アル・カポネ(1899~1947年)といえば、20世紀前半、禁酒法時代を含むアメリカ暗黒街を代表する大ボスであり、犯罪映画いおいては悪役の代名詞ともいえる存在でもあります。
ブライアン・デ・パルマ監督の名作『アンタッチャブル』(87)でロバート・デニーロが怪演していたのを筆頭に、これまでさまざまな形で彼は映画やドラマに登場してきました。
その中で本作は、1931年に脱税の罪で逮捕され、1939年にようやく釈放されたカポネの1940年代半ばの最晩年の姿を描いた異色作。
ここでは梅毒に侵されて久しいアル・カポネ(トム・ハーディ)が認知症を患い、どんどん精神錯乱していく過程が描かれていきます。
前半は現実がいつのまにか妄想の世界へ入り込んでいくようなタッチで見る側を惑わせつつ、「あの世紀のギャングスタ―がこんなんなっちゃって……」といった人生の哀歓を忍ばせていきます。
しかし、これが後半になるともう完全にイッちゃった彼のご乱行の数々が、それこそ『シャイニング』のジャック・ニコルソンを彷彿させるトム・ハーディの狂気演技でホラー・チックに披露されていくので、もう唖然茫然、別の意味で戸惑ってしまう人もいることでしょう。
そしてついにクライマックスでは……!
一方でカポネはどこかに多額の隠し財産を所有しており、捜査官クロフォード(ジャック・ロウデン)らFBIはそのありかを探るべく、ずっとカポネを監視しているのですが、何とカポネ本人もその隠し場所を忘れてしまっている!?
一事が万事この始末で、時に脱糞していることにも気づかないカポネの哀れさと、それでも彼を見放すことなく愛し続ける妻(リンダ・カーデリーニ/好演!)をはじめ家族の献身も本作は見逃しません。
唯一、隠し子の存在を示唆していく描写の数々は少し消化不良の感もありましたが、総じて堕ちた大物の最晩年は実に興味深く、その栄枯盛衰の「衰」をまざまざと堪能することができます。
監督は『クロニクル』(12)などでマニアックな評価の高いジョシュ・トランク(ハリス捜査官役で出演もしています)。
数々の企画に携わるもなかなか陽の目を見ることなく不遇な時期を余儀なくされた才人でもある彼、もしかしたらカポネに自身の忸怩たる想いを込めて演出していたのかもしれません。
(文:増當竜也)
–{『カポネ』作品情報}–
『カポネ』作品情報
ストーリー
若き画商ヤン・シックスは、レンブラントが描いた『ヤン・シックスの肖像』を所有する貴族の家系に生まれ、モデルとなった当主から代々その絵を大事にしてきた 11 代目ヤン・シックスである。ある日、ロンドンの競売クリスティーズに出されていた『若い紳士の肖像』に目を奪われた彼は、これはレンブラントが描いたものだと本能的に感じ、安値で落札する。本物であれば、44年ぶりに巨匠レンブラント知られざる新たな作品が発見されることとなり、専門家や美術史家らもアートを愛するがゆえにヒートアップしていく。だが、思いもよらぬ横やりが入る。一方、フランスの富豪ロスチャイルド家が何世代にも渡って所有してきたレンブラントの2点の絵画『マールテンとオープイェ』が、1億6000万ユーロ(約200億円)で売りに出される。滅多に市場に出回らない見事な作品を獲得するために、世界で最も入場者数の多いルーヴル美術館と、レンブラントの作品を多数収蔵するアムステルダム国立美術館が動き出す。そのうち、絵の価値も分からない国の要人まで乗り出す事態となり……。
予告編
基本情報
出演:トム・ハーディ/マット・ディロン/カイル・マクラクラン
監督:ジョシュ・トランク
製作国:アメリカ・カナダ
公開日:2021年2月26日
上映時間:104分
配給:アルバトロス・フィルム