現代社会の中で女性の自立を促す映画やドラマは今に始まったわけではありませんが、本作『あのこは貴族』は従来のものを優に超越した魅力に満ちた作品です。
先ごろ終了したばかりのNHK大河ドラマ「麒麟がくる」でお茶の間の幅広い支持を得た門脇麦と、女優&モデル&デザイナーと活躍する水原希子。
ここではふたりが、それぞれ20代後半から30代にかけての現代女性が大なり小なり抱えているであろう息苦しさを体現しながら、いかにしてそれを乗り越えていくか? が軽やかなテイストで綴られていくのです。
論より証拠で鑑賞していただければ一目瞭然ではあるのですが、その前にとりあえずはどのような素敵な作品であるかを、つたない文章ながらも綴っていくことにしましょう!
まったく境遇の異なるふたりの女性の出会い
『あのこは貴族』は、ふたりの若い女性が登場します。
まずは、そこそこお金持ちの出で、箱入り娘として何不自由なく育てられた華子(門脇麦)。
彼女は「結婚=幸せ」と信じて疑わず、20代後半になって結婚を考えていた彼氏にふられた後、あらゆる手立てを使って新たなお相手探しに奔走し、その結果、良家の子息でイケメンのエリート弁護士・幸一郎(高良健吾)と出会い、まもなく結婚にゴールインしようとしています。
もうひとり、富山県の出身で、上京して東京の大学に通っていた美紀(水原希子)は、父親の失業で学費が続かず、やむなく夜の世界で働くも、結果として1年足らずで中退を余儀なくされました。
都会にしがみつく理由もなく、特に仕事への生きがいを感じる術もない美紀でしたが、一方で幸一郎と大学の同期生であった彼女は、つかず離れずの関係を続けています。
まもなくして華子と美紀は、思いもよらない形で出会います。
同じ都会に暮らしながらも全く環境の異なるふたりではありましたが、不思議なまでに意気投合し、そしてそれぞれが新しい世界へ踏み出していくきっかけとなっていくのでした……。
–{ふたりのヒロインの進む道を自然体で応援する}–
ふたりのヒロインの進む道を自然体で応援する素敵な姿勢
本作は山内マリコの同名小説を原作に、マンネリカップルが人金をきっかけにお互いの関係性を見直していく『グッド・ストライプス』』(15)で商業映画デビューを果たした岨手(そで)由貴子監督がメガホンをとったシスターフッド・ムービーです。
門脇麦扮する華子は、結婚に夢を見出そうとしていたものの、それこそ令和の今になってもなかなか変わることのない現実世界とのギャップに気づき、戸惑いつつも成長していくお嬢様という役柄。
特に日本映画はブルジョアを描くのが昔から苦手で、またそれを体現できる役者も少ないと言われて久しいものがありますが、ここでの門脇麦は非常に気品を備えつつ、自身の奥底の情熱に未だ気づいていないお嬢さまを好演しています。
かたや水原希子は、いわゆるキャリアウーマンの道を疑うことなく進むのではなく、幾度も挫折を繰り返しながら、自身の弱いところを隠すことなく、迷いながらも一歩ずつ歩んでいこうとする美紀を真摯に演じています。
また前者の友人に扮する石橋静河、後者の友人に扮する山下リオも、それぞれ好演。
一方でふたりを結び付ける役柄の高良健吾ですが、ここでの彼は女性に対する旧来の意識を払拭させることのできない、ホント未だに「昭和か?」と突っ込みたくなるような、しかし実は今なおいっぱい存在しているのだろう日本の男性の悪しき代表としての存在感を際立たせてくれています。
(それにしても善玉から悪玉まで、彼は上手いですね)
この作品が好ましく映えるのは、女性の自立をモチーフにしながら、拳を振りかざすタイプのものとは一線を画しながら、もはや当然といった自然体でふたりのヒロインの進む道を応援しているところでしょう。
そういった演出姿勢も功を奏して、見る側も彼女たちへの共感度を増すことになり、ひいては社会からの縛りから女性たちを解き放させていく意識を育ませていきます。
女性を巡るさまざまな問題が山積していることがどんどん明るみになって久しい現代ではありますが、そういった事象に対しても軽やかに乗り越えていく道筋を心の中に示唆してくれるかのような、今年度の日本映画を代表するに足る秀作です。
(文:増當竜也)
–{『あのこは貴族』作品情報}–
『あのこは貴族』作品情報
ストーリー
都会に生まれ、箱入り娘として何不自由なく育った華子(門脇麦)は、結婚こそが幸せと信じて疑わなかったが、結婚を考えていた恋人に振られてしまい初めて人生の岐路に立つ。気付けば20代後半になっており、同じ名門女子校に通った同級生たちの結婚や出産をした話を聞くたびに焦りを募らせていた。そして華子は様々な手立てを使ってお相手探しをするうちに、良家の生まれでハンサムな弁護士・青木幸一郎と出会い結婚が決まるが……。一方、富山で生まれた美紀(水原希子)は猛勉強の末に慶應大学に入学し上京。学費のために夜の世界も経験したものの、中退した。恋人はなく、仕事にやりがいを感じておらず、都会にしがみつく意味を見いだせずにいた。都会に生まれた箱入り娘の華子と、地方から上京し自力で都会を生き抜く美紀。同じ都会で暮らしながらも出会うはずもなかった2 人の人生が交差し、2人は自分の居場所を見つめ、恋愛や結婚だけではない自分の人生を切り開こうとする。
予告編
基本情報
出演:門脇麦/水原希子/高良健吾/石橋静河/山下リオ/佐戸井けん太/篠原ゆき子/石橋けい/山中崇/高橋ひとみ/津嘉山正種/銀粉蝶 ほか
監督:岨手由貴子
製作国:日本
公開日:2021年2月26日
上映時間:124分
配給:東京テアトル/バンダイナムコアーツ