映画の世界の中でキラメイジャーとリュウソウジャーが共闘する、Vシネクスト『魔進戦隊キラメイジャーVSリュウソウジャー』。一部劇場で上映中の今作の見どころについて、篠宮暁が各作品のプロデューサー陣に語ってもらう取材企画を実施!
『騎士竜戦隊リュウソウジャー』プロデューサーの丸山真哉さん、土井健生さんにお話をうかがった前回に続き、今回は『魔進戦隊キラメイジャー』の塚田英明さんと望月卓さんにインタビュー。作品をより楽しむために、テレビシリーズについてもしっかり振り返っていただいています。
篠宮 『魔進戦隊キラメイジャー』は放送開始当初から、お二人とも「とにかくキラキラさせる」とおっしゃっていましたが、そのキラキラ感を出すために大変だったことはありますか?
塚田 やっぱり、コロナがあって大変だったというのはありますよね。そんな中で、最初に選んだテーマが明るくキラキラした気持ちになれるというもので本当によかったよね、と思いながら作っていました。テーマで苦労したのは、ポジティブな感じとドラマチックにすることを両立させた脚本づくりですかね。スーパー戦隊としての定型の気持ちよさもあるけど、僕らとしては今の価値観の中でのポジティブさ、キラキラさを意識して、ありきたりじゃないものを目指していた。そこは、小宮璃央くん演じる熱田充瑠にキラキラしたものの原石みたいな価値観の源泉があって、ある程度完成している他の人たちが、それに共鳴して輝くようなところを意識した脚本作りが大変でしたかね。
望月 キラキラしているキラメイジャーがそれを失ってしまって…とか、キラキラを失った大人にそれを教える、みたいな話をあまりやってないんですよね。そういう、想像がつきやすい展開をあえてやってこなかった。
塚田 多少迷うことはあっても、キラキラを失っていないんだよね。説教くさい説教はやめようという話をして。
望月 キラキラを押しつけず、自然発光を促すみたいな。
塚田 気づいたら説教されていたような(笑)。上がってきた脚本が説教くさい感じになっていたら、戻したりもして。
篠宮 放送を見て毎週唸ってましたけど、僕が特に唸ったのはフォーマット。入れ替わり回とかお母さんがくるとかスーパー戦隊にあるフォーマットでも、見せ方がひと捻りふた捻りあって違うな、と思いました。
塚田 フォーマットとして楽しいものは活かして、それをどう見せるのかは会議で毎回話しました。充瑠がみんなを変えていく感じというのが早めに決まっていたので、それを基準に。後半はアレンジも変わってきたりしましたけど。その見せ方というところで悩んだりしましたし、結局はその回答が出るまでは悩むしかないんですけど…。
篠宮 入れ替わり回(エピソード19「相棒」)については、最初から魔進と入れ替わることが決まっていたんですか?
望月 最初からですね。
塚田 魔進戦隊ですし、魔進の活躍を見せたかった。それに、放っておくと出なかったりするから、どうやって魔進を魅力的に見せるかということは割と考えていて、魔進と入れ替わるのがいいんじゃないかと。声優さんたちも楽しんでやってくれていたし、よかったですよね。
篠宮 誰ひとり、影にかすむことなく、みんなのキャラが立っていたなぁと思いました。この作品に関して僕は、歴代のスーパー戦隊の中でも特に目が潤むことが多かったんですが、そもそも泣かせにいくという狙いはあったんですか?
塚田 目指していたわけではないけど、エモいドラマを作るということは感情が揺さぶられるということなので泣きにつながるものは多いし、そういう方向性が見えたら、これじゃまだ泣けない、っていう感じで脚本を作っていったというのはありますかね。
篠宮 なんで泣いているのか説明できなくて不思議だったのが、エピソード11「時がクルリと」の(射水)為朝がリセットボタン邪面に果敢に向かっていく話で。これまでタイムループ回は途中で解決するような感じだったんですけど、敵が諦めるまで何度もトライするというのは斬新でした。
望月 それはキラメイジャーだからこそ。敵が為朝のキラキラに根負けするっていう、らしさですよね。為朝はキラキラを失いかけてはいたけど、為朝側を変に落とすことはしない。
塚田 キャラクターを落とさないというところは意識していました。「こいつらすげーな」っていうことをちゃんとやる。倒れても立ち上がるというパターンもありますけど、そうじゃなくてもすごいということを見せようとした感じですね。
篠宮 そういうのが結果的にキラキラに繋がっていった?
塚田 そうですね。キラキラだからそういう風にしていったし、そんな彼らがピンチになって…という終盤戦とかでは、よりすごく見えるといいなって。
–{OP曲にまつわる意外な(?)真実}–
篠宮 それに、主題歌とEDが素晴らしかったです。
望月 音楽もですけど、OPの藤林聖子さんの歌詞にインスピレーションを与えられたりしましたね。傷つき、磨きあげるっていうところがいいよなって。
塚田 藤林先生の歌詞の中に作品作りのヒントがある。歌詞の中から、これを撮るぞ!って(笑)。
望月 『宇宙戦隊キュウレンジャー」でもそうでした。すごくヒントになりました。
篠宮 作品を予言していると都市伝説のように言われてますが、お話を歌詞に寄せていくこともあるんですね。
塚田 もちろん双方向なんですけど、こういう番組です、という話を受けて藤林さんが書いてくれた歌詞に、そうそう!これだ!っていうものがある。
望月 僕らがやりたいけど、うまく言葉にできないことを歌詞に入れて、的を射て返してくれる。僕らの中にない言葉で。そういうこと!ありがとうございます!っていう(笑)。
篠宮 そして、ファンはかなり驚いたと思うんですけど、エピソード27「大ピンチランナー」で『獣拳戦隊ゲキレンジャー』の(真咲)美希さんとなつめちゃんが親子で出てくるじゃないですか。ジャンとかレジェンドが出てくるとキラメイジャーがかすんじゃうけど、ファンをよろこばせつつ、よりキラメイジャーが立つような絶妙なキャスティングだったと思います。
塚田 そうですか(笑)。あれは、美術の打ち合わせで、小道具に「スクラッチ」の商品を使って、わかる人はわかるくらいが楽しくていいかなというのがスタートで。その段階では、コラボ回になることは決まっていなかったんですけど、やったら面白いかなと思って横手さんに連絡して書いてもらいました。そこで「スクラッチ」の社員である、真咲親子に登場してもらうことになりました。
篠宮 過去のスーパー戦隊が関わってくることは、スムーズに?
塚田 まぁいいかなと思って(笑)。『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』の小道具も使ってますし。
望月 僕らの知らないようなものまで、いっぱい使ってます。
篠宮 それを探しながら見返すのも楽しいですね。また、田口清隆監督の回もかなり驚きました。塚田さんと田口さんは、面識があったんですか?
塚田 面識はなかったんですけど、共通の知人の披露宴でお会いしました。田口監督と一緒にお仕事をしたいなと思っていたので、挨拶に行って「スーパー戦隊とかやってるんですけど、興味ないですか?」と名刺交換してもらって連絡しました。『機動警察パトレイバー』で仕事をしていた関係だと思うんですけど、田口さんの隣に押井守監督もいらして。「(押井さんがいるのに、)僕ですか!?」って言われたんですけど(笑)。「できます」とご連絡いただいてから、調整して後半話(エピソード32「小夜に首ったけ」、33「巨獣パニック大激突!」)に入っていただきました。田口さんに撮ってもらうなら、と佛田特撮監督にもお願いしてロボ回というか、巨大戦がいっぱいある回を作ったんです。僕が『忍風戦隊ハリケンジャー』の担当でついたときに田口さんも佛田さんのところにいたそうで、実はその前に一緒に仕事してたんです(笑)。「せっかくスーパー戦隊をやるなら、他のこともやりたい」と言ってたので、もうひとつのエピソード32は巨大戦がほとんどない流れにして、後編はもう巨大戦ばっかりっていうメリハリを出しました。
篠宮 巨大戦の部分は、何かリクエストを出されてたんですか?それともおまかせで?
塚田 演出に関してはおまかせですけど、打ち合わせをするなかで田口監督からいっぱいアイディアが出て。アイディア出すのも行動が早いのも、坂本浩一監督と似ているなと思いました。なるほどというか。
篠宮 アクションもすごかったんですが、28話「時雨泣き」でプロジェクターゴモリュウのところがあったじゃないですか。タブレットの争奪戦のところはワンカットですか?
塚田 擬似ワンカットですね。アクション監督の福沢博文さんから、そういうのをやりたいっていう話があったんです。福沢さんとは、現場でいろいろお話するので。それこそ全編ワンカットみたいなこともできたらやりたいけど、なかなかできないじゃないですかということで、なるべくそう見えるアクションをやることになり。ヒッチコックの『ロープ』も全シーンワンカットだけど、擬似ワンカットというか、つなぎは当然あるので。でも、僕らもオール(オールラッシュ=荒編集した映像)で見てわからなかったんですよ。コマ送りして、ほんとだ!って。
篠宮 最初何気なく見てて、「あれ、途切れてないぞ?」と、もう一回見たら「ワンカットになってる!?」と思って。
塚田 それは正しい見方ですね。ありがとうございます。
–{こだわって描いた“キラメイジャーならでは感”}–
篠宮 あと、究極の選択を迫られた充瑠がどちらかを選ばないというのが、令和のヒーローのスタンダートなのかとも感じて、すごく斬新に見えたんです。それは作品としてのこだわりなのか、充瑠のキャラクター的に当然の流れだったのか知りたいです。
塚田 そこは確かに“キラメイジャーならでは感”を意識しながら、脚本作りをしていた感じはありますかね。白黒つけられない問題は実際多いし、結局は理想を描く作品でいいじゃないかというところと、ただあまりにも嘘っぱちだとただの理想論になっちゃうから、着地点として、ヒーローとして、どういうことを決断するのかというのは考えました。
篠宮 充瑠と小宮さんのシンクロ感がすごく高かったんですが、ストーリーが進むにつれて、双方引っ張られていった感じなんですかね。
塚田 それもあると思うし、小宮くんのポテンシャルも。物怖じしないというか、立派。『ラヴィット!』で、「ひらめき〜んぐ!」ってやったあとにシーンとなった現場で「ちょっとやめてくださいよ〜」みたいなことを堂々とやってたのを見ましたけど、大したもんだよなぁって(笑)。
篠宮 あはは! なるほど。
塚田 結構、思い切りがいいんですよね。
望月 オーディションのときからそうでした。「ちょっとやめてくださいよ〜」っていう感じの、間を埋めるようなテクニカルなことを無意識にやっていて。そういうセンスみたいなのがあったので「演技のレッスンとかやってるの?」って聞いたら、ほとんどやってないというので驚きました。
篠宮 へぇ〜! キラキラを体現してたんですね。
塚田 天才肌の感じ。そういう意味でも充瑠に合っていたんですね。
篠宮 一方で、為朝が今までのレッド像を担っている部分があったような気がしました。
望月 それがあるから充瑠は、いわゆるレッドの真逆をやることができていたんですよね。
塚田 充瑠は令和のアップデートされたというか、みんなの半歩先をいっていることを意識したキャラ造形にしようとしていたから、今までの価値観でちゃんとやれてフォローをして、っていうのを為朝が担っていて。理詰めの為朝がどう行動して充瑠の天才性はさらにそれをどう上回るのかが、脚本を作っていて一番難しいところでした。憧れの存在のような、こういう風になれるといいよねっていうキャラクター造形にしていましたね。
篠宮 また、エピソード40「痛む人」のそれまでと違うテイストも内包できる、キラメイジャーの大きさにも圧倒されました。
塚田 あれは東映では『特捜9』や『相棒』を書いてくれている脚本家の徳永富彦さんで、田口監督のときのように「興味ありますか?」と声をかけにいきました。一流どころのスタッフをゲストで連れてきて新しい血を入れるというのは、1年間のシリーズをやる中で、いくつかチャレンジをしたいと思ったことのひとつですね。徳永さんは結構ダークなアイデアを出してこられて、他のスーパー戦隊ならいいけど「キラメイジャー」としては…というキャッチボールして、あの形になりました。『特捜戦隊デカレンジャー』のころとかは、わざと問題作みたいなことをやりたいと考えて暗い話を作ったりしていたので、そういうテイストの回ですね。ただ、異色作ではあるけど、ちゃんとキラメイジャーになっているということは意識しました。
篠宮 その回で葉山康一郎監督がデビューされましたが、それは意図的に?
塚田 タイミング的な巡り合わせですね。チャレンジではありましたけど。でもよかったよね。
望月 素晴らしかったと思います。
塚田 自分の名刺がわりになるような作品にしてくれ、とはっぱをかけました。頑張って撮ってくれてよかったですね。
–{「キラリュウ」で注目してほしいポイント}–
篠宮 そして今回、「キラメイジャーVSリュウソウジャー」は坂本浩一監督&脚本・下亜友美さんですが、どんな経緯だったんですか?
塚田 基本的には、両作品やってる人ということですね。
望月 撮影が最終回の後というタイミングもあって。
塚田 それに坂本監督なら、2つの戦隊のアクションの違いも的確に表現してもらえますし。下ちゃんに関しては、よく知っている優秀なスタッフということと明るくコミカルな彼女の得意なテイストがVSの楽しい感じに合っているかなと。
望月 塚田は、脚本家はコミュニケーション能力が大事とインタビューで言っていましたが、VSはいつもより企画チームの人数も多いなか、彼女が担当したことでコミュニケーションもよく取れていたんじゃないかなと。
篠宮 では最後に、「キラメイジャーVSリュウソウジャー」の見どころをお願いします!
望月 やっぱり、アクションですかね。リュウソウジャーは素面アクションが多かったので、それをまた観て懐かしんでもらえたらと思いますし、一方でテレビであまり見られなかったキラメイジャーのアクションが見られるのも楽しみにしてもらえたら。キラメイジャーはコロナもあって素面アクションが少なかったので、キャストは衣装合わせから坂本監督と盛り上がるくらい楽しみにしていました。ぜひ注目していただきたいです。
【取材後記】
毎週書き続けてきたこの特撮コラムも気づけばもう200本を超えてました。
担当の方にこの機会に何かしたいことはありますか?と言っていただいたので、僕は「キラメイジャー」のプロデューサー、塚田さんと望月さんにお話を聞きたいとワガママを言わせていただきました。
そして、東映ビデオさんのご尽力もあり、取材が実現しました。
2020年は世界中が未曾有の危機に陥りましたが、そんな中でこれでもかとキラキラしていた「キラメイジャー」が沢山の人に希望を与えたことは周知の事実ですし当然僕もその中の一人です。
そんな「キラメイジャー」がどうやって、そしてどのような気持ちで作られていたかをどうしても知りたかったのです。
今回、お話を聞けたことでさらに「キラメイジャー」を好きになれました。
数年後コロナ禍を振り返る時、大変だった記憶よりも「キラメイジャー」を毎週楽しみにしてたという記憶が真っ先に脳裏に浮かぶと思うんですが、危機的状況の中、ブレない熱で作品を作り上げた塚田さんと望月さんを含めた制作陣皆々様もヒーローと呼んで間違いないなと、インタビュー中に思った次第でありました。
(取材:篠宮暁、文:大谷和美)
【オジンオズボーン・篠宮暁の“特撮”向上委員会】
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