4月29日(木)から新宿バルト9ほかで上映がスタートする、Vシネクスト『魔進戦隊キラメイジャーVSリュウソウジャー』。キラメイジャーとリュウソウジャーが、「キラメイジャー」の敵幹部・ヨドンナがプロデューサーを務める映画の世界に取り込まれ、2人1組でさまざまなジャンルの映画へ出演することに……。そして、地球に危機をもたらすその映画の公開を阻止するために2大スーパー戦隊が共闘する、“VSシリーズ”ならではのストーリーが描かれます。
今作をより楽しむべく、それぞれの作品を改めて深堀したい!という、オジンオズボーン・篠宮暁たっての希望で各作品のプロデューサーに取材を実施。前編となる今回は、『騎士竜戦隊リュウソウジャー』を手がけた丸山真哉さん、土井健生さんにお話を伺いました。
篠宮 本来ならVS作品をやっている時期に『スーパー戦隊MOVIEレンジャー2021』(2月20日公開)が公開され、3本立ての1作として『騎士竜戦隊リュウソウジャー 特別編 メモリー・オブ・ソウルメイツ』が上映されましたが、ストーリーを含め、その経緯を教えていただきたいです。
丸山 新型コロナウイルスの影響で、2月の映画をどうするのか、ぎりぎりまで試行錯誤しているような状況でした。そんななかで「リュウソウジャー」側の僕たちとしては、FLT(ファイナルライブツアー)の配信イベントがとても盛り上がったので、1時間の配信だけで終わるのは惜しいなと思ったんです。7人で全国を回るFLTがなくなってしまったので、それに変わる何かをやるならここしかないという思いで、上司に売り込みをかけたところ「MOVIEレンジャー」で作品を作れることになったんです。「メモリー・オブ・ソウルメイツ」の話は、その時に思いつきました。もともとどこかでやりたかったことではあったので。
篠宮 ナダ役の長田成哉さんも含めたメンバーでやりたかったんですね。
丸山 そうです。ナダが仲間になった32〜33話で、卓球でもなんでもよかったんですが(笑)、7人で楽しく過ごしたってことを凝縮したかったんです。
篠宮 33話でナダが退場するのは決まっていたんですか?
丸山 このキャラクターは8本、ということは、キャスティングする前から決まっていました。どういう退場の仕方をするかまでは考えていなかったので、旅に出て戻ってくるという案もありましたけど。
篠宮 ナダの死で、グッときた方は多いと思います。
丸山 正直、ナダロスとか言われるほどの反応があるとは思っていなかったんです。もっとサラッと流されると思っていましたね。意識的に、コウたちのようなリュウソウ族とは違う、人間味というか、現代人みのあるキャラクターにしていたので、まったくかすりもしないとは思わなかったけれど、予想外の反響の大きさでした。
篠宮 そんなナダを演じた長田さんは、土井さんがプッシュされたそうですね。
土井 僕は2年前まで京都の撮影所にいて、そこで丸山さんに目をつけてもらってプロデューサー部に来ました。当時、長田さんがレギュラー出演していたドラマ『科捜研の女』の制作部をやっていたんです。そのときは、キャストさんと話す機会は現場のアテンドくらいしかなかったんですけど、長田さんの卒業回のときの芝居がディレクターながらにすごく気になって。僕ならこう思うんですけどなんでああいう芝居になったんですか?と聞いたら、「1話だけ切り取ったらそういう芝居になると思うけど、8年やってたらそうはならんのよ」というようなお返事で。役についてすごく考える方なんだなと思ったんです。台本打ち合わせのときから丸山さんがナダのキャラクターとして人間味を意識されていたのがわかっていたのと、「科捜研」でも後から入った役者さんの面倒をよく見ていたことから役としても俳優としても、リュウソウジャーのレギュラーキャストたちのお兄ちゃん的な存在になってくれるのでは?と思って、提案しました。
篠宮 実際に長田さんは作品にいい風をどんどん吹かせていったわけですが、土井さん的には予想通りでしたか?
土井 そうなってくれたらと。ただ、あんなにも反響があるとは思わなかったですね(笑)。
–{ナダの退場は「あの展開にしてよかった」}–
篠宮 僕はナダもリュウソウ族なのに、関西弁なのが不思議だったんです。関西弁だからこそ、ああいうキャラクターになったと思うんですが、関西弁じゃない可能性もあったのかな?と。
土井 メイン脚本家の山岡潤平さんとの台本の打ち合わせで、長田さんのパーソナリティーや関西出身だという情報をお伝えしたんですが、そのときに丸山さんがちらっと言った「関西弁でも面白いかもね」という内容に山岡さんも賛同してくれて。山岡さんも出身が関西ということで、ご自身が書きやすかったというのもあると思いますし、関西弁にしたことで親しみやすいキャラになったり、長田さんも演じやすかったり、いい方に転んだんじゃないかなと思います。丸山さんや山岡さんのように、リュウソウジャーチームは「面白そうだからやってみよう」というマインドの人が多いチームなんです。
丸山 ブレずに芯をもって、お話としてやらなきゃいけないことさえちゃんと押さえていれば、何をやってもいいんじゃないかと。ドラマや映画は総合芸術というだけあって一人で作るものじゃないので、とにかくみんなの意見を取り入れていく姿勢でやっていましたね。
土井 台本の打ち合わせで丸山さんからよく上がっていたのが、「視聴者の期待を裏切ろう」という言葉だったんですが、ナダの死もその一環ですよね。そのほうが、びっくりするし、面白みがある。
篠宮 まさに、びっくりしました!
丸山 結果論だけど、予想外にナダの人気が出ちゃったので、あの展開にしてよかったなと思ってます。1話からずっと、この番組の主人公は6人だということを大事にしていたんです。他に魅力的なキャラが目立つと、ややもすると話の展開をそっちに持っていかれてしまう。ナダは動かしやすいキャラクターだし、彼の気持ちにも寄り添いたいんだけど、そっちに重きをおいてしまうと、やっぱりメインの6人が傍観者になってしまうので。そうならないように、最終決戦含め、必ず彼らが主人公としていられることをすごく意識して作りました。
篠宮 ナダが死んだときも、コウ役の一ノ瀬颯さんがぐっとくる演技をしていましたもんね。あと、僕がびっくりしたのは、新しい監督さんや脚本家の方が多かったことです。そのあたりは意識的にやられてたんですか?
土井 カミホリさん(上堀内佳寿也監督)もスーパー戦隊は初めてでしたよね。
丸山 監督の柏木宏紀くんとか脚本のたかひろやくんが、東映特撮という意味では割と新鮮。あんまり深い意味はないんですけど、刺激や危機感があった方がいいものができるよね、ということで。また、渡辺勝也さんは僕が入社した頃から監督をやられてる方なんです。僕が最初に現場についたのが、監督に渡辺さん、チーフ助監督が田﨑竜太さんという『忍者戦隊カクレンジャー』の現場で、その翌年に『重甲ビーファイター』をやったんですが、渡辺監督は当時の若手の代表みたいな感じでした。
土井 渡辺監督って、当時からキャップをかぶってたんですか?
丸山 そう、ずっとね。驚くほど変わらない(笑)。
篠宮 丸山さんは「ビーファイター」のあと、『ビーロボカブタック』とか『テツワン探偵ロボタック』とか、平成ライダーが始まる直前までメタルヒーローシリーズ後期をやっていらっしゃいましたが、久しぶりに特撮の現場に帰ってきていかがでしたか?
丸山 JAEだったら、福沢(博文)くんとかおぐらとしひろくん、神尾(直子)ちゃん、特撮監督の佛田(洋)さんとか、今や上のほうにいる方とは、昔よく飲みに行っていたので知ってるんですけど、上堀内くんとか、今一番脂が乗っているような若い人たちは初めましてなので、かなり浦島太郎のような感じです。まぁ、特撮を離れてから僕は20年くらいずっと刑事ドラマを中心にやってきたから、そういうノリで作ったらどうなんだろうと、あえてテイストの違いを意識せずにやってみたところはあります。そもそも、『仮面ライダー』とか『秘密戦隊ゴレンジャー』を生み出したのは、もともと刑事ドラマを作ってた人たちなんですよね。刑事ドラマをやっていた彼らが、「他の番組なんてわからねぇよ」とか言いながら、自分たちの好きなようにやろう、と作ったものが結果的に「仮面ライダー」だったり「ゴレンジャー」だった、という話を聞いていたので。
篠宮 それでどんどん新しい風が吹いて、特撮自体が発展していくような。
丸山 もちろん歴史あるシリーズなので、それを壊すのではなく、かき混ぜてみようというイメージですね。こういうやり方もあるよね、と、ひとつ提示できたんじゃないかなって。あと、この20年間スターが生まれ続けているシリーズなので、「彼らがスターになるようなものを作りたいな」ということは意識しました。せっかくだから、若い俳優さんたちに影響を与えられたらと。
–{プロデューサー陣が語る「キラメイVSリュウソウ」の」見どころ}–
篠宮 そして、そんなリュウソウジャーの最新の活躍がみられるのが、「キラメイジャーVSリュウソウジャー」ですね。どんな感じのお話になっていますか?
土井 台本作りは現行作品がメインなので、僕たちはキャラ監修としての役割が多いんですけど、最初に入った台本打ち合わせで、丸山さんがリュウソウジャーの台本打ち合わせと同じように「こうした方が面白くない?」って突飛な意見を出したので、「おぉ、言うなぁ〜」と思っていました(笑)。
丸山 忘れました(笑)リュウソウジャーとキラメイジャーがそれぞれコンビを組むような展開なんですが、それぞれに何をさせたら面白いかな?みたいなところには口を出したりしたかな。でもキャラクター監修の範囲です(笑)。
篠宮 VSを作るときは、スタッフさんの間で、それぞれの作品の世界観の押し合いへし合いがあったりするんですか?
丸山 現行作品の世界に先輩ヒーローがお邪魔するっていうのが基本スタイルですね。今回も、「キラメイジャー」の世界の中で、リュウソウジャーが久しぶりに集まったという感じです。「キラメイジャー」の世界の中でじゃないと、敵のロジックも成立しないですし、「キラメイジャー」の世界にいる以上、彼らの世界のルールの中で戦うしかないので、世界観に関してはそういうものだと思っています。
篠宮 でも、『騎士竜戦隊リュウソウジャーVSルパンレンジャーVSパトレンジャー』のときは、「リュウソウジャー」が現行作品でしたよね。
土井 あのときは、あえて「ルパパト」の世界に行った作りにしましたね。
丸山 タイミング的に自分たちの本編をどうまとめてどう終わらせるか、というのに真剣になっていたときで。しかも「リュウソウジャー」の最終回をやっているめちゃめちゃシリアスな時期に上映されるわけだから、そこで、楽しかった頃、それこそナダがいたころの話に「ルパパト」を混ぜてやるという発想にはならなかったんですよね。さらに、「ルパパト」のプロデューサーがみんな異動してしまっていて、監修できる人がいなかったんですよ。
土井 なので、監修込みで脚本の香村純子さんにお願いして。世界観を崩しにくい作品でしたから。
丸山 あんなに世の中で話題になった作品を、僕らが触ってバッシングを浴びるのも怖いし(笑)。忙しいからダメです、って断られたんだけれども、「書かなくてもいいから、一回打ち合わせだけしましょう」って香村さんにお願いしたら、最終的に書いてくれました。
篠宮 いや〜、すごいなぁ。今回はスムーズに行きましたか?
土井 今作の監督が「リュウソウジャー」を一番数多く撮ってくれていて、「キラメイジャー」も撮っている坂本浩一監督でしたし、脚本も両作担当していた下さんだったので、スムーズでしたね。坂本監督は「キラメイジャー」のチーフプロデューサーの塚田さんとも長い仲なので、塚田さんが求めるものをわかっていらっしゃるし。そう、リュウソウジャーは素面のアクションがすごく多かったんですよね。キラメイジャーは変身後にすごく強くなるという設定だったので、坂本監督は打ち合わせから、キラメイチームにも素面アクションをやらせたいと話していました。逆にリュウソウジャーチームは、坂本監督なら絶対素面アクションがあるって言うのを楽しみにしていて。キラメイチームにマウントをとるわけじゃないですけど、キラメイチームに負けないようにしよう、っていう意気込みは衣装合わせの時からうっすら感じました。
篠宮 リアルにVSだったと。
丸山 そういう意味ではすごくちゃんとVSしてるよね。VSの名に恥じないというか。
篠宮 確かに、リュウソウジャーは本編での素面アクションが多かったですね。「みなさんめっちゃ動けるやん!」って。
土井 坂本監督の回が多かったからだと思います。本人たちがすごく負けず嫌いだったので。
篠宮 (岸田タツヤ演じる)バンバとかは、かなり張り切っていた印象でした。
丸山 動けるから(笑)。チェーンをぐるぐる回したり、剣さばきだったり。
篠宮 そういうところも期待できるということですね。
土井 そうですね。今回、キャスト達自身が吹き替えもなるべく無くしたいと言っていました。カナロ役の兵頭(功海)君はバク宙とかの吹き替えカットが4カットあったんですけど、そのうちの3カットを自分でやりたいと監督に直談判してアクターさんから奪って自分でやってましたし、岸田くんも寒い中、泣き言も言わずに裸足で剣アクションやったりしてましたね。
篠宮 楽しみやなぁ〜! では最後に、こだわった点など、見どころを教えてください。
土井 リュウソウジャーはあまり衣装を変えない人たちだったんです。42話で一回スーツは着たけど、基本は年中同じ。彼らの使命をまっとうする覚悟が服装にも現れているんだ、ということを丸山さんがどこかで話していました。それが今回は、思いっきり衣装が変わっているので、そこはかなり見どころだと思います。本人たちも、衣装合わせからすごく乗り気で現場でも楽しそうでしたね。アスナ役の尾碕(真花)さんは特攻服を着たレディースの姿がすごく似合ってましたし、岸田くんの素浪人としてのボロボロの着物もよかったと思います。トワ役の小原(唯和)くんも怪盗の格好をしてパルクールよろしく走り回ったりしているので、そういう姿も楽しんでいただけるんじゃないかと。「キラメイジャー」の世界に行ったからこその、「リュウソウジャー」のスタッフだけだったら生まれなかったテイストの作品になっていると思います。
丸山 彼らは本編の最終回で、ほとんど使命を果たしてるんです。マイナソーを生み出す存在がなくなったので、戦わなくてよくなったわけで。そんな彼らがあのあとどう生きてるのか、どんな若者として暮らしているのかを初めて観ることができる唯一の作品なので、ぜひそこに期待していただきたいです。
【取材後記】
「リュウソウジャー」のテレビ放送が終わって一年以上経ってるんですが、今回、VSきっかけでお話しを聞かせていただけるということで、リュウソウジャーで個人的に一番好きなナダについて厚めに聞かせていただきました。
ナダ演じた長田さんの熱量をプロデューサーのお二人のインタビューからインプットした上で、神回でもある32話「憎悪の雨が止む時」と33話「新たなる刺客」を見ると、さらに胸が熱くなり、よりナダを好きになりました。
あの日、あの時、ナダによってトラウマ級のショックを受けたファンの皆様、この記事を読んだ上でもう一回見てみましょう。
そしてお話にもあった「キラメイvsリュウソウ」の素面アクションも楽しみに、作品が公開される29日を待ちたいと思います。
(取材:篠宮暁、文:大谷和美)
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