菅野美穂・尾野真千子・高畑充希が母親を演じる映画『明日の食卓』

映画コラム

菅野美穂、尾野真千子、高畑充希がはじめてタッグを組む。映画『明日の食卓』で3人が演じるのは、それぞれ同じ「ユウ」という名前の息子をもつ母親だ。どこにでもいる、普通の家族のはずだった。いつどこでボタンが掛け違えられたのか、間違えたのは誰なのか、やり直せるのか手遅れなのか……? 三者三様の家族の”もがき”を描いた作品を前に、思わず呆然として声も出なかった。

「息子を殺したのは、私ですか?」三者三様の家族を描く

ドキッとするキャッチコピーが目につく。「息子を殺したのは、私ですか?」そして笑顔でこちらを覗き込む菅野美穂・尾野真千子・高畑充希3人のビジュアル。映画『明日の食卓』で描かれるのは、同じ名前の息子をもつ3つの「石橋家」の様子だ。

菅野美穂演じるフリーライター・石橋留美子は、家庭と仕事の両立で悩む。会社に所属していないため時間の融通はある程度効くが、そのぶんフットワークが求められるのが悩み。カメラマンをしている夫ともたびたび衝突してしまう。

尾野真千子演じる石橋あすみは専業主婦だ。経済的に豊かな石橋家に嫁ぎ、優しい夫と賢い息子に囲まれ幸せに暮らしている。その一方、常に良い妻・良い母でいなければというプレッシャーを感じ、吐き出す相手もいない現状に苦しむ日々だ。

家計を支えるため仕事に負われるシングルマザーを演じるのが、高畑充希。シングルマザーについてまわる仕事の苦労やお金の工面に、分かりやすいくらいに翻弄されてしまう。潰れてしまいそうな心を支えるのも落とすのも、最愛の息子なのだからやりきれない。

そこにいるのは、普通の家族なのだ。

世間ではたびたび子どもへの虐待がニュースになるけれど、取り上げられるセンセーショナルな事例だけが特別なわけではない。いつだって、どんな親だって、陥る可能性を秘めている。子どもに手を上げてしまう可能性、思ってもないことを言葉にしてぶつけてしまう可能性、何もかも放り出して逃げてしまう可能性……。いつ”そうなって”しまうかわからない可能性に怯えながら、それでも、目の前にある体温を守ろうと必死になるのが親なのかもしれない。

背負いきれない荷物を下ろすタイミングは、いつなのか

特記したいのは、初めてシングルマザーを演じる高畑充希の涙の演技だ。これまでフレッシュでいきいきとした生命力みなぎる役柄が多かった印象だが、その新鮮さを保ちながらも日々の生活に疲れを感じる、独自のシングルマザー像を体現しているように見える。子どものいない彼女が子どもと2人で暮らす演技をするのは、手探りの場面も多かったことだろう。

自分の力ではどうすることもできない事態に巻き込まれ、息子まで悲しませる結果になってしまったとき、彼女が見せた涙はすべての”やりきれなさ”を表しているように見えた。ああ、育児や家事やパートナーとの関係に悩む多くの人たちが、その背負いきれない荷物を下ろせるタイミングはいつになるのだろう。良い親でいるために、良い伴侶でいるために、何をどれだけ頑張れば正解とされるのだろう。

きっと、答えなんて用意されていないからこそ、苦しいのだ。

三者三様の家族を描いた物語。それぞれの家族を目の当たりにしながら、きっと、あなたの荷物を下ろせる日がきっと来るだろうと予感できる。

(文:北村有)

–{『明日の食卓』作品情報}–

『明日の食卓』作品情報

【あらすじ】
神奈川に住む43歳のフリーライター、石橋留美子(菅野美穂)は、フリーカメラマンの夫・豊や10歳の息子・悠宇と暮らす。大阪に住む30歳の石橋加奈(高畑充希)は、離婚してアルバイトを掛け持ちしながら10歳の息子・勇を育てる。36歳の専業主婦・石橋あすみ(尾野真千子)は10歳の息子・優を持ち、サラリーマンである夫・太一は静岡の家から東京に通勤している。それぞれ忙しく幸せな日々を送っていたが、ある些細なきっかけで次第にその生活が崩れていく。同じ“石橋ユウ”という名前の小学3年生の息子を育てる、住む場所も家庭環境も異なる3つの石橋家が辿る道とは……。 

【予告編】

【基本情報】
監督:瀬々敬久
原作:椰月美智子『明日の食卓』(角川文庫刊)
脚本:小川智子

出演:菅野美穂  高畑充希 尾野真千子
柴崎楓雅  外川燎  阿久津慶人 / 和田聰宏  大東駿介  山口紗弥加  山田真歩  水崎綾女  藤原季節
真行寺君枝 / 渡辺真起子  菅田俊  烏丸せつこ

主題歌:「Motherland」tokyo blue weeps

製作幹事:WOWOW
制作プロダクション:トラヴィス
配給:KADOKAWA/WOWOW