NHK大河ドラマ「青天を衝け」がいよいよ始まりました。第1回目の視聴率も20%と「八重の桜」以来8年ぶりに大台に乗り、視聴者の感想も概ね良好。
渋沢栄一(吉沢亮)の生涯を描く本作、前半部は幕末青春期、後半は明治の世で実業家として大成していく姿を描いていくものと思われます。
そこで今回は「青天を衝け」フォローの意味も込めて、幕末を舞台にした映画を挙げていきましょう!
幕末動乱の到来を告げる『桜田門外ノ変』
渋沢栄一は1840年に生まれていますが、当時の日本は鎖国政策を敷き、特にこの時期は異国船打払令(1825~1842年)が出されていて、1837年には日本人漂流民3名を乗せたアメリカの商船モリソン号を軍船と勘違いして砲撃したモリソン号事件が起きています。
(1982年の映画『海嶺』で、この事件の全貌が描かれています)
やがて1853年に米ペリー艦隊の浦賀に来航。俗にいう“黒船来航”によって、翌1854年に日米和親条約が締結。
幕末とは、この黒船来航から戊辰戦争(1868年)までの時代を主に指しています。
そしてこの黒船来航から桜田門外ノ変までの激動を描いた映画が『桜田門外ノ変』(10)です。
1858年、大老に就任した開国派・井伊直弼(伊武雅刀)と攘夷派・徳川斉昭(北大路欣也)の対立していく中、井伊は日米修好通商条約を強引に締結。
さらにはそれに反発する者たちを弾圧“安政の大獄”したことで、水戸藩と薩摩藩の浪士たちは井伊暗殺を画策し、1860年3月3日に実行されました。
映画は水戸&薩摩の浪士たちの決起と暗殺成功後のそれぞれの悲劇を、実行犯ではなく見届け係・関鉄之助(大沢たかお)の目線で描いていきます。
また時間軸をわざと錯綜させた作りで、これには歴史に詳しくない観客の間で賛否両論ありましたが、「テロリストに観客が思い入れできないように」という、本作が遺作となった佐藤純彌監督ならではのシビアなメッセージに基づくものでもありました。
そして、この未曽有のテロ事件によって、日本は一気に動乱の時代へ……。
なお、桜田門外の変を描いた映画は他にも『花の生涯 彦根篇 江戸篇』(53)『侍ニッポン』(57)『侍』(65)『日本暗殺秘録』(69)『動天』(91)『柘榴坂の仇討』(14)など多数存在します。
–{幕末のヒーロー坂本龍馬と新選組}–
幕末のヒーロー坂本龍馬と新選組
幕末を描いた映画やドラマで数多く登場するのが、坂本龍馬と新選組でしょう。
土佐藩を脱藩して、日本の夜明けを信じながら明治維新へ至る道筋を作るも、志半ばで暗殺された坂本龍馬。
彼がメインとして登場する映画は『幕末』(70)『幕末青春グラフィティRONIN 坂本竜馬』(86)『ゴルフ夜明け前』(87)『竜馬の妻とその夫と愛人』(02)など多数あります。
その中で特に個人的に推したいのが、黒木和雄監督の『竜馬暗殺』(74)。
これは1867年12月10日(慶應3年11月15日)に坂本龍馬(原田芳雄)と中岡慎太郎(石橋蓮司)が暗殺されるまでの3日間を描いたもので、粒子が荒く陰影の濃い16ミリのモノクロ映像が、ギラギラした時代及び男たちの野心を見事に描出しています。
かたや徳川幕府に忠誠を誓い、京都で尊王攘夷運動を弾圧し続けた浪士隊・新選組も人気の高い存在です。
映画も『新選組始末記』(63)『新選組血風録 近藤勇』(63)『幕末残酷物語』(64)『土方歳三 燃えよ剣』(66)『新選組』(69)『沖田総司』(73)『幕末純情伝』(91)『輪違屋里 京女たちの幕末』(17)など多数。これらは坂本龍馬が登場する映画とリンクすることも多々あります。
また今年は原田眞人監督による『燃えよ剣』が劇場公開予定。
こういった新撰組映画の中で異色なのは、大島渚監督の遺作となった『御法度』(99)でしょう。
これは新選組を衆道(男色)の目線から捉えた作品で、実は幕末期に関わらず戦国時代なども男色に基づく行為は普通に取り交わされていたようで、それを基に司馬遼太郎が記した短編時代小説群が原作になっています。
本作で松田龍平が映画デビューにして初主演を果たし、また近藤勇=崔洋一、土方歳三=ビートたけし、沖田総司=武田真治といったキャスティングや、坂本龍一の耽美な音楽も当時は話題になりました。
–{海外渡航を果たした男たちのドラマ}–
海外渡航を果たした男たちのドラマ
さて、渋沢栄一は当初尊王攘夷の志士でしたが、やがて一橋慶喜(=徳川慶喜)の家臣となり、幕臣として1867年にヨーロッパへ赴き、このキャリアが後々の彼の人生に大きな影響を与えていきます。
それ以前の1863年、まだ海外渡航が禁止されていた時代、ひそかにヨーロッパに留学した長州藩の5人の運命を描いた映画が『長州ファイブ』(06)。
5人の中の山尾庸三(松田龍平)を主格に据えながら、不慣れなヨーロッパで時に差別を受けながらも必死に西洋文化を習得していこうと腐心する若者たちの姿が青春群像劇として綴られていきました。
昨年公開された『天外者(てんがらもん)』(20)の主人公である薩摩藩士・五代友厚(三浦春馬の最後の主演映画です)も、1865年に薩摩藩遣英使節団としてイギリスに留学しています。
またこれらに先立ち、井伊直弼の日米修好条約批准のためアメリカを訪れた使節団のサムライ(真田広之)とニンジャ(竹中直人)が現地で大暴れするという、本場アメリカで西部劇を作ることを宿願としていた岡本喜八監督の執念を実らせた『EAST MEETS WEST』(96)もあります。
1971年のフランス・イタリア・スペイン合作映画『レッド・サン』も、同じ使節団が米大統領に贈呈する刀が強盗団に奪われたという設定から始まるサムライ西部劇で、三船敏郎とアラン・ドロン、チャールズ・ブロンソンの競演も話題になりました。
–{時代の流れに巻き込まれていく侍『たそがれ清兵衛』}–
時代の流れに巻き込まれていく侍『たそがれ清兵衛』
藤沢修平の同名短編小説集を原作に、山田洋次監督が初めて手掛けた時代劇『たそがれ清兵衛』(02)も幕末を時代背景にしたものでした。
家族のため、終業時間になるとそそくさと帰宅することで「たそがれ清兵衛」のあだ名がつけられて久しい海坂藩藩士・井口清兵衛(真田広之)。
実は県の凄腕である彼に上意打ちの命令が下り、その相手である余吾善右衛門(田中珉)と壮絶な果し合いを繰り広げていきます。
一見、幕末の動乱とは無関係な映画のようでいて、こうしたクライマックスの後、戊辰戦争で徳川幕府側についた海坂藩は賊軍となり、清兵衛もまた愛する妻子を残して、新政府軍と戦うべく戦地へ赴いていくのでした……。
–{時代が変わるときに流される若者たちの血を描く『合葬』}–
時代が変わるときに流される若者たちの血を描く『合葬』
戦乱の暗雲立ち込める江戸の秩序守護などを目的に結成された武士たちの組織“彰義隊”の悲劇を描いた映画が『合葬』です。
大政奉還によってその存在意義を失った彰義隊でしたが、それでも新政府軍に徹底抗戦を誓うも、上野戦争で全滅。
杉浦日向子の漫画を原作とする本作は、そんな彰義隊に入った3人の若者(柳楽優弥、瀬戸康史、岡山天音)それぞれの運命を群像劇として描いていきます。
鳥羽伏見の戦いに始まる戊辰戦争(1868~1869年)は、江戸城無血開城の後も上野や箱根、さらには東北、北海道へ北上しながら最後は函館で終戦を迎え、かくして明治維新が始まります。
しかし、そこに至るまで数多くの若者たちの血が流されていったことを本作をはじめ数々の映画やドラマが伝えています。
そして1868年11月にフランスから帰国を果たした渋沢栄一は、明治政府(大蔵省)を経て、もはや“切った張った”の殺し合いとは一線を画しながら、実業家としての世界へ身を置くことになっていくのでした。
(文:増當竜也)