『ガンズ・アキンボ』レビュー:“ハリー・ポッター”がデスゲームに強制参加!?

映画コラム

■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」

最初に申しておきますと、これは2021年早々にして、映画ファン発狂&歓喜&喝采もののカルトティックな一大快作です!

題材はネット配信されて大人気の“殺し合いゲーム”という実に物騒なもの。

しかも、そんなデスゲームに無理やり参加させられてしまうのが、あの“ハリー・ポッター”で知られるダニエル・ラドクリフなのです!

ハリー・ポッター・シリーズ初期の可愛らしさから早20年近く経ち、大人になったラドクリフ、何だか変な作品ばかり好んで出ているような……。

少しばかり検証していきましょう!

両手に拳銃を固定されたクソリプ男の壮絶な受難

ジェイソン・レイ・ハウデン監督による2019年度作品『ガンズ・アキンボ』は、殺し合いを生配信する闇サイト“スキズム”に人々が熱狂して久しい架空の(いや、もしかしたらリアルな?)現代社会を舞台にしたものです。

主人公はさえないゲーム・プログラマーのマイルズ(ダニエル・ラドクリフ)。

仕事のストレスやら恋人のノヴァ(ナターシャ・リュー・ボルディッソ)と別れた事やら、そもそも自分の情けない性格にうんざりもしている彼は、困ったことにネットのコメント欄に過激な書き込みをする、実に残念なクソリプ男と化しながら日々の鬱屈を晴らしていました。

が、そんな彼がスキズムにクソリプを送りまくってしまったことで、サイトの運営者リクター(ネッド・デネヒー)は激怒!

その報復として、リヒターは手下とともにマイルズの自宅を襲撃!(IPアドレスで、自宅の住所なんてすぐばれちゃうんですよね。だからクソリプなんて、やはりやらないほうが身のため!?)

そして翌朝目が覚めたマイルズは、何と両手に拳銃をボルトで固定されていた!

いきなりワケもわからないまま両手をふさがれて、ケータイもかけられなければトイレもまともにできない(そもそも見るからに、手が痛そう!)。

パニックに陥いる暇もなく、彼の許には殺し屋ニックス(サマラ・ウィーヴィング)が現れた!

実はマイルズ、スキズムに強制参加させられてしまい、24時間以内にニックスを殺さなければ自分が殺されるという、とんでもない受難に追いやられてしまったのでした。

着替えすらまともにできないまま、パンツに虎のサンダル、ガウン姿で外へ逃げ出していった(しかも階段をずり落ちながら!?)マイルズですが、その姿はドローン映像で世界中の人々に配信されています。

果たして彼はこのデスゲームの勝利者になるのか?(まあ、素人がそりゃ無理かな)

殺されるしかないのか(普通に考えれば、こっちが妥当でしょうね)

はたまた……!?(それは見てのお愉しみ!)

ちなみに“ガンズ・アキンボ”とは“二丁拳銃”という意味があります。
(劇中、主人公を初めて見たニックスが「香港映画か?」と言ったとき、思わず笑っちゃいました)

–{デスゲームを愉しむ悪意を昇華させるエンタメの効能}–

デスゲームを愉しむ悪意を昇華させるエンタメの効能

いやはや、もう久しぶりに見る側の悪意を発散させてくれる一大快作の登場です。

殺し合いを見世物にしたデスゲームの歴史は意外に古く、それこそローマ帝国時代の奴隷たちによる剣闘を貴族が愉しむという人間の残酷さは、スタンリー・キューブリック監督のスペクタクル史劇大作『スパルタカス』(60)でも描かれていた通り。

近未来を舞台にデスゲームを繰り広げていくSF映画も多く、ノーマン・ジュイスン監督の『ローラーボール』(75/2002年にはジョン・マクティアナン監督のリメイクもあり)やアーノルド・シュワルツェネッガー主演『バトルランナー』(87)などが有名なところ。

日本でも深作欣二監督の『バトル・ロワイアル』(00)が大ヒットするとともに国会議員を激怒させる問題作として話題になったのも記憶に新しいところです。

特に日本ではこの後『リアル鬼ごっこ』シリーズ(08~)などデスゲームを題材にした作品が急増していきましたね。

こうした流れの中、ネット社会の現代において、闇サイトによるデスゲームが警察の網の目を潜り抜けて大流行という、本作『ガンズ・アキンボ』の設定も実に(そして困ったことに!?)腑に落ちるものがあります(もう既にあったりして……)。

殺戮をショーとして愉しめてしまう人間のおぞましさ、しかしそのおぞましさをおよそ2時間前後の上映時間で思い切り発散させ、心の中から払拭させてくれるのも映画の効用といえるでしょう。

そして、何よりも「やはりクソリプなんてしないほうがいいですよ」といった教訓も作品のメッセージとして含まれているのか否かはともかく、この主人公、ひたすら情けないです。そして哀れです!

でも、それを見て思わず笑ってしまう私たち観客もまた困った存在です!?

本作はそういった人間の「負」とも「闇」とも称せられる要素を見事にエンタテインメントに転化させながら、次の展開はどうなるかと見る側をワクワクゾクゾクさせながら、およそ95分の上映時間を鮮やかに疾走してくれます。

そして鑑賞後の私たちから心の毒素までも払拭させてくれるという、どんな良薬に勝るとも劣らない効能を発揮してくれているのです!

(などなどのこちらの戯言を抜きにしても、ほんとメチャクチャすっきりします!)

–{闇との対峙に魅せられた!?ダニエル・ラドクリフの今}–

闇との対峙に魅せられた!?ダニエル・ラドクリフの今

それにしても、気になるのはダニエル・ラドクリフです。

1989年生まれの彼、その人気を世界的に決定づけたシリーズ第1作目『ハリー・ポッターと賢者の石』(01)の頃の彼は、とても可愛らしい少年でした。

しかしながらシリーズ最終作『ハリー・ポッターと死の秘宝PART2』(11)を経てからの彼、やはり何かが変です。

そもそも大人気子役が大人の俳優に脱皮するのは難しいとは昔からよく言われることですが、ダニエル・ラドクリフもまた長年しみついたハリー・ポッターのイメージと今後どう向き合っていくのか、かなりの葛藤があったことでしょう。

そして彼は、ハリー・ポッターも幾度か直面した闇との対峙に魅せられたか、この後ダーク・ファンタジーの道を好んで進んでいった節が感じられなくもありません。

『ウーマン・イン・ブラック/亡霊の館』(12)『ホーンズ 容疑者と告白の角』(13)『ヴィクター・フランケンシュタイン』(15)など、これらのダニエル・ラドクリフはまさにダークサイドの住人とでもいった貫録を示す存在感を示していました。

極めつけは2016年のダニエル・シャイナート&クワンの“ダニエルズ”監督による『スイス・アーミー・マン』で、ここで彼が扮しているのは、何と前代未聞の死体役!

(しかも体内に充満したガス=オナラで、ジェットスキーになって海をわたる!? あ、あと途中からは喋ったり、ペニスが勃起したりもします……)

ここで彼は第49回シッチェス・カタロニア国際映画祭最優秀男優賞を受賞するとともに、綺麗事ではすまされないこの世の闇と堂々向き合う異色個性派スターとしての地位を獲得した感もありますね。

またそんな彼だからこそ、現在のネット社会とそれに興じる人々を痛烈に風刺した本作の企画に大いに賛同し、実に映画の柄に見合った存在感を発揮することができたのでしょう。

(ちなみに彼、SNSの類いは怖いから全然やってないのだそうです)

ダニエル・ラドクリフ以外にも、女殺し屋役サマラ・ウィーヴィングのキレッキレな魅力をはじめ、キャストそれぞれも「我ここにあり!」とでもいった個性を見事に発揮。

現代社会への警告もブラックユーモアたっぷりの風刺に昇華させることで説教じみた所は微塵もなく、ただただ見る側を大いに興奮&堪能させ、それと共に人間だれしも大なり小なり備えている心の闇を二挺拳銃の弾丸の嵐によって吹き飛ばしてくれる快作中の快作です。

こういった作品が時々ひょいっとお目見えするから、映画ファンは映画を見続けることをやめられないのでした!

(文:増當竜也)

–{『ガンズ・アキンボ』作品情報}–

『ガンズ・アキンボ』作品情報

ストーリー
うだつの上がらないゲーム会社のプログラマー、マイルズ(ダニエル・ラドクリフ)は、仕事の憂さ晴らしに、ネットの掲示板やコメント欄に過激な書き込みを行う“ネット荒らし”を繰り返していた。ある日、いつものように街を舞台に殺し合いをさせ、それを視聴する人気の闇サイト“スキズム”に攻撃的なコメントを書き込みまくっていたところ、目に余る荒らし行為に対して、サイトを管理する闇の組織のボス、リクターが激怒。IPアドレスから住所を特定されたマイルズは、麻酔で気絶させられてしまう。目を覚ましたマイルズは、朦朧とする意識の中で驚愕する。自分の両手に、拳銃がボルトで固定されていたのだ。さらにリクターは、マイルズの別れた元彼女を拉致し、“スキズム”で最強の殺し屋ニックス(サマラ・ウィーヴィング)と戦い、勝てば解放すると条件を突きつける。ゲームの中でしか銃を撃った経験のないマイルズは、 二丁拳銃(=アキンボ)を武器に、この無謀な殺し合いでニックスを倒し、タイムリミットの24時間以内に元カノを救出できるのか……。 

予告編

基本情報
出演:ダニエル・ラドクリフ/サマラ・ウィーヴィング/ネッド・デネヒー/ナターシャ・リュー・ボルディッゾ/リス・ダービー ほか
 
監督:ジェイソン・レイ・ハウデン
 
製作国:イギリス・ドイツ・ニュージーランド

公開日:2021年2月26日

上映時間:98分
 
配給:ポニーキャニオン