「素敵な選TAXI」にしても「かもしれない女優たち」にしても、「架空OL日記」にしてもこの程よく醒めた視線が作品に持ち込まれています。

もともと芸人バカリズムのネタは実際にあるモノに対して独特視点とテンションで“ツッコミ”を入れていくというモノでしたので、ある意味必然的な流れだったのかもしれませんが、それでも、この瞬間的なお笑いの視点を、ある程度長い時間を要するドラマ・映画・物語の中にそのままスライドして持ち込んで見せたのはバカリズムの才能と言っていいでしょう。

1961年の市川崑監督のカルト的なサスペンス映画『黒い十人の女』をドラマ化した2016年の「黒い十人の女」や、後に再編集されて映画化もされたWOWOWドラマ「殺意の道程」などなど、重めの復讐譚でありながら、復讐という行為に対して劇中の登場人物が冷静にツッコミを入れ、矛盾や不自然さを劇中で指摘していきます。

「黒い十人の女」をバカリズムが手掛けると聞いた時には随分と驚いたものですが、オリジナルの要素を現代的に咀嚼しなおして秀逸なブラックコメディに仕上げてきました。

劇場版 殺意の道程より ©2021「劇場版 殺意の道程」製作委員会

井浦新を主役に想定して作った「殺意の道程」は復讐計画を進める二人の中年男性が、普通の人間が現実的に復讐を果たすにはどれだけの条件をクリアしなくてはいけないかが事細かく登場。復讐計画の名前を決めるところから始まり、ホームセンターに“凶器の買い出し”に出るなどなど本来の復讐譚では省かれる部分を念入りに描き、なんとも言えないおかしさを醸し出しています。
さらに「復讐の道程」ではその先にあるどんでん返しまで描きバカリズムのストーリーテラーぶりを大いに堪能できる一品になっています。

WOWOWのオリジナルドラマということで視聴条件が限られていますが、オンデマンドでも見れるので機会があればぜひ見て欲しい一本です。

–{ そして『地獄の花園』}–

 そして『地獄の花園』

映画『地獄の花園』 より ©2021『地獄の花園』製作委員会

そして、バカリズム脚本の最新作が映画『地獄の花園』です。『架空OL日記』『劇場版 殺意の道程』はどれもテレビドラマからの映画化企画ですが、『地獄の花園』は映画単体のために脚本を書き下ろした作品です。

主演に永野芽郁。共演に広瀬アリス、菜々緒、川栄李奈、大島美幸、勝村政信、松尾諭、丸山智己、遠藤憲一、ファーストサマーウイカ、小池栄子、室井滋というバラエティ豊かな面々が揃いました。

普通のOLが普通のオフィスワークをこなすその一方で、武闘派OLたちが社内の覇権を握るため、日夜拳を交わしていたという奇想天外な設定を楽しそうに演じきる演者の熱演とバカリズムの程よくリアリティを感じさせる脚本によって、シンプルに笑って楽しめる映画に仕上がりました。

ここで言うリアリティというモノがまたポイントで、実際にあるかどうかではなくて、実際にありそうだと見ている側に感じさせられるかどうかが重要なのですが、バカリズムの脚本はそのリアリティを見事に確立させています。

この辺りは『架空OL日記』の頃から培われたものだと思いますが、今回の『地獄の花園』では、ここにヤンキー漫画のパロディをミックスしてきました。

劇中では『クローズZERO』シリーズや『HIGH&LOW』シリーズなどを思い起こさせる描写の数々が展開されていきます。メインキャストの身体を張ったアクションはもちろん、モブシーンの群集アクションもかなり頑張っています。基本的に女性しか集められない中でここまで集団アクションを撮り上げたのはなかなか見事です。

ただ、これはあくまでも物語のエッセンスでしかないというのがとても贅沢です。もっと女性同士のシンプルなアクション映画にしてしまっても良かったかもしれませんが、バカリズムはここでも行き過ぎないバランス感覚を見せています。

今後、バカリズムによるジャンルミックス路線も楽しく見られそうですし、そろそろ映画監督デビューがあってもいいのではないかと思わせてくれます。

(文:村松健太郎)

–{『地獄の花園』作品情報}–

『地獄の花園』作品情報

【あらすじ】
ごくごく普通のOL生活を送っている直子(永野芽郁)だったが、彼女の職場では裏で社内の派閥争いをかけてOLたちが日々喧嘩に明け暮れていた。ある日、一人のカリスマヤンキーOLが中途採用され、直子の会社は全国のOL達から狙われる……。 

【予告編】

【基本情報】
出演:永野芽郁/広瀬アリス/菜々緒/川栄李奈/大島美幸/松尾諭/丸山智己/勝村政信/遠藤憲一/小池栄子

監督:関和亮

脚本:バカリズム

製作国:日本