『世界で一番しあわせな食堂』レビュー:北欧と中華料理が魅せる幸せランデブー!

映画コラム

■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」

世界幸福度ランキング第1位の国フィンランドは、そこで作られる映画もまた人々を幸せにしてくれることが多々あります。

フィンランドの名匠ミカ・カウリスマキ監督がの新作『世界で一番しあわせな食堂』のモチーフは、タイトルからご想像できるように「料理」。

それも意外なことに中華料理なのでした!

フィンランド北部の村を訪れた中国人シェフの作る料理の腕前

『世界で一番しあわせな食堂』の舞台は、フィンランド北部ラップランド地方の小さな村ポホヨンヨキです。

夏は白夜、冬はオーロラ、そして森林にはトナカイなど野生動物が多数みられるこの地の寂れた食堂に、中国人親子のチェン(チュー・パック・ホング)とニュニョ(ルーカス・スアン)がやってきました。

食堂で働くシリカ(アンナ=マイヤ・トゥオッコ)やお客たちに、ある人の居場所を知らないかと尋ね続けるチェンですが、誰もその人のことを知らないようです。

旅路で疲れ果てていた親子を、シルカは空いている部屋に泊めてあげました。

翌日、チェンは再び食堂で客に尋ね人を始めていきます。

そのとき、食堂に中国人の団体客が!

ポテトとソーセージしかないメニューに不満たらたらの中国人客の様子を見たチェンは、自ら料理を買って出て、瞬く間に絶品の中華料理を振るまいます。

実はチェンの職業は料理人で、しかも上海の高級中華料理店で働いていた実績を持っていたのでした。

チェンはそのままシェフとして食堂を手伝うことになり、あっという間に店は観光客でいっぱいに!

そして店の気難しい常連客たちも、最初は見慣れない中華料理にだんだん興味を示すようになり、どんどんその虜になっていく!

一方、不慣れな地で心を閉ざしてゲームばかりしていた息子のニュニョも、父の想いや村の子どもたちとの交流を得て、次第に明るくなっていきます。

そんな折、チェンの尋ね人の消息がわかるのですが……。

–{料理が国境の隔たりをなくし異文化の人々の架け橋となる}–

料理が国境の隔たりをなくし異文化の人々の架け橋となる

本作はフィンランド北部ののどかで保守的な村に、一組の中国人親子というストレンジャーが現れたことから始まる、ほのぼのとしたコミカル・ベースの中に人生の悲哀などを巧みに忍ばせたヒューマン・ストーリーです。

国籍や文化の違いを「料理」というモチーフで表現しつつ、その違いを受け入れる村の人々。

特に中華料理は「医食同源」で食べると健康になるということで、地元の老人たちは大喜び!

また、その料理を食べたときの彼らの幸せそうな顔ときたら!
(見ているこちらもヨダレが垂れてきそうなほどに、美味しそうなものばかり!)

現在(といっても、コロナ禍の今はさすがに違うでしょうけど)ラップランド地方には中国人観光客が多数来訪していて、専用のホテルまでできるほどの賑わいとのこと。

そうした状況を知ったミカ・カウリスマキ監督は、国境の隔たりを払拭することのできる人間同士の希望の意思を「料理」にこめて、本作を企画していったのです。

実際、ラップランド地方の人々は基本的にオープンなキャラクターの人が多いとのことですが、食に関してはなかなか頑なで「箸を使った料理なんてとんでもない!」「サラダなんてウサギの餌だ!」みたいな頑固者も多いのだとか。

本作に登場するお客のおじいちゃんたちもまさにそのように描かれているのですが、みんなどこかしら身体に病気を抱えていて、それがチェンの作る料理を食べることで、どんどん健康になっていく!

もちろんそれは健康面に多少の効果こそあれども、さすがに病気を完治させることまではできないわけですが、むしろ村の人々は料理を通して心がどんどん健康になっていくのです。

もはや、そこには偏見も差別の心もありません(唯一、時折食堂を訪れるポリスが厭味ったらしい言葉を漏らすのが、また何とも皮肉が効いてます)。

一方で、チェン親子はなぜ中国からフィンランドを訪れたのか? も、ちょっとしたミステリとして描かれますが、その理由や帰結などもまた人生の哀歓を忍ばせたものになっています。

西洋人から見るとなかなか表情が読み取れないとも言われる東洋人ではありますが、本作のヒロイン、シルカのように誰かひとり理解者が現れてくれれば、そこから数珠つなぎで人間同士の心の交流はもたらされていくことを、本作は優しく示唆してくれているのです。

ここまで「タイトルに偽りなし」と断言できる作品も珍しいくらいにどんぴしゃりな、でもそのことを声高に叫ぼうとすると食堂のじいちゃんたちから「シッ」と小声で咎められそうな、そんな世界で一番幸せな国から運ばれてきた、見る人を幸せにしてくれる映画なのでした!

 (文:増當竜也)

–{『世界で一番しあわせな食堂』作品情報}–

『世界で一番しあわせな食堂』作品情報

ストーリー
フィンランド北部にあるラップランド地方の小さな村の食堂に、中国・上海から料理人のチェン(チュー・パック・ホング)が息子を連れ立ってやってくる。チェンは恩人を探していたが、誰も知る人はおらず、食堂の経営者シルカ(アンナ=マイヤ・トゥオッコ)はチェンに食堂を手伝ってもらう代わりに恩人探しに協力することにする。恩人探しはなかなか進まないものの、食堂でチェンが出す医食同源の考えに根差した料理が評判になり店は大盛況。チェンも常連客と馴染み、シルカと互いを家族のように思いやるようになっていった。しかし観光ビザの期限が迫り、帰国する日が近づき……。 

予告編

 
基本情報
出演:アンナ=マイヤ・トゥオッコ/チュー・パック・ホング/カリ・ヴァーナネン/ルーカス・スアン/ヴェサ=マッティ・ロイリ
 
監督:ミカ・カウリスマキ
 
製作国:フィンランド・イギリス・中国

製作年:2019

公開年月日:2021年2月19日

上映時間:114分

配給:ギャガ