『マ・レイニーのブラックボトム』レビュー:名優の遺作によせて。一瞬で奪われてしまう「いつか」というもの

映画コラム

■橋本淳の「おこがまシネマ」

どうも、橋本淳です。
78回目の更新、今回もよろしくお願い致します。

いつか恩返しできたら。

お世話になった方には、なんとか”いつか”恩返しが出来たら、、その為に必死に頑張るのですが。その”いつか”というものが一瞬で奪われることを再認識しました。

どこか無限的な時間や期間に感じていたのですが、やはり全ては有限で無くなってしまう。盛者必衰という言葉どおり、そんな当然のことを最近は何度も何度も味わう。

その度に、その”いつか”を出来るだけ早く、実現しなくてはならないと心に固く誓う。焦ってはいけないとはわかっているけれど、出来るだけ早く。走ることはせず、ギリギリ競歩にならない程度のスピードで、必死に。

ポッカリと中空に舞うこの誓いと気持ちを、グッと押し込めて、前に進む。人間に後退はないのです、すべては前に進む、進ませる。

今回は、コチラの作品をご紹介!!

『マ・レイニーのブラックボトム』

1920年代、シカゴ。レコーディングスタジオにやってきたマ・レイニー(ヴィオラ・デイビス)。彼女は”ブルースの母”と呼ばれる有名な黒人シンガー。1時間遅刻してきた彼女だが、悪びれることもなく白人プロデューサーに傍若無人な態度をとる。

スタジオの地下にはバンド達が、レコーディングのためにリハーサルをしている。その内の1人、トランペット奏者のレヴィー(チャドウィック・ボーズマン)は、作曲の才能もあり野心家でもある彼は、いつかは自分のバンドを持ち、スターになることを夢見ていた。そのために、白人プロデューサーを利用してやろうと目論んでいた。

スタジオでレコーディングを始めようとするが、マからの要求などで何度も録音が止まってしまう。イライラが募る一同。あるケンカから、レヴィーが、自身の過去の境遇を語り出す。黒人たちの複雑な心境、それぞれの音楽性の違い、それぞれの思いがぶつかり合い、、、

Netflixオリジナル映画。黒人劇作家、オーガスト・ウィルソンの戯曲を映画化。デンゼル・ワシントンが制作総指揮を務め、監督はジョージ・C・ウルフ。

なんといっても今作は、昨年若くして亡くなったチャドウィック・ボーズマンの遺作であります。『ブラックパンサー』撮影時から発覚していたガン、その治療をしながら、今回の作品の撮影に臨んでいました。

繊細なレヴィーを演じるためか、ブラックパンサーの時の体格とは真逆な、ほっそりとした姿に変わっていて、登場時は一瞬彼が、チャドウィックかどうか区別が付かないくらい、その役に合わせて変化していました。

ガンの治療をしながらも、参加したかったこの作品、彼の想いは並々なものではなかったのでしょう。その熱い思いは、レヴィーの自身の境遇を吐露するモノローグシーンに結集しています。その素晴らしい芝居で、ゴールデングローブ賞で優秀男優賞を受賞。さらにはアカデミー賞をはじめ、いくつもの賞にノミネートされています。

今作での見所は、いくつかありますが、個人的に面白いと感じた点はこういうところ。

黒人の置かれた境遇と搾取されている現実。マ・レイニーはプロデューサー陣に対して、ずっと横柄な態度を取る。しかしそれは蓋を開けてみれば、彼女の過去の経験からきている。キャリアを積み上げる中で、ずっと白人に搾取され続けてきた彼女は、白人から敬意が払われることなんて今後一切ない、と強く思っている。自分の音楽を守り、家族を守るためのそういった態度である。

しかし、レヴィーは反対に、白人を利用してやろうと、したたかに腰低く近づく。が、逆に利用されてしまい、ほぼタダ同然のように買い取られた曲が、白人バンドによってレコードとなりヒット作になっていく。それはまるで、マの搾取されていた過去の姿のように見える面白さ。

さらに、この2人の音楽性の違い(自身の曲を大切にするマと、世間の流れに迎合するような曲作りをするレヴィー)も面白い。

チャドウィックの演技も素晴らしいし、それだけではおさまらないからこの作品は傑作なのです。各人それぞれが見事なプレーをし、それをコントロールする采配も完璧。伝説的なセッションを観ているようなあっという間な役90分。

今後もきっと残り、語り継がれる作品の一つだと思います。多くの人にこの作品が触れられることを祈ります。

是非、鑑賞してみてください!

Wakanda Forever!!!

それでは、今回もおこがましくも、
紹介させていただきました。

(文:橋本淳)

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–{『マ・レイニーのブラックボトム』作品情報}–

『マ・レイニーのブラックボトム』作品情報

ストーリー

舞台は1920年代のシカゴ。ある暑い日の午後、”ブルースの母”の異名を持つ前衛的な歌手、マ・レイニー (アカデミー賞受賞のヴィオラ・デイヴィス) のレコーディングが行われようとしています。主役の到着を待つバンドメンバーの間に、もめ事の火種がくすぶる中、当のマ・レイニーは遅れて登場。彼女は、白人のマネージャー、プロデューサーと楽曲制作の主導権をめぐって対立し、一歩も引かぬ構えで食ってかかります。一方、バンドのコルネット担当で、マ・レイニーのガールフレンドに狙いを定めるレヴィー (チャドウィック・ボーズマン) は、音楽業界で実力を認められたいと野心に燃えています。狭苦しいリハーサル室での待機中、レヴィーに触発されてバンドメンバー達が次々に話を飛び交わせると、あらゆる真実が明らかになり、後戻りできないほど人生が変えられていきます。 

出演: ヴィオラ・デイヴィス / チャドウィック・ボーズマン / グリン・ターマン / コールマン・ドミンゴ / マイケル・ポッツ/ ドゥーサン・ブラウン / テイラー・ペイジ / ジョニー・コイン / ジェレミー・シェイモス
 
監督:ジョージ・C・ウルフ

上映時間:93分

公式サイト:https://www.netflix.com/title/81100780