『野良人間 獣に育てられた子どもたち』レビュー:30年前の「事件」を収めたVTRから窺えるおぞましき「闇」

ニューシネマ・アナリティクス

■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

今から30年ほど前の1987年、メキシコ南西部の都市から人里離れた山岳地帯の民家で火事が発生し、そこから1本のビデオテープが見つかりました。

その中には、野生化した子どもたちの姿と、彼らを「教育」しようとする男の姿が収められていました……。

あたかも「衝撃のドキュメント!」みたいなあおりで繰り広げられがちな地上波民放の「〇曜スペシャル」的なノリではなく、むしろNHK Eテレのような学術番組的なテイストで繰り広げられていくユニークな「映画」です。

全体的には現代からの論考や証言の数々と、30余年前とされるVTR映像で構成されていますが、特にトラッキングも乱れがちなVHSテープの粗い画質が、当時の「事件」を異様な雰囲気で描出していきます。

どちらかといえば、この子たちはなぜ野生化したのか? 本当に獣に育てられたのか? みたいな興味よりも、むしろ子どもたちに接する男の狂信的姿勢などのほうへ徐々にスポットが当てられていき、そこから宗教や信仰といった、本来ならば「聖」なるべきであるものの内に潜むおぞましき「闇」の一面が窺い知れるような作りになっているのが意表をついているともいえるでしょう。

誘拐事件が頻発し、多くの子どもたちが行方不明になったままのメキシコ社会を見据えつつ、ドキュメンタリーともモキュメンタリーともつかない不可思議な作りを徹底させているこの作品、「信じるか、信じないかは、あなた次第です!」などと、どこかの番組の決め台詞をいいたくなってしまうような、そんな「映画」です。
(あ、でもあの番組は民放でしたね!!?)

(文:増當竜也)

–{『野良人間 獣に育てられた子どもたち』作品情報}–

『野良人間 獣に育てられた子どもたち』作品情報

ストーリー
1987年、メキシコ南西部の都市オアハカ郊外の人里離れた山岳地帯の民家で火災が発生。家屋は全焼、焼け跡からは子供3名と大人1名の焼死体、そして1本のビデオテープが発見された。その後テープは行方が分からなくなっていたものの、2017年に見つかる。ビデオには、まるで野獣のように野生化した子どもたちが映っており……。30年前、そこでは一体何が行われ、何が起きたのか。衝撃の事実が暴かれる。

予告編

基本情報
出演:エクトル・イリャネス/ファリド・エスカランテ/カリ・ロム/エリック・ガリシア ほか

監督:アンドレス・カイザー

公開日:2021年5月21日(金)

製作国:メキシコ