NHK「よるドラ」枠にて、ドラマ「きれいのくに」が、4月12日よりスタート。
「俺のスカート、どこ行った?」などで知られる注目の劇作家・加藤拓也が脚本を手がける本作は、見た目へのコンプレックスを抱える高校生たちが暮らす、ほとんどの大人が“同じ顔”をした不条理な国を描くSFジュブナイル。
「最後まで、ちゃんと見ないと分からないぞというつもりで書きましたので!」と脚本家が明言する本作。1話ずつ紐解いていきます。
もくじ
第1話あらすじ&感想
第1話のあらすじ
ファンタジーの序章、大人たちの物語。
美容師の恵理(吉田羊)と税理士の宏之(平原テツ)は再婚同士。子どもはおらず夫婦で優雅な生活を満喫している。「結婚生活に不満はない」と映画監督(稲垣吾郎)のインタビュー取材に答える二人。しかし恵理は夫に言えない秘密を抱えていた。あるとき宏之の事務所に謎の女(蓮佛美沙子)がやってくる。急速に距離を縮める二人…。そして宏之は驚異の体験をする。彼が寝室で見たものとは!?
第1話の感想:今季ナンバーワンドラマ?吉田羊の容姿コンプレックスと謎めきすぎている稲垣吾郎
すごいドラマが始まった。いや、すごく変なドラマが始まったと言うべきか。
吉田羊、稲垣吾郎主演「きれいのくに」。このドラマのキャッチフレーズを見てみよう。
「誰しもが抱える容姿へのコンプレックスにまつわるジュブナイルSF!
高校生たちが暮らすのは、ほとんどの大人が“同じ顔”をした不条理な国―
恋愛の衝動がほとばしる “青春ダークファンタジー”」
だけど、第1話には高校生は出てこない。出てくるのは40代の夫婦ともう一組のカップル、そして稲垣吾郎。どういうこと? 第1話をあらためて振り返ってみよう。
NHKなのに濃厚なベッドシーンで始まる。吉田羊のように見えるが、これは蓮佛美沙子だろう。抱いているのは吉田羊の夫役の平原テツ。3者のかかわりは最後にわかる。
美容師の恵理(吉田羊)と税理士の博之(平原テツ)は結婚10年目の40代の夫婦。彼らは再婚同士。優雅な生活を送っているように見えるが、どこかすれ違い気味。
決定的なのは恵理が抱えるセックスレスの悩みだ。稲垣吾郎扮する映画監督が夫婦にインタビューするカットが挟まれる。質問は「夫婦生活の不満は?」。少し不満を述べる恵理と、特に不満はないと言う博之。「夫婦生活」とはセックスの隠語である。
セックスレスの悩みは、容姿の衰えという根源的な悩みへとつながる。恵理が夫に裸を見られたくないのはコンプレックスの裏返し。美容師に若い頃の髪型を再現されると恥ずかしさのほうが先に立つ。これから成長して大きくなる夫の前妻の娘と衰えていくだけの自分が同じ誕生日という皮肉と諦念。
ここでもう一組のカップルが登場する。カメラマンの男(橋本淳)と美容師の女(蓮佛美沙子)。二人はほどなく破綻を迎える。女は税理士の博之と出会って、体を重ねる。一方、恵理はひとりでワインを傾けて涙を流す。博之の浮気? と思うが、これはミスリード。一連のシーンは博之と恵理の10年前の出会いを描いたもの。美容師の女は10年前の恵理である。男がガラケーを使っているのは10年前のことだから。
誕生日の翌朝、目が覚めると博之の隣には10年前の姿をした恵理(つまり蓮佛美沙子)がいた。えーっ! という感じで第2話へと続く。
「好きな人が、好きだと思っている顔になりたい」
こんなことを思っている人は案外多いのではないだろうか。恵理は、夫が好きだった顔――つまり、若かった頃の自分に戻ったということになる。第2話では若さを取り戻した恵理の物語になる模様。高校生たちはまだ登場しないようだ。こんなドラマはなかなかない。タイムラインはざわめきっぱなしである。
不穏な雰囲気とシャッフルされた時制に振り回されがちだが、ドラマの根本的なテーマは「容姿へのコンプレックス」。
恵理が涙を流していたときに観ていた映画は『カサブランカ』。世紀の美男美女であるハンフリー・ボガードとイングリット・バーグマンの魅力がタイムカプセルのように保存された名画である(10年前に別れた男も観ていた)。彼女の寂しさが失われた「若さ」と「美」への妄執となって現れたシーンと考えればいいだろう。
しかし、まだまだ謎は多い。特に謎めいているのが稲垣吾郎だ。第1話では、夫婦にインタビューする映画監督の役。だが、そのうちに高校生たちを取り巻く大人たちの顔が稲垣吾郎と加藤ローサの顔だらけになってしまう。父親の顔も稲垣吾郎、隣家の父親の顔も稲垣吾郎、街を歩いている人たちも稲垣吾郎、女子高生に援助交際を求めるエロ親父も稲垣吾郎……。
いったい、どうしてこうなってしまったのか。どうすればこうなってしまうのか。脚本は27歳の劇作家、加藤拓也。自ら「変な話」と言う彼のコメントを引用しよう。
「最後まで、ちゃんと見ないと分からないぞというつもりで書きましたので!」
わかりました。最後まで、ちゃんと見ます。
–{第2話あらすじ&感想}–
第2話あらすじ&感想
第2話あらすじ
突然妻の恵理(吉田羊)が十年前の恵理(蓮佛美沙子)の姿に若返ってしまった!
夫の宏之(平原テツ)は困惑するが恵理も周囲も若返った事実に全く気づかない。一方若さを手に入れた恵理は宏之の部下・根木(木村達成)に好意を寄せられ、さらに宏之の欲望のまなざしに気づき、封印していたある思いをよみがえらせる…!
20代の頃、駆け出しの美容師だった恵理(小野花梨)はカメラマンの健司(須賀健太)とつき合っていたのだが…
第2話の感想:女性の容姿と年齢を通して「男側の世界」の欺瞞を突く。美しい稲垣吾郎は世界の観察者?
今シーズンナンバーワン級の変なドラマ「きれいのくに」。変だけど、考えさせられて、傑作の予感がビンビンする。
何が変って、第2話なのに主演の稲垣吾郎も吉田羊もほとんど出てこない! でも、わずかな登場時間なのに、すごいインパクトを残していく。
『きれいのくに』で描こうとしているのは、誰しもが抱える容姿のコンプレックス。ほとんどの大人が“同じ顔”をした世界で暮らす、思春期の高校生たちをめぐる物語だ。
ところが、第1話と第2話は、夫とのセックスレスと加齢による容姿の衰えに悩む44歳の女性、恵理(吉田羊)が主役だった。第1話の最後で恵理は33歳の自分(蓮佛美沙子)に若返ってしまうので、第2話には吉田羊はほとんど登場しない。ドラマの冒頭、蓮佛美沙子の「はぁ?」が吉田羊の「はぁ?」にしか見えなかった。女優ってすごいなあ。
第2話は、女性の年齢と容姿、そしてセックスと妊娠をめぐる物語だった。いや、正しくは女性を取り囲む男側世界の話である。
妻の見た目が10歳若返って戸惑う夫の宏之(平原テツ)。監督(稲垣吾郎)のインタビューに対しても「若くなったから嬉しいってわけではない」と答える(実際は嬉しそうなのだが)。宏之に「逆にどうですか」と問われて監督は考え込むが、とても47歳に見えない美貌を保つ稲垣吾郎には愚問だろう。彼にとって、若くて美しいことは当たり前なのだから。彼はどこか高いところから、このコンプレックスまみれの世界を観察しているのかもしれない。
話を戻そう。33歳の頃の恵理は、前夫の健司(橋本淳)と別れても、すぐに宏之と出会うことができて、即座にセックスする。33歳の恵理は、自分の意思(希望)が男側の世界に受容されやすい。若くて、見た目が良くて、経済的にも精神的にも自立している女は、男にとって非常に魅力的な存在である。
一方、33歳の見た目を持っているのに44歳の恵理に対して、男側の世界は複雑な態度を示す。若い根木(木村達成)は露骨にアプローチしてくるが、宏之は欲情するものの、恵理に「怖さ」を感じてセックスができない。男性の自慰の後の丸めたティッシュをこんなに露骨に表現したドラマも初めて見た(『毎度おさわがせします』にはあったかもしれないが)。
話は23歳の恵理(小野花梨)にまで遡る。恵理は付き合いたての健司(須賀健太)の子を妊娠したが、健司は「もったいない」と言って堕胎させる。手術を受けて泣きじゃくる恵理。23歳の女性の意思は、男側の世界に受け入れられない。
後に健司は道端で野垂れ死ぬが、前の夫の死を知った33歳の恵理が出会ったばかりの宏之とセックスしながら泣くというすごいシーンがあった。人間の生と死の際が表現されていたように思う。
恵理はインタビューで独立して仕事に集中しようとしたきっかけについて語るとき、「(子どもを)作らなかったから」と言いかけて「できなかったから」と言い直している。恵理が独立したのは健司と結婚しているときだから、宏之とのことも年齢のことも関係ない。きっと堕胎手術が何らかの影響を及ぼしているのだろう。健司があっさり死んだのは、小さな命を粗末にしたから、その後の妊娠の希望を断ち切ってしまったからなのかもしれない。
44歳の恵理は、自分を恐れる夫に、いや男側の社会に怒りをぶつける。
「女が年とったらグダグダ言うくせに? 若い子見る目とか、年とった女見る目とか、そういう、あんたら側が作ってきたそういうの、いざ若くなったら拒否とか何なの!」
「あんたら側」とは「男側」という意味である。女は若くて美しいほうがいい、若い女が子育てするのは無理がある、自立した女は魅力的だ、年をとった女とはセックスできない――どれも男側の世界の理屈である。恵理(と世界の多くの女性)はそれに翻弄されながら生きてきた。蓮佛美沙子の怒りの演技に第1話の吉田羊が乗っているから、より深く響く。
男側の世界へのあてつけのようにどんどん見た目が若返っていく恵理。はたして第3話以降、どのように展開していくのか。まだまだ目が離せない。
–{第3話あらすじ&感想}–
第3話あらすじ&感想
第3話のあらすじ
20代の姿に若返った妻・恵理(小野花梨)。
それは夫の宏之(平原テツ)にとって、自分と出会う前の見知らぬ女の姿だった…!そして物語は本章へ―若者以外の大人のほとんどが同じ男(稲垣吾郎)と女(加藤ローサ)の顔をしている世界。
隣同士の家に住む誠也(青木柚)と凜(見上愛)はお互いに恋心を抱いているが、コンプレックスを抱え、気持ちを言い出せずにいる。
あるとき、凛は映画館で小野田(吉田羊)という女に出会い…。
第3話の感想
これまでのお話は全部、高校生が見ていたVR啓発映画だった!
稲垣吾郎、吉田羊主演のドラマ『きれいのくに』。第3話では、謎めいたストーリーの全貌が徐々に明らかになってきた。主演なのに、これまでほとんど現れなかった稲垣吾郎もガンガン出てくるぞ。あらためて振り返ってみよう。
恵理(吉田羊)と宏之(平原テツ)は結婚10年目を迎えていたが、恵理の誕生日を境に宏之には恵理の容姿がどんどん若く見えるようになり、ついに23歳の恵理(小野花梨)になってしまったところで関係は破綻する。
2人にインタビューする映画監督の山内(稲垣吾郎)に対して、恵理は「若さ」や「可愛さ」を夫が無意識に望んでいたのではないかと答え、宏之も口ごもりながら同意すると、監督からのメッセージが流れて“映画”は終わる。そう、これまでの夫婦の話は、すべて高校の授業で見ていた啓発映画だったのだ。
この国では、20代から50代までの男女およそ6100万人のうち、およそ4900万人が「トレンドの顔」に美容整形を施して、男は稲垣吾郎の顔、女は加藤ローサの顔になってしまっていた。直接手術だけでなく、遺伝子の編集まで行われた結果、健康被害が続出し、同じ顔による犯罪も頻発、10年前から美容整形は禁止されることになった。
そして子どもたちは、トレンドや外見を意識しすぎないようにしよう、美容整形(脱法行為の裏整形)をやめよう、という啓発映画を毎年のように見せられることになった(そのわりには夫婦のセックスをしっかり見せすぎなんじゃないかと思うが)。
こうして「きれいのくに」は本章へと入っていく。高校の同級生、誠也(青木柚)、凛(見上愛)、れいら(岡本夏美)、貴志(山脇辰哉)、中山(秋元龍太朗/顔は稲垣吾郎)は幼馴染み。仲は良いのだが、それぞれ容姿や異性を気にして、少しぎこちなく毎日を過ごしていた。
彼らが過ごす世界の大人たちは、作中のデータが示すとおり、教師、映画監督、タレント、モデル、警察官、犯罪者、道行く人々、両親、パパ活の相手の中年男性まで、すべて稲垣吾郎と加藤ローサの顔になっており、子どもたちもそれを当たり前のこととして受け入れていた。なお、オーガニックな稲垣吾郎と加藤ローサが演じている役は10数役で、あとはAIを駆使したVFXによる合成で作られている。高校生の中山を演じる秋元龍太朗にも稲垣吾郎の顔が合成されていた。
しかし、容姿が均一な大人世代と、それぞれの容姿にコンプレックスを抱く子ども世代とでは価値観がまるで違うようだ。それを映画監督の山内は「分断されてしまったこの国の現状」と表現している。
凛とれいらがカラオケで歌っていた曲は、ベッツィ&クリスの「白い色は恋人の色」。1969年のヒット曲だが、大人たちと子どもたちの分断と断絶を描いた映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(00年)の挿入歌としても知られている。予告編で中年男の稲垣吾郎がカラオケで歌っていたのは井上陽水の「傘がない」だが、この曲が収められたアルバムのタイトルは『断絶』である(72年)。
今後は高校生たちの恋愛とコンプレックスが描かれていくようだ。大人たちと子どもたちの分断と断絶もさらにクローズアップされていくのだろう。そして、大人たちの中にひとりだけいた、違った顔の女(吉田羊)の果たす役割にも注目だ。
それにしても、みなさん、稲垣吾郎の顔になりたいですか? 恋人に稲垣吾郎の顔になってもらいたいですか?
–{第4話あらすじ&感想}–
第4話あらすじ&感想
第4話あらすじ
かつての流行の反動で、今は美容手術が法律で禁止されている世界。
幼なじみの高校生・誠也(青木柚)、凜(見上愛)、れいら(岡本夏美)、貴志(山脇辰哉)はそれぞれ違う顔だが、中山(秋元龍太朗)は誕生前に両親が遺伝子操作を施したため、大人たちと同じ顔をしている。
いつも放課後を一緒に過ごす五人だが、れいらはときどき“パパ活”で見知らぬ男性とデートをしていた。しかし突然、客の福井(稲垣吾郎)が密室で豹変し…!
第4話の感想
“好きな人が好きだと思っている顔になりたい”。
誰しもが感じたことのある容姿についてのコンプレックスを、ファンタジーでありながら生々しく描くドラマ「きれいのくに」。
舞台は大人たちが全員“トレンドの顔”の稲垣吾郎と加藤ローサの顔に整形している時代で、最初に展開していたのはVRで観ていた啓発ビデオ。トリッキーな構成に幻惑された部分もあったが、折返しとなる第4話からストーリーが大きく動き出した。
話の中心にいるのは、整形していない高校生の誠也(青木柚)、凛(見上愛)、れいら(岡本夏美)、貴志(山脇達哉)、そして親の遺伝子編集の影響で“トレンドの顔”になっている中山(秋元龍太朗)の5人。
第4話ではれいらがパパ活で出会った中年男(稲垣吾郎)から暴行を受ける。ちなみに第3話で出会っていた男と顔は同じだが、お小遣いの決済方法が違うため、別人と会っていることがわかる。
れいらが受けたのは、スカートの中にマイクを突っ込まれるという強烈なセクハラ。彼の本当の目的はわからないが、女性の性に関する何らかの音を録音したかったらしい。
「本当はいつもセックスやってるんでしょ? 知ってるよ。若くてお前ら側の顔、高いもんね、稼げるし。セックスとかいいから、録音だけさせて。いくらいくらいくら?」
この世界では、稲垣吾郎(の顔)が美の象徴、トレンドの象徴である。だが、美しい顔を一枚めくると、さまざまな性質が露わになる。特にこの男の品性はどこまでも下劣だ。「払った分だけちゃんといろよ!」と叫んで、逃げようとしたれいらをマイクで殴打する。
映画監督、教師、父親など、十数役を演じた稲垣吾郎だが、この最低な男へのなりきり具合が素晴らしい。あらためて、多彩な稲垣吾郎の演技力、表現力に感じ入る。
彼らがカラオケで歌っていたのはザ・フォーク・クルセダーズの「悲しくてやりきれない」。南北朝鮮の分断の悲しみを歌った「イムジン河」が発売中止になり、メロディを逆にたどって作られた曲だった。大人世代と若者世代、整形した世代と整形していない世代、トレンドに流された世代とトレンドに流されない世代の“分断”を表している。この世界には「プレーン差別」という整形していない人々への差別も起こっているようだ。
そんな中、貴志がれいらへの気遣いの中で恋を育てていき、誠也は幼馴染の凛を二人で遊びにいこうと誘う。少年たちのシーンは自然光を生かした演出が目立つ。
しかし、そんな中、れいらはカラオケにいる中山の顔を見て、動悸が激しくなる。脳裏に中年男が歌っていた「悲しくてやりきれない」が蘇り、思わず嘔吐してしまう。自分を暴行した男と同じ顔がそこらじゅうにあるという地獄。10代の少女には酷すぎる。
この後、5人の関係がどうなっていくのか、トレンド世代とアンチトレンド世代の分断はどうなっていくのか。まだまだ予断を許さない。
なお、公式サイトには全員の顔が稲垣吾郎のアイドルグループ“チーム轟”のメンバープロフィールが紹介されている。「歌謡曲とキレキレのダンスを得意として、大人世代の女性を中心に熱い人気をあつめています」と書いてあるってことは、顔が全員稲垣吾郎の純烈? 今後、ポスターだけでなくライブシーンも登場するかもしれない。今後も楽しみだ。
–{第5話あらすじ&感想}–
第5話あらすじ&感想
第5話あらすじ
誠也(青木柚)は思い切って凜(見上愛)をデートに誘い、約束を取りつける。
一方、中山(秋元龍太朗)はれいら(岡本夏美)に避けられていることを悩んでいた。れいらは中山の顔を見るとパパ活の客(稲垣吾郎)に襲われたことを思い出してしまうのだが、それを知るよしもない中山は、凜に相談する。
その頃、誠也は心身が傷ついたれいらが気がかりで、凜とのデートを断って一緒に過ごすことに。しかし、凜は誠也の嘘に気づいて…。
第5話の感想
独特の世界を突っ走る「きれいのくに」。思春期の高校生たちなら誰もが抱えるコンプレックスを大胆な設定と繊細な脚本で描き出す。
第5話では、高校生たちの日常にほんの少し変化が起こった。といっても、まったく変化のない日常を送っている高校生なんていないのだから、これが当たり前とも言える。
冒頭はバリカンで頭を刈る誠也(青木柚)のショットから始まる。彼がいつも坊主頭でいるのは、母親(加藤ローサ)の「色気づいている」という言葉を気にしたから。第3話では裏整形について、「そんな感じの見た目気にしているとか思われたくないみたいなの、あんじゃん?」と語っていた。見た目を気にしていると思われたくない。だから裏整形にも興味がない。それがナイーブな彼のスタンス。
高校生たちはお互いを気遣い合いながら生活している。それが大人たちと大きく異なるところだ。
誠也はパパ活で暴行を受けたれいら(岡本夏美)を気遣って、凛(見上愛)とのデートの約束を反故にしてまでも、れいらに付き合う。凛は約束を反故にされても、それほど怒ったりしない。貴志(山脇辰哉)は一貫してれいらを気遣っている。中山(秋元龍太朗)はれいらが自分を避けているのに気づき、凛に相談を持ちかける。
れいらと誠也は部屋でセックスをする。恋人のいるれいらだが、「初めては安心できる人と済ませときたい、みたいな」と言うのだ。
短い時間ながら、ここまで生々しい若者たちのセックス表現はドラマでは珍しい。NHK、攻めてるなぁ。結局、童貞と処女のセックスはうまくいかなかった。浮かない顔をしながら、誠也はれいらの言葉を思い出していた。
「そんなたいしたもんじゃないってことを今、証明したわ。自分に」
セックスがうまくいかなかったこと、好きな相手とのセックスではなかったこと、自分はれいらにとって「たいしたもんじゃない」ということ……複雑な気持ちが頭をもたげる。
そんな誠也が声を荒げたのは、デリカシーのない言葉を並べる母親に対してだった。
「てか、自分らは顔、整形してんじゃん。何のためにやったんだよ。なんで俺がダメなんだよ」
整形は法律で禁じられている。大人の世代が、みんな整形していたのは「色気づいていた」からだ。色気づいて、セックスして、酒を飲んで、あまつさえ「パパ活」という名で女子高生に手を出そうとしている。でも、自分たち高校生はすべて禁止されているのが現状だ。なんで大人たちばっかり好き勝手やってるんだよ!
誠也の不満は思春期の若者が抱える鬱屈そのものだろう。同時に、社会では整形者と非整形者の分断が問題になっていた。何でも自由にやってきた(やっている)大人たち世代と、そのツケを支払わされている子どもたち世代の分断も大きい。次回以降、それが徐々に形になって見えてきそうだ。
–{第6話あらすじ&感想}–
第6話あらすじ&感想
第6話のあらすじ
凜(見上愛)は、誠也(青木柚)がれいら(岡本夏美)と二人で会っているところを目撃し、傷ついていた。さらに顔のコンプレックスの悩みが増大し、法律で禁止されている美容手術に興味を募らせていく。そして“パパ活”を始めて…。
その頃、映画監督(稲垣吾郎)が新作の撮影のために高校を訪れる。凜はそこにいた女優・安藤(小野花梨)、パパ活の客・千葉(山中崇)との出会いで、禁断の闇世界に足を踏み入れることになり…?!
第6話感想
「変わりたいな、っていうのがあって、かな」
トレンドの整形による大きな分断が起こってしまった社会で暮らす、思春期の高校生たちの悩みとコンプレックスを描くドラマ「きれいのくに」もいよいよ終盤。
6話では、凛(見上愛)に焦点があたる。容姿にコンプレックスを持っていた凛は、れいら(岡本夏美)にパパ活アプリを教えてもらっていた。理由は「変わりたい」から。
小学生の頃、クラスメイトに「ブス」と言われ続けて傷ついていた凛。一方、中山(秋元龍太朗)は遺伝子編集のせいで周囲からいじられていた。17歳になった二人の会話は、自己肯定感がとことん低くて、聞いているとせつなくなってくる。
「ほら、私、ブスだから」「ブスだよ、結婚とかもできる気しない」
「遺伝子いじってる俺とのハーフキツいし、俺のほうができない気がする」
「ブスとのハーフのほうがキツいよ。なんだかんださぁ、自分の子どもがブスって言われてるの見たくないじゃん」
このシーンには「きれいのくに」のすごさが詰まっていると感じた。なにせ、中山役の秋元龍太朗の顔はすべてVFXで稲垣吾郎と入れ替えられているのだ。ここまでドラマを見てきた人は慣れてきたかもしれないが、初見の視聴者は間違いなくギョッとする。
合成には現場で煩雑な作業が必要だったという。それなのに秋元龍太朗はナチュラルな芝居で、物語のテーマにかかわる会話をやってのけているのだからすごい。もちろん、技術力もすごいのだが、なによりこうしたシーンを着想できる脚本の加藤拓也とGOを出したNHKがすごい(制作統括は『あまちゃん』『いだてん~東京オリムピック噺~』の訓覇圭)。
6話には凛の両親(稲垣吾郎、加藤ローサ)が登場しているが、ヘアメイクを担当した豊田健治のブログによると、この二人は大学を出て、ほどよく成功している設定なんだそう。一方、誠也の両親(稲垣吾郎、加藤ローサ)は若い頃にパンクバンドをやっていて、今は落ち着いているという設定らしい。あのお父さんの頭のタオルはバンドの名残だったんだ!
凛が初めてのパパ活で出会った相手はプレーン(整形していない人間)の千葉(山中崇)。実は警察の人間で、法律で禁じられている「裏整形」に興味を持った凛を自分が作ったプレーンが集う店「きれいのくに」に連れていく。店には啓発ビデオに出演していたプレーンの俳優の安藤(小野花梨)や小宮(平原テツ)も訪れていた。
「きれいのくに」の会員証には、それぞれ違う形をした横顔がプリントされていた。プレーンには多様性がある。しかし、多数派のネジ(整形をした人)から差別されているという現実もある。
同じ顔をした人間たちが、違う顔の人間を差別・抑圧するのは、「同調圧力」の象徴だろう。日本では、多様性がもてはやされる一方で、ほかと違う性質を持っている人は強い抑圧を受けるという、大きな矛盾を抱えた現実がある。
現実といえば、もう一つ。どんなに多様性が素晴らしくても、若者が抱える容姿のコンプレックスが解消されるわけではない。揺れ動く凛に、安藤は自分も「裏整形」を施したと囁く。彼女がしていたのは同じ顔にする整形ではなく、気になる部分を直す部分整形だった。
「自分のコンプレックスぐらい、直してもいいかなー、みたいな。やなところ直したらさ、ポジティブになるじゃん?」
安藤が語るのは、トレンドにあわせて同じ顔にする不自由さでもなければ、整形すべてが禁止された不自由さでもない。自分の気になる部分を好きなように整形できる自由さだ。次回以降、凛がどのような判断をするのかが気になる。啓発映画に出演していた女優の小野田(吉田羊)も鍵を握っていそうだ。
前回、セックスをしたれいらと誠也(青木柚)にも微妙な距離ができていた。自分の部屋で、れいらの血のついた使用済コンドームを頭に乗せて物思いにふける誠也。これもすごい絵だ。
誠也が、初めてセックスしたれいらのことが気になるのは当たり前のこと。でも、れいらにとって誠也は「練習」でしかなく、「1カウント」にも数えられていない。引き裂かれていく二人を象徴するかのように、おじさんの自転車が走っていく。5人の関係がどうなっていくのかも興味深い。
–{第7話あらすじ&感想}–
第7話あらすじ&感想
第7話あらすじ
美容手術をしていない人々が秘密裏に集まる『きれいのくに』。凜(見上愛)はそこで違法な手術について知り、誘惑に揺れる。そして女優の小野田(吉田羊)に会い…。
一方、誠也(青木柚)は凜がパパ活をしていることを知り、激しく動揺する。貴志(山脇辰哉)はれいら(岡本夏美)に想いを寄せ、れいらは中山(秋元龍太朗)にパパ活の客(稲垣吾郎)の面影に苦しんでいることを告白する。
ついに若者たちの気持ちがあふれ出して―!
第7話の感想
容姿のコンプレックスに悩む少年少女の姿を描くドラマ「きれいのくに」もいよいよ7話。全8話なので、もう終盤である。
彼らが住む世界は、大人の大多数がトレンドの顔(稲垣吾郎、加藤ローサ)に整形してしまい、整形そのものが禁じられた世界。多数派の整形者(ネジ)から少数派の非整形者(プレーン)への差別も横行している。
しかし、テレビでは整形した社会学者が「この国にそんな事実はない」と言い放っていた。50代と思しき白髪で知的な稲垣吾郎はきっとみんなが好きな稲垣吾郎だが、言っていることは酷い。一方、プレーンの刑事・千葉(山中崇)に引きずられてニヤニヤして、結局殴られる中年男も稲垣吾郎だから、稲垣吾郎ファンは高低差で耳がキーンとしているだろう。
5人の高校生の中で、もっとも容姿のコンプレックスに苛まれている凛(見上愛)は、法律で禁じられている「裏整形」に惹かれていく。
凛がひとりで観る映画は、出演者が非整形者ばかりで客がほとんど入っていないマイナー映画「バイバイ、jazz!」。何らかの答えを求めて非整形者の集まる場所をさまよっている凛は、映画館で働いている小野田(吉田羊)に思わず声をかける。彼女はこの映画や学校で観た啓発映画に出演していた女優でもあった。
凛は小野田になぜ整形しなかったのかを訊ねる。整形すれば人気の大作映画に出られるが、整形しなければ地味なマイナー映画や啓発映画にしか出られないのに。
「私はなんか、そういうトレンド的な? みんなが好きなものが好きになれない、みたいな、そういう気持ちがあって」「みんなの好きって、別の私の好きじゃないじゃん」
小野田の答えは、マイナーな映画や音楽、本などのサブカルチャーを愛する人ならば、至極普通のもの。だけど、この世界ではすさまじい勢いでトレンドなるものが社会と人々を飲み込んだ後なので、小野田のような存在はごくごく少数派のようだ。凛は最後の質問をする。
「自分の顔は好きですか?」
「私は、私のままが好きかもしれない」
小野田の答えは揺るがない。だが、トレンドの顔をした両親のもとで育った普通の高校生の凛にとって、小野田のような考え方はずっと遠いものでしかなかった。非整形者はどこまでも肩身が狭い。結局、凛は裏整形の施術を受けることにする。
少年少女たちはお互いを気遣いながら、徐々に感情をあふれさせていく。誠也(青木柚)は凛のパパ活を知ってやりきれない思いを抱く。中山(秋元龍太朗)はれいら(岡本夏美)に避けられていた事情を知り、自分から距離を取る。貴志(山脇辰哉)は不器用ながら必死にれいらに想いを伝えようとするが、れいらの答えは「耳から膿垂れてるよ」という思春期の少年にとっては残酷なものだった。
仲良く橋の上を歩く5人はやがて二つに別れ、3人は2人と1人に別れる。仲良しの幼なじみは、ある時期から男と女になり、バラバラの道を歩みはじめる。BGMはチューリップの「青春の影」。サビのリフレインの歌詞は「今日から君はただの女 今日から僕はただの男」というものだった。
凛はついに裏整形の手術に臨む。「好きな人の好きな顔だったらな、って思うし」と言う凛だが、彼女は「好きな人の好きな顔」を知らない。漠然としたコンプレックスを解消するためだが、冒頭で街中に流れていた裏整形防止のためのアナウンスは「コンプレックスを直すと騙り……」と言っていた。
表面張力いっぱいに感情が張り詰めた5人はどうなるのか? 凛の裏整形はどんな結果をもたらすのか? 稲垣吾郎は最後にどんな姿で現れるのか? やっぱりこのドラマは最後まで観ないとわからない!
–{第8話あらすじ&感想}–
第8話あらすじ&感想
第8話あらすじ
貴志(山脇辰哉)がれいら(岡本夏美)に告白したことを知った誠也(青木柚)。背中を押されるように凜(見上愛)に想いを伝えることを決意する。
一方、れいらはパパ活の客(稲垣吾郎)に襲われたトラウマを克服するため、中山(秋元龍太朗)に一緒に過ごしたいと提案する。事件があったカラオケ店で二人は…。そして誠也の気持ちを知った凜。自分の顔を変えるために美容手術を受けたいという思いを彼に伝える。そのとき誠也は―!
第8話の感想
「きれいのくに」が最終回を迎えた。最終回は大人たちがほとんど登場せず、少年少女たちだけで話が進んだが、とても晴れやかである一方、胸の奥がチクッとして、どこかモヤモヤする終わり方だった。それが作り手の狙いだと思う。
凛(見上愛)、誠也(青木柚)、貴志(山脇辰哉)、れいら(岡本夏美)、中山(秋元龍太朗)の高校生5人組は、ただの幼なじみから大人にさしかかり、距離が縮んだり離れたりしていた。
貴志はれいらに告白してフラれてしまい、誠也はあらためて凛にデートを申し込む。れいらは無視していた中山を呼び出して「リハビリさせてほしい」と申し出て、優しい中山はカラオケで一緒に涙を流す。誠也はデートの帰りに凛に告白して、二人は恋人同士になる。誠也はそのことをれいらに告げて、初体験の相手への未練を断ち切る。
胸に秘めていた想いを行動に移したのは凛だった。彼女は思いとどまった「裏整形」をもう一度やろうとしていることを誠也に打ち明ける。顔が変わっても嫌いにならないと宣言する誠也。
「好きな人が好きだと思っている顔になりたい」――こんなことを漠然と考えていた凛だったが、最後は顔を整形するのは「自分の問題」だと考えるようになっていた。
誠也は凛の思いを受け止めて、彼女の頼みを聞いて裏整形の手術についていく。凛は本当に嬉しそうだ。子どもの頃からずっと一緒だった二人。でも、慣れ親しんだこの顔にはおさらば。
「どうだろう……?」
「いい……と思うよ」
手術が終わり、凛の顔はほんの少しだけ変わっていた。すぐに気がつく誠也。だけど、まわりの人たちは誰も気がつかない。晴れ晴れとしている凛だが、誠也は少し複雑な表情を浮かべている。左右に分かれるラストカットは、二人の今後を暗示している。
凛が行動できたのは誠也のサポートがあったから。でも、思い切って行動をした凛と、まわりからの目が気になり続けている誠也は、いずれ気持ちが噛み合わなくなるだろう。それは仕方のないことだし、どこにでもあること。
大人たちがみんな思いっきり整形しているのに、子どもたちのわずかな整形が罪になる世界で、整形している大勢の人たちが整形していない少数の人たちを差別する。大人たちが自分だけ流行りから取り残されるのを恐れた結果、生まれてしまった理不尽きわまりない世界で、凛は自分の思いを貫き通した。差別から生まれた場所「きれいのくに」のへし折られたカードは、理不尽で残酷な世界をいずれ若者たちが変えていってくれることを示しているんじゃないだろうか。
誰だってまわりと変わっていてもいいし、自分を変えたっていい。
世の中にはいろいろ難しい問題は山積みだけど、「きれいのくに」は、そんなことを伝えてくれるドラマだった。
で、稲垣吾郎はこのドラマで何を演じたのかというと、「世界」そのものだったんじゃないかと思う。誰もが美しさを追求した挙げ句、理不尽で歪んでしまった世界。まったくファンタジーだけど、現実の写し鏡のようなおかしな世界。そんな世界を引き受けられるのは、(加藤ローサも頑張っていたけど)やっぱり稲垣吾郎しかいないだろう。この仕事を引き受けたことも含めて、あらためてすごい表現者だと感嘆する次第である。
–{「きれいのくに」作品情報}–
「きれいのくに」作品情報
誰しもが抱える容姿へのコンプレックスにまつわる ジュブナイルSF!
高校生たちが暮らすのは、ほとんどの大人が“同じ顔”をした不条理な国―
恋愛の衝動がほとばしる “青春ダークファンタジー”
放送
2021年4月12日(月)スタート <全8回>
NHK総合 毎週月曜 よる10時45分から11時15分
作
加藤拓也
音楽
蓮沼執太
出演
吉田羊
蓮佛美沙子
平原テツ
小野花梨
橋本淳
加藤ローサ
青木柚
見上愛
岡本夏美
山脇辰哉
秋元龍太朗
稲垣吾郎ほか
制作統括
訓覇圭
プロデューサー
小西千栄子
高橋優香子
演出
西村武五郎
鹿島悠
田中陽児
加藤拓也