現在、月9ドラマとして放映中のドラマ「イチケイのカラス」。
“職権を発動して、捜査をする裁判官”という異色の設定ではあるものの、地に足のついたヒューマンドラマであり、大小の小ネタが含まれたコメディ作品でもあります。
この『イチケイのカラス』で型破りのクセモノ裁判官の主人公入間みちおを演じているのが11年ぶりの月9主演となる竹野内豊です。
キャリアのスタートはイケメン枠
竹野内豊はモデルとしてデビューした後に「星の金貨」シリーズ、「ロングバケーション」で注目を浴びると「理想の結婚」そして反町隆史とW主演した「ビーチボーイズ」で大ブレイク。
以降イケメン枠をキープし続けています。今年で50歳になるということで年相応に渋さも漂わせてきましたが、それでも油断すると(?)イケメン枠の立場で「氷の世界」「流転の王妃・最後の皇弟」「人間の証明」、映画『冷静と情熱のあいだ』『シン・ゴジラ』『さまよう刃』(今年役柄を変えてドラマ版に主演!!)などなど端正な顔立ちにあったシリアスなキャラクターを演じることになってしまいます。
しかし、敢えて誤解を恐れずに断言すれば竹野内豊が活きるのは“コメディ”のジャンルです。「BOSS」や「ビーチボーイズ」「できちゃった結婚」などで見せた軽やかな演技は端正な見た目とのギャップもあって、笑いを誘います。
そこで、今回は特に“コメディ”に特化した竹野内豊出演作品5選をご紹介します。
「イチケイのカラス」
目下、月9枠で好評放映中のドラマ。
元弁護士の裁判官入間みちおが“職権を発動して、裁判所主導で事件を再捜査する”(=膨張マニアの間では“入間った”と言われている)という異色のリーガルドラマ。
竹野内豊演じる入間は12年前のある事件を機に弁護士から裁判官に転向した、異色の経歴の持ち主。法服こそ身にまとうものの、その下はカジュアルなファッション、しかもきれいに整えられた髭まではやしているという、一見すると裁判官には見えないキャラクター。
ふるさと納税が趣味で、いたずら好き、相手の心を読んで、わざと声に出すなどなどトリックスターぷりを発揮しています。事件の処理数を上げるために赴任してきた黒木華演じる坂間千鶴とは何から何まで正反対で、ことあるごとに怒られています。12年前の事件が今の行動の大きな原動力になっているようで、この辺りの展開次第では軽くない入間も見ることができるかもしれませんね。
竹野内豊は同時期に超シリアスなWOWOWのドラマ版の「さまよう刃」(かつての映画版では刑事役だったところを、今回は主人公の父親役に…)を撮っていたはずなのですが、こちらの「イチケイのカラス」では飄々として軽やかなキャラクターを好演しています。
–{2作品目は}–
「義母と娘のブルース」
綾瀬はるか主演でスペシャル版も放映された2018年の大ヒットドラマ。
ここでの竹野内豊は超のつくバリバリのキャリアウーマンが結婚することになった岩木亜希子の夫となる宮本良一役。
先妻を亡くし、一人娘のみゆきの母親を求めて亜希子と結婚しますが、実は癌を患い余命いくばくもない身体です。しかし、最後まで穏やかな性格を保ったままこの世を去ります。
死後を描いたスペシャルドラマでもナレーションとして登場したほか、なんと見た目がそっくりな別人として亜希子の前に登場するサプライズもありました。
敢えて脇に回った佐藤健や、成長したみゆきを演じた上白石萌歌などの好演もあって、良質かつ異色のヒューマンコメディとなりました。
綾瀬はるか演じる亜希子がビジネスマンとしてでしか人間生活を送ってこなかったこともあって、いざ、家庭を持つと言うことになると何かとギクシャクすることだらけですが、竹野内豊演じる良一はその朗らかさで、大らかさで物語を包み込んでくれます。
「素敵な選TAXI」
脚本&出演をバカリズムが担当した2014年のコメディドラマで、竹野内豊史上最もコメディに針を振った作品と言えます。
このドラマの後「黒い十人の女」、映画化もされた「架空OL日記」、そして間もなく公開の映画『地獄の花園』などなど多くの作品で脚本を手掛けることになるバカリズムですが、この「素敵な選TAXI」が初の連ドラ作品となります。
ここで竹野内豊が演じるのが枝分(えだわかれ)という名のTAXIドライバー。しかし、このTAXI、普通のTAXIではなくて、乗客がやり直した過去に遡り、そこにある選択肢を改めて選ばされるというもの。
乗客が直面する事柄は時に結構大変なこともあるのですが、物語自体はユーモアに満ちたものになっています。
枝分が常連となっている喫茶店のマスター役でバカリズムも出演(店員には南沢奈央や清野菜名の姿も!?)。毎回ごとのゲストの豪華さも話題になりました。
時にメタ的なギャグも多い物語は高評価を受けて、市川森一脚本賞奨励賞を受賞、その後スペシャルドラマも放映されました。
ちなみにこの「素敵な選TAXI」繋がりで、バカリズムが脚本を担当した映画『地獄の花園』から「イチケイのカラス」に、裁判の被告人役で永野芽郁、広瀬アリス、遠藤憲一、バカリズムが出演しています。
『大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇』
それまでもラブコメディなどに出演してきた竹野内豊が完全にコメディジャンルに振り切った初の映画作品がこの2011年の『大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇』。
竹野内豊が演じる大木信義は水川あさみ演じる妻の咲と、新婚なのに倦怠期気味。そんな時に怪しげな占い師の勧めで新婚旅行という名の地獄ツアーに出ることになり…というファンタジーコメディ。
独特のタッチで描かれる地獄を背景に竹野内豊と水川あさみと絶妙な掛け合いを見せます。荒川良々や橋本愛、鈴木福などが真っ青な顔をした地獄の住人を演じているのも何とも言えない違和感を生んでいます。
竹野内豊の何とも居心地の悪そうな、“何かちょっと違う?”といった雰囲気がいい味を出しています。
–{最後の作品は}–
『ニシノユキヒコの恋と冒険』
『犬猫』『人のセックスを笑うな』の井口奈巳監督による2014年の『ニシノユキヒコの恋と冒険』は風変わりでファンタジックラブコメディ。
竹野内豊演じるニシノユキヒコは多くの女性の間を行ったり来たりしながら、楽しそうに生活をしている男。
ここで登場する女性陣は尾野真千子、成海璃子、木村文乃、本田翼、藤田陽子、阿川佐和子、麻生久美子と一人でも充分ヒロインになりそうな超豪華な並びです。この間をニシノユキヒコはふわふわと漂います。一歩間違うとただの女たらしになりかねない、キャラクターですが、竹野内豊は実にチャーミングに演じきり、誰もが好きにならざる得ない魅力を放ち続けています。
終盤あっと驚く事実が出てきて、ファンタジックな要素が強くなりますが、それでも竹野内豊のチャーミングさのおかげでなんとなく納得してしまうから不思議です。
昔から二枚目は程よく崩れると魅力が増し、役者としての寿命も延びると言いますが、今の竹野内豊を見ているとその言葉がぴたりとはまります。あの『狐狼の血』の時も、崩して生まれたそのギャップを活かしていると言えるのではないかと思います。
この魅力的なギャップがある限り俳優・竹野内豊はこれからもまだまだ私たちを楽しませ続けてくれるでしょう。ちなみに個人的には2019年の周防正行監督の『カツベン!』の大仰な警官役も忘れ難いものになっています。
(文:村松健太郎)