「華の93年組」がいる。菅田将暉や神木隆之介、有村架純など旬の俳優が名を連ねるなかで、忘れてはいけない存在が仲野太賀だ。この4人が揃って出演している奇跡のようなドラマ「コントが始まる」は毎週土曜22:00より放送中。93年組の才能が華を咲かせまくっている。
仲野太賀と聞くと、2019年の改名が記憶に新しい。同じく俳優である父・中野英雄と所属事務所に相談したうえで、元の「太賀」に名字をつける形で「仲野太賀」とした。名字を伏せていることで、二世俳優であることまで隠しているように取られたくない気持ちもあったと語る彼。もはやそんなことは些末に思えるほど、立派に俳優のひとりとして自立している。それはひとえに、「上手すぎる」からだ。
仲野太賀の「上手い」ポイントを3つ挙げたい。
仲野太賀が「コントが始まる」で証明した”間”の上手さ
なんといっても、仲野太賀は”間”が上手い。
土曜22:00より放送中のドラマ「コントが始まる」では、菅田将暉・神木隆之介とともにお笑いトリオ・マクベスのひとりを演じている仲野太賀。ボケ役である彼は必然的にコントシーン内でボケる場面が多くなるのだが、その間の取り方がなんとも上手いのである。ぜひドラマではなく、実際の芸人さんと絡んだコントも見てみたい。
笑いの間だけではなく、見ている人の心を動かす間も上手い。初回「水のトラブル」内で、仲野太賀にしか出せないであろう絶妙な間が表れたシーンがある。物語終盤、手応えのないオーディションを終え意気消沈するマクベスの3人が、福岡まで車を走らせ博多ラーメンを食べに行くシーンだ。
3回も替え玉をした後、あらたまった顔をして「……解散、するか」と口にした春斗(演:菅田将暉)に対し、笑いを隠せない潤平(演:仲野太賀)。お前、大事なこと言うときは毎回ラーメン食べた後なのな、と笑いながら、次第に声に涙が混ざっていく。
「10年前の伏線回収してんじゃねえよ」と号泣する仲野太賀の間合いが、観ている私たちの涙も誘うのだ。その場にいる演者の感情もさることながら、視聴者の心もからめとるような間の取り方が全面に出ているシーンといえる。
その場の空気感を作ってしまうところが仲野太賀の演技の底力だ。それが全面にあらわれたドラマ「コントが始まる」は2021年5月11日現在、第4話まで放送中。お笑いトリオ・マクベスの行く末を見届けたい。
–{『泣く子はいねぇが』『すばらしき世界』『あの頃。』三様のダメ男}–
『泣く子はいねぇが』『すばらしき世界』『あの頃。』三様のダメ男
ドラマ「ゆとりですがなにか」で演じた山岸も相当なものだった。ゆとりモンスターとして話題を呼びスピンオフドラマが制作されたほど。しかし、映画で見せる仲野太賀のダメ男演技もすごい。近年に公開された映画3作を例に挙げよう。
2020年11月に公開された映画『泣く子はいねぇが』において、吉岡里帆とともに夫婦役を演じた仲野太賀。子を授かるも、お酒に飲まれやすい体質のせいで取り返しのつかないことをしてしまい、離婚する羽目になってしまう。
その後、住まいを移し生活の立て直しを図るも、なかなか家族のことが忘れられない(余談だが、「コントが始まる」でも共演している古川琴音が同僚役だった)。物語の終盤、車内で静かに謝るシーンが目を引きつけて離さないのだ。「忘れられなくて」「バカでした……間違ってました」と目に涙を溜めながら口にする。彼が演じた”たすく”という男は紛れもなくダメ男なのだが、やり直す道さえ閉ざされそうになる悲哀に観ている側の心が動く。
2021年2月公開の『すばらしき世界』は、やり直しをテーマにした映画だ。役所広司演じる主人公・三上正夫は出所したばかりの元殺人犯。一般社会でやり直そうとする過程で出会う元テレビ放送局勤務の男・津乃田を、仲野太賀が演じている。
三上と津乃田の交流が、この映画の肝だ。物語序盤は、取材者と取材対象者として。中盤になるにつれ友人同士のような関係性になり、紆余曲折ありつつも最後には親子のような存在になっていく。元殺人犯である三上の所業に恐れをなし逃げ出すシーンがあるのだが、三上に寄り添うことも突き放すこともできない中途半端な姿勢を上手く表していた。「泣く子はいねぇが」の”たすく”と比べると、また違ったダメ男感を出している。
本映画の監督・西川美和の元で、ドラマの脇役などではなく、しっかり役者として仕事をするのが夢だったと語った仲野。物語の流れによって変わる三上・津乃田の関係性について、監督ともたびたび話を重ねたという。終盤、ともに風呂に入り三上の背中を流すシーンを演じるときには、「父の背中を見る息子のような気持ちで」と認識が一致したのだとか。まさに、当シーンの仲野の目は父を見やるそれだった。あえて三上役である役所の表情を捉えなかったところも、にくい演出である。
同時期に公開された『あの頃。』では、アイドルオタク仲間の一人・コズミンを演じる。いわゆる”ネット弁慶”で、気が小さく大それたことは一切できないが、影では大胆なことを言いたい放題。仲間はコズミンという男に散々振り回されることになる。
とある事件が起こりチンピラに追われる羽目に陥ったときも、わざと相手を挑発するようなことをして面倒事を増やしていた。実際に周囲にいたら、絶対に友達にはなりたくないと思ってしまうキャラクターだ。しかし、物語終盤から毛色が違ってくる。「最早これはコズミンが主役では?」と思ってしまうほど、主人公を食って掛からんばかりの演技力を発揮しているのだ。
それぞれの作品で、それぞれ違う顔を見せる仲野太賀。これからも彼の引き出しは増え続けることだろう。
–{「あのコの夢を見たんです。」で見せた仲野太賀の憑依力}–
「あのコの夢を見たんです。」で見せた仲野太賀の憑依力
民放ドラマ初主演となった「あのコの夢を見たんです。」は、南海キャンディーズ・山里亮太の小説を原作とした作品。仲野太賀は山里亮太役として、各話ごとに違うヒロインと共演し、奇抜な妄想ストーリーを繰り広げていく。1話は中条あやみ、2話は芳根京子、そして最終話は橋本愛と豪華ヒロインが揃っている。
どの回においても、仲野太賀の山ちゃんなりきりっぷりがすごい。赤ブチめがねを掛けただけで山ちゃんっぽさが出ている。イライラすることが起きてダークサイドに陥りかける自身を、妄想を繰り広げることで平静を保とうとするお決まりの流れ。ノートに思うがままに妄想を書きつける鬼気迫った様子が、もう山ちゃんにしか見えない。
中条あやみがヒロインを務める1話では、モテすぎるがゆえに”振られたい願望”をもつ女子高生が主人公。理想のシチュエーションで失恋できる不思議なアプリを手に入れ、次々とフラレまくる。その過程で出会うのが仲野太賀演じる山ちゃんだ。
物語終盤、とあることが判明し山ちゃんは中条あやみを裏切る形になるのだが、そのときの仲野太賀の表情がもう、山ちゃんでしかない。絶妙なゲス加減、なんとも言えない人間くささ。山ちゃん本人以外に山ちゃんを演じられるのは、間違いなく仲野太賀しかいないと思えるほどの憑依力なのだ。
仲野太賀はたびたび各インタビューでも「まずは役を見つめ、好きになることから始める」と語ることが多い。役として山里亮太を演じると決まったときも、山ちゃん本人になりきるよりは、モチーフと捉えて”演じる”ことに徹したという。モノマネになってしまうと、ただのコントになってしまう思いが強かったのだとか。
10代で役者の道へ入った仲野太賀。同じく俳優である父を意識しながら、二世俳優として見られがちな現状に歯がゆい思いをしたこともあったかもしれない。
それでも、もはや今の彼の活躍には二世俳優の影はない。ひとりの俳優である「仲野太賀」として、実績をしっかり積み上げてきた。彼のパーソナリティは今後も厚みを増し、役へと還元されていくことだろう。
(文:北村有)