2021「ゴールデングローブ賞」で浮き彫りとなった問題点|賞とは何か…?

映画ビジネスコラム

日本時間3月1日、第78回ゴールデン・グローブ賞の授賞式が開催されました。例年ならば1月に開催される同授賞式ですが、今年は新型コロナウイルスの感染が収まらない状況なので、一ヶ月遅れの開催となっています。授賞式そのものもノミネートされた方々の多くはリモートで自宅からの参加となり、いつもと違った雰囲気の授賞式となりました。

ゴールデン・グローブ賞はアカデミー賞の前哨戦として、最も有名なもののひとつで、ハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)の会員投票によって決定されます。

今年は、授賞式の前からダイバーシティやHFPAのあり方について様々な物議を醸していましたが、それも踏まえて今年の受賞結果を振り返ってみましょう。

ゴールデン・グローブを揺るがした3つの問題

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今年のゴールデン・グローブ賞は、主に3つの問題で揺れていました。

1つは87人の会員の中に黒人会員が一人もいないことがロサンゼルス・タイムズによって報じられたこと。

選考資格を持つメンバーの人種構成は、数年前からアカデミー賞会員などについても問題視されてきましたが、HFPAのメンバー構成も非公表で、入会申請をなかなか受け付けない保守的な組織と言われています。

HFPAはハリウッドで活動する外国の記者たちで構成される組織。授賞式で役員がステージで今後の改善を約束する一幕がありましたが、今後どのように変わっていくのか、注目されるでしょう。ちなみに、LA在住の日本人ジャーナリスト、小西未来さんもHFPA会員なので、全員白人ということはないです。

2つ目はNetflixによる会員の接待疑惑。Netflixが自社のオリジナルシリーズ『エミリー、パリへ行く』の撮影現場にHFPAの会員約30名を招待し、5つ星ホテルに宿泊し豪勢な体験させたとLAタイムズに報じられました。

HFPAのレギュレーションとしては、1プロジェクトにつき125ドル以上の金品を受け取ってはならないとされています。同作の撮影は2019年に行われていますが、記者が現場に呼ぶのは取材の一環にも見えてジャッジが非常に難しいところですが、今後の映画製作者とジャーナリストの付き合い方にも大きな影響が出るかも事件かもしれません。

最後の一つは、『ミナリ』の外国映画賞へのノミネート問題。本作はアメリカのプロダクションによる製作で、アメリカ人俳優が多数出演シている作品ですが、映画内で使用される主な言語が韓国語であるため、外国語映画賞へのノミネートとなりました。同賞のレギュレーションでは、英語比率は50%以下の作品は外国語映画賞となるのです。

アカデミー賞では昨年、全編韓国語の韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が作品賞を受賞していることもあり、相対的にゴールデン・グローブ賞の選考基準が時代遅れのものに見えてしまっているのでしょう。

どの賞が一番偉い、などというヒエラルキーは公式に定められていませんが、どうしてもドラマ部門とミュージカル・コメディ部門の2つの作品賞が最も大きな注目を浴びます。そもそも、外国語映画賞は主として外国映画のための賞なので、言語によって分類する既存のレギュレーションはもはや時代に即していないのではと議論を呼びました。

–{受賞結果はインクルージョンを達成したか}–

受賞結果はインクルージョンを達成したか

さて、様々な議論が紛糾する中で発表されたゴールデン・グローブ賞ですが、受賞結果を見てみましょう。

映画部門のドラマ作品賞に選ばれたのは『ノマドランド』。本作の監督クロエ・ジャオは中国出身の女性監督です。監督賞も同時に受賞していますが、アジア出身監督としてはアン・リー監督に次ぐ2人目、女性監督としてはバーブラ・ストライサンドに次ぐ2人目の受賞。アジア人女性監督としては初の快挙となります。

クロエ・ジャオ監督はMCUの「エターナルズ」の監督にも抜擢された注目の新星。2017年に自主制作した『The Rider』で注目を集めました。この映画は、落馬事故でロデオの道を断たれたカウボーイの物語でしたが、今回の『ノマドランド』といい、荒野を舞台にした渋い題材ですね。

『ノマドランド』 (C)2020 20th Century Studios. All rights reserved.

彼女の活躍で心強いと筆者が感じるのは、アジア人でありながら、アジアをテーマにした作品で評価されたのではないところです。無論、自身のルーツを題材に素晴らしい作品を作ることには何の問題もありませんが、アジア人ならアジアの問題を、女性ならジェンダーの問題を扱わなければ評価されないのであれば、それ自体差別の温床です。クロエ・ジャオ監督が、アジアでもジェンダーでもない題材で評価されたという点には大きな意味があると思います。

『マ・レイニーのブラックボトム』

俳優部門では、ドラマ部門主演男優賞にチャドウィック・ボーズマン(マ・レイニーのブラックボトム)、 ドラマ部門主演女優賞にアンドラ・デイ(The United States vs Billie Holiday[原題])、助演男優賞にダニエル・カルーヤ(Judas and The Black Messiah[原題])と3人の黒人俳優が受賞しています。

これは若干のサプライ部も入った選考結果だったのではないかと思います。『Mank マンク』のゲイリー・オールドマンや『ノマドランド』のフランシス・マクドーマンドなどかなり評価の高い俳優を押さえての受賞となっています。

『ミナリ』Photo by Melissa Lukenbaugh, Courtesy of A24

外国語映画賞では『ミナリ』が受賞しました。下馬評通りですが、そもそもこの部門のあり方を考えさせられたこともあり、今後はアカデミー賞のように外国語映画賞から国際映画賞のように変わっていくのかもしれません。

–{配信勢がコロナ禍で躍進、テレビ部門を席巻}–

配信勢がコロナ禍で躍進、テレビ部門を席巻

2020年は、コロナ禍で映画館が休館に追い込まれ極端に公開本数が少なかった年です。多くの映画会社が苦しむ中、勢力を伸ばしたのはNetflixをはじめとする配信勢。ゴールデン・グローブ賞においても配信勢の勢いを感じさせます。

Netflix映画「Mank マンク」2020年12月4日(金)より独占配信開始

Netflixの『Mank マンク』は無冠に終わりましたが、映画部門最多ノミネートを記録。ミュージカル・コメディ部門で作品賞を受賞したのはAmazon Prime Videoで配信された『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』となりました。

ドラマ部門主演男優賞チャドウィック・ボーズマンの『マ・レイニーのブラックボトム』もNetflix作品で、アニメーション映画賞の『ソウルフル・ワールド』もディズニー+での配信となったのは記憶に新しいところです。脚本賞の『シカゴ7裁判』も、本来は劇場公開予定の作品でしたが、コロナ禍でNetflixでの配信となった作品です。

Netflixオリジナルシリーズ「ザ・クラウン」

映画部門以上にテレビ部門で配信勢が躍進しています。ドラマ部門ノミネート5作品中、純粋にテレビ作品だったのは、HBO製作の『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』のみ、ミュージカル・コメディ部門ではCBCの『シッツ・クリーク』のみ。Netflixだけでなく、Apple TV+作品『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』もノミネートされるなど、新興の配信勢力も対等してきており、もはや「テレビ部門とはなんぞや?」という状況になっています。

接待疑惑が報じられた『エミリー、パリへ行く』はミュージカル・コメディ部門にノミネートしていますが、受賞は逃しています。

–{賞の意義が問い直される時代}–

賞の意義が問い直される時代

テレビ部門ではテレビ作品ではない配信作品が席巻し、アメリカ国内で製作された作品にもかかわらず外国語映画として扱われる作品があるなど、今年は「賞とはどうあるべきか」が改めて問い直された年だったと言えるでしょう。

完璧に公平な賞のあり方が存在するのかわかりませんが、できるだけフェアであるために年々改革をし続ける必要があるのではないかと思います。様々な問題が一気に噴出しましたが、受賞結果には社会の変化を感じさせる部分も確実にあり、来年以降も議論が続くでしょうが、良い方法に進むことを祈ります。

今年のアカデミー賞はコロナの影響で4月26日開催となります。この受賞結果と大きな議論は確実にアカデミー賞にも影響を与えることになるでしょう。アカデミー賞は果たしてどのような結果になるのでしょうか。

(文:杉本穂高)

第78回ゴールデン・グローブ賞受賞一覧

映画部門

作品賞(ドラマ):『ノマドランド

作品賞(ミュージカル・コメディ):『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画

主演男優賞(ドラマ): チャドウィック・ボーズマン(マ・レイニーのブラックボトム)

主演女優賞(ドラマ): アンドラ・デイ(The United States vs Billie Holiday(原題))

主演男優賞(ミュージカル・コメディ): サシャ・バロン・コーエン(続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画)

主演女優賞(ミュージカル・コメディ):ロザムンド・パイク(I Care a Lot(原題))

助演男優賞: ダニエル・カルーヤ(Judas and The Black Messiah(原題))

助演女優賞: ジョディ・フォスター(THE MAURITANIAN(原題))

外国語映画賞:『ミナリ』

アニメーション映画賞:『ソウルフル・ワールド』

監督賞:クロエ・ジャオ(ノマドランド)

脚本賞:アーロン・ソーキン(シカゴ7裁判)

作曲賞:トレント・レズナー、アティカス・ロス、ジョン・バティステ(ソウルフル・ワールド)

主題歌賞:“IO SI (SEEN) ” (これからの人生)

テレビ部門

作品賞(ドラマ):「ザ・クラウン シーズン4」

作品賞(ミュージカル・コメディ):「シッツ・クリーク シーズン6」

リミテッド・シリーズ/テレビ映画作品:「クイーンズ・ギャンビット」

主演男優賞(ドラマ):ジョシュ・オコナー(ザ・クラウン)

主演女優賞(ドラマ):エマ・コリン(ザ・クラウン)

主演男優賞(ミュージカル・コメディ):ジェイソン・サダイキス(テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく)

主演女優賞(ミュージカル・コメディ):キャサリン・オハラ(シッツ・クリーク)

主演男優賞(リミテッド):マーク・ラファロ(ある家族の肖像/アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルー)

主演女優賞(リミテッド):アニャ・テイラー・ジョイ(クイーンズ・ギャンビット)

助演男優賞:ジョン・ボイエガ(Small Axe(原題))

助演女優賞:ジリアン・アンダーソン(ザ・クラウン)