2020年の秋、《ジャン=ポール・ベルモンド傑作選》としてフランス映画界の大スター、ジャン=ポール・ベルモンドの主演映画8作品がHDリマスターで特集上映されるや、コロナ禍を吹き飛ばすクリーン・ヒットとなりました。
その際、東京・名古屋・関西の各上映劇場で次に観たいベルモンド出演作を募るベルモンド総選挙を実施し、今回はその投票結果をもとに新たな5作品を選抜して第2弾を開催!
前回見逃した方もまだジャン=ポール・ベルモンドに間に合います!
J・チェンやスピルバーグらクリエイターに与えた影響
まずはジャン=ポール・ベルモンドの経歴からざっと振り返ってみましょう。
1933年4月9日、フランスのパリ郊外ヌイイ=シェル=セーヌで生まれた彼は16歳の頃より演劇に興味を持ち始め、51年に国立高等演劇学校へ入学。
53年にはふたつの演劇で主演を務め、56年に同校を卒業する頃には批評家にも注目される存在となっていました。
映画デビューは57年で、59年のジャン=リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』に主演し、ヌーヴェルヴァーグの代表作として大ヒットするとともに、一気にスターダムに。
そして1960年代、ベルモンドはコミカル・アクションの方向へ出演作品の軸足を傾けていきます。
『リオの男』 (C) 1964 TF1 Droits Audiovisuels All rights reserved.
それを決定づけたのが、今回上映される『リオの男』(64/総選挙第1位)でしょう。
フィリップ・ド・ブロカ監督の『大盗賊』(61)で意気投合したベルモンドが、再びコンビを組んだ作品です。
恋人アニエス(フランソワーズ・ドルレアック)を誘拐された休暇中の仏空軍パイロットのアドリアン(ジャン=ポール・ベルモンド)が、誘拐グループを追いかけながら国際便の飛行機にパスポートもなしに乗り込んで(しかもタダ乗り!?)、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロに到着。
これにアマゾンの古代文明遺跡で発見された土偶の盗難事件が絡み合っていくのですが、果たしてアドリアンは休暇が終わるまでにアニエスを救出し、土偶の謎を解き明かすことが出来るのか?
というわけで、我らがベルモンドはリオの街のみならず、後半はアマゾン川流域にまで出向いての大活劇を展開していくのですが、運動神経の良い彼は危険なスタントも自らこなしながら飄々と陸・海・空を駆け巡る!
そのさまは後のジャッキー・チェンのアクロバット・アクションに先駆けているようでもあり、またこの映画を映画館で9回見たというスティーヴン・スピルバーグは、この作品をお手本にしながら『レイダース 失われたアーク』を監督した節が多分に感じられます。
そう、インディ・ジョーンズの元祖は、ジャン=ポール・ベルモンドだった!
また、本作およびそれ以降の彼の主演映画群に影響されて、漫画家のモンキー・パンチは「ルパン三世」を、寺沢武一は「コブラ」を、それぞれベルモンドをモデルに構築していったのでした。
『カトマンズの男』 (C) 1965 TF1 Droits Audiovisuels All rights reserved.
フィリップ・ド・ブロカ監督&ジャン=ポール・ベルモンドのコンビは続いて『カトマンズの男』(65/総選挙第4位)を世に送り出し、これがベルモンド人気をさらに強く決定づけることになりました。
ここでのベルモンドは、大富豪すぎて生きる張り合いをなくした自殺志願者!?
しかし香港旅行中に突然破産宣告され、しかも多額の保険金をかけられて何者かに命を狙われる羽目になり、インド、ネパール、再び香港、そしてマレーシアと、アジア中を逃げ回っていくのでした!
『リオの男』を凌ぐスケールとギャグ満載のアクションの数々は、ジャッキー・チェンの『プロジェクトA』にも大きな影響を及ぼしていると思しき快作。
また冒頭の富豪時代のベルモンドが『ちびまる子ちゃん』の花輪クンみたいなお金持ち髪型していたり、途中で怪盗ルパンみたいな扮装になって逃げ回ったり、果ては女装姿も拝めたりと、サービス満載!
(そういえばウルスラ・アンドレス扮するヒロインのストリッパーが、服を着ていくストリップを披露するのも新鮮)
このド・ブロカ&ベルモンドによる2本の“男”映画、邦題がそうなっているだけで、実際はシリーズでも何でもないのですが、主人公の世界を股にかけた大冒険ということでは共通しています。
そして先に述べた世界中のクリエイターに多大な影響を与えながら、ジャン=ポール・ベルモンドはフランス映画界を代表する国際スターとして堂々君臨し続けていくのでした!
–{コミカルアクションだけでなくシリアスなファンタジーも!}–
コミカルアクションだけでなくシリアスもファンタジーも!
一般的にコミカルなアクション映画のイメージが強いジャン=ポール・ベルモンドではありますが、実際はさまざまなジャンルの作品に意欲的に出演し続けています。
『相続人』 (C) 1972 STUDIOCANAL – Euro International Films S.p.A All rights reserved.
中でもシリアス路線の作品として一世を風靡したのが『相続人』(73/総選挙第9位)でした。
これは大企業グループ社長夫妻が飛行機事故で急死したことで、その事業を相続すべくフランスに帰国した息子バート(ジャン=ポール・ベルモンド)が、両親の死が殺人ではないかと睨み、やがて巨大な陰謀と対峙していくというもの。
まるでフランス版『華麗なる一族』的ゴージャズな世界観の中、第2次世界大戦時のファシズムにまでさかのぼるヨーロッパの闇を露にしつつ、我らがベルモンドがスタイリッシュに、そしてスリリングに立ち回るポリティカル・サスペンスです。
『カトマンズの男』ではベルモンドと行動を共にするがために危機また危機の巻き添えを食いっぱなしだったジャン・ロシュフォールが、今回も彼の一の部下“大使”としてクールに立ち回り、そしてまたも体を張らされます!?
また同じく部下で親友でもあるダビッド役で好演するシャルル・デネは、『恐怖に襲われた街』(75)でもベルモンドと共演。
監督のフィリップ・ラブロも、『危険を買う男』(76)でベルモンドと再びコンビを組んでいます。
さて、ここからは日本劇場初公開作品となります。
『エースの中のエース』(C)1982 / STUDIOCANAL – Gaumont – Rialto Films GmbH All rights reserved.
まずは1982年度の『エースの中のエース』。
1936年のベルリン・オリンピックを背景に、ユダヤ人少年とその家族をナチスから救うべく、元空軍パイロットにしてボクシング仏代表チームのコーチ(ジャン=ポール・ベルモンド)が大活躍!
昔も今もオリンピックとは華やかさとトラブルの双方が合わせ鏡のように繰り広げられていくものですが、特にベルリン・オリンピックはナチスのプロパガンダ色が強く、その脅威を肌で知る世代が多かったフランス国民の間で当時大いに話題となり、大ヒットを記録した作品が、ようやく日本の銀幕に登場します(過去、未公開ビデオソフトが発売されたのみの幻の作品だったのです)。
監督は『大頭脳』(69)でもベルモンドと組んでいるジェラール・ウーリー。
『アマゾンの男』(C)1999 STUDIOCANAL – PHF Films All rights reserved.
そして何と、フィリップ・ド・ブロカ監督とベルモンドが久しぶりにコンビを組んだ『アマゾンの男』(00)が本邦初公開!
それこそ『リオの男』と同じアマゾン川流域でのジャングルを舞台に繰り広げられるところから、同作品へのオマージュ満載です。
一方ではこの作品、同地で昆虫の調査研究をしているエドゥアール(ベルモンド)が謎の幼い少女ルルを保護したところ、フランス特殊部隊と天文学者マルゴ(アリエル・ドンバール)が彼女を追ってきたことからてんやわんやの大騒動になるというもので、ジャンル的にはコミカル・アクションの域を越えて、まさかのSFファンタジーの域へ突入する!
さすがに『リオの男』からおよそ36年も経つので危険なスタントこそありませんが、ベルモンドの飄々とした個性は当時と何ら変わらず、またジャンルが何であろうとも魅力が損なわれることはありません。
ベルモンド映画をずっと追いかけてきたファンにとっては、実はこの作品が今回一番のお楽しみかもしれません。
いずれにしましても前回の8作品ともども映画ファンなら一度は見ておいたほうがよい、楽しい愛に満ち溢れたものばかり。
(特に日本のアニメファンは、ルパン三世やコブラの元祖たる存在を見過ごす手はないでしょう!)
この機会にぜひジャン=ポール・ベルモンドの魅力に触れてみてください。
(文:増當竜也)
–{《ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2》基本情報}–
《ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2》基本情報
イントロダクション
映画ファンが選んだ、一番見たかったベルモンドがスクリーンに帰ってくる!
2020年秋、予想を超えるスマッシュ・ヒットを飛ばし、コロナ禍で遠ざかっていた中高年層を「ベルモンドが映画館に呼び戻した!」と話題になり、それまでベルモンドを知らなかったミレニアル世代をも虜にして日本中の映画館を熱くした「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」、待望の第2弾をお届けします。
全国の公開劇場では上映全8作品をコンプリートした熱心な観客の方々から「もっとこんな作品も観たい!」「どうして○○は上映されないのか?」といった声が多数寄せられたことから、去る11/20(金)から12/13(日)の間、東京はじめ「傑作選」上映中の名古屋・関西の4劇場にて「次に観たいベルモンド出演作」を募る“ベルモンド映画総選挙”を実施し、その投票結果を元に最強のベルモンド映画5作品を取り揃えました。いずれもHDリマスターの高画質、さらに松浦美奈さんによる完全新訳による日本語字幕版での上映となります。
予告編
基本情報
公開日:2021年5月14日(金)
上映作品:『リオの男』『カトマンズの男』『相続人』『エース中のエース』『アマゾンの男』