「半径5メートル」第9話までのネタバレ感想:「自分の足元にある真実を、しっかり見つめることが大事」

国内ドラマ

芳根京子と永作博美が共演するNHKドラマ「半径5メートル」が、2021年4月30日より放送開始となった。

女性週刊誌の編集者と記者が、世の中の女性たちが日々感じる生きづらさに迫っていく姿を描く本作。

「僕の生きる道」「モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~」などで知られる橋部敦子が16年ぶりにNHKドラマの脚本を手がけ、週刊誌の若手編集者を芳根京子、型破りな名物記者を永作博美が演じる。

本記事では毎話放送後に感想を記していく。

もくじ

・第1話あらすじ&感想

・第2話あらすじ&感想

・第3話あらすじ&感想

・第4話あらすじ&感想

・第5話あらすじ&感想

・第6話あらすじ&感想

・第7話あらすじ&感想

・第8話あらすじ&感想

・第9話あらすじ&感想

・「半径5メートル」作品情報

第1話あらすじ&感想

第1話のあらすじ

週刊「女性ライフ」編集者の風未香(芳根京子)は、芸能スクープを扱う「一折(いちおり)」班で大失敗し、読者の「半径5メートル」の話題を掘り下げる「二折(におり)」班に異動。名物記者・宝子(永作博美)と出会う。

二人は、レトルトおでんを買う主婦を非難してSNSで話題になった「おでんおじさん」のネタを取り上げるが、女性たちの怒りの声を集めようとする風未香に対し、宝子はなぜかコンニャク作りを始める。

第1話の感想:「あなたは、何をどう見るの?」

「あなたは何を、どう見るの?」

永作博美演じる宝子のセリフに、ドキッとさせられた。

このドラマは、架空の女性週刊誌で主にスクープを取り扱う通称「一折(いちおり)」から、生活の半径5メートル圏内にある身近な話題に注目する通称「二折(におり)」へ異動となった風未香(演:芳根京子)が主人公。フリーライターである宝子に突きつけられた冒頭のセリフに、見ている私までギクリとさせられたのだ。

1話では、子どもを連れた主婦がレトルトおでんを買おうとしたときに出会った「おでんおじさん」がテーマとなっている。見知らぬおじさんから「子どもには手づくりのものを食べさせてあげなさいよ」と注意されたというのだ。実世界で聞いたことのあるような話に、思わずクスッとした。

子どもをもつお母さんなら、レトルトおでんくらい買ったことがあるだろう。作中でも言われているように、お母さんは忙しい。家事に料理に育児に仕事に……「ワンオペ育児」なんて言葉が浸透するほど、当たり前に一人何役もやってのけるお母さんがたくさんいる。そんな方こそ、今回のテーマには一家言あるのではないだろうか。

半径5メートル圏内の身近な話題を深堀りする二折に新しく配属された風未香は、フリーライターである宝子とバディを組み、この「おでんおじさん」問題を追う。実際に件のおじさんに遭遇した女性に話を聞きに行き、なぜか原材料からはんぺんやこんにゃくを作り……。

宝子の仕事の進め方は、一折にいた頃とは何もかもが違う。それでも、行動を共にするにつれ、風未香は少しずつ気づく。半径5メートルの事象に注目し、そこから見えてくるものは何なのか、浮かび上がってくる表情とはどんなものなのか。

「おでんおじさん」の件では、女性に妻や母としての役割を必要以上に求めたがる男性の心理に行き着いた。幼い頃から強く在れと強いられた男性たちは、いつしか「強くいなきゃ男ではない」と思い込むようになる。そして女性を「守るべき対象」として見るようになり、いつしか、「守ってやっている自分(男性)に対して、女性としての役割をまっとうするのが自然なことだ」と考えるようになるのだ。

物事には、必ず因果があると思わされる。私も曲りなりにライターのひとりである以上、考え続けなければならない。半径5メートル圏内にある、捉えるべき”モヤモヤ”はどこにあるのか。そこから、何が見えてくるのか。

「あなたは何を、どう見るの?」

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–{第2話あらすじ&感想}–

第2話あらすじ&感想

第2話のあらすじ

目覚めたら山辺(毎熊克哉)とベッドを共にしていた風未香(芳根京子)。以来、山辺はただ泊まりに来ては朝、会社に行くということを繰り返し、風未香を混乱させる。

ある日企画会議で女性用風俗が話題になり、風未香は宝子(永作博美)と共に様々な「出張ホスト」とのデートを体験取材することに。そんな中、デスクの丸山(尾美としのり)は、宝子が取材した利用者の中に妻の絵美(片岡礼子)がいることに気づきがく然とする。

第2話の感想

違和感や疑問をそのままにしてしまうことが、よくある。なぜなんだろう、どうしてなんだろうと思っても、自分のなかで丸く収めてしまえば争いは起こらない。そうやって箱のなかにしまって無かったことにしてきた気持ちがたくさんある気がした。「モヤモヤは発見の鍵だから」と宝子さんに言われてしまう。
第2話のテーマは出張ホスト。フリーライターである宝子は自ら出張ホスト100人と会い、その様子を漫画化する企画を進めていた。その過程で、丸山デスクの奥さんが出張ホストを利用している事実が明らかになってしまう。

「うちの奥さんに限ってそんなことはない」「性欲なんてない人だから」と鷹揚に構えていた丸山。いざ自身の奥さんが出張ホストの客だったことを知ったときの驚きはすごかった。そして実際に奥さんに確認してしまう勇気もすごい。「私だって女になりたいときくらいある」と言い返す奥さんに対し「そんなこと思ってたんだ……」と言ってしまう丸山。きっと、奥さんの本心を捉えられていない旦那さんのほうが多いだろう。

「誰だって、大切にされている感覚に包まれたい」ーー風未香の独白に、大いに頷けいてしまう。丸山の奥さんも、風未香自身も、ほかの誰だって、自分を大切にしてほしかっただけだ。自分で自分を大切にするだけでは足りずに、同じように誰かにも愛してほしかっただけだ。ないがしろにされる自分を、肯定したくないだけだ。

このドラマは、つい自分でも見て見ぬフリをしてしまいがちな、心の奥底にある感情をすくい取り、目の前に出して見せてくれる。次はどんなもやもやを目の前に広げてくれるのだろうか。

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–{第3話あらすじ&感想}–

第3話あらすじ&感想

第3話あらすじ

風未香(芳根京子)が書いたカリスマミニマリストの記事を読んだ実家の母・祥子(いしのようこ)が物を捨てまくるようになった。長年家族で囲んできたダイニングテーブルまで捨ててしまい、父・和彦(小林隆)は激怒、大喧嘩(げんか)となる。

そんな中、宝子(永作博美)は「私はこれを捨てられません」というテーマで記事を書こうと言い出し、絵本作家・いずみようじ(塚本晋也)の家などあちこちに風未香を連れ回す。

第3話の感想

「テーブル捨てた・捨てないで、どうしてそんなに揉めるんだろう?」

第3話のテーマは、物を捨てられるか捨てられないか。「断捨離」や「ミニマリスト」などの言葉は一般的になりつつある。なるべく物を持たずにシンプルに暮らす人と、なかなか物が捨てられずごちゃごちゃした部屋で暮らす人。持たざる者と持つ者、どちらが幸せなのか……なかなか考え込んでしまうテーマだ。

ミニマリストで有名になったカリスマ主婦に取材した記事で、晴れて独り立ちした風未香。しかし、物事はそう上手く運んではくれない。その記事に影響を受けて、風未香の母が断捨離に目覚めてしまったのだ。父が大切にしていたダイニングテーブルまで許可なく処分してしまい、離婚寸前の危機に……。

テーブルを捨てた・捨てないで、離婚寸前の喧嘩をしてしまうほど揉める理由は、どこにあるのだろう?

思い返すと、私自身も物に限らず人間関係や思い出まで、容赦なく整理する性質だった。写真を撮る習慣もないため、フォルダはすっからかんだ。「物がある」状態そのものにストレスを感じる性格ゆえの断捨離癖が抜けない。潔いように見られることもあるが、私自身は「懐かしく思い返す出来事そのものがない」状態に寂しさを感じることも、よくある。

物には、値段で判断できない価値が宿っていることが多い。風未香の父親にとって、27年もの間リビングに鎮座していたテーブルは、ただのテーブルではなかったのだ。家族との思い出が隅々にまで宿ったテーブルだった。その思い出ごと軽んじられ、勝手に捨てられたと思い込んでしまったからこそ、大喧嘩に繋がったのだろう。

物を捨てるって、なんだろう。
物を大切にするって、どういうことだろう。
大切なものをひとつ選ぶって、何を決めることなんだろう。

自身の断捨離癖を見直したい、そう思えた回だった。

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–{第4話あらすじ&感想}–

第4話あらすじ&感想

第4話あらすじ

子どものSNSについて特集することになった風未香(芳根京子)と宝子(永作博美)たち。7年前、トランスジェンダーであることをカミングアウトし離婚した香織(北村有起哉)は、若い女性になりすまして娘の怜奈(上野鈴華)とSNSでつながっていた。

怜奈からどうしても会いたいと食い下がられた香織は、風未香に秘密を話し、代わりに会ってくれと頼み込む。だが深夜になっても帰宅しない娘の前に自ら姿を見せることに…。

第4話の感想

北村有起哉の演技に、心をすべて持っていかれた……!

元々は男性、結婚し妻も子どももいたけれど、7年前に「やっぱり女性として生きていきたい」と告白し離婚することになった過去を持つ香織。身分を偽って実の娘とメッセージのやりとりをしていた。高校生で年頃の娘の、思春期にありがちな悩みを聞きつつ、「自分として生きることが大事」とアドバイスし続ける。

一度は結婚し家庭を持った身でありながら、男性から女性へと生き方を変える決意をするのは相当な勇気が必要だっただろう。普段はクールに見える香織、心の内では誰にも言えない悩みや苦しみを抱えていたのかもしれない。私自身、家庭を持ったことも性別を変えたこともないけれど、どれだけの苦しみとともにこの人は今ここにいるんだろうと思ったら、なんとも言えず泣けてきてしまった。

とにかく北村有起哉の演技が上手い。お手洗いで偶然会った宝子に思わず「ハグしてもらっていいですか」と言うシーンでは、もらい泣きした。これまでの苦労、積み重ねてきたものすべてに耐えられなくなった瞬間を表しているように見えて、たまらなくなった。

最後には、しっかり娘に会い、離婚した理由や、本当は女性として生きていきたい希望も伝えている。カミングアウトを受けた娘が「女性になったパパが見たい」と言ったり、「呼び方はパパでいいの?」と聞いたり、自然に受け入れている様子も見ていてホッとした。

まだまだ難しいかもしれないけれど、すべての人が、望む生き方で生きられる世の中になればいいのにと思う。「許可する・許可しない」の軸で語られることがなくなりますように。

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–{第5話あらすじ&感想}–

第5話あらすじ&感想

第5話あらすじ

山辺(毎熊克哉)が特大スクープを取るが、ネタ元の陰謀とわかり窮地に追い込まれる。

一方、風未香(芳根京子)は児童養護施設に匿名で寄付をするボランティアたちを取材。調べるうちに、昔クリスマスケーキを施設に配り歩いてヒーロー視されていた巻上(緒形直人)という人物の存在を知る。

その頃、宝子(永作博美)はなぜか単独行動が目立ち、編集長の亜希(真飛聖)しか知らない謎の取材を進めていた。

第5話の感想

「世に出した記事は、一生背負うことになる」

山辺がとある筋から掴んだ一大スクープは、ひとりの俳優を窮地に陥れるための罠だった。しっかり取材をし、裏をとった上での記事化だったが、真実は未だわからない。俳優サイドからは雑誌に対し訴えを受け、ネット上では山辺の実名や住所まで晒され、叩かれている。何もできないと感じた風未香は、ただ歯を食いしばるのみ。

宝子は言った。「世に出した記事は、一生背負うことになる。できることをやるしかないんじゃないか」ーーその言葉を聞いて、私は映画「食運!フード・ラック」を思い出した。NAOTO演じるフリーライターは、とある記事を書いたことで、地元に根付き愛されるパン屋を潰してしまった過去を持つ。一度書いた記事は、なかったことにはできない。あとからどんなに謝ろうが、撤回記事を書こうが、世に与えた印象を変えることはできないのだ。私自身も、ライターとして言葉に責任を持たなければいけない身。ズシッと重いものが両肩に乗る感覚がした。

山辺のことを気にかけながらも、自身の仕事を進める風未香。「ボランティアヒーロー」をテーマに、児童養護施設に寄付をするボランティアを取材している。その関連で、過去に風未香自身が熱愛スクープを取り上げようとした俳優に話を聞くことに。彼は児童養護施設出身だった。

「施設にいた頃、クリスマスケーキを寄付してくれた人がいた」「その人が一度だけ怒ったことがあった。施設の子の噂が広まったとき、”自分で見たり聞いたりしたことじゃないのに、簡単に信じるな”って」

私たちは、良い意味でも悪い意味でも、騙されやすい。テレビやラジオで言っていたことだから、と無条件に真実だと思い込むところがある。しかし、世に流れているすべてのことが正しいわけではない。みんなが口にしているからと言って、自分も口にしていいわけではない噂もたくさんあるだろう。

世に出していいことと、悪いこと。小さな頃に習ってきたはずの、当たり前のこと。もう一度、立ち返るべきなのかもしれない。

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–{第6話あらすじ&感想}–

第6話あらすじ&感想

第6話あらすじ

風未香(芳根京子)は、昔児童養護施設にクリスマスケーキを配り歩いてヒーロー視されていた巻上(緒形直人)という人物が、その後あるスクープ記事をきっかけに転落し、記事を書いた記者と不倫報道までされていたことを知る。

時を同じくして、宝子(永作博美)もある目的を持って巻上を訪ねていた。現地で宝子と鉢合わせた風未香は、宝子が抱えてきた秘密を知る。

第6話の感想

「私、約束を果たさないと」

10年前、賞味期限切れの牛乳を使ったケーキを児童養護施設に寄付していたとして、製菓会社の社長・巻上がバッシングに遭った。炎上のきっかけとなる記事を書いたのは、ライター・鶴川ゆう。亀山宝子の本名だ。

クリスマスケーキを寄付する、子どもたちにとっての英雄という立ち位置から一転。「偽善者」として世間から叩かれ続ける巻上。記事を手掛けた鶴川は、自分のしたことの重大さに後から気づく。

「名誉挽回する記事を書かせてくれ」と巻上に頼むが、「それで、壊れてしまった会社や家族は元に戻るのか?」と拒否されてしまう。食い下がる鶴川に、巻上は代替案を示す。

慕ってくれている児童養護施設出身の女性が、とある議員からのセクハラ被害に悩んでいるという。決定的な証拠を元に、事実を公表する記事を書いてくれ、それが望むことだと熱心に伝える巻上。それが彼のためになるのなら、と約束した鶴川は名前を「亀山宝子」に変え、10年もの長い期間、当の議員を追うことになった。

ライターや記者が世に出す記事は、出してしまったらハイ終わり、とは決してならない。Webであっても雑誌であっても新聞であっても、媒体とは関係なく「出した事実」は残り続ける。

出した記事をきっかけに、芋づる式に新たな事実が判明することもあるだろう。出した記事のせいで、人生を壊される人もあらわれるかもしれない。記事を書き世に出した人間は、どんな事態を引き起こすかまで想像する必要がある。挽回できるならまだいい。大抵はドラマのように、上手く事がおさまってはくれないだろう。

言葉を扱う仕事をするひとりとして、言葉が持つ力を忘れないようにしたい。宝子のように、一度してしまった過ちを取り返すのに、10年もの歳月がかかるかもしれないのだ。ふと世に出した一言がどんな結果に繋がっていくか、私たちはもっともっと、想像力を持たねばならない。

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–{第7話あらすじ&感想}–

第7話あらすじ&感想

第7話あらすじ

風未香(芳根京子)は、山辺(毎熊克哉)がネットで顔や自宅をさらされたために風未香の部屋で引きこもり気味なことが気になっていた。

そんな中、ますみ(山田真歩)とともに高名な美術評論家・美砂子(阿川佐和子)の連載エッセイの担当につく。だがますみの9歳の娘・あかり(野澤しおり)の心身が不安定になってしまい、ますみが仕事を休むたび、風未香はそのフォローで四苦八苦する羽目(はめ)となる。

第7話の感想

今回は、小学生の娘がいる編集部の仲間・ますみにフィーチャーが当てられる。長年のファンである作家先生のエッセイ担当に抜擢されたますみは、仕事も育児も完璧にこなそうと奔走するがーー夫が単身赴任のなか、ワンオペ育児になりがちなところを、なんとかフォローしてもらうことで切り抜けていた。身軽に動ける立場である風未香が、最もそのあおりを受けることに。

自分の仕事もあるなか、ギリギリのところでフォローにまわる日々を送り、少しずつ風未香もくたびれてしまう。

「子育てする人をフォローするのは、当たり前のことなのに……」
「ますみさんを責めてしまいそうになる自分が嫌で」

思わず宝子に思いを吐露してしまう風未香。それを受け宝子は「それって、当たり前なのかな?」と問う。

「そんなの、いつ誰が決めたの?」
「その当たり前は、ふーみんだけが引き受けなきゃならないことなのかな?」

世の中には、男女問わず”育児や家事をしながら仕事もする”人たちが、少なからず存在する。私は未婚で子供もおらず、すべての時間を自分や自分の仕事だけに全投入できる身だ。だからという訳じゃないけれど、いわゆる”子育て世代”のフォローにまわる機会も多かった。風未香と同じように、「いつか自分もそうなるかもしれない」から手伝っておこう、といった打算がなかったと言ったら嘘になってしまう。

私も「小さな子どもがいる人はいろいろと大変だから、身軽に動ける自分が率先してフォローにまわるのは当たり前」だと思っていた。完全に風未香と同じ立場で、同じ考え方。だからこそ感情移入してしまったし、宝子の言葉にハッとさせられた。

当たり前か、当たり前じゃないか、そんな二元論で語るのではなく、純粋に「手伝いたいから手伝う」という動機で手伝いたいなと私なら思う。あの人は小さい子供がいて大変だから、なんて理由だけで荷物を半分背負うようなことはしたくない。作中でも、ますみは「母親で大変な身だから」ではなく「手伝いたいと思える相手だから」という理由で周りの助けを得られていた。

その人自身を見て手を貸したいと思ったときに気持ちよく手を貸したい。これまで抱いてきた違和感が一気に形を持った。同時に、どう考えてどう向き合えばいいのかも、わかった気がした。

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–{第8話あらすじ&感想}–

第8話あらすじ&感想

第8話あらすじ

ある日、風未香(芳根京子)は宝子(永作博美)と立ち寄った喫茶店で、中学時代の塾の恩師・阿南(須藤理彩)がバイトをしているところに出くわす。阿南のおかげで勉強が好きになったと感謝してきた風未香だったが、実は阿南は就職氷河期世代で、当時もアルバイトの身だったと知る。

氷河期世代のおかれた現状が気になった風未香は、SNSで積極的に発信する氷河期世代のインフルエンサー、須川(渡辺真起子)を取材する。

第8話の感想

今回のテーマは「就職氷河期世代」。バブル崩壊後の約20年間のうちに就職活動をすることになった世代で、2021年現在、30代後半〜50代の方たちを指す。「100社受けても100社落ちる人もいた」くらいで、社会や時代のせいで人生に影響を受けた人も多かったという。

氷河期世代の現在を取材することになった風未香。偶然、喫茶店でアルバイトをしていた中学時代の塾講師・阿南と再会する。勉強についていけなかった当時の風未香に、勉強や読書の楽しさを教えてくれた恩師だ。近況報告をし合ううちに、阿南こそ就職氷河期世代であり、現在もアルバイトを掛け持ちしながらなんとか生計を立てていることを知る。

取材させてもらえないか、弁護士を紹介することもできるから、と阿南に掛け合う風未香。しかし、阿南の反応は芳しくない。風未香が理由を聞くと、「名刺かな」という阿南。

「何の肩書きも持たないまま中年になった私の前に、昔の教え子が現れた」
「立派な会社の名刺出されて、お茶代、払ってもらって」
「自分が惨めだったの」

大きなミスをしたおかげで一折から二折になった、と話す風未香に対し「私には、失敗するチャンスもなかった」と嘆く阿南。正社員になるためにたくさんの資格を取るも実らず、かつての教え子に手を差し伸べられた自分が惨めに感じられてしまう気持ち。

私にも、わかる気がする。自分は氷河期世代には当たらないけれど、「肩書きのない自分」や「魅力や強みのない、何者でもない自分」が、どうしようもなく虚しく思えて仕方がない瞬間があるのだ。

もうひとり、氷河期世代にあたる女性インフルエンサーへ取材打診が通った風未香。取材そのものは順調に進んだが、女性が最後に言った言葉が風未香の心に引っかかり、記事にする際に省略してしまう。そのことが、女性インフルエンサーの気に障ってしまった。

宝子に「どうして削ったの?」と聞かれる風未香。少々過激な言葉で、”読者の共感”を得られないと思ったから、と正直に告げる風未香に対し、宝子が返した言葉がまたもや気づきに満ちていた。

「ふーみんが見てきた半径5メートルと、彼女が見てきた半径5メートルは違う」

得られないと思ったのは、”読者の共感”ではなく”風未香自身の共感”では? と諭す宝子に、言葉がなくなる風未香。このシーン、同じライターや編集者として身につまされた……。ライターとして記事を書いていると、どうしても「私は読者代表だ!」と勘違いしてしまう節が、私にはある。それがいつの間にか「自分の感覚」によりすぎていないかどうか、いつだって点検していなくてはならない。

言葉を扱う者として、情報を発信する立場として、忘れてはならない視点を与えてくれるドラマ。ついに、次回が最終回だ。

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–{第9話あらすじ&感想}–

第9話あらすじ&感想

第9話あらすじ

風未香(芳根京子)がかつて熱愛スクープを撮ろうとして失敗した浅田航(倉悠貴)に、新恋人が出来たという報道が流れる。お相手はITベンチャーのやり手社長・興津美咲(西原亜希)。

その会社が自治体に納入している子育てアプリを宝子(永作博美)と共に取材する風未香だったが、アプリが不具合を起こしていることがわかると、興津の会社を信用しない山辺(毎熊克哉)と取材方針が対立することに……。

第9話の感想

ライターとして、言葉を扱う者として、忘れてはいけない大切なことをたくさん教えてくれたドラマ「半径5メートル」。今回で最終回を迎えてしまうが、最後まで、心に留めておきたい言葉が溢れていた。

かつて綿貫さゆりとの熱愛が報道された浅田航。なんと、最終回で突然、別の女性との熱愛が報道される。相手は浅田よりも8歳上の女社長・興津だ。エトワールというWebアプリ制作のベンチャー企業を経営しており、市の子育てアプリ開発に名乗りを挙げていた。

子育てアプリに関する企画を担当することになった風未香は、さっそく取材を始める。同時に、風未香の恋人であり一折の記者である山辺も、興津社長を追っていた。それは、興津社長が元ホステスであることをすっぱ抜いたゴシップ記事を書くため……。

山辺がしっかり取材をして記事を書いていることはわかっている、と弁解しながらも、モヤモヤが押し殺せない風未香。子育てアプリの件と、興津社長が元ホステスであることに何の関連性があるのかーー違和感を拭えない風未香は、宝子に相談する。

「でも、二折にきて宝子さんに教えてもらいましたよね」
「そのモヤモヤを、見逃さないことが大事だって」

違和感、モヤモヤをなかったことにしない。私自身も、ライターのひとりとして宝子に教えてもらったことだ。変だな……と思うことがあれば、そのまま流してしまわずにとことんまで調べてみる。言葉にし、文章としてまとめ、記事として発表するからには、貫き通すべき姿勢だ。

「モヤモヤの輪郭が見えてきたら、まず食べよう。食べたら動く!」

興津社長が開発の指揮を取る子育てアプリは、不具合のため運用を停止していた。浅田との熱愛や元ホステスなどのゴシップとは関係なく、あくまで子育てアプリについて話を聞くべく興津社長へ会いに行く風未香と宝子。

最初は邪険に扱われてしまうふたり。しかし、次第に興津社長が真実を語ってくれる。浅田とは同じ児童福祉施設の出身であること、姉弟のように励まし合ってきた存在であり、熱愛報道はまったくの誤報であること、自身の出自をきっかけに、子育てアプリ開発に全勢力を注いでいること。

「届けたいです。興津社長のその想いを、きちんと届けたいです」

言葉にしなければ、世の中に届かない真実がある。見る人の感覚によって、立場によって、真実は異なるのかもしれない。それでも、「届けたい」と願い言葉にする人がいるからこそ、”ねじ曲がった真実”は正されていく。私自身も、ライターたるもの、できる限り真実を追い求める取材を心がけたい。改めて、襟が正される思いがした。

最後の最後で、風未香と山辺が道を違えることになったのは少々予想外だった。それでも、反発しあっての別れではない。お互いがお互いの”理想の書き手”となるべく、信じた道を進む。己の思いに嘘をつくことをしなければ、また道が交わることもあるだろう。

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–{「半径5メートル」作品情報}–

「半径5メートル」作品情報

「なぜ私はこんな思いをしているのだろう?」――世の女性たちが日々感じている違和感や生きづらさ。女性週刊誌の若手編集者と型破りなベテラン記者のバディが、身近な話題から世の中を見つめていく。

放送予定
NHK総合:2021年4月30日(金)スタート 毎週金曜  22時~22時44分 

再放送
NHK総合 毎週水曜 午前1時14分(火曜深夜)


橋部敦子
藤平久子 
川崎いづみ(*崎は「立」の崎)

チーフ演出
三島有紀子

音楽
田中拓人

挿入歌
「5meters」 作詞:三島有紀子 作曲:田中拓人

出演
芳根京子
毎熊克哉
真飛聖
山田真歩
北村有起哉
尾美としのり
永作博美

制作統括
勝田夏子
岡本幸江

演出
岡田健
黛りんたろう
北野隆

公式HP
半径5メートル – NHK 

NHKドラマ公式Twitter
NHKドラマさん (@nhk_dramas) / Twitter 

キャスト/スタッフ コメント

芳根京子 コメント

週刊誌の編集者、前田風未香役を演じさせていただきます。その中でも、今回は二折に注目した物語になります。二折とは普段生活をしている中で身近なこと、半径5メートルで起きていることを記事にしていくお仕事です。
永作さん演じるベテラン記者の宝子さんとバディを組んで、振り回されながらもどんどん成長する風未香を見守ってください!
そして実際に聞いたことのあるような出来事が色々と出てくるので私自身とても興味深いです。クスッと笑いながらズシッと感じてもらえたら嬉しいです。

 

永作博美 コメント

生きる事って大変なんだな、と思わずにはいられない今日この頃。
運試しのような気分にもさせられます。はてどんな努力が必要なんでしょうかねぇ。力抜いて先に進めるならそうしたい。
頭の片隅に長いこと住み着いているモヤモヤをノックする時ですかね。「半径5メートル」狭いようでたっぷり詰まってるこの範囲と、スタッフと共にゆっくりと対峙していけたらと思っています。誰かの何かの手助けになればと祈る気持ちです。でも…きっとそうします。楽しみに待っていて下さい。

作 ・橋部敦子 コメント

情報が溢れかえる時代。
何が正解なのかを探したところで答えは出ません。
人は、正解がないことを知っているから、正解を探そうとするのかもしれません。
正解を誰かに教えてもらうのではなく、自分の視点を持ち、自分で考え、自分なりの正解を作り出していくことが必要とされる今、素敵なキャスト、スタッフのみなさんと共に、この物語をお届けできることを、とても嬉しく思います。

 

演出・三島有紀子 コメント

世界はいつも居心地がいい訳じゃない。だから下を向いて歩く。足元の花や小石や水たまりの月を見つけて考える。なぜ、ここにあるのか?なぜ、自分はここにいるのか?なぜ、つらいのか。
いくつもの“なぜ”が生まれる。身のまわりの“なぜ”を解き明かすと真実が見える気がする。そして願うのだ。新しい世界へと進む扉を見つけられますように。ストーリーはいつだって、あなたのまわり半径5メートルから生まれる。
いつかご一緒に作品を作りたいと願っていた芳根京子さん、永作博美さん、すべての出演者、そしてスタッフと、そんなドラマを届けたいと思う

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