2021年4月23日より、実写映画最新作が公開される人気シリーズ『るろうに剣心』
その原点は、アメコミヒーローだった?!
今回は、日本が誇る人気コンテンツ『るろうに剣心』とアメコミ作品との関係性を探ります。
人気マンガのルーツはアメコミにあり?!
明治時代初期を舞台に、伝説の剣客「緋村剣心」の活躍を描いた人気マンガ『るろうに剣心』。2012年には、佐藤健さん主演の実写映画として公開され、日本を代表するシリーズとして確固たる地位を築いた本作。しかし、その作品のルーツにアメコミヒーローの影響があることは意外と知られていません。
実は原作者である和月伸宏さんは、MARVELコミックスを中心としたアメコミ作品の大ファン。さらに、実写版の監督を務めた大友啓史さんも、製作の際、DCコミックス原作のヒーロー映画『ダークナイト』シリーズに強い影響を受けたことを公言しています。
今回は、そんな作り手のコメントや原作漫画の描写を参考にして、『るろうに剣心』に影響を与えたと思われるアメコミヒーローを紹介していきます。
–{キャラクターのモデルにマーベルの影}–
キャラクターのモデルにマーベルの影
『るろうに剣心』の原作者である和月伸宏さんは、歴史や格闘ゲームに並び、大のアメコミ好きで、雑誌の企画として「傑作アメコミ映画BEST10」を発表した過去があるほか、単行本のコメントコーナーでは、キャラクターのモデルにMARVEL作品の名前を挙げることもしばしば。
そのため、原作漫画では、『X-MEN』の登場人物を中心に様々なヒーローがキャラクターのモデルとなっています。今回は、その中でも特に影響を与えたとされる3体をピックアップして、ご紹介します。
ウルヴァリン
突然変異で超能力を手に入れてしまった人々・ミュータントの戦いを描くアメコミシリーズ『X-MEN』。その中でも、とりわけ、有名なのが、3本のスピンオフ映画まで作られた人気キャラクター・ウルヴァリンです。ヒュー・ジャックマンさんの名演で広く知られるこのキャラクターですが、漫画版『るろうに剣心』では彼を彷彿とさせる敵が登場。
それは、原作漫画の第3巻以降、主人公が立ち向かう敵集団・御庭番衆の一人・般若です。
実写版第1作では、綾野剛さん演じる外印に設定が引き継がれていたこのキャラクターですが、単行本第4巻に登場する剣心とのバトルシーンでは、なんと、両手に各3本の鈎爪を装着。明治初期という時代設定ゆえに、若干、突飛にも感じるこの描写には、アメコミファンである和月さんのこだわりが垣間見えます。
ちなみに、ウルヴァリンを描いた作品の中でも屈指の名作とされるフランク・ミラー版『ウルヴァリン』では、愛する日本人女性を守るため、ウルヴァリンが日本で大活躍。(のちに『ウルヴァリン:SAMURAI』として実写映画化。)
主人公の「愛」と「怒り」を中心に描いたこの物語は、まもなく公開される『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の原作・追憶編にも影響を与えたと言われています。
ヴェノム
日本における人気も高いアメコミヒーロー『スパイダーマン』。普段は高校生である青年・ピーターパーカーが様々な敵と戦う本シリーズですが、その悪役の中でも圧倒的な存在感で、近年、スピンオフ映画も公開された人気キャラクター・ヴェノムも、『るろうに剣心』に影響を与えたアメコミキャラクターの一人。
『るろうに剣心』クライマックスの人誅編では雪代縁率いる敵集団が登場しますが、メンバーの一員・八ツ目無名異のヴィジュアルは、まさしくヴェノムそのもの。原作漫画第23巻に掲載された作者のコメントによると、八ツ目無名異は、前述のウルヴァリンやカーネイジ(同じく、スパイダーマンの悪役で、映画『ヴェノム』最新作にも登場予定)も混ぜ合わせたキャラクターとのことで、和月さんのアメコミ愛が詰まったキャラクターとも言えるのです。はたして、まもなく公開される実写映画最新作に登場するのかにも注目です。
ガンビット
日本での知名度は低いですが、『X-MEN』の人気キャラクターとして、一時はスピンオフ映画の製作も噂されていたガンビットも『るろうに剣心』に多大な影響を与えたと言われています。棒術での戦いを得意とするキャラクター・ガンビットは、『ウルヴァリン: X-MEN ZERO』では、テイラー・キッチュさんが演じており、サブキャラクターながらも確かな存在感を残していました。
『るろうに剣心』では、鵜堂刃衛と四乃森蒼紫という人物に、その魅力が反映されています。原作第2巻の記述によると、凶悪な人斬り・鵜堂刃衛(実写版キャスト:吉川晃司)には、黒のタイツで身を包んだ風貌や顔などの全体的な部分に、第4巻の記述からは、人気キャラクター・四乃森蒼紫(実写版キャスト:伊勢谷友介)の特徴的なコートに影響を受けたことが示唆的に紹介されています。
これらのキャラクター以外にも、原作コミックでは、緑の怪物・ハルクや『X-MEN』に登場する様々なミュータントをモデルにした悪役が登場。
また、クライマックスの人誅編(『るろうに剣心 最終章 The Final 』の原作エピソードでもある)には、MARVEL作品を彷彿とさせるキャラクターが多数登場するので、気になった方は、ぜひ、映画の予習も兼ねて、原作コミックにも触れてみてください。
–{映画版の原点には『ダークナイト』の影響あり}–
映画版の原点には『ダークナイト』の影響あり
『るろうに剣心』に影響を与えたMARVELキャラクターの数々を紹介してきましたが、リアリティを追及した実写版では、ビジュアル面において、その印象が薄れていると感じる人も多いのではないでしょうか。
しかし、実写版のメガホンを執った大友啓史監督は、過去のインタビューで、DCコミックス原作のヒーロー映画『ダークナイト』シリーズを参考に本編を製作したことを明かしています。
『ダークナイト』シリーズは、これまで勧善懲悪に思われがちだったヒーロードラマを、善と悪で葛藤する等身大の人間ドラマとして描いたことで革命を巻き起こしたと言われている作品。そう考えると、人切り抜刀斎としての過去を抱えながらも戦いを続ける『るろうに剣心』の主人公・緋村剣心の姿は、まさしく、日本版『ダークナイト』そのものと言えます。
実写版『るろうに剣心』では、そんな贖罪を抱えた主人公の活躍を、2年間LAに留学し、ハリウッド仕込みの脚本や映像演出を学んだ監督が、スタイリッシュなアクションを用いて描いています。
このように、実写版が興味深いポイントは、アメコミそのものだけではなく、ハリウッド実写版を参考にしたことで、世界に通用するジャパニーズアクション作品を追求し、日本独自の魅力を生み出したことと言えるのではないでしょうか。
世界中でも、いまだに多くのファンを獲得している『るろうに剣心』。
今回の記事では、そのルーツにアメリカンコミックスの影響があること、その上で、日本独自の魅力を生み出してきたことを紹介してきました。
唯一無二の日本映画シリーズとして君臨し、約10年に渡る歴史を間もなく終えようとしている実写版『るろうに剣心』。
その伝説の終焉を、ぜひ、普段、洋画やアメコミ映画を中心に見ている人、ブームに乗り遅れた人にこそ、目撃していただきたいです。
(文:大矢哲紀)