『ノマドランド』公開記念:少し変わったロード・ムービー5選

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現在劇場公開中の『ノマドランド』は、起業の破綻と共に住居を失った女性(フランシス・マクドーマンド)が、キャンピングカーで季節労働の現場を渡り歩く“現代のノマド(=遊牧民)”として生きていく人生の旅を描いた作品。アカデミー賞6部門にノミネートされており、その結果も大いに注目されている秀作です。

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この作品のように主人公が旅をする映画を、俗に“ロード・ムービー”と呼びますが、映画と旅はとても相性が良いようで、映画史上に残る名作があまた存在します。

また、その多くは旅を通して人生の機微を語ることで見る側の人生そのものにも大きな影響を与えてくれます。

今回は、そんなロード・ムービーの中から、いわゆる定番の名作からちょっとずらしたユニークな作品をご紹介していきましょう。

“スタトレ”マニア少女の冒険『500ページの夢の束』

 『500ページの夢の束』(17)は、幼い頃“天才子役”と謳われたダコタ・ファニングが大人になっての主演映画です。

ここで彼女が扮するのは、何と『スター・トレック』オタクの自閉症の女の子ウェンディ!

あるとき『スター・トレック』脚本コンテストがあることを知った彼女は、その賞金で手放すことになった家を買い戻すべく、500ページの原稿を執筆。

しかし、うっかり締切に遅れそうになったことから、彼女は直接持ち込むべく、ハリウッドへ向かう旅に出るのでした……が!?

ここではヒロインが無事に原稿をパラマウント社まで締切までに持っていけるのか? というスリリングな設定と、旅がもたらす大らかな情緒が融合したユニークな珍道中スタイル、そして彼女の持つ豊潤なスタトレ知識によってピンチを救うといった映画マニア感涙のエピソードも披露されます。

小品ですが、味わい深い佳作。何よりもダコタ・ファニングの真摯な行動の数々にはハラハラしつつも胸を打たれること必至でしょう。

ワケあり親子の大陸横断の旅『トランスアメリカ』

『トランスアメリカ』(05)の主人公は、若いころから自分が男性であることに違和感を抱き続け、今はLAで独りの女性として生きるブリー(フェリシティ・ハフマン)。

まもなく手術で肉体的にも女性になろうとしている彼女のもとに、NYの拘置所から1本の電話が。

それはトビーという17歳の少年が実の父親を捜しているとの内容で、実は彼こそはかつてブリーがスタンリーという男性だった時代に一度だけSEXした女性との間にできた子どもだったのでした!?

かくしてブリーは仕方なくNYへ向かうのですが……。

この作品でまず特筆すべきは、女性になろうとしている男性のブリーを務めるのが女優のフェリシティ・ハフマンで、その名演によってアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、ゴールデングローブ賞では見事に主演女優賞を受賞したことでしょう。

シリアスなようでコミカルでもあり、そんな不安定なテイストに包まれながらの親子の大陸横断の旅が、見る者をずっとハラハラさせてくれつつ、最後にはささやかな感動をもたらしてくれる作品です。

–{高度経済成長時代の日本の縮図を描くロードムービー?}–

ヴェトナム戦争末期の学生らの青春の馬鹿騒ぎ『ファンダンゴ』

『ファンダンゴ』(85)とは、ずばりバカ騒ぎのこと。ヴェトナム戦争末期、米テキサス州大学寮の卒業生たち5人がキャデラックに乗って、メキシコ国境を目指す旅に出ます。

リーダー格のガードナー(ケヴィン・コスナー)と、まもなく恋人と結婚する予定のワグナーは成績不振で徴兵猶予を取り下げられ、軍に召集される予定。

つまりは彼らにとって最後のファンダンゴ=馬鹿騒ぎでもあったのですが……。

車のガス欠やら故障やら、急にスカイダイビングをやることになったり、映画『ジャイアンツ』の荒れ果てたロケ地を聖地巡礼してみたり……。

そして彼らはなぜ国境をめざすのか? 

といった旅の終わりを青春の終わりとだぶらせた青春グラフィティの秀作。

当時まだブレイク前だったケヴィン・コスナーの主演映画で、監督のケヴィン・レイノルズとはこの後も『ロビン・フッド』(91)『ウォーターワールド』(95)とコンビを組むことになっていきました。

高度経済成長時代の日本の縮図山田洋次監督作品『家族』(70)

日本映画からもロードムービーの名作を1本。山田洋次監督の『家族』(70)です。

日本が高度経済成長期にあった1970年代初頭、長崎県の小さな島から北海道の開拓村まで移動する一家の旅を、オールロケーションで描いていきます。

公害問題が表面化する前の北九州工業地帯や、大阪の日本万国博覧会の喧騒などをドキュメンタリー・タッチで捉えながら、当時の日本の現実をフィルムに刻印しつつ、家族の絆をエモーショナルに捉えていく山田演出はお見事の一言!

狭い島国ではありつつ、実は縦に長い日本列島の特徴を巧みに活かした作品でもありますが、今から50年ほど前の日本では九州から北海道まで旅するのがこんなに過酷であったかと愕然となる方も多いかもしれません(飛行機でひとっ飛びなんてことが、金銭的にも簡単にできない時代でもあったのです)。

ちなみに山田監督作品では『幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ』(77)も、北海道の旅を軸にしたロードムービーの名作ですね。

ファンタジーとロード・ムービーその相性の良さ『オズの魔法使』

アメリカの週刊誌「エンターテインメント・ウィークリー」では2011年にロードムービー傑作30本」を発表していますが、その中で一番古い『或る夜の出来事』(34)に続いてランクインしているのが『オズの魔法使』(39)です。

カンザス州の農場の娘ドロシーがトルネードに巻き込まれて魔法の国オズに運ばれ、自分を元の世界に戻してくれるオズの魔法使いに会うべく、エメラルド・シティまで知恵のないカカシ、心を持たないブリキ男、臆病なライオンと一緒に冒険の旅に出ます。

少女スターだったころのジュディ・ガーランドが歌う《虹の彼方に》があまりにも有名なこのファンタジー作品、現実世界はモノクロで魔法の国オズにヒロインのドロシーが赴いてからはカラー(当時は総天然色とも呼ばれていました)となります。

ファンタジーと旅もまた相性が良いもので、最近では『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズもロードムービーとして語ることも大いに可能なのでした。

(文:増當竜也)