『アメイジング・グレイス / アレサ・フランクリン』は、1972年の1月13・14日にロサンゼルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で行われたライブ録音の模様を映し出したドキュメンタリーだ。
このライブは、アルバム『AMAZING GRACE』として同年にリリースされた。Billboardチャートの7位まで駆け上がり、総売上はトリプルミリオンを超えている。セールス面はもちろん、内容面でも紛うことなきゴスペル・アルバムの一等星である。
本作は、そのアルバムとニコイチで制作されている。技術的な問題でお蔵入りになっていたものの(その他にも色々あったのだが、本筋ではないので割愛する)、ついに公開される運びとなった。つまり、『AMAZING GRACE』は『アメイジング・グレイス / アレサ・フランクリン』とニコイチで楽しむことで、完結するといっていいだろう。
事実、本作は『AMAZING GRACE』が傑作ゴスペル・アルバムであることを更に強化する。
アレサの立ち上がり後の凄まじい歌声と、サザン・カリフォルニア・コミュニティ聖歌隊のバックコーラス、控えめに聴こえてくるコーネル・デュプリー、チャック・レイニー、バーナード・パーディーらバックバンドのハイスキルな演奏。無論、これらは『AMAZING GRACE』でも聴くことができる。しかし、映画は聴覚だけでなく視覚もプラスされる。
では、視覚に映るものは何か。それは「音楽」に伴う「運動」である。ダンスと言い換えても良い。「我慢ができない」というよりは「制御できない力」により、勝手に身体が動いてしまう聖歌隊や、客として来ているミック・ジャガーを観るにつけ、思わずこちらも立ち上がって手を叩きたくなってしまう。
「驚くべき恵み、なんと甘美な響きよ」とは、『アメイジング・グレイス』の歌い出しだが、本作を一言で表現するのにこれほど相応しい一文はないだろう。全ての楽曲で、レディ・ソウルの言霊は驚くべき恵みをもたらす。聖歌隊とバックバンドの、甘美な響きを伴って。
字義通り、ソウルにストレートに響く本作は、アレサ・フランクリンやブラック・ミュージックが好きな人だけでなく、日々閉塞感を抱えている人や、どうしようもない喪失感を抱えている人にも観て欲しい。音楽が持つ、強い治癒の力を実感できるはずだ。
映画『アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン』公式サイト
(文:加藤 広大)
–{『アメイジング・グレイス / アレサ・フランクリン』作品情報}–
『アメイジング・グレイス / アレサ・フランクリン』作品情報
解説
1972年に教会で行われた「ソウルの女王」アレサ・フランクリンによる幻のコンサート・フィルム。コーネル・デュプリー(ギター)、チャック・レイニー(ベース)、バーナード・パーディー(ドラム)らに加えサザン・カリフォルニア・コミュニティ聖歌隊をバックに、アレサが自らのルーツであるゴスペルを感動的に歌い上げたライブは、実はドキュメンタリー映画としても撮影されていた。音楽史を塗り替えたといわれる幻のライブが、日本で初めてスクリーンに登場する。
予告編
基本情報
出演:アレサ・フランクリン/ジェームズ・クリーブランド/コーネル・デュプリー(ギター)/チャック・レイニー(ベース)/ケニー・ルーパー(オルガン)/パンチョ・モラレス(パーカッション)/バーナード・パーディー(ドラム)/アレキサンダー・ハミルトン(聖歌隊指揮) ほか
監督・撮影:シドニー・ポラック
上映時間:90分
製作国:アメリカ