大泉洋と聞いて、あなたはどんなイメージを抱くでしょうか?北海道ローカルテレビ局HTBが制作したバラエティー番組「水曜どうでしょう」の全国的なヒットによって知名度を上げ、全国区へ進出。気が付けばNHK大河ドラマや朝の連続テレビ小説、フジテレビ月9ドラマやTBS日曜劇場にまで出演するようになり、とうとう2020年年末には紅白歌合戦の司会にまで上り詰めました。
芸人顔負けの話術を見せたかと思うと、硬軟自在の演技を見せてくる、みんな知っているようで実は知らないことだらけな存在。それが大泉洋という俳優なのではないでしょうか?
そんな大泉洋は1996年の『ガメラ2 レギオン襲来』で映画デビューを飾っています(と言ってもちょい役もちょい役なのですが…)。ちなみに北海道・札幌が前半部の舞台のなっている『ガメラ2』では「水曜どうでしょう」の“ミスター”こと鈴井貴之や同じ演劇ユニットのTEAM-NACSのメンバーでもある安田顕の顔を見つけることができます。
この『ガメラ2』から数えて、大泉洋は今年はなんとスクリーンデビュー25周年イヤー。そこで過去作から最新作『騙し絵の牙』までをまとめながらその魅力に迫っていきます。
–{2005年の東京進出からノンストップの快進撃}–
2005年の東京進出からノンストップの快進撃
2000年代にはすでに北海道では知らない人がいないほどの人気者となっていた大泉洋は2005年にドラマ『救命病棟24時』第3シーズンで全国放送のドラマにレギュラー出演することになります。前年に30代に入った大泉が東京進出を考えたことから北海道での所属事務所CREATIVE OFFICE CUEが大手芸能事務所アミューズと業務提携したことで、一気に道が開けました。
その後は「ハケンの品格」などの大ヒット作に立て続けに出演、中には北海道地区の視聴率が他の地区を大きく上回ることもありました。
不定期で「水曜どうでしょう」の新作に出演し続ける一方で、2012年の『探偵はBARにいる』と2016年の『駆込み女と駆出し男』では日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞するまでになります。
他にも『ゲゲゲの鬼太郎』『アフタースクール』『清須会議』『青天の霹靂』『アイアムアヒーロー』『恋は雨上がりのように』などに出演。『東京喰種』『鋼の錬金術師』では悪役演技も披露しました。
ドラマではNHK大河ドラマ「龍馬伝」「真田丸」に出演、2023年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」にも出演が決定しています。他にも朝の連続テレビ小説に出演したり、日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」で主演するなど今や国民的な俳優の一人となったと言えるでしょう。
–{ホームグラウンド・北海道映画はどれも良作}–
ホームグラウンド・北海道映画はどれも良作
今や“北海道が生んだスーパースター”となった大泉洋ですが、自分の肩書を訪ねられた時には“あくまでもローカルタレント”と言う時があります。
やはり自分の基盤に北海道があると言うことがあるのでしょう。その証拠に未だに彼は北海道ローカルの3つのバラエティー番組でレギュラーを持っています(「おにぎりあたためますか」「ハナタレナックス」「1×8いこうよ」)。
これは大泉洋の根っこに北海道というものがあること示しています。
そんな大泉洋映画では北海道にちなんだ作品が数多くあります。大小さまざまですが、それぞれ独特の魅力を放っています。
本格的な全国進出となったテレビドラマ「救命病棟24時」の第3シーズンの出演の前から全国公開の映画出演は始まっています。“ミスター”こと鈴井貴之が監督した『man-hole』『river』『銀のエンゼル』『銀色の雨』はまぁ出演もうなずけますが、それ以外にも宮崎あおい主演の『パコダテ人』、女子カーリングチームの実話を基にした『シムソンズ』などがありました。
その認知度が全国区になってからも大ヒットシリーズとなった『探偵はBARにいる』シリーズや、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』。さらに、『しあわせのパン』『ぶどうのなみだ』『そらのレストラン』の北海道3部作などがあり、ホームグラウンドで活き活きと伸び伸びと演技を披露する大泉洋を見ることができます。
彼の登場はちょうど全国各地でフィルムコミッションが設立されてきた時と重なり、その土地・土地での映像撮影への協力体制が整いだしていました。観光が経済的な大きな資源となっている北海道では各地が地元に映画を誘致し話題を呼ぶということに積極的な姿勢を取っています。
しかもそこに、北海道のスーパースター大泉洋が出演すると言うことになれば自然と盛り上がりが重なり、映画を輝かせます。これらの映画は北海道先行で公開されたり手厚いプロモーションが行われたりして全国的にも北海道(札幌)が突出したヒットを記録することも多々あります。
–{スクリーンデビュー25周年イヤーは超曲者キャラクターから}–
スクリーンデビュー25周年イヤーは超曲者キャラクターから
25年前の『ガメラ2』での出演をちょい役と書きましたが、大泉洋はカメオ出演的な映画の出方をすることが多い人でもあります。そんなこともあって出演した映画は40本を超えています。
最近でも『新解釈・三國志』で主演としてオールスターキャストをまとめた一方で、『フード・ラック!食運』ではカメオ出演(特別出演)、『ママをやめてもいいですか!?』でナレーションを担当するなど一瞬見逃す、気が付かないような映画出演の仕方があるくらいです。
そんな大泉洋の『ガメラ2』から25年目となる主演映画『騙し絵の牙』が新型コロナウィルスの感染拡大による延期を乗り越えて公開されます。原作段階から大泉洋を当て書きされた前代未聞の小説の映画化となった本作では、今までの映像の大泉洋では見たことない超曲者キャラクターを見せてくれます。
『騙し絵の牙』のストーリーは?
大手老舗出版社の薫風社。かねてからの出版不況に加えて、創業者一族の社長が急逝、次期社長の座を巡って権力争いが勃発と、社内には不穏な空気が流れていました。
改革派の急先鋒の東松の指揮により、売り上げの乏しい雑誌は、どれだけ歴史があろうと次々と廃刊・休刊の危機にさらされます。その中には会社の顔でもある“小説薫風”も含まれていて、社内の保守派と大御所作家はマスコミを通じて、大きな反対キャンペーンに打って出ます。
カルチャー雑誌の“トリニティ”も例外ではなく、新任の編集長の速水(=大泉洋)も窮地に立たされていました。しかし、この速水、一見柔和で頼りなく、調子がいいだけの男に見えて、その笑顔の裏ではトンデモない牙を秘めている男でした。
身内からの裏切り者も出る中で、速水が放つ起死回生の一手とは?
前代未聞の当て書き小説がついに映画化
大泉洋が必読の一作を求めたところから始まったこの企画は「罪の声」の塩田武士が手掛けることになり、出版業界を舞台にしたエンターテイメント作品に結実した「騙し絵の牙」。何より、主人公が大泉洋であることを大前提にして作られた物語で、単行本の段階から表紙、章扉の写真に大泉洋が登場しています。
そんな『騙し絵の牙』はすぐに映像化・映画化を巡って各社が争奪戦を展開することになります、主演はもちろん大泉洋。さらに豪華共演陣が次々と決定、映画『騙し絵の牙』は壮大なオールスターエンターテイメント作品となりました。また、文藝春秋社が全面協力した老舗出版社“薫風社”の内部、外観のリアリティにも注目です。
–{今まで、誰も見たことがない大泉洋}–
今まで、誰も見たことがない大泉洋
大泉洋の(映像作品)でのパブリックイメージと言えば陽性なキャラクターというのが一般的でしょう。
時には苦悩する役や悪役演技も見せますが、みんなが感じている大泉洋らしさを素直に感じられるキャラクターが多いのが事実です。『新解釈・三國志』で中国史の英雄・劉備玄徳を演じた時ですら(自ら)「あれは大泉洋、そのままだった」と語っているほどです。
しかし、大泉洋が全く違う顔を見せる時があります。それが舞台の上での時です。演劇ユニットTEAM-NACSのメンバーでもある大泉洋は舞台人としての顔も併せ持っており、この時に演じるキャラクターは曲者、強面、強い(こわい)役どころであることが多いのです。舞台での大泉洋は“いつのものらしさ”を廃して、時にぞくっとするほどのクールさを見せます。
そんな、クールで曲者感満載のキャラクターを初めて映像で披露したのが『騙し絵の牙』です。
『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』で知られる吉田大八監督は意図的に“大泉洋らしさ”を排除するディレクションを展開、結果こんな大泉洋は見たことがないというモノに仕上がりました。
プロモーション活動では変わらずの“洋ちゃん”ですが、映画内での速水は“大泉洋であること”を忘れさせてくれます。
大泉洋で笑ってきた人は多くいるでしょうが、“ぞくっと”させられるのはこれが初めてとなる人が多いのではないでしょうか?二転三転する裏切られるカタルシスを存分に感じられるストーリー共に、その中心で密かに牙を磨く大泉洋は必見です。
『騙し絵の牙』では“らしくない”“見たことがない顔”をついに解禁した大泉洋。次回作はなんとビートたけしの半自伝的作品となるNETFLIXオリジナル作品『浅草キッド』の出演がすでに決まっております。こちらでは一体どんな“大泉洋”を見せてくれるのでしょうか?
(文:村松健太郎)