「海外進出前に、真剣佑はものすごいものを残していったな!!」
『るろうに剣心 最終章 The Final』を見終わったときに感じた素直な想いです。
『るろうに剣心 最終章 The Final』は佐藤健演じる緋村剣心への復讐のためにだけ生き続けてきた新田真剣佑の演じる義弟・雪代縁の物語と言えるでしょう。
これは『るろうに剣心 最終章 The Beginning』にも言えることですが、過去三作(1作目、『京都大火編』『伝説の最期編』)では常に緋村剣心が主体的に動いて物語が進んでいましたが、『最終章』2部作の剣心は常に受け身に回っています。
『The Final』で剣心は(多分に誤解もあるのですが…)復讐心をぶつけてくる義弟の縁の想いをひたすら受け続けます。『The Beginning』でもまた剣心(抜刀斎)は時代の“うねり”と“人斬りの業”“巴との愛”を受け続け、それに反応(リアクション)してきます。
そう考えると『最終章』は雪代姉弟が様々な形で剣心に大きな影響を与え続ける物語と言えますね。
怨讐の義弟・最凶の敵を演じきった新田真剣佑
シリーズ最後の大敵・雪代縁に抜擢されたのは新田真剣佑。
今回、新田真剣佑はキャスティングされたことに驚き、長く過酷な撮影にコンディションを維持し続けることへの苦労を語る一方で、大役を任せてもらえたこと、日本映画のアクションシーンを数段レベルアップさせたシリーズに参加したことに誇りに思っているとも語っています。
本作で新田真剣佑が演じた雪代縁は、大陸の格闘術を身に着けた強敵であり上海マフィアの頭目で、映画の中では圧倒的な強さを見せつけます。
冒頭では取り囲む警官隊を汽車の中という限定空間で徒手空拳で圧倒、これが『The Final』のオープニングシーンで、この一連のアクションで新田真剣佑は観客の目を一気にスクリーンに集めます。
中盤以降もその強さを出し惜しみすることはなく(ネタバレになるので伏せますが)レギュラーメンバーの一部を戦闘不能にまで追い込みます。単純に戦闘シーンとそのバリエーションが多いと言うこともありますが、原作の雪代縁と映画の新田真剣佑の縁と見比べたとき、映画の縁の方が強く感じるほどです。
『るろうに剣心』1作目のラスボス・吉川晃司が演じた鵜堂仁衛は見るからに禍々しさを纏っていましたし、それは『京都大火編』『伝説の最期編』の藤原竜也が特殊メイクで挑んだ志々雄真実にしても言えることで、見るからに強そうです。おまけに両者には幕末から激戦を生き抜いた剣客として実績(志々雄は人斬り抜刀斎の後継者)があります。それゆえに登場した瞬間から明らかに強い!と感じることができるのです。
対して、雪代縁は『The Final』の物語の中だけで本人の持つ怪しさ(=妖しさ)と常軌を逸した精神状態、そして圧倒的な強さの持ち主であることをゼロから語り・示し、観客に納得させなくてはいけません。
過去作のラスボスは吉川晃司と藤原竜也が演じましたが、キャリアの面で彼らよりはるかに劣る新田真剣佑はこの強烈な先人に肩を並べる、またはそれ以上の存在感を見せつけることが求められていました。そして、新田真剣佑はそれを見事にやりきりました。
これまで続いてきた大ヒットシリーズの最期の大敵、最凶の敵とを演じるということへのプレッシャーは計り知れないものであったと思いますが、新田真剣佑はそれを見事に乗り切りました。
『るろうに剣心 最終章』2部作は雪代姉弟の物語と書きましたが、その重要なキーパーソンとなる雪代縁と雪代巴を演じた新田真剣佑と有村架純の感じた重圧はかなりのものだということは一人の観客・シリーズファンの立場でもわかります。
『最終章』になっていきなりシリーズに参戦、そのうえでシリーズのテーマ・緋村剣心の生き様の総括をしなくてはいけないキャラクターと演じろと言われるのですから…。二人はよくこの難役を引き受けたなと思いますね。
–{クライマックスの一大バトルは見逃し厳禁!!}–
クライマックスの一大バトルは見逃し厳禁!!
とにかく雪代縁=新田真剣佑のアクションがつるべ打ちという感じの『るろうに剣心 最終章 The Final』ですが、特にクライマックスの剣心と縁一派、そして縁との一大決戦バトルは見逃し厳禁、一度は大きなスクリーンで体感して欲しいと思う作りに仕上がっています。
縁にたどり着くまでの剣心の一対多数のバトルがまず、シリーズ最大規模であり、もっと言えばその前の縁一派の東京襲撃と一大市街戦の迫力が凄まじく、見る者を圧倒させます。
原作にはあまり描かれていないこれらのアクションシーンがふんだんに盛り込まれているというのも映画を見る楽しみの一つと言えるでしょう。
映画『るろうに剣心 最終章』は原作の「人誅編」「追憶編」の元にはしていますが、そこから大きくオリジナルの要素を盛り込んでいて、原作既読組の私からするとすでに知っている話のはずなのに、驚きと発見に溢れたものになっていました。
そして、遂に面と向かって剣を交えることになる剣心と縁の一大決戦。
怨讐の念をひたすらぶつけてくる縁の攻撃を全て受け止め続ける剣心、それまでにも『The Final』の中で繰り返し描かれてきた縁の強さがまだその一部でしかなかったことがわかる程、ギアチェンジを繰り返してくる縁。
もともと、映画、ドラマ、舞台などでその身体能力の高さを見せつけてきた新田真剣佑ですが、今回はその能力を極限まで発揮し、本当に剣心は倒されてしまうのではないかという危機感すら感じさせます。
最終決戦のエピソードで言えば、こんなものもあります。
最終決戦の舞台は縁の館(のセット)で、ここの庭園には見事な八角堂があります。本来壊す予定の無かったというこの八角堂を、撮影の中で縁の異常な強さを見せつけるために監督の大伴啓史、アクション監督の谷垣健治は破壊することを決めます。実際に柱に切り込みなどが入ってはいたのですが、新田真剣佑は見事にこの八角堂をなぎ倒して見せます。
こういった現場で生まれたアイデアをも味方につけ新田真剣佑はひたすら強さを体現し続けました。
–{海外進出前に置き土産連発2021年春の新田真剣佑}–
海外進出前に置き土産連発2021年春の新田真剣佑
新田真剣佑は2021年4月に現事務所を退社して、海外作品への出演に軸足を移すと発表しています。
アメリカで生まれ、ハリウッドで育った新田真剣佑。この辺りは父親の千葉真一がハリウッドで成功を収めたことが大きな理由になっていると思われます。生まれ育った環境から新田真剣佑の中でハリウッド、海外ということは非常に近しい存在だったことは容易に想像できます。さらにその出自はアジア圏の人間が海外進出する際に大きな壁となる言葉の壁の問題もクリアできるであろうこともわかります。
もともと本格的に演技の仕事する以前アメリカの映画には出演しており、『ちはやふる』3部作で大きな注目を浴びた後の2018年にはギレルモ・デル・トロプロデュースの大作シリーズ第2作『パシフィック・リム:アップライジング』にすでにハリウッド映画に出演しています。一部報道によるとすでに新田真剣佑を主演に想定した日本のコミック原作の撮影の準備がハリウッドで進んでいるとも言われています。クエンティン・タランティーノ監督を筆頭にファンも多い日本のアクションスター千葉真一の息子の本格ハリウッド進出は、スタートから大きな一歩を踏み出しそうです。
そんな“楽しみしかない”状態の新田真剣佑ですが、それまでの日本でも出し惜しみはしません。
2021年だけを見ても、1月に岩田剛典とW主演した映画『名も無き世界のエンドロール』が公開され、3月には(意外な話ですが)単独初主演映画となる『ブレイブ-群青戦記-』が公開されました。
前者では心の奥底を見せないままある計画を推し進める青年を演じ、衝撃的なエンディングを生み出しました。『ブレイブ-群青戦記-』では戦国時代・桶狭間の戦い直前の場にタイムスリップしてしまった高校生を演じました。『ブレイブ』の高校生たちは文武のエキスパートたちでもあり、状況に混乱しつつも己の持つ技能で事態の打開を目指し、織田信長軍との戦い挑みます。新田真剣佑はその中心になる西野蒼を演じ見事な身体能力の高さを見せています。
これに先行する形で私は新田真剣佑が参加した演劇ユニット地球ゴージャスのプロデュース公演(「ZEROTOPIA」「星の大地に降る涙THE MUSICAL」)でリアルな新田真剣佑の立ち回りを見ていてわかっていたつもりでしたが、新田真剣佑の身体能力の高さとアクション・立ち回りのセンスの良さは見事なものです(父親譲りなのかもしれませんね)。
今回の海外進出重視のシフトチェンジで、また実現は難しくなりましたが、いずれは本格的な時代劇で新田真剣佑を見たいと思います。
また月9ドラマ「イチケイのカラス」にも出演中。ここでは今のところムードメーカー的な立ち位置、ワンポイントコメディリリーフ的なキャラクターのようですが、竹野内豊が演じる入間みちおと過去に因縁があるキャラクターなようで、物語にどのように絡んでくるのか気になるところです。
4月以降海外に軸足を置くと宣言している一方で日本で出演映画が3本、出演ドラマが1本と置き土産というには余りも豪華すぎる置き土産を残して、新田真剣佑は海を渡ります。
(文:村松健太郎)