「青天を衝け」一橋家臣編 感想集

国内ドラマ

2021年2月14日より放送開始となるNHKの大河ドラマ「青天を衝け」。吉沢亮が主演を務め、新しい1万円札の顔にも採用された渋沢栄一の幕末から明治の激動の時代を描いていく。

本記事では実質的な第2章を描く「一橋家臣編」についての感想を記していく。

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もくじ

・第13話のあらすじ&感想

・第14話のあらすじ&感想

・第15話のあらすじ&感想

・第16話のあらすじ&感想

・第17話のあらすじ&感想

・第18話のあらすじ&感想

・第19話のあらすじ&感想

・第20話のあらすじ&感想

・第21話のあらすじ&感想

第13話のあらすじ&感想

第13話のあらすじ

栄一(吉沢 亮)と喜作(高良健吾)は江戸で円四郎(堤 真一)の妻・やす(木村佳乃)から一橋家のご証文を受け取り、無事京都へたどりつく。

京都では朝廷が参与会議を開催。薩摩藩などが国政に影響力を持ち始める中、“一度全てを捨て、新しい世を作ろう”と語る松平春嶽(要 潤)に、慶喜(草彅 剛)は静かに怒りを募らせる。

一方、栄一からの文を喜んだ長七郎(満島真之介)は京都に行くことを決意。しかし道中で誤って飛脚を斬ってしまい捕らえられる。栄一の文も見つかり、幕府から目を付けられた栄一と喜作は追い詰められる。

第13話の感想

京へ向かう力を借りるため、一橋家の家臣・平岡円四郎を頼る栄一と喜作。休憩していた江戸の団子屋で見かけた、逃亡中の薩摩藩士・五代才助をディーン・フジオカが演じている。映画『天外者』では三浦春馬が演じていた役どころだ。今後、栄一や喜作とはどのような交流を見せてくれるのだろうか。

無事に円四郎の妻に会うことができ、家臣として京に行けるよう取り次いでもらったふたり。京に到着するや否や円四郎に会おうと何度も訪ねていくが、「忙しい」と突っぱねられ挨拶のひとつも満足にできない。もう挨拶はいいんじゃないか、と及び腰になる喜作に対し「せっかく奥方様に取り次いでもらい、忠誠を誓ったからには恩義を返したい」と意を曲げない栄一。

京の地で志を果たそうとするも、日々の飲み食いや宿代で懐は寒くなる一方。せっかく父が用立ててくれた金なのに……! と観ている側はハラハラさせられる。そうこうしているうちに、長七郎が殺人の容疑で捕まってしまった。これまで長七郎に宛てて送っていた手紙もすべて上に渡ってしまったことがわかり、万事休すの栄一と喜作。

このタイミングでやっと、円四郎に再び会うことが叶う。あらためてふたりの出自やこれまでに企ててきたことを聞いた円四郎は、それらを踏まえたうえで「一橋家の家臣になれ」と誘う。彼の真意は定かではないが、栄一と喜作にとっても、何も成し遂げないまま京の地で捕まってしまうよりは家来になったほうが良い気もする。

長七郎の今後はどうなってしまうのか、ふたりは一橋家の家臣になったうえで、どう行動を起こすつもりなのか……? 血洗島編と同様に、一橋家家臣編も面白くなっていきそうだ。

–{第14話のあらすじ&感想}–

第14話のあらすじ&感想

第14話のあらすじ

栄一(吉沢 亮)と喜作(高良健吾)は、円四郎(堤 真一)から一橋家に仕官せよと迫られるが、栄一は慶喜(草彅 剛)に自らの意見を建白することを条件に出す。円四郎は遠乗り途中の慶喜に2人を対面させ、屋敷で謁見させることに成功。栄一と喜作は、一橋家に仕官することになった。

一方慶喜は、薩摩藩が天皇に信頼の厚い中川宮(奥田洋平)を取り込んでいることに気づく。中川宮を問い詰め、その場にいた島津久光(池田成志)らに“天下の大愚物、天下の大悪党だ”と言い放つ。

第14話の感想

ついに、栄一と喜作が後の徳川慶喜が接見! ここでようやく第1話の冒頭に繋がるのだと思うと、感慨深いものがある。

慶喜の家臣である円四郎から「家臣にならないか」と誘われ、家臣になるか・捕まるかの大きな選択を迫られることになる栄一と喜作。武士になるくらいなら、ここで命を閉じた方が潔い男として認知されるのでは……? と心が揺れる喜作に、「何もしないまま終えられねえ」と武士になる覚悟を決める栄一。百姓から武士へ転身した流れがわかりやすく、決意に至った過程がそのまま伝わってくる。

「家臣になれ」と言われて、はい是非とも、とひとつ返事でいかないのが栄一だ。どうか直接、慶喜に会って二人の愚策を聞いてもらってから、家臣として抱えるかどうかを決めてもらいたいと申し出る。流石の円四郎も、この申し出には苦言を呈することになるが……。

「こうなったら俺も意地だ!」と奮起する円四郎。まずは何らかの手を使って、慶喜の目に入り己が某かを知ってもらうことから始めよ、とふたりに伝える。それが第1話の冒頭、馬で走り抜ける慶喜御一行を走って追いかけるシーンに繋がっていくのだ。

改めて、栄一というひとりの人間を尊敬する。百姓として生まれたからには、百姓として生き百姓として命を終えることが当たり前だった時代。そのことに疑問を持つことさえ許されない時代に、「世を変えたい」一心で武士へと転身した。その後の活躍をしっかり物語で終えると思うと、ますますワクワクする気持ちを抑えられない。

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–{第15話のあらすじ&感想}–

第15話のあらすじ&感想

第15話のあらすじ

栄一(吉沢 亮)と喜作(高良健吾)は、武士として初俸禄(ほうろく)をもらい、円四郎(堤 真一)から「篤太夫(とくだゆう)」「成一郎(せいいちろう)」という新しい名も授かる。

篤太夫の初仕事は、摂海防禦(せっかいぼうぎょ)の要職に就く薩摩藩士・折田要蔵(徳井 優)の隠密調査だった。そこで出会った西郷吉之助(博多華丸)から、“先の時代が読める優秀な人材ほど非業の最期を遂げる”と聞かされた篤太夫は、円四郎の行く末を心配する。

一方、水戸藩では、藤田東湖の息子・藤田小四郎(藤原季節)が攘夷(じょうい)実現のため天狗党(てんぐとう)を率いて挙兵していた。

第15話の感想

正式に一橋家へ召し抱えられることになり、栄一・喜作は毎日一所懸命に働いていた。百姓から武士となりつつも、この世を変えたい野心が尽きたわけではない。百姓出身ゆえの、地に足着いた現実的な立場から、何かできることはないかと頭を巡らせているのがわかる二人。そんな中、円四郎から命が降りた。

薩摩の折田要蔵という人物を調べるため、隠密に入ってほしいという命令だ。

あまり隠密向きではないと自覚している栄一。少々気は進まないようだったが、「世を変えるために必要なことなら」と偵察に向かう。強情っぱりで、一度こうと決めたら突き進む性格の栄一だが、本来の目的を見失わないよう冷静になっている様子。血洗島にいた頃よりも、少しずつ成長している様が微笑ましい。

隠密に向かった先では、図面を引いたり使いっ走りをしたりと、文句も言わずせっせと働き始める。その傍ら、本来の命である折田要蔵の様子を探ることも忘れない。その上で「地図を見ればわかることばかり偉そうに言って、あまり召し抱えるのに向いているとは思えない」と円四郎に伝えるあたり、できる男という感じだ。

その後、偵察先で西郷と出会う。

今回の見どころのひとつでもある、栄一と西郷がともに鍋を挟み、この世の未来について語り合うシーン。「この世はこれからどうなると思うか?」と質問した西郷に対し、「幕府は倒れ、力の強い豪族が世を治めることになる」と見解を述べる栄一。そして兵力のなさを補うためには、一橋様が世を治めるべきだと。

それを聞いて「驚くほど正直な人だ」と目を見開く西郷だが、同じように感じた視聴者も多いのではないだろうか。この時代で、ここまで開けっ広げに自身の見解を述べられる肝のある人物は、そうそういなかっただろう。

あまりに先を見通す人間は、非業の最期を遂げるーー置き土産のように囁かれた西郷の言葉が、栄一の心にも忘れられない濃さで残ったのではないか。未来を予見できる人間なんていない。それでも、栄一は自分の直感を信じられる人間だ。その直感にどれだけ従うことができるか、ともに立ち上がってくれる人がいるかに、今後の日本が託されているのだろう。

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–{第16話のあらすじ&感想}–

第16話のあらすじ&感想

第16話のあらすじ

篤太夫(吉沢 亮)と成一郎(高良健吾)は、円四郎(堤 真一)に命ぜられ、一橋家の兵と家臣を募るべく関東に出向く。二人はかつての同志・真田範之助(板橋駿谷)に会い、一緒に働くことを勧めるが一蹴されショックを受ける。

血洗島村では惇忠(田辺誠一)と平九郎(岡田健史)が水戸騒動に関わった嫌疑で連行され、惇忠は牢(ろう)に入れられる。一方京都では土方歳三(町田啓太)ら新選組が池田屋を襲撃。攘夷(じょうい)派志士の怒りは、禁裏御守衛総督(きんりごしゅえいそうとく)の慶喜(草彅 剛)と側近・円四郎に向かっていく。

第16話の感想

序盤から死亡フラグが立っている円四郎……。人員選出のためいったん関東へ戻ることになった栄一・喜作を見送るように、お茶へと誘う。激励する様子がなんとも今後の危うさを感じさせ、もう二度とこの3人が一同に会することはないのではと思わせられてしまう。案の定……。

時を同じくし、血洗島にも尊王攘夷の志士を取り締まる動きが見え始めた。尾高家に嫌疑がかかり、陣屋から多くの使いがやってくる。長七郎は殺人の容疑で投獄されたまま、惇忠も呼び出しに応じてから一向に帰ってこない。そんななかで、とうとう平九郎まで連行されてしまった。

悲しみに打ちひしがれる母。しかし、お千代は毅然とした態度でこう言った。「何もやましいことがないのなら、お上にしっかり説明してきなさい。そしてきっと、兄上と一緒に帰っておいで」と。幼い頃はどこか線が細く、儚げな印象だったお千代が、栄一と結婚し家庭を持ってから、頼れる”姉”であり”母”の姿になっている。

人員選出のため関東へ向かうついでに、故郷の血洗島へも寄ろうと考えていた栄一と喜作だったが、栄一の父から文が届く。惇忠も長七郎も平九郎も陣屋の監視下に置かれているなか、一橋家に使える栄一と喜作が顔を見せては都合の悪いことになりかねない。大事をとって、姿を見せることは避けよとのお達しだ。少しずつ雲行きが怪しくなっているのを、肌で感じるふたり。

そして、恐れていたことが起きてしまった。水戸の賊に襲われ、帰らぬ人となってしまった円四郎。つい先ほどまで慶喜と語り合い、ともに信頼感を強めていた矢先のことだった。「皆、自分に幻の光を見ているが、そんな輝きは本来ない。世を変える将軍となることを期待されても困る」とこぼす慶喜に対し、「それでも私はあなたに仕える。あなたの手で変わっていく世が見たい」と忠誠心を新たにする円四郎。まさか、その道半ばで……。

円四郎を演じる堤真一、圧巻だ。つい先日、映画『砕け散るところを見せてあげる』で猟奇的な父親を演じているのを観たばかりだが、どんな役でも堤真一が演じれば立体感が出る。存在感が増す。それゆえに、いなくなってしまう喪失感も大きい。

栄一・喜作が彼の死を知るのはまだ先だ。

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–{第17話のあらすじ&感想}–

第17話のあらすじ&感想

第17話のあらすじ

円四郎(堤 真一)の命が奪われたことを江戸で知り、衝撃を受ける篤太夫(吉沢 亮)と成一郎(高良健吾)。その時、京では慶喜(草彅 剛)が自ら指揮を執り、御所に迫る長州藩兵と戦っていた。そこに、西郷吉之助(博多華丸)が薩摩藩兵を率いて加勢する。集めた兵を引き連れて京に向かう篤太夫たち。その道中、岡部の代官・利根(酒向 芳)が現れる。

さらに、水戸では、耕雲斎(津田寛治)と小四郎(藤原季節)が率いる天狗党(てんぐとう)が、慶喜を頼って京を目指していた。

第17話の感想

平岡円四郎が、水戸の賊に襲われ命を落とした。

栄一や喜作をはじめ、円四郎の妻・平岡やすにもその事実が伝えられる。円四郎を失った影響は甚大なものだ。今度は長州が兵をあげ、幕府を討とうと襲ってくるーー禁門の変だ。慶喜率いる一橋家が受けてたち、無事に幕府側の勝利となって幕を閉じたこの戦い。日本は激動の時代を迎えている。

円四郎の死を知った妻・やすを演じる木村佳乃が良かった。最近はバラエティ番組にも出演し活躍の幅を広げているが、やはり生粋の女優なのだと認識が新たになる。「寂しければ掛け軸の小鳥にでも話しかけろ」と言っていた円四郎のことを思い出し、掛け軸を片付けるついでに裏を覗いたら見つけた文。読みながら想いを馳せるやすの涙に、泣かされた。

新しく変わっていくこの国を、一緒に見たいと言った円四郎。きっと面白くなるはずだと信じていた円四郎。誰よりも本人が悔しかったに違いない。彼が成し得なかったことは、きっと栄一たちが継いでくれるはずである。

木村佳乃の演技も素晴らしいが、第14代将軍・徳川家茂役を演じる磯村勇斗の演技についても触れておきたい。この「青天を衝け」内ではそこまで登場シーンが多くはないが、存在感は抜群だ。

映画『ヤクザと家族』では、主演である綾野剛が可愛がっている青年・翼役として、暴力団組織にも怖気付かないタフな若者を演じる。ドラマ「珈琲いかがでしょう」でも、主演・中村倫也とつるむヤンキー・ぺいという役を演じており、魅せ方が幅広い役者だ。とても同一人物とは思えない。

深川麻衣が演じる家茂の妻・和宮に対しても優しく接し、「あなたがいるからこそ頑張れる」としっかり言葉にして伝える姿勢が良い。栄一の妻・お千代といい、喜作の妻・よしといい、気丈に旦那を支えつつも、時には強く鼓舞する女性の生き様が鮮やかに描かれている。互いが互いを思う気持ちが強ければ強いほど、より国を良くしていきたい気持ちも強まるものなのだろうか。

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–{第18話のあらすじ&感想}–

第18話のあらすじ&感想

第18話のあらすじ

篤太夫(吉沢 亮)は、天狗党(てんぐとう)討伐のため慶喜(草彅 剛)とともに京をたつ。

一方、成一郎(高良健吾)は、慶喜からの密書を耕雲斎(津田寛治)に届ける。耕雲斎は降伏を決めるが、悲しい運命が待ち受けていた。

一橋家を強くしなければという思いに駆られた篤太夫は、新たな兵の招集を慶喜に建白。歩兵取立御用掛となった篤太夫は、一橋領のある備中に向かう。江戸城では、三度(みたび)京に向かうことになった将軍・家茂(磯村勇斗)が、和宮(深川麻衣)との別れを惜しんでいた。

第18話の感想

水戸藩の武田・藤田が戦に疲れ果て、やがて陣を引くことを求められた。後処理は穏便に済ませることを望んだ慶喜だったが、希望むなしく彼らは不当に首をはねられてしまう。「藤田東湖の息子である小四郎を焚き付けたのは自分だ」と、責任を感じる栄一。自惚れるなと喜作に一喝されるが、水戸藩が戦に対し万全の状態で臨めなかったのも、兵や資金の不足ではないかと案じるのを止められない。

責任感や正義感が人一倍強い栄一。血洗島にいた頃から、こうと決めたらてこでも動かない男だった。まずは十分な兵を確保しようと、慶喜に直談判する。晴れて「歩兵立御用係」に任命された栄一は、村へ希望者を募りに出かけることに。

何か悲しいことや辛いことがあっても、塞ぎ込まずに現実的な解決策を考え出すところが栄一の美点だ。実行力も行動力もある。現実の世も、不満を言うだけで具体的に動かない人たちは一定数いるもの。愚痴は愚痴と割り切って、少しでも解決につながるような行動をすぐに取れる人で在りたいと思わされる。

しかし、兵の取り立てに向かった村では、栄一の予想に反して希望者はゼロだった。何か裏があると踏んだ栄一は、村の塾に出入りするなどして村人と距離を縮める作戦に出る。元百姓である栄一の人柄が知れるにつれ、徐々に希望者が現れ始めるがーーそれと同時に、村のお代官が「希望せぬように」と申し伝えていたことがわかった。

時代はいつになっても、そして場所が変わっても、お代官というのは自利のために動くもの。自身が血洗島時代に舐めた辛酸を思い出した栄一は、お代官に直接物申すことに。何か思うところがあれば直接伝えようとするところも、百姓時代と何も変わっていない。

「水戸藩があんなことになったのは、懐事情を軽んじていたせいだ」と考えを固めた栄一は、慶喜の元へ戻るや否や、またもや直談判に。懐事情、つまり会社でいう経理まわりを整えることで、根性や情熱では如何ともしがたい部分まで図らうことができると伝えた。

日本の経済の父と言われた渋沢栄一の姿が浮かび上がってくる。彼の手で日本はどのように立ち上がっていたのか、改めて見届けるのが楽しみだ。

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–{第19話のあらすじ&感想}–

第19話のあらすじ&感想

第19話のあらすじ

売り方を変えることで一橋領の木綿の価値を高めることに成功した篤太夫(吉沢 亮)は、さらに商売を盛んにするため紙幣の流通にも取り組む。勘定組頭に抜てきされた篤太夫は、財政を豊かにすることで一橋家を支えようと決意をする。

一方、薩摩では、欧州から帰国した五代才助(ディーン・フジオカ)が大久保一蔵(石丸幹二)と密談を交わしていた。ついに幕府は2度目の長州征伐へ…しかしひそかに薩長同盟を結んだ長州を前に、幕府は大苦戦。そんな中、大坂城で指揮を執る家茂(磯村勇斗)が倒れる。

第19話の感想

「新たな世は、経済の知識なしには乗り切れなかった」

根性、忍耐、我慢を美徳に生きてきた日本人にとって、資本主義を中心に回り始める世界のことはなかなか想像できなかったろうし、その余波を感じたとしても受け入れ難かっただろう。一橋家の懐具合を一足先に整えようと立ち上がった栄一の、先見の明は正しかったと言うことだ。

日本に資本主義が入り込み始めているということは、開国を迫る外国の圧が強まり始めているということ。そんな中、徳川家茂が将軍を辞し、慶喜に譲ると言い出した。

「攘夷を果たすこともできず、勅許を得ることもできない。あなた(慶喜)なら計らうこともできるでしょう」と引き下がる家茂。あなたがいるからこそ成り立っているのだ、と思いとどまるよう説得する慶喜だが、家茂の決意は堅いようだ。

一橋家の懐具合を正し、豊かにすることが世の中を良くすることに繋がる。百姓にも利がまわるような仕組みを作れば、やる気を削ぐことなく来年また来年と、良いものをつくってもらうサイクルを保てる。そう考えた栄一は「銀札作り」を慶喜に提案。

銀札はただの紙切れではない。偽造できないよう趣向を凝らした製作工程は、まさに現代のお金そのものだ。その銀札と銀をしっかり交換する様を証明すれば、より強く信頼してもらい、銀札が価値あるものと思ってもらえる。資本主義の世は信頼で回っていくものだと、この時代からすでに栄一は気づいていたのだ。

作中では「信用」が必要と言われているが、厳密に言うとまだこの時代には「お金=信用」という概念は広まっていなかったのではないか、と想像する。信じて頼ると書いて、信頼。あくまで栄一の人柄を信じてみようと許可を出した慶喜や、百姓たちの思いが伝播していった結果、お金そのものに信用がくっついてきたのではないか。

予告を見る限り、家茂の体調が優れないようで、心配になってしまう……。円四郎の死からもまだ立ち直れていない筆者としては、次回が楽しみなような、そうじゃないような。

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–{第20話のあらすじ&感想}–

第20話のあらすじ&感想

第20話のあらすじ

家茂(磯村勇斗)が亡くなった。慶喜(草彅 剛)の次期将軍就任が避けられぬと目される中、篤太夫(吉沢 亮)は「今将軍になっても、国中の非難を一身に背負うだけ」と慶喜に進言する。

一方、薩摩の大久保一蔵(石丸幹二)は公家の岩倉具視(山内圭哉)と共謀し、王政復古を画策していた。慶喜が徳川宗家を継いだことで幕臣となってしまった篤太夫は失意の日々を送っていたが、ある日、謀反人の捕縛を命じられる。警護のために同行するのは、新選組副長・土方歳三(町田啓太)だった。

第20話の感想

勘定奉行として自分の居場所を見出した栄一。一橋家の立て直しを図るため、日々精力的に働くが……そんな中、徳川家茂が亡くなってしまったことを知る。まだ若く、後継もいない家茂の代わりに将軍を務める者として、慶喜に白羽の矢が立てられるのではないかーー危惧した栄一は直々に慶喜へと忠告しに行くが、慶喜は無言でその場を立ち去ってしまった。

将軍になることを避けてきた慶喜。無言で去っていった真意はすぐには知れなかったが、老中たちに「この日の本を救うには、これ以外に道はない」と諭され考え込んでしまう。やがて「私が将軍となった日には、私の思うように徳川に大鉈を振るう。それで良いのだな」と告げ、徳川家を継ぐことを承知した。

慶喜が将軍となることを承知するのに伴って、栄一にも戦のお供をするよう命が下される。勘定奉行の役割があると主張する栄一だが、慶喜直々の命とあって断れず……。万が一のことがあってもいいよう、血洗島にいる家族へ形見の手刀を送る。「こんなことになるなら、行かせなければよかった」と憤りを隠せない母。栄一の妻であるお千代が、口元を抑え声を出さずに泣くシーンに胸が詰まる思いがした。

将軍となった慶喜を支えるべく、幕府に入って書記官として働きはじめる栄一。しかし以前よりも遠く離れた存在になってしまった慶喜に対し、思ったことがあってもすぐに伝えられないことを案じる。「前よりもつまらなくなった、いっそやめちまうか……」と若干やる気を失う栄一と、こんな状況下でもできることを探して頑張ろうとする喜作。双方の言い分が食い違い、喧嘩になってしまう。

江戸へ出てきてからというもの、意見が合わないことが増えてきた栄一と喜作。だが、血洗島にいた幼少期の頃はよく掴み合いの喧嘩をしていたものだ。自分の言いたいことを曲げずに、真正面から伝える。名前や身分は変わっても、ふたりでいる間は昔に戻れるのだと思うと感慨深くもある。

その後、新撰組の土方歳三と相見えた栄一。話すことで「武州の風を思い出した」という。時代の流れや環境によって、名前や身分が変わっていく自分。本当にやりたいことは何なのか、この世のためにすべきことは何なのかーー栄一が自分を見つめ直し、向き合う過程を見ることによって、私達も同じように自分を捉え直すことになりそうだ。

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–{第21話のあらすじ&感想}–

第21話のあらすじ&感想

第21話のあらすじ

篤太夫(吉沢 亮)は、パリ万博に参加する慶喜(草彅 剛)の弟・昭武(板垣李光人)の随行でフランス行きを打診され、その場で快諾する。

一方、慶喜は第15代征夷大将軍に就任。慶喜は篤太夫を呼び出し、昭武の未来を託す。その後、横浜で初めて勘定奉行・小栗忠順(武田真治)と対面した篤太夫は、このフランス行きに秘められた重要な目的を知らされる。旅立ちの前、成一郎(高良健吾)と再会した篤太夫。二人は牢(ろう)に囚(とら)われている長七郎(満島真之介)と久々に対面するが…。

第21話の感想

パリで行われる博覧会に、日本も参加することになった。徳川昭武率いる一行が国外へ出ることとなり、栄一も共する流れに。これまでの栄一の人生、行き詰まったと思った時には突破口を開いてくれる人物がいた。そのひとり、円四郎のことを思い出した展開には思わずホロリとさせられる。

自分ひとりで出世し、ここまで来たわけではない。周りの人の助けあってこそだと、身をもって分かっている証拠だと思えて胸が熱くなった。栄一が慕われた人物だったことがよく知れるシーンだ。

それにしても、昭武を演じている板垣李光人が美しすぎる……。当時こんなに顔の綺麗な男性がいたんだろうかと思ってしまう。しかし、それは栄一を演じる吉沢亮や、喜作を演じる高良健吾にしても言えることだった。昭武については、今後出番が多くなることを期待したい。

パリへ向かったら、おそらく数年は日本へ帰って来られなくなる。その前に、未だ牢に入れられたままの長七郎に一目会おうとする栄一と喜作。喜作は何度も「会わせてくれ」と進言していたようだが、体調が悪いなどと言って何度も断られていた。ようやく長七郎と話すことが叶ったが、身体を動かすのもやっとの様子。

このシーンの満島真之介の演技には注目させられた。身体の動き、目線の泳がせ方、栄一や喜作を前に、必死に言葉を紡ごうとする佇まい……。血洗島編が終わってしまってから極端に出番が減ったが、存在感は未だ残っている。

次回から、栄一がパリへと向かう「パリ編」に突入。栄一がパリでどんな活躍をするのか、引き続き見守りたい。

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(文:北村有)

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